大野瑞生、横田龍儀 インタビュー|舞台「ダムウェイター -the Dumb Waiter-」

タカイアキフミによるソロプロデュースユニット、TAACの第6弾公演「ダムウェイター -the Dumb Waiter-」が11月3日より上演される。本作は、指令を待つ殺し屋2人のもとに注文が書かれたダムウェイター(料理昇降機)が下りてきて、やがてどんどんと奇妙な状況に陥っていくというハロルド・ビンター作の不条理演劇。これまで国内では堤真一×村上淳、浅野和之×高橋克実、伊礼彼方×河内大和と、数々の演劇人がこの作品に挑戦してきた。今回、この傑作に身を投じていく大野瑞生と横田龍儀の2人に、話を聞いた。

 

――今回の舞台は1年半かけて上演に至ったとお聞きしました。どのような経緯があったんでしょうか?

横田 もともと、2人で芝居をやりたいね、っていう話をしていたんです。それで、瑞生を通してタカイアキフミさんと知り合いまして、何かやってみようよ、とタカイさんから言ってくれたんです。当初は、「ダムウェイター」のほかにもいくつか作品の読み合わせとかをしてみていたんですが、「ダムウェイター」を読んでいるうちに、この作品で僕らがレベルアップできるんじゃないかとタカイさんが感じて、やってみないかと提案されました。僕自身もそう思ったし、瑞生とも相談して、やると決めました。

大野 僕にとっては、こう自然な感じで一緒に居られる相手って龍儀のみ、って言っていいくらいなんですよ。演技の本とかを読んだり、本当に地味な作業をひとりでずっとやっていたんですけど、それに付き合ってくれる人なんて居なくて。野球で言うとピッチャーの投げ込みみたいな、本当にわずかなコントロールを付けるための練習に付き合ってくれるのって、龍儀だけなんですね。コロナ禍の間とかは、夕方18時から翌朝6時までオンラインで演技のことをやったりしてました(笑)。そういう意味で、僕が本当にやりたいアプローチを作っていける相手は龍儀なんです。一緒に作れたらどんなにいいだろうか、とはずっと思っていたんですよ。

 

――作品ありきではなく、お2人で何かやりたい、というところから始まった作品なんですね。普段、どのようなお話を2人でされているんですか?

大野 僕らはプライベートの時も、お芝居の話が9.5割くらい(笑)。ほかの人とだと、あんまりお芝居の話ができないというか、相手が興味を失っているな…とか感じてしまうことがあるんです。そういう意味では、龍儀は特別ですね。

横田 瑞生と初めて共演したときは、そんなに話すような感じじゃなかったんです。でもひょんなことから話すようになって、一緒に食事に行くようになって。芸歴も瑞生の方がずっと長いので、お芝居についてもいろいろと知っていて、僕としては最初は単純に教えてもらう感覚でした。常に目標になってくれる先輩ですね。僕がまだプロ意識が浅かったというか、プロとしてやるってこういうことかと教えてもらった気持ちでいます。だんだんと自分の意見も言えるようになってきたら、瑞生からこの映画観てみるといいよ、って教えてもらって、それで自分の感想を言ってみたりして…。瑞生は絶対に否定をしない人なんです。完成を受け入れてくれた上で、こういう見方をしてみたら、こういう考えもあるよ、ってアドバイスをくれる。本当に勉強になります。

 

――読み合わせをした作品はいくつかあったようですが、なぜ「ダムウェイター」になったんでしょうか。

大野 タカイさんから二人芝居の脚本をいくつか用意してくれて、いろいろと読む中でほかにも面白い戯曲はあったんです。でも、なんで「ダムウェイター」になったんだろうね?

横田 読み合わせをした中でも、「ダムウェイター」が一番難しかったんですよ。

大野 そうだね。見えなかった。

横田 正直、意味がわからないと思ったんです。でも、わかる作品をやるよりも、わからないものをやるほうが自分のスキルアップになるとは思いましたね。

大野 どうなるんだろう…って読み進めていたら、終わってた(笑)。これは何がしたかったんだ?って思いましたね。ひたすら2人がなんか話をして、右往左往して、終わっちゃって…えっ?、みたいな。わからないけど、めちゃくちゃ面白い。じゃあわかるようになったら、どれくらい面白いんだろう?っていう感覚はありましたね。

横田 そこはほんとに観てもらえれば、って感じだよね。

大野 不条理演劇って、社会に対してのメタファーとか、比喩のようなものになっていることが多いんですね。「ダムウェイター」も、ポスタービジュアルの新聞も社会へのメタファーになっていたり、ダムウェイターというシチュエーションそのものもメタファーになっていたり。それを分析しながら観てほしいわけじゃないんですが、観ているうちに『これはこういうこと?』とかって思ったり。観ているときはわからなくても、観終わって考えてもらって、作品がそこで完結する。そういう意味では、終わった後に効いてくる作品かもしれないです。

 

――今回はお互いの役どころを入れ替えて2つのバージョンで上演されますね。

横田 もう、大変です(笑)。

大野 それは間違いないね(笑)。

横田 すごく面白いとは思います。自分がやる役を相手もやるわけで、自分とは違うアプローチの仕方が見えてきて、楽しいですね。観ている方もその違いを楽しめると思います。でも、単純に『あれ、これどっちのセリフ?』みたいなこともありますね(笑)。そこは稽古でしっかりやらないと、と思っています。

大野 自分がやりずらいと感じた時も、役を入れ替えた時にこうすればもっと相手がやりやすいのかな、とか、勝手に相手のための芝居を組み立てられる環境なんですよね。それは一つの役だけをやっているよりもずっと勉強になる。ずっと2人で話をして、相手のための芝居を考えられる。そういうのがすごくやりやすい環境だと思います。

 

――役を入れ替えると、自分の感覚としては別モノになる?セリフは同じでも、衣装などそれぞれ演出も違っているそうですが、いかがでしょうか。

横田 別になりますね。

大野 別になるよね…でも意外と、思っていることは同じなんだよね。この2人。環境に対しての疑問を出すか出さないか、の違いというか。表には出さないベンは、ガスがいろいろ言っているのを聞いて、わかるって思っているんだけど出さない。作っていく段階で、ある程度は似ているんですよね。遠いようで近いのかもしれない。

横田 本当に難しいんですよ。感覚としては、もう別作品なんですよね。並行して別作品を作っているような感覚にはなっています。

大野 メイクも変えているから、メイクをした状態で稽古したいね、って2人で自発的に稽古したりとかしていますね。変わるところは、できるだけ先に理解をしておきたいですから。でも表面的にただ変えているわけじゃなくて、すべて目的をもって変えているものなので、僕らはその目的に合わせてやっていくだけ。意味さえあれば、僕らはそれをやるだけですね。

 

――役者仲間として、お互いのことをどんなふうに思っている?

大野 俳優として、龍儀の人間性がすごくいい。素直に出すんですよね。物事を考えてやっている、その状態がすごくいいなと思っています。それで、考えると、ダメみたい(笑)。今回の稽古の中で、龍儀の問題点みたいなところもわかるんですよ。そして、その問題点がなくなったときに、ものすごく良くなることももう見えている。その枷のようなものをどうやって外すか、ずっと2人でしゃべっていますね。あとは、稽古の2時間前に入って、エクササイズのようなことをしたりして。絶対にこの期間に”外れる”ので、その時の龍儀が本当に楽しみです。相当、面白くなるはず。日常生活でガマンするのに、吹っ切れる瞬間はでっかい花火を見ているかのようなんですよ。ドカーン!って(笑)。これが舞台上で打ちあがった時には…。

横田 たまや~!だね(笑)。

大野 (笑)。全然キレイじゃないんだけど、すごく目を惹くような、エネルギーの塊みたいな、そんな花火。それがこの作品で打ちあがるはずなので、楽しみにしてほしいですね。

横田 瑞生は一緒にお芝居しているときに、めちゃくちゃ気にかけてくれるんですよ。セリフも動きも、やりやすいように考えながらやってくれる。本当にありがたいんですよね。こっちはすごく動きやすいし、例えどんなミスをしたとしても、絶対に芝居を返してくれるという信頼がある。あとは、シンプルに普段と役との違いが面白いよね。僕らは普段の日常がかなりテンションが低めの人間なので(笑)、テンションが高い役とかをやっているときのパーンとはじけている感じはすごく面白いです。それで、まだ自分の中で納得できていないな、と思っている瞬間の瑞生の表情とか、そこは見ていてすごく面白いな、と思っています。

大野 そこは2人とも、素直なタイプだよね。常に考えていることが表情でわかっちゃうタイプ。俺も龍儀の考えてることはマスクしててもわかるもん(笑)。

横田 もう表情だけじゃなくて『あ、今、空気感が変わったな』ってのがわかるくらいにはお互いになっています(笑)。

大野 その感覚がわかるから、話も早いんだよね。言葉が無くても理解できている部分が多いから。

 

――タカイアキフミさんの演出はどんな印象ですか?

大野 なんかのほほんとしてますね。

横田 そう、意外とそんな感じの稽古場です。

大野 タカイさんは、とにかく話し合い、ディスカッションで意見を言ってくれて、そこにしっかり時間をかけてくれるんです。こっちが整理できて落ち着くまで、話し合いをしてくれる。ほかの現場だと、この話し合いに時間を使うのはダメかな、と思ってしまうこともあるんですけど、しっかり乗ってくれる人だってわかるから、安心していくらでも言えるんですよね。

横田 僕は初めてタカイさんとやるので、まだ『これ聞きたいけど、聞いていいかな?』って思うことはあるんです。でも瑞生とタカイさんのやりとりを見ていると、本当に納得するまで話し合ってくれているんですよね。変に怒鳴ったりもしないので、そこもありがたいです。僕の性格上、言われたことをすごく考えてしまって、そこに凝り固まっていってどうしよう…っていうこともあるので。うまくできなくても、何回も何回もやらせてもらえる。すごく申し訳ないことなんですけど、しっかり見てくれるのは、すごくありがたいです。

大野 3人が共通していることは、人間的にすごくめんどくさいってこと(笑)。普段はそういうめんどくさい部分をできるだけ隠して生きているけど、出してもいいか、だってみんなめんどくさいんだもん、って思える稽古場なんですよ。だから、すごく楽です。さらけ出しまくってます。

 

――稽古も大変な時期かと思いますが、お仕事を頑張るためのプライベートの時間ってどういうもの?

横田 僕は、年々仕事とプライベートが切り替えられなくなってるんですよね。もともとは、ただテレビを見て面白いなとか、ゲームをやって楽しいな、とか思ってたんですけど、今はそれが時間を無駄にしている気がしてしまって。映画やドラマを見ていても、この役者さんのこういうところがいいんだな、今ここに物を置いたのはこういう意味があるんだろうな、とか、そっちを考えちゃう。素直に面白かった!だけになりにくくなってるんですよね。でも、そこをしっかり切り替えられないと今後つらくなっていくような感覚もあるので、仕事から切り離せられるような何か趣味とかが欲しいなと思っているところです。

大野 自分がなぜ生きるか、というところと俳優が直結しているので、仕事として切り替えとかがあるわけじゃないんです。生きていく中で達成したいことが俳優の中でできることだから。だからプライベートで、っていうのがあんまりないんですけど…本当に逃げたくなった時は、ムーミンですね。僕はムーミンがすごく好きなので、その世界に入ったり、キャラクターに浸ったりします。この作品の間は孤独でありたいから、控えていたんですけど、昨日はムーミンのぬいぐるみと寝ました。ずっと睡眠不足だったんですけど、爆睡できました(笑)。

横田 何の話?こうなると瑞生は止まらない。やばいですよ(笑)。

大野 大変な現場とか地方とかにもムーミンのコミックを持っていって読んだりします。めっちゃ怒られた時も、ムーミンを読んでシャットダウンしたり…。ムーミンのキャラクターって、みんな少し残念なところを持っているんですよ。そこを愛せる。そこが本当に良くて、人間の残念なところを愛おしいと思えるようになったのが、ムーミンのおかげなんです。それって、この「ダムウェイター」の2人もそうなんですよ。ガスも外から見たら残念な人間だし、ベンもめんどくさい人間。でも愛おしいんです。…ちゃんとまとめられた(笑)。

横田 じゃあ、あの2人にもムーミンがあればよかったのにね(笑)。

大野 ムーミンがいたら、あんなことにはならないはず(笑)。それくらい、僕はムーミンに救われています。でも、3人でよく話しているのは、ガスとベンの2人をとにかく愛してほしい。やっぱり好きになってほしいと思っているので、そこは達成したいところだよね。

横田 表面上じゃなく、ちゃんと内面も愛してもらえるようにね。結構、今の社会の人たちと似ているところもあるし。自分はどっちなんだろう?って考えてもらえるような作品だと思います。

 

――最後に、公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

大野 不条理演劇と言われている作品ですが、稽古を重ねるほどコメディだと感じています。難しく見ようとしなくても、面白く感じてもらえるよう、僕らとタカイさん3人の力、そしてたくさんのスタッフの方の力で作り上げていきます。最初はこう、いろいろ細かく観てください、って思っていたんですけど、今は本当に素直に観てほしい。そして、劇場を出た後に頭を使って考えてもらえたらいいかな、と今は思っています。とにかく、ただただ楽しんで観てください。

横田 最初は、僕自身もこれは難しい、って思って考えれば考えるほどドツボにハマっていくような感じだったんですけど。でも単純にやってみたり、過去に上演されたものを観てみたりしたら、本当にコメディだと感じました。役を入れ替えたりもするので、その違いも間違い探しのように楽しんでいただける部分だと思います。考えながら観るのもいいんですが、“わからない”ということも面白いことなんだっていう目線で観てもらうのもアリだと感じています。ぜひ、楽しんでください!

 

ライター:宮崎新之