写真向かって左より
(前列)藤谷理子、中川晴樹、酒井善史
(後列)諏訪雅、石田剛太、上田誠
2018年に創立20周年を迎えるヨーロッパ企画。その出世作であり初期の代表作である『サマータイムマシン・ブルース』が、続編にあたる新作『サマータイムマシン・ワンスモア』と交互上演される。傑作タイムマシンコメディの二本立て上演に向けて、作・演出の上田誠、出演者であり劇団員の石田剛太、酒井善史、諏訪雅、中川晴樹、そして『サマータイムマシン・ワンスモア』に客演する藤谷理子に、この「20周年ツアー」の展望を聞いた。
−−実は、ヨーロッパ企画が『サマータイムマシン・ブルース』を上演する機会はもうないのでは? と勝手に考えていたので、今年の20周年ツアーは嬉しい誤算でした。
上田「『サマータイムマシン・ブルース』に限らず再演したい作品は沢山あるんですよ。でも新作もやりたいから、悩んだ末に結局新作が勝っちゃう。再演はどうしても優先順位が下がりがちです。でも「20周年だから何かそれっぽいことをやりたいよね」と話していて、これを思いついた。“敢えて”これをやってしまおう、という感じはやっぱりありますね(笑)。『サマータイムマシン・ブルース』は観たい人も多いだろうけど、僕らも年齢的に出来ないだろうし、きっとやらないだろうという空気がある、その前提ありきで」
諏訪「『〜ブルース』を大事にするということではなく、普通にバカバカしい企画だなぁと思いました」
上田「自ら「ワンスモア」言うてますからね。何かの続編って作ったことがないんですよ。それもやってみようと」
諏訪「敢えて感というか、開き直り感がすごい」
中川「最後に『〜ブルース』をやったのは2005年で、これが2010年に「また再演しよう」と言われたら僕らも嫌だったかもしれない。劇団が20周年で、僕らも40歳になり、だからこそやれるのかも」
諏訪「でも、続編作らんでええもんね」
上田「全然やらなくていい」
石田「いわゆる名作とか代表作とか言われているものの続きをやると……」
上田「あまりよくないもんね」
石田「名作とも思っていない」位のスタンスでやる方がいいのかな?」
上田「『サマータイムマシン・ブルース』は、やっぱり自分たちの中で名作だと思っています。だから『〜ワンスモア』は名作の続きを、みたいに思って作らない方がいいと言うか、「……あれ、何でやったんだろう?」と思われる位バカバカしい方が」
石田「アハハ」
上田「普通に再演だけをやるツアーはやりたくなかった」
−−藤谷さんは2016年の『来てけつかるべき新世界』に出演されて、今回が2度目の本公演出演となりますが、ヨーロッパ企画との出会いはいつ頃ですか?
藤谷「高校生の時にほとんど初めての観劇体験がヨーロッパ企画さんでした。2013年のイエティ(※ヨーロッパメンバー・大歳倫弘のユニット)『さらば、ゴールドマウンテン』です。それからは家族行事として観に行くようになり、家族ぐるみでファンになりました」
−−憧れの劇団に出られた感想はいかがでしょう?
藤谷「一番にあるのは、純粋に楽しいとか嬉しいという気持ちです。今回は『サマータイムマシン・ブルース』という代表作の続編に出ることになり、高校生の頃から観ていて、しかもリアルタイムで『サマータイムマシン・ブルース』を観られなかった立場からすると、とても嬉しいことだと思っています」
−−藤谷さんも出られる新作『サマータイムマシン・ワンスモア』。これは近年のヨーロッパ企画が手掛ける「企画性コメディ」に分類される?
上田「『サマータイムマシン・ブルース』は劇団初期の作品ですが、僕はあれも企画性コメディだと考えていて」
−−「タイムマシンコメディ」であると。
上田「はい、そうです。なので、その企画性を強めようという感じ」
−−現時点の構想について教えて下さい。
上田「最初は「ワンスモアだから、切なさがより強くなるのかな?」と考えていました。『〜ブルース』が光であれば『〜ワンスモア』は影、みたいな。でも、それだとあまり面白くならないような気がして、まずは「当時より面白いものを」と考えながら作った方が、我々の今の力を集結出来ると思っています。ただ『サマータイムマシン・ブルース』を観て下さったお客様が、その続きの物語が観たいとか、気になるとか、そういうことはあるでしょうし、そこも意識すると思う。でも優先順位的にはおもしろが先です」
−−登場人物達のその後も描かれるけれど、ドラマ性を重視するわけではない?
上田「これ、言い方が難しいのですが、ドラマ性を重視してもあまり面白いことに繋がらない気がする。例えば「あれから15年後、全員が自己破産をしている」みたいな突飛なことにすると面白いかもしれないけれど(笑)、そういうことやるのもちょっと違うじゃないですか。求められていないというか」
酒井「悲しい未来だなぁ」
上田「そうならない為にも『サマータイムマシン・ブルース』の世界観の良さをきちんと継承しなくてはいけない。その上で、タイムマシンコメディの面白さを純粋に追求したいです」
−−続編らしい魅力というより、劇団の現在を投影した新作になりそうですね。
上田「そうだと思います。やはり今を生きる身としては「新作の方が面白い」と言われたいですから」
−−皆さんで20周年ツアーに関する「予想トーク」をお願いします。
石田「『〜ブルース』の劇中にもあったけれど、昨日の甲本と今日の甲本が一緒に舞台上に存在するのは不可能だから、それをごまかすシーンとか、それがもっと入り組んでいるやつがやりたい」
上田「なるほど、もっと複雑にね」
諏訪「〜ワンスモア』で『〜ブルース』に絡みたい」
石田「それ俺も思った。実はあの時いたんだ! みたいな」
上田「『サマータイムマシン・ブルース』のお話の中に潜り込んでいきたいですよね」
石田「『〜ワンスモア』の中で『〜ブルース』のシーンをやる」
諏訪「それもいいね」
石田「それを窓際から『〜ワンスモア』の奴らが見ている」
中川「めちゃくちゃ大変やん」
諏訪「やりたい」
上田「内包するというのは是非」
中川「でもこれ、15年後の部室に僕らが集まるわけよね」
上田「そう」
中川「その集まる理由が」
諏訪「理由がないんですよ」
中川「SF研究会はまだしも、そこへカメラ部もやってくるんでしょ。それ全然理由ないもん。この歳になると結婚式とか葬式でもない限りなかなか集まらない」
石田「SF研の人達の15年後はどうなっているのかなぁ」
上田「理子ちゃんはやりたいシーンとかある?」
藤谷「私、この手のトリックに弱いので……」
上田「なるほど。じゃあタイムトラベルはせず」
藤谷「いえ、タイムトラベルはめっちゃしたいです! 稽古場で「今どこにいるんやろう?」という状態になりたい」
石田「あれはパニクるよー」
藤谷「パニックになりたい」
石田「(笑)。裏で着替えつつ「いま辻褄合ってるかな?」とかドキドキしながら舞台へ出たり」
上田「あー、そんなのあるんや」
石田「あとね、しらこい(※しらじらしい。知らないふりをする)芝居が出来るのが楽しい」
藤谷「それもしたいです」
石田「あれはしらこいのよ」
藤谷「昨日の自分と今日の自分をやりたい」
諏訪「敵味方両方やるみたいな感じやね」
−−劇団の何周年メモリアルというと、割としっかり祝う劇団と、あまり気にしない劇団と、様々なタイプがあると思うのですが、ヨーロッパ企画の皆さんはどうですか?
諏訪「うちらの場合、リアルに20年という人があまりいなくて」
酒井「立ち上げのメンバー(※上田、諏訪、永野宗典)だけですよね」
諏訪「そうなんよ」
上田「多分「ほどほど」だと思います。ことさら変わらないと言えば変わらないですけど、かといって何もしないのは勿体ないし、位の感覚」
酒井「10周年の時も特別なことはやらず、「やったね10周年ツアー」というコピーだけ付けて」
上田「まぁでも「20周年です」とは言いたいかな」
石田「あまり再演をしない劇団なので「こういう機会じゃないと再演が出来ない」みたいな話は」
上田「それはあります。」
−−最後に上田さんから何か一言頂戴出来れば。
上田「『サマータイムマシン・ブルース』は既に自分たちの中で決着がついてしまった感もあり、2005年以降の再演はなかったけれど、もうぼちぼちやってもいいかな? という気持ちが沸き上がり、今回やることにしました。お客様の中には『サマータイムマシン・ブルース』を全く知らない方や、噂には聞いたことがあるけれど、どんな作品か分からないという方も多いと思いますので、『サマータイムマシン・ブルース』が気になる方はまずそちらを観て頂けたら嬉しいです。もうひとつの『サマータイムマシン・ワンスモア』は、20周年であることを抜きにしても、面白そうな客演さんを4人お呼びして、賑やかなキャストでやれる僕らが得意としているタイムマシンものですから、そこは大いに楽しんで頂きたいし、僕ら自身も楽しみたいと考えています。独立した新作として観てもらっても十分見応えのあるものになるはず。僕らとしても色々思い入れながら作ってしまうかもしれませんが、そこを抜きにしても「今面白い」ものにしますので、続編ですけれども、新作を観に来るつもりでお越し頂けたら」
取材・文/園田喬し