勝地涼×仲野太賀、「この世代最高の役者二人」と岩松了の語る二人の『いのち知らず』な挑戦

10月22日から東京・本多劇場を皮切りに全国8都市でM&Oplays プロデュース『いのち知らず』が上演されている。作・演出は岩松了。キャストは男5人のみ。今作がどんなふうに生まれ、どんな芝居になりそうか、岩松了、勝地涼、仲野太賀の3人に話を聞いた。

 

勝地の直談判から始まった『いのち知らず』

――『いのち知らず』の企画はどんなふうにして立ち上がったのでしょうか?

岩松 勝地と雑談していたときに、「太賀と芝居がやりたい」と言われたんです。それで「こういうの、どう?」と返して、そこから始まりました。

勝地 雑談を装った、僕の作戦だったんです。

仲野 もう交渉しに行ってたってこと?

勝地 そう、「それいいね」となるように話した(笑)。岩松さんと一昨年『空ばかり見ていた』をやらせてもらったときに稽古も本番もすごく楽しくて。またすぐに岩松さんとご一緒したかったんです。舞台ってどうしても上演は企画から何年か先になるし、それならこの気持ちをなるべく早く伝えたいと。「自分からやりたいというなんて生意気かな」とも思いましたけど、もう思い切りました。しかもそこに一緒にやりたい役者まで伝えて。

仲野 ははは!

 

――なぜ仲野さんと一緒にやりたいと?

勝地 太賀のことは昔から知っていますし、いい役者だとわかってはいたんです。中でも特に岩松さんの作品に出ている太賀が本当に素敵で、「この太賀と一緒に舞台に立ちたい」とずっと思っていて。

 

――どんな作品になるかというのは、そこから岩松さんが考えられたのでしょうか。

岩松 しばらくしてからだったかな?『ゴドーを待ちながら』みたいな話で、男二人が「死んだのに生き返った人がいる」と聞いて、そいつに会いに行こうとするロードムービーみたいなものはどうか、と話したところがはじまりだと思います。

勝地 それ、僕が話を持ちかけた次の日に岩松さんがおっしゃったんです。

岩松 え、次の日だった?

勝地 はい。「勝地、こういうのどう?」って。「あ、岩松さんきた!」って(笑)。すごく嬉しかったです。

仲野 勝地さんはずっと「お前と芝居がやりたい」と言ってくれていたんです。『空ばかり見ていた』のときにも言ってくれて、その次に会ったときには「どうやら実現できそうだ」と。NHKのドラマで兄弟役をやらせてもらったときに勝地さんと一緒に過ごしたのがすごくいい時間だったので、「また必ず一緒にやりたい」という思いは僕にもあって。それが岩松さんの元で結実する。これ以上嬉しいことはないです。

 

岩松×勝地、仲野の信頼関係

――勝地さんは3度目、仲野さんは5度目と、岩松作品には縁のあるお二人ですね。

岩松 たまたまですけど二人とも17歳頃から知ってるんですよね。太賀は『国民傘』のオーディションに来て、勝地は『シブヤから遠く離れて』という僕が書いて蜷川さんが演出した作品で一緒になって。その時確か高校生くらいだったよね?

勝地 高校2年です、舞台デビューでした。

岩松 以来勝地のことはずっと客観的に観てはいたんですけど、『空ばかり見ていた』で久々に一緒にやって、「あ、いい役者じゃん」と。

勝地 あはははは!ありがとうございます!!

岩松 太賀も最初から優れていましたけど、作品を重ねるたびに風格が出てくる。最初は脇のほうで使ってたのに「ちょっと中心で使わないと悪いな」という気持ちになってくる。立っている姿に「任せてもいい」という雰囲気がありますよね。時々セリフは間違うんですけど(笑)。

仲野 気をつけます!

 

――「いい役者」というのは、具体的には?

岩松 舞台って、往々にして発信することをもってよしとするところがある。でも勝地も太賀も、若いのに「受信できる」人たちなんです。もちろん他にも薄々いい役者だなと感じる人はいっぱいいますけど、一緒にやって、実感としてこの世代で最高の役者だなという二人ですよ。

 

――逆に勝地さん、仲野さんのお二人が感じる、岩松作品の魅力はどんなところでしょう?

仲野 僕は17歳の時に初めて岩松さんの舞台に出させてもらって。オーディションに行く前に『シダの群れ』を劇場で観たんです。その時に僕がそれまで漠然と思っていた演劇というものの概念が崩れた。演劇ってこんなに深くて広いものなんだと思いました。その「広さ」はわかりやすく目に見えるものではなく、心のなかでどんどん広がる、想像力をめちゃくちゃかき立てられるもの。以来岩松作品は僕にとっての演劇のひとつの基準、価値観です。毎回やるたびに初心に戻れるし、新しい自分、成長した自分を一番に見せたい人が岩松さんです。

勝地 僕も17歳で岩松さんの戯曲に出会って「これはどういうことなんだろう」ということがたくさんありました。でも最初の読みあわせで、二宮(和也)くんと僕との会話のシーンが一度も止まることなく、最後まで演じることができた。しかも初めて合わせたのにセリフが心地よくて……。その後も稽古を重ねるたび、感情の共通認識が役者同士でできていって、本番でそれが劇場と一体化する、という感覚をまだ10代の頃に味わいました。一昨年の『空ばかり見ていた』の時にもその感覚があったんです。稽古場で最初は誰もしゃべらない。でもだんだん稽古が進んでいくと、作品のことを話すようになってくる。それがすごく心地よくて、楽しかったんです。具体的な言葉にはできないけど、それが岩松さんの魅力だと思います。

仲野 なんか岩松さんの作品って、観ていても、終わったあと劇場の中に作品の香りが充満するんですよね。その香りに、気持ちが満たされたまま劇場を出る。そういう劇作家の方って僕は岩松さんしかいないと思っていて。すごく感覚的な話ですけど。

勝地 うん、なんかあるね。うまく言えないんだよね。稽古中も芝居のことだけじゃなく、いろんな話をしてくださって。(今回も共演者に名を連ねる)新名(基浩)さんなんて、岩松さんの言葉をメモするためのノートを持ってきてたよ。

仲野 俺もノートに岩松さんの言葉書き留めてましたよ、岩松さんって演出の言葉が美しいんですよ。その言葉を聞いているだけでもこちらもハッとさせられる。いろんな言葉で役者が導かれていって、本番に「ああ、こうなるんだ」という感動が毎回ありますね。

 

わからない、言葉にできない「いま」を描く

――そんな勝手知ったる役者二人に対して、今作で岩松さんはどんな期待をしていますか?

岩松 語弊があるかもしれないんですけど、「難しい芝居を書いても大丈夫」という感じがしますね。

勝地、仲野 やばい(笑)。

岩松 わかりやすい台詞ばかりの芝居はもう卒業してる二人だろうと思っちゃう。読んでわかりやすいようなものはあまり与えたくないという感覚になっちゃってる。

仲野 いやあ、しびれるなあ。

岩松 今回はとくにそう思っているところがありますね。ひとつの場所で二人が同居しているところが舞台だから。同居してる二人って、そんなにドラマチックなことは話さないじゃないですか。だから、小さそうに見える会話なのに結局大きい話をしているようなセリフを二人に渡して、作品自体もそういう印象にしたい。リアリティのある話ってなんだろうと考えると、結局簡単な言葉で言えないことじゃないかなと思うんですよ。わからないことを問い詰めると現代になる。だから現在を描きたい、という感覚に近いかな。

 

――現在を描くというときに、いまの現実の状況は影響するものですか?

岩松 「いまの状況」について考えた時点でもう過去になっちゃう気がするんですね。とにかく色がついていないものが“現在”であって、色がついたもの、言葉で説明できるものは全部過去。だから現在はいつもわからない状態で放り出されてる。それが現在を描くということのような気がするんです。それを今、二人に託したいと思っています。

勝地 もう今、ノートがほしいね。

仲野 ノートに書きたいですね。形容できないものを作品にするっていうことですかね。

岩松 たとえばバブルの時代に「バブルのことを表現します」といった瞬間にそれは遅れているんだよね。とにかく現代、いまを描くということは、わからないことを描くということですよ。ちょっとでも偉そうなことを書き始めた瞬間に奈落に落ちる。だから今回は、わからないことにずっと執着しているような感じのものが生まれるんじゃないかと思います。まあ、まだ書き上がってないからなんとでも言えますよ。

勝地、仲野 あははは!

勝地 すでに稽古が始まってる感じ。今の岩松さんの話を聞いてるだけでも「いま」に執着する僕らの姿が浮かびます。夢が叶って僕がやりたいとお願いした作品ができるのでとにかく楽しみたいです。

岩松 もう勝地はプロデューサーと言っても過言じゃないね(笑)。

 

取材・文/釣木文恵
写真/ローソンチケット