またひとつ新たな才能を演劇界をひそかに騒がせている。加藤拓也、24歳。高校在学中に構成作家をスタート、18歳でイタリアに渡りMVを創り始めた。
帰国後、「劇団た組。」を立ち上げ、小川洋子の『博士の愛した数式』、押見修造の『惡の華』、西原理恵子の『パーマネント野ばら』など有名原作を次々と舞台化。23歳にして『壁蝨』で三越劇場に進出。90年の歴史を誇る同劇場における作・演出家の最年少記録を樹立した。
さらに、若手演出家コンクール2017にて優秀賞を受賞。本来、同コンクールで優秀賞を受賞した演出家は、最優秀賞を決する最終審査上演に進むが、自ら辞退。これも加藤拓也という人物の異色性を際立たせるエピソードのひとつとなった。
演劇から映像までボーダレスに活躍する才能は、はたして何者なのか。7月5日から東京 すみだパークスタジオ倉で上演される最新作『心臓が濡れる』と共に、新鋭の正体を探る。
僕が演劇をするのは、お客さんと秘密を共有したいから
――早速なんですけど、一番聞きたいことから聞きます。女優の夏帆さん主演のショートムービー『あおおいろなおし』を手がけたり、多彩なジャンルで活動する加藤さんが、なぜ演劇という表現手段を選んでいるのか。その理由を聞かせてもらっていいですか。
加藤「映像でやりたい事、演劇でやりたい事、それぞれあって演劇の場合お客さんと1つの作品を秘密として共有する、っていうことは理由の1つですね」
――秘密を共有?
加藤「他の何も入ってくることができない。その閉鎖性が面白いなって」
――Twitterでも「ここで見ることは内緒にしておいてほしいなと思う、そんな劇やります」とつぶやいていましたよね。
加藤「僕らが稽古をしてつくった作品を、お客さんはわざわざチケットを買って観に来てくれる。そのチケットは秘密を共有する約束というか。だからこそ、その場にいる僕とたちだけのものにしたくて」
――原作モノを数多く手がける一方で、オリジナル作品も意欲的に取り組んでいます。加藤さん自身は常に何を書きたいと思いながら作品に取り組んでいるんですか?
加藤「物語を書く人には、これをやらないと自分の人生が前に進まないっていうものがあると思うんですよ。わかりやすく言えば、めちゃくちゃ好きだった彼女のこととか。それを作品にすることで、自分の人生が前に進むような、そういう経験や記憶が僕にもたくさんあって。それが今、演劇を書く上での一番の原動力になっている気がします」
――創作活動を通じて表現したいものは?
加藤「毎回テーマは違うんですけど、結局絡んでくるのは男女のことが多いのかなあ。恋愛を含む、いろんな男と女についてですね。と言うのも、自分の中でコンプレックスなんですよ。男と女についていい想い出がない。ただ、僕は男も女も嫌いなんですけど、人間が好きで」
――ややこしいですね(笑)。
加藤「矛盾しているんです(笑)。閉鎖的にしたいと言い、沢山の人に見てほしいと言い…そういう矛盾に対してしんどいわって思いながら、作品をつくり続けています」
自分のやりたい作品をやりたい
――傍目から見ていると、「劇団た組。」の立ち位置は演劇界でも異端な印象です。いわゆる「劇団スゴロク」と呼ばれるルートとはまったく違うところから出てきて、どんどん大きくなっている。自分自身の立ち位置についてどう考えていますか?
加藤「わからないですね。やりたい事をやっているだけなので、他の劇団さんとルートが違うというのもあまり。自分がこの業界でどう見られているとか考えたこともなくて。ちょっと身の上話になりますけど、MVを撮り終えてイタリアから帰ってきた後、少しの間、ホームレスをしていたんですよ。そんな僕に住む場所を貸してくれたのが、イタリアに行く前から知り合いだった演劇関連の人で。それで、しばらくその人の家の押し入れで暮らしていました」
――押し入れで?(笑)
加藤「そう、押し入れの中で豆電球をつけて(笑)。「た組。」に関しても、最初はその人たちと一緒にやっていたんですよ。ただ、第5回公演が終わったくらいのタイミングで、僕ひとりになって。そのときやってた経営者としての仕事を極めて経営者になるか、それともクリエティブの道を突き進むか。僕の前には2本の道が用意されていたんです。結局、いろいろ考えて、僕は経営者ではなく、(今は)作家として生きる人生を選んだんですけど」
――それはどうして?
加藤「あまり会社を大きくすることに興味を持てなかったんですね。それよりも自分の好きなことを好きなタイミングで好きなようにやれる方が楽しそうだった。今も劇団を大きくしていこうとか、そういうことにはあまり関心がない。ただ、自分のやりたいことをやりたいだけ。だからあんまり自分の立ち位置とか意識することがないのかもしれません」
お客さんには『共犯者』として居てほしい
――では、次回の『心臓が濡れる』について聞かせてください。
加藤「あらすじを簡単に説明すると、災害でビルに閉じ込められた10人の男女が、自分が助かるためにいろんな正論をぶつけ合うんですけど、そのどこにも正義がなくて……っていう感じです。あとは、劇場に来た人との秘密にできれば(笑)」
――シアタートラム進出を経ての、すみだパークスタジオ倉というのは、劇場選びとしては少し意外でした。
加藤「僕は作品を書いてから、作品に合う劇場を押さえるというスタイルなんです。今回も、この作品をやるならどの劇場がいいかという視点でベストだと思ったから選んだ。きっと中身を観てもらえれば、その理由もわかってもらえると思います」
――お客さんに、どんなふうに作品を楽しんでほしいですか?
加藤「何だろう、『観る』というより『居る』という感じかな」
――それは傍観者として? それとももう一人の登場人物のような気持ちで?
加藤「『共犯者』として、ですね。自分が正論として振りかざしていることが暴力になっていることって往々にしてある。きっと劇中に出てくるいろんなワードが、お客さんにも重なってくるんじゃないかなと思います」
――11月にも公演があるんですよね。
加藤「それは今回とはまたまったく違う感じで。バスケットボールを題材に、男だらけの熱いお話をやります。ずっとやりたくてしょうがなかったんですよ。でも爽やかな話ではないです。だいぶグダグダした話になっていると思います(笑)」
――全然雰囲気が違うように見えますけど、通底する共通項みたいなものってありますか?
加藤「うーん。『どうしようもない人が出てくる』っていうところはあるかもしれない」
――劇団た組。としての目標は?
加藤「頑張るぞ、ですね(笑)」
――お話を聞いてみて、思っていた感じとは違って驚きました。若手のクリエイターだし、もっと野心的でギラギラしているイメージを持っていたんですが、まったく違いますね。
加藤「どうなんでしょう。自分でも自分のことはよくわからないんですよね。(『まゆをひそめて、僕を笑って』に出演した)藤原季節なんかは僕のことを『反骨心がある』って言いますし」
――じゃあ、加藤拓也個人として望む理想の未来図は?
加藤「幸せな人生を送りたい、ぐらいですね(笑)。この間父親が仕事を辞めまして(笑)。そういうことがないように頑張ろう、くらいです。もう少し言うなら、書きたいものが死ぬまでに書き切れるといいな、とかそれくらい。書き切れずに終わったら虚しいから、そうならないように頑張りたいなと思います」
取材・文/横川良明
【プロフィール】
加藤 拓也
■かとうたくや 1993年12月26日生まれ。大阪府出身。脚本家。演出家。監督。 「劇団た組。」主宰。わをん企画 代表。17歳で構成作家を始め、18歳でイタリアへ渡り、映像演出を学ぶ。帰国後、「劇団た組。」を立ち上げ。23歳で三越劇場作演出家の最年少記録を樹立。若手演出家コンクール2017優秀賞受賞。