宣伝美術:秋澤一彰 撮影:牧野智晃
社会主義体制が永遠に続くかに見えた時代のやるせない愛と人生を描いた『愛するとき 死するとき』。
生まれ育ったドイツ作品の翻訳劇を中心に、昨今の活躍が目覚ましい小山ゆうな 翻訳・演出のもと、浦井健治、高岡早紀、前田旺志郎、小柳友、篠山輝信、岡本夏美、山﨑薫が、人類にとって普遍的なテーマである「愛」を通し、現実への反発と許容をより明晰に描き出す。
STORY
第1部 東西統一前の東ベルリン。典型的な社会主義国の若者たちの他愛のない日常が描かれる。青春の悩みは壁のこちら側でもあちら側でも同じ。生きること、愛することの葛藤と悩みはつきない。そして青春時代は瞬く間に過ぎていく。
第2部 父親が妻とまだ小さな子供たちを残して西側へ逃亡してしまったとある家族。月日は経ち10代後半に成長した2人の息子は母親と3人で東側で暮らしている。かつての反体制派の英雄ブロイアーおじさんが刑務所から出てきたが、今となっては「目立つな、英雄を気取るな、列に並んでみんなと一緒に行動しろ」というのが若者たちへの助言だ。昔の輝きはまったく無い。だがブロイアーは母親と急接近していく。兄弟の間に一人の女性が現れる。弟は彼女に夢中になるが、気づくと彼女は兄の彼女になっていた。彼らは恋と失恋をたくさん繰り返しながら、ままならない日常の中で大人に近づいていく。母親とブロイアーの関係はまだ続いていた。そしてある日……。
第3部 妻子ある男は、仕事のためにある土地に移り住み一人暮らしを始めたが、これといってかわりばえのない日々を 過ごしていた。しかし彼は食堂で働く女性と出会ってしまった。男と女はあっという間に恋愛関係に陥る。二人は旅行にも行って、喧嘩もして、そして仲直りもする。とうとう男は妻子と別れる決心をした。だが彼女は……。
浦井健治 コメント
どんな作品をやろうかと、プロデューサーさんと共に、演出の小山さんとお会いした時、世の中が急変していく時期で、今後の作品が上演出来るのかどうかという不安や、演劇界自体の灯火を消さないようにみんなで繋がっていく心の結びつきを感じていました。それが今、緊急事態宣言というものが、私たちの生活の中に、ここまで、常にある状況になるとは。
この戯曲は、今の時代だからこそ、とても心に刺さってくると感じています。
戯曲の時代設定の中での、人の精神状態や、環境による葛藤。その中でも、人間は、青春を謳歌しようとし、群像劇として立ち上がって見えるのは生きる力であって、それは老若男女、誰もが、死というものを見つめながら、それが近いものであるかもしれないことを知りながら、懸命に生きることを全うしようとする。助け合う。繋がろうとする。その心に、戯曲が時にポップに、時に淡々と、独特のリズムで迫ってくる気がします。
今回初めて、シアタートラムという空間でやらせて頂けること。ある先輩が、浦井はトラムみたいな小屋でもどんどん芝居をやらせてもらえ!な!面白いんだから!な!と、ニヤニヤしながら伝えてくれたこと、忘れません。そのトラム。大切に務めます。
高岡早紀 コメント
今回、演出家の小山ゆうなさん、主演の浦井健治さんも含めてほとんどの出演者と初共演になります。そして、シアタートラムは観客として足を運んでいましたが客席がものすごく近く、緊張感しかない劇場に私が立てることが、とても楽しみで仕方ありません。
愛と死をテーマに、小山さんがどのような演出をなさるのか、ドキドキしながら稽古に臨みたいと思います。
前田旺志郎 コメント
今回この作品に参加させてもらえることが決まった時はドキドキしました。これまで自分がやった事のない舞台であることは、台本を読んだ瞬間すぐに分かったからです。まだ稽古に入っていないのでわからない事だらけですが、未知の時間を共演者の皆様と一緒に模索しながら楽しめたらと思っております。世の中はコロナが中々収まらず危ない状況ではあると思いますが、感染対策には最善を尽くします。娯楽が少ない今だからこそ劇場に足を運び、少しでも楽しんでもらえたらと思います。
小柳友 コメント
新しい挑戦の日々が訪れることに正直、震えております。毎日、震えております。ですが台本を読めば読むほど不思議と高揚している自分もいます。東西に分けられていた閉塞的な世界の中でもがきながらも、弾ける青春のエネルギーの一つになれたら幸いです。
このご時世に劇場に足を運んで下さる皆様には本当に感謝しかありません。舞台に立たせていただける喜びを胸に駆け抜けたいと思います。
篠山輝信 コメント
僕にとって、小山ゆうなさんとシアタートラムは、これまで『チック』と『イザ ぼくの運命のひと PICTURES OF YOUR TRUELOVE』という作品を共につくって来た、言わば「戦友」のような存在です。そして今回また、小山さんと、トラムで、新たな挑戦の機会をいただきました。最高に信頼する演出家と、俳優と観客を暖かく包み込んでくれる最高の劇場、そして、今回初めてお会いする素晴らしいメンバーとの新しい旅が、このコロナ禍の日本でどういう意味を持つのか。持たせられるのか。緊張とともに楽しみでなりません。感染対策を十分に講じた上で、劇場でお持ちしております。
岡本夏美 コメント
役者を始めてから、いつかは立ちたいと胸に抱いていた、シアタートラムでの公演。有難い気持ちと同時に、数々の名作を観てきたこの場所で、自分がどういう姿なのか…想像もつかない緊張感も溢れ出てきます。尊敬する先輩方の胸を借りるつもりで、思い切りこの作品に飛び込み、数々の役柄と共に、悩み葛藤し、強く生きられたら、と思います。そして、この作品の、抑圧のかかる日常の中で、愛を知り、時に下を向き、また前を向いて歩いていく、そんな人々を色濃く表現し、皆様の心に何か残るように演じたいと思います。
山﨑薫 コメント
人が避けては通れない「愛するとき」や「死するとき」。
コロナ禍、このタイトルに大きく心を揺さぶられている自分がいます。
台本に初めて目を通した時、句読点のない文字の羅列に大変魅力を感じました。
切れ目のない羅列に、作者の「分断」への大きな投げかけが伝わってきます。
役者としてこの作品の言葉を、どう区切り「分断」を掘り下げていけるか。
素晴らしいチームの皆様との稽古に、全身全霊で取り組みたいと思います。
撮影:牧野智晃