“ずっしりと体に残るような感覚”を感じてほしい
今春放送されたNHKのよるドラ『きれいのくに』の脚本、三島由紀夫没後50周年企画の『真夏の死』の作・演出など、次々と話題作を手がける加藤拓也。その加藤が率いる劇団た組の新作舞台が『ぽに』だ。舞台のテーマは“仕事とお金の責任の範囲”。アルバイトでシッターをしている主人公の円佳は、業務中に生意気な5歳児れんと災害に遭う。2人は避難所に向かうが、満員で入ることができない。円佳は横暴なれんの振る舞いに嫌気がさし、彼を置き去りにしてしまう。翌朝、れんは43歳の“ぽに”になって円佳が居る誠也の家を訪ねてくる――。『ぽに』の主人公の円佳役を演じるのが女優の松本穂香だ。
松本「もともと加藤さんの作品が好きで、劇団た組の『心臓が濡れる』(2018年)が特に印象に残っています。加藤さんの舞台を観ていると、体にズシンと重みを感じるというか、すべての感覚が刺激されます。悲しいわけでもないのに、自然と涙があふれてくるような感覚。そういう感覚が今までなかったので、とにかくビックリしたのを覚えています。年齢は少し加藤さんが上ですが、同年代でこんなにすごい人いるんだと驚きました。私は舞台に出演するのが2度目で、しかも5年ぶりです。初めての舞台はデビューしてすぐで『怖さ』がなかったのですが、今回は緊張感や責任感があります。舞台との向き合い方が全然違います」
松本が演じる円佳は、アルバイトではれんに振り回されながらも、私生活では“なんとなく留学”という漠然とした将来と、誠也(藤原季節)との関係が一向に進展しないことを悩む。誠也の部屋で繰り広げられる2人の会話は、リアルなカップルの部屋を覗き見しているようで生々しい。
松本「加藤さんに円佳と私は性格が近いと聞いていたのですが、『自分のこと、こんなに話したっけ?』というくらい似ているところがあります。例えば誠也と喧嘩をして背中を向けられたとき、すがってしまう感じとか。『怒ってる?』と言って後ろからギュっといっちゃう感じとか。しんどいくらいわかります。そういうシーンをあまりしたことがないですし、しかも舞台でとなるとどうなるかわからないですが、誠也役の藤原季節さんが、なんでも受け止めてくれるでしょうし、季節さんから出てくるパワーに向き合っていくのも楽しみです」
円佳は作中で少しずつ仕事という現実に向き合うことになる。シッターの責任範囲という現実社会の問題を扱っていながらも、“ぽに”という不思議な存在が、作品の根底に「死」という不穏な気配を漂わせる。本作は加藤が永遠に終わりのこない“鬼ごっこ”からイメージしたもので、描かれるのは現実とファンタジーの間(あわい)だ。
松本「今回の加藤さんの作品も、やっぱり面白い。加藤さんの頭の中ってどうなっているのかなって(笑)。『ぽに』には仕事をやる上での責任だけではなく、いろいろなメッセージが詰め込まれています。ちなみに発音は『ぽに↓』ではなくて『ぽに↑』なんですよ(笑)。『ぽに』を観てもらった方が、私が加藤さんの作品を観るたびに感じる“ずっしりと体に残るような感覚”を終演後に感じてもらえるような舞台にしていけたらいいなと思います」
インタビュー・文/野口理恵
Photo/前田立
※構成/月刊ローチケ編集部 10月15日号より転載
※写真は誌面とは異なります
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【プロフィール】
松本穂香
■マツモト ホノカ ’97年生まれ。’17年、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』に出演し脚光を浴びる。以後、数多くのドラマ、映画に出演する注目の若手女優。