新ロイヤル大衆舎×KAAT『王将』三部作を一挙上演。舞台写真と長塚圭史からの初日コメントが到着!

2021.05.18

長塚圭史 KAAT芸術監督就任後第一弾『王将』は、贅沢な“大衆演劇”!
本作は、2017年、福田転球、大堀こういち、長塚圭史、山内圭哉の4名によって結成された新ロイヤル大衆舎(長塚圭史演出・山内圭哉音楽)により、わずか80席足らずの下北沢の小劇場「楽園」にて上演し、大いに話題を呼んだ。
1947年に新国劇で上演され大ヒットし、1950年に第二部、第三部として続編二作が執筆された本作は、演劇にとどまらず、数々の映画や歌謡曲として人気を博し、今も人々に親しまれ続けている。
そして今回、長塚の芸術監督就任後第一弾の記念すべき公演として、『王将』三部作をリクリエイションし、KAAT1階の広場(アトリウム)に設営する特設劇場にて一挙に上演することになった。
新ロイヤル大衆舎とKAATが協同する今回の『王将』では、初演時、迫真の演技で三吉を演じ、自身の代表作となった福田転球をはじめ、女房・小春を演じる常盤貴子や、長女・玉江を演じる江口のりこなどの豪華俳優陣が、山内圭哉の手がける音楽とともに骨太な人間ドラマを生き生きと創り上げる。
将棋に没頭し、波乱万丈の人生を送った坂田三吉の激動の物語を、今、再び大ブームとなっている将棋の奥深い世界とともに味わっていただく、贅沢な大衆演劇。
劇場を皆さまに「ひらいて」いきたいという長塚が、劇場そのものを表に引っ張り出して、お芝居を観ても観なくても誰でも遊びに来られる楽しい空間を演出する。

アトリウムに現出する特設劇場!
今回『王将』をプレシーズンの第一弾に選んだのは、「劇場をより多くのお客様が訪れる場所にしたい」「今まで演劇に触れていなかった方たちにも利用される劇場づくりをしたい」という、開かれた劇場を目指す長塚新芸術監督の大きな目的がある。

町を行き交う人々、賑わう商店街、いくつもある芝居小屋…猥雑な喧騒あふれる中、芝居というものが地域社会とともにあるということを改めて自覚させられる本作品。
コロナ禍で、人と集うことや劇場で舞台を観ることがままならない今だからこそ、この魅力的な“大衆演劇”を、劇場の玄関であるアトリウムに特設劇場を設営して上演することで、「劇場は、閉ざされ、限られた観客とともにあるのではなく、地域社会の中に存在する開かれたものである」という想いを体現することを目指していく。

これまで三好十郎(『浮標』『冒した者』)、秋元松代(『常陸坊海尊』)など、近代戯曲に新たな命を吹き込み、高い評価を得た長塚が、北條秀司の『王将』-三部作-をリクリエイションし、KAATの新たな門出を祝福。

まだ制約のある環境の中でありながら、「開かれた劇場」を作り上げるために踏み出す始まりの一歩に、期待が高まる。

 

長塚圭史 コメント

阪東妻三郎主演の映画『王将』に心を奪われたことが全ての始まりでした。

それから北條秀司の三部作戯曲を読む機会を得て、私は熱烈にこの戯曲の上演を望みましたが、これは叶いませんでした。

いずれ坂田三吉のような叩き上げの俳優で上演したい。そんな思いを胸に抱いたまま数年が経ちました。この時の私の直感が新ロイヤル大衆舎での客席僅か80席の下北沢楽園に於ける『王将』三部作上演に繋がったのです。

『王将』の魅力はやはり坂田三吉の勝負に賭ける命がけの生き方を目の当たりにすることにあります。しかし三吉の奇抜な性質にどれだけ振り回されながらも、その生き様を愛し、見つめ、共に戦った家族と友人たち。人生丸ごと三吉と向かい合った彼らの人生こそが坂田三吉を燦然と照らすのです。最愛の妻・小春は貧しかった時代を共に耐え、早逝して尚生涯三吉の心の中で一輪の花のように生き続けます。勝負師としての三吉と火の玉のように睨み合って生きた長女・玉江、まるで小春の代わりとなるように、静かに三吉の世話に明け暮れ耐え忍ぶ次女・君子、出来の悪い弟子として辛く当たられながらも三吉の傍を決して離れない森川青年、そして三吉の後援に文字通りその財産と生涯を費やした宮田。他にもうどん屋の新吉、それから関根名人に、弟子の松島、木村名人、挙げればキリがないほどに魅力的な人物たちが次々と三吉の人生と交錯します。

明治大正昭和を駆け抜ける『王将』三部作は、我々が忘れかけている人間の絆を、熱く、切なく、おかしく、そして力強く描きます。モリモリと力が漲る劇を今だからこそ、そうです、いつものKAATの劇場の枠をも越えて、皆様にお届け出来れば幸いです。

 

あらすじ

第一部
明治39年、大阪は天王寺。素人名人とまで呼ばれる将棋指しの坂田三吉は、家庭を顧みずに将棋に没頭し、借金に追われる日々を送っている。将棋大会で関根七段に惜敗してから8年、ついに関根に勝利するが、娘・玉江から「将棋に品がない」と叱責されてしまう。その言葉に思い直した三吉は、女房・小春と共に豊かになった生活を捨て、さらに将棋の道をつきつめてゆく…。

第二部
大正13年、後援者達に押し切られ、気乗りせぬまま関西名人を名乗ることになった三吉は、東京の将棋連盟から追放され、孤立を深めてゆく。そんな三吉の貧しく荒んだ生活を支えようと身を切る玉江と、その光景をじっと見つめる若き次女の君子。昭和11年初冬、東京側と和解した三吉は12年間の沈黙を破り、京都南禅寺で木村八段との天下分け目の東西対局を迎える…。

第三部
時代は戦争へと突き進む中、三吉の弟子・松島が事故で亡くなった上、同じく弟子の森川も戦争へ。5年後帰還した森川は、最高峰に君臨する木村名人と対局し辛勝するが、三吉は自分ではなく森川が勝ったことが気に入らない。3年後、天王寺の貧乏長屋で、君子と孫の将一とともに静かに暮らしている三吉の下に、いよいよ名人位決定戦に挑むと、逞しくなった森川が訪ねてくる。果たして三吉は嫉妬に悶えるのか…。

撮影:細野晋司