ケラリーノ・サンドロヴィッチ、大倉孝二 インタビュー|ナイロン100℃ 47th SESSION『イモンドの勝負』

 

劇団は「自分の出自を確かめる」場所

――この公演はナイロン100℃にとって約3年振りの新作公演となります。お二人にとって「劇団」とはどのような場所ですか?

大倉「やはり自分の出自を確かめるというか、里帰りのような……。昔は活動のほとんどが劇団公演で、自分の活動=劇団の活動でしたが、今は演劇だけでなくテレビや映画もやっていますし、改めて「こういうことをやってきたのだな」と確かめる場所、な気がします。」

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)「90年代までほぼ劇団公演として(演劇活動を)やってきて、徐々に外の公演が増えてきた。去年(2020年)は中止になっちゃったし、近年は数年に一度の劇団公演なので、久しぶりという気持ちがあります。ナイロンは、当たり前ですけど自分で集めた人達がいて、自分の創作にとって、非常に有能な集団。前提となる最初のハードルを結構高めに設定しても、それを越えられる人達ですから。それと、表現とは無関係に、何十年も一緒にやってきた知り合いなので、苦楽を共にした同志意識みたいなものもありますね。」


――公演に向けて、現時点での企み・アイディアはありますか?

大倉「僕は全くないです。」

KERA「僕がまだどんなことをやるのか分からないんだから、大倉に聞いても無駄です(笑)。」


――KERAさんが大倉さんに「こんなことをやらせてみたい」というのは?

KERA「大倉くんは身体を壊して野田さんのお芝居(※NODA・MAP 第24回公演『フェイクスピア』2021年)を降板したので、とても心配していました。今回はその分も含め、二本分頑張ってもらおうと。具体的なことはまだ言えませんが、今回はナンセンスコメディをやろうと考えています。」

 

みんなが本気を出したら本当に厄介

――昨年、ナンセンスコントの映像作品と無観客配信上演の2本立ての『PRE AFTER CORONA SHOW』を上演されましたが、その流れもあり、今回のナンセンスなのでしょうか?

KERA「僕は元々ナンセンスな笑いをやりたくて芝居を始めたのですが、それをやる場所が、もうあまりないんですよ。大倉や犬山(イヌコ)たちがレギュラーで出ていた古田新太くんとの企画も、三部作をやってから久しくやっていない。そして、ナイロンでやるナンセンスは、あれらとは別のテイストのナンセンスになると思う。劇団でナンセンスをやるのは久しぶりだけど、自分を突き動かす何かがあったか? というと、特にないんです。でも定期的にトレーニングを積まないとナンセンスは書けなくなっちゃうし、ライフワークとも考えています。」


――出演者クレジットの先頭に大倉さんの名前があります。これは大倉さんが演じるキャラクターが中心となる物語と想像してよいですか?

KERA「気が変わらない限りそうだけど、でもやってみないと分からない。やってみたら、廣川(三憲)さんだったり、吉増(裕士)だったりとか(笑)。」


――なるほど(笑)。

KERA「今のところ、大倉が完全な主役です。」


――大倉さん、この出演者クレジットを見て、今回の座組に期待することは?

大倉「知っている人しかいないのに、厄介そうな人ばっかりで、すごく疲れそうです。みんなが本気を出したら本当に厄介ですよ。」


――ナンセンスコメディを上演する上で、頼もしいというか、強者揃いのキャスティングだと感じます。

大倉「はい、そのことを言っています。「ちょっと、強すぎやしないかい?」って。」

 

狂った世界観を自分の基準値にする

――ナンセンスコメディの創作に関して、どういうところでアイディアを得ているのでしょう?

KERA「ナンセンスって世界自体が狂っているものだから、常識的な世界に少しおかしな人がいる世界ではなく、世界観そのものが狂っている。その狂った世界観を自分の基準値にするところから始めるんですよ。当然ながら普段は常識的に生きている訳で、それをずらすことから始める。だけど、ナンセンスってとめどもなくて、ある沸点を越えると、もう笑いにならない。ナンセンスではあっても笑いには繋がらなくなってくる。初期の筒井康隆の長編とか、前衛性や実験性が勝つけれど、おそらく本人は笑いながら書いている。もうデタラメすぎて、読む人が「こんなデタラメなことを何百ページも書くはずがない。きっと意味があるはずだ」と勘ぐったり。ある時期のナイロンはある意味ナンセンス・コメディの極北まで行ったと思うけれど、あくまでもコメディの範疇でした。今回はそこからはみ出すモノが沢山あるかもしれないし、ないかもしれない。わかりません(笑)。その後(ナンセンスの書き手として)ブルー&スカイが出てきて、ある意味奮い立たされたりしました。でも、彼と僕では面白がるポイントが異なるし、過去の自分と今の自分も違う。(ナンセンスの創作とは)物語を構築してそこに笑いを加えていくような創り方ではなく、狂った世界で、今回の場合はおかしいに限らず「何が面白いか?」を探り、それを何とか物語として成立させられるといいな、と。」


――大倉さん、舞台上でナンセンスコメディを表現する時、どんな気持ちで臨んでいますか?

大倉「「面白くする」以外、特に考えることはないですね。どうやったら面白くなるか? それのみです。ただ脈絡がないので、整理もへったくれもない訳で、突然わけの分からない境地に達さないといけないから、だいぶしんどいです。それが面白いんですけど。」

 

客演三人は十分な戦力になってくれる

――「しんどい」というワードが出ましたが、これまでのご経験で思い出されるエピソードはありますか?

大倉「人間、悪ふざけというのは興が乗った時にするもので、全然興が乗っていないのに悪ふざけをしなきゃいけない。いい歳をして悪ふざけをする毎日。それがしんどくもあり、楽しいんでしょうね。」


――そういう時にエンジンをかける秘訣は?

大倉「これは、ないですね。若い頃は楽屋でみんなワイワイして、盛り上がってから出て行く、みたいなこともありましたが、今は病院の待合室みたいな楽屋で、みんなのっそり立ち上がり、突然ふざけだす、という。」


――瞬発力にかける?

大倉「そうですね、余計なエネルギーを手前で使わないようにしています。」


――KERAさん、客演のお三方への期待、そしてナンセンスコメディでどういったパフォーマンスをして欲しいか? について聞かせて下さい。

KERA「一番未知数なのは赤堀(雅秋)くんですかね。役者としての引き出しは何となく分かっているけれど、ナンセンスをやる赤堀は見たことがない。おそらく観客の皆さんもみたことがないはずです。なので非常に楽しみです。(山内)圭哉は近年しょっちゅう一緒にやっていて、彼はナンセンスのスキルは勿論のこと、何でもできる。池谷(のぶえ)も同様で、池谷はいつの間にか何でもできる人になっていた。昔はナンセンス専門の女優さんだったのに。とにかく、客演の三人は大丈夫というか、十分な戦力になってくれると思います。劇団員も彼らに触発されるんじゃないかな。」

 

愛情が……あるんでしょうねぇ

――「ナンセンス・コメディ」はナイロンにとって代名詞のひとつと言えます。現在のお二人にとって「ご自身とナンセンスとの距離感」、あるいは「ナンセンスへの愛情度」などについてお聞きできれば。

KERA「愛情は大倉の方があるんじゃない?」

大倉「僕はいまだにブルー&スカイと活動しているので(※ジョンソン&ジャクソン)。ナンセンスとはどういうものか? はきちんと理解してないけれど、ただ、KERAさんや宮沢章夫さんがやってきたものが好きで、そういう感じの笑いをブルー&スカイと一緒に創り続けているということは、愛情が……あるんでしょうねぇ。何というか、面白いから好きなんです。ただそれだけで。」


――ナイロン100℃というホームグラウンド。大倉さんを中心とした物語。ナンセンスコメディ。これらを踏まえ、大倉さんご自身の期待度も相当高いと捉えてよろしいですか?

大倉「そうですね。「中心」と言われると、基本的にどんなものでも嫌な気持ちになってしまう性分なので、そこはネックではありますが、久しぶりにナイロンでやれるのは、とても有り難いです。」

 

目指しているのは「何がおかしいか分からないのに、おかしい」

――では最後に、KERAさんのお言葉も。

KERA「ナンセンス・コメディと、しっかり謳っちゃったからね。ナンセンス……。やはり、昔をなぞることはできるだけしたくないです。例えばいまラジカル(・ガジベリビンバ・システム)やモンティ・パイソンを観ても、すごいなぁとは思うけれど、当時面白がっていた程の刺激はない。古田新太と3本やって、3本目で「とりあえず一旦置かない?」と言ったのは、やはり繰り返しになってしまうから。ナンセンス・コメディの世界には、限界がある。『ヒトラー、最後の20000年』(※KERA×古田新太による公演の3作目)のラストは、全員裸(に見えるスーツ)でちんちんやおっぱいを振り回していましたが……。」

大倉「(苦笑)。」

KERA「結局ナンセンスを喜劇として量産するのであれば、ほどよいところで色々なバリエーションを探っていくことが、利口な立ち回りだと思うんですよ。もっと上に、よりナンセンスに、を狙うと、すぐ限界点が見えてしまう。違うテイスト、違うナンセンスで違う笑い、この辺の説明は難しいけれど、同じナンセンスでも、かつての笑わせ方と違う種類の笑い、例えばクスクスでもニヤニヤでもいいじゃないかと。」


――「ナンセンス」という大枠の中で、タイプの異なる笑いを追求していく?

KERA「常に目指していることは「何がおかしいか分からないのに、おかしい」。それを一番に目指しています。「これこれこうだからおかしい」ではなく、よく分からないのに笑っちゃう。その断片は、例えばシティボーイズのきたろうさんのお芝居などから、しょっちゅう窺い知れたものです。きたろうさんから滲み出てくるもの。先日もラジオ局で久しぶりにお会いして「この人、ほんとおかしいなぁ」と思った。別役実さんが目指したのも「何がおかしいか分からないけどおかしい」だったと思うんです。それを目指したいけれど……、気が狂いたくないので、半分はもがき続けて、残りの半分は楽しくやりたい。あとは笑いからはみ出す面白さを探す、という作業がどこまでできるかですね。」


――本日お二人の話を聞いて、上演がとても楽しみになりました。出鱈目な時代だからこそ、出鱈目な新作に期待しています。

KERA「あくまで「自分にとって有効なナンセンスは?」という話で、お客さんも世間も「そんなの知ったこっちゃない。好きにやれよ」って感じだと思います。勝手にもがいて勝手に楽しんで、自分たちにとって有効なものを目指したいと思います。」

 

取材・文/園田喬し
撮影/江隈麗志