M&Oplays プロデュース『DOORS』倉持裕×奈緒インタビュー


今作が実に1年半ぶりの新作上演となる倉持裕と、舞台を経験する前から倉持との仕事を熱望していたという奈緒。未曾有の状況が重なった今だからこそ生まれた作品である『DOORS』について、二人に話を聞いた。

 

 

――奈緒さんは、『DOORS』出演のお話を聞いた時どう思われましたか?

奈緒:嬉しかったです! 2018年に、倉持さんが演出されていた竹中直人さんと生瀬勝久さんの舞台『火星の二人』を拝見したんです。楽屋にご挨拶に行ったとき、竹中さんに「奈緒は舞台やりたくないの?」と聞かれたんですよ。その頃はまだ映像の経験しかなくて、でも舞台はすごくやりたくて。「いずれは1年に1本は舞台に立てるようになりたいです」って言ったら、「じゃあぜひ倉持くんと舞台をやってほしいな」って言ってくださったんです。

倉持:へえ!

奈緒:そうなんですよ。その後、『鎌塚氏、舞い散る』も拝見して、「いつか倉持さんとご一緒できたら」と思っていたんですが、まさかこんなに早くその機会がくるとは思わなくて。今もすごく緊張しています(笑)。

 

――竹中さんは、なぜ「倉持さんとやってみてほしい」とおっしゃったんでしょう?

奈緒:具体的に「こうだから」ということは話されなかったんですが、その後ドラマでご一緒したときにもまた言ってくださっていて……。きっと、やってみたらわかることがあるのかなと思っていました。今回、『DOORS』が決まったときに竹中さんにご報告したら「そうなの、よかったね!」ってすっごく喜んでくださって!

倉持:ああ、そうですか! 嬉しいな。

奈緒:でも、その後生瀬さんにもご報告したんですね。そしたら生瀬さんが竹中さんに「今度奈緒ちゃんが倉持さんと一緒に舞台やるらしいですよ」って伝えてくださって。竹中さん、「そうなの、よかったね!」って全く同じテンションで言ってくださいました。少し前にお伝えしたばかりなのに(笑)。

倉持:竹中さんはわりと、そういうところがよくあるよ(笑)。

奈緒:二回も喜んでくださって嬉しかったです。同じく『火星の二人』に出ていた上白石萌音さんは、私が彼女の写真を撮った写真展をやらせてもらっているくらい仲良くしているんですけど、萌音さんからも倉持さんの話を聞いていたので……。

倉持:そんなにたくさんの援護射撃があって、ありがたいな。

奈緒:だから今回の作品にはすごくご縁を感じていますし、周りに「よかったね!」と言ってくださる人がたくさんいるのはすごく素敵なことだなと思います。

 

――『DOORS』はどんな物語になりそうですか?

倉持:ひとことで言うと、パラレルワールドに行ってしまった母親を取り戻そうとする女子高生の奮闘を描くお話です。

 

――なぜ今、このお話を書こうと?

倉持:やっぱりコロナですよね。去年は本当に世界中で予定がくるってしまったじゃないですか。僕自身「本当だったらこうだったのにな」ということを折に触れて思ったので、それについて書きたいと思いました。「本来だったらこうだった」というパラレルワールドと、「こうなってしまった」現実の世界。2つの世界を行ったり来たりしながら進めようと思っています。でも、実際この1年、僕もいろんな予定の変更を余儀なくされて、不幸だ不幸だと思っていたけれど、そうでもなかったこともあるんですよ。あるスケジュールが空いたから別の仕事ができることになったんだというのもあるし、出会うはずではなかった人と会うこともできたから。

――奈緒さんはこの物語を聞いてどう思われましたか?

奈緒:本当に偶然ですが、初舞台が平行世界を描いたものだったので、そういう運命なのかなってびっくりしました。その時は私はパラレルワールドへ行くほうではなかったんですが。

倉持:まずい、存じ上げなかった(笑)。

奈緒:今回のお話にとても希望を感じました。たくさんの人の胸に届くんじゃないかと思っています。きっと自分にも選択の瞬間はたくさんあって、そこで違う方を選んでいたら今の自分とは違う場所に立っていると思うので……。いろんな世界を観られる時間をお芝居の中で楽しみたいなと思います。

 

――倉持さんは奈緒さんにどんな印象を持っていましたか?

倉持:『鎌塚氏、舞い散る』を観に来てくださって、本多劇場の楽屋でご挨拶したのが最初かな。それからドラマ『あなたの番です』も観ました。かわいらしいし、声がきれいですよね。ふにゃっとした笑顔がいいじゃないですか。怖くも感じるし、すごく純粋なかわいい子もできる、それがいいなと思って。今回、奈緒さん演じる真知という役は、こちら側の世界とパラレルワールドを行き来して、その二つの世界にいる真知の性格がけっこう違うので、その両方を活かせるなと思います。

 

――奈緒さんの魅力が楽しめる役柄ということですね。

倉持:最初は迷ったんです。ある事情があって攻撃している女の子と、それに耐えている女の子という関係、二人組の女の子を出そうというのは決めていて。奈緒さんにどちらをやってもらおうかと考えた時、どちらもありだなと僕は思った。どちらもできるだろうなと。結果、伊藤万理華さんが攻撃している方、奈緒さんが耐えている方になりました。まあ、パラレルワールドに行くとその関係性が逆転したりもするんだけど。なんか、本当は言いたいことがあるんだけど、気も強いんだけど、言わない。そのほうが合うのかなと思ったんでえすよねえ。奈緒さんの演じている姿を観ていて、「言いたいことと別のことを言っている」のがうまいだろうなと感じたんです。

奈緒:たしかに、生活していても気持ちのままに言葉を発することって、なかなかないかもしれないですね。今もこうやって「どういう言葉を選べばいいかな」ってすごく考えたりしているので……。それは、台本を読むときにも感じることではありますね。私自身、言いたいことを言えないとか、本当に伝えたいことを隠して、違う言葉でどうにか伝えようとするとか、そういう部分にドラマを感じたり、心を動かされたりします。だから今倉持さんのお話を聞いていて、そういう役をいただけるのは嬉しいですし、背筋が伸びる思いです。しっかりと汲み取って作っていけたらと思います。

――コロナの影響で今作を発想されたということですが、倉持さんは昨年、舞台作品が直前で中止になったり、延期になる経験をされて、そこを乗り越えて1年半ぶりの新作となりますね。

倉持:去年は、映画のシナリオの仕事が増えてきて、結局一年中書いてはいたんです。だから肩はあたたまっていた。でも自分が演出するものと、人に託すものとはやはり脚本の書き方が違うから、書きはじめてみたらすごく新鮮で。どんなふうに演出をしようか考えながら書く感覚を「あ、やっぱり久しぶりだな」と思いましたね。

奈緒:そうなんですね!

倉持:昨年の中止を経験して、やれるかどうかはもうあまり考えないようになりました。書いたら当たり前に本番があるわけじゃないことはわかったから、大事に扱うようになったとは思います。正直、今までは年3本も4本も舞台の予定が決まっていたら、ペース配分とか力加減を考えるところがあったと思います。それが今はない。1本1本全力で向かっている。去年の経験で、襟を正した感じはあります。

 

――奈緒さんは舞台を経験される前から「いずれは年に1本舞台に」と思われていたとのことですが、何かきっかけが?

奈緒:福岡出身なのですが、地元にいた頃からヨーロッパ企画や、地元で活躍されている男魂(メンソウル)などの舞台を観に行っていました。最初は映画をやりたくて東京に出てきましたけれど、同じくらい舞台への憧れもあって。

 

――これまで2本の舞台を経験されて、演劇の魅力は何だと思われますか?

奈緒:やっぱり生でお芝居を観てくださる方に届けると、たくさんの心が動く瞬間に立ち会えますよね。それと、私がお芝居を続けていきたいと思う理由のひとつが、「わからないから」なんです。映像を経験して「もしかしたら答えが見つかったかも」と思う瞬間があったけれど、舞台に立ってみたらやっぱりわからないことがたくさん出てきた。その追いかけっこのような感覚が面白いなと思います。

 

――今回は待望の倉持さんとの舞台で、また新たな意気込みがあるのではと思いますが。

奈緒:はい。いち観客として倉持さんの作品を観ていたときは、「この役者さんのこんなところ、今まで観たことなかった!」という瞬間があったんです。だから私も倉持さんに身を委ねて、自分でも知らない自分を稽古中に見つけられたらいいなと思います。

 
インタビュー・文/釣木文恵
ヘアメイク/竹下あゆみ
スタイリスト/岡本純子(afelia)