「冒」を今シーズンのテーマに掲げるKAAT。
シーズンの最後を飾るのは、幸せな日常と未来を突然奪われながらも、深い悲しみから一歩を踏み出そうとする家族の物語「ラビット・ホール」。
かけがえのない息子を事故で亡くした夫婦、妻ベッカ・夫ハウイーを演じる小島・田代に今の素直な思いを聞いた。
――この作品に出演のオファーが来てどんな思いを抱きましたか。
小島 私にも子どもがいるので、他人事ではないというか何とも言えない気持ちになったのが戯曲を読んだ感想です。だから、演じたいのだけれどもどうしよう、という葛藤があり、常にドキドキしています。でもこれは物語ですし、「子どもが亡くなった今の夫婦」から始まるので、それを抱えた上で夫婦が、家族がどう生きていくか、自分の中で軽やかに昇華していけたらいいなと思います。
田代 僕の場合は作品云々の前に、劇中で歌わないストレートプレイへのオファーにまず驚きと喜びがあり、さらに怖さといろいろ入り混じった想いがありました。でも、KAATのテーマが「冒」ということもありますし、未知なる世界にまずは飛び込んでみようと思い、出演を決めました。共演者、演出家、脚本家、会場など、すべて初めて尽くしなので緊張しますが、稽古場で“初めての感覚”をたくさん味わえるのではないかと期待しています。
――上演に向けてご準備されている事はありますか。
小島 映画を観たり、今ある戯曲は読んだりしていますけど、今日初めて田代さんともお会いしたので今日が本当にスタートという感じです。色んな事を経て今がある夫婦の「そこから」の話なので、自分の心身をギュっと固くしないで、軽やかに柔らかくいられるように稽古から本番に入っていけたらいいなと思います。
田代 僕も映画を観たり、今ある資料に目を通したりしていますが、今日こうして小島さんとお会いできたので、稽古の初日までずっと今日のイメージを大切に、夢に見るくらい思い続けたいなと思います。
――それぞれベッカとハウイーをどういった人物像として思い描いていますか。
小島 目指すところは一緒だと思いますが、男と女の違いなのか。
田代 ルートが違うというか。
小島 色々捉え方が違うことで摩擦が起きている状態なので繊細なお芝居だなと思っていて。でも、そういう事って日常にもあるので、恥ずかしいけど自分の日常の事とか思い出したりしながらベッカという女性になっていけたらいいと思います。
田代 お互い逃げているわけでもないし向き合ってはいますが、ハウイーはハウイーなりに、ポジティブに、今の二人の状況でどうやって明日に紡いでいけたらいいのかを一生懸命考えて行動している人物ではあると思います。男と女だからですかね?あのズレ方ってお互い望んでいるわけでもないし永遠のテーマかなと。
――それぞれ共感できる部分とそうじゃない部分が役に対してありますか。
田代 客観的に見ていると皆に共感できるけど、当事者になったらそうは思えなかったりして。戯曲を読んでいると「どうしてそんな言い方するの」って思うことも多いですし。でも、そういうことは実生活の中でもありますよね。
小島 共感とはまた違うかもしれないけれど、理解できる部分はたくさんあります。自分も悲しいと思っているのに、一番近くにいる人に対して強く言ってしまうとか。みんなの日常にある話で、遠い世界の話ではないと思います。
――ハウイーの方が冷静でベッカの方が感情的といった前半の印象が後半は逆になっていくような気がします。
田代 前半は我慢してベッカのことを考えながら行動しているように見えます。逆に後半は感情的になり、すごく人間らしさが出てくるように思います。ハウイーの役柄の特徴として「忍耐強い男性」とあるように、耐えているのでしょう。後半に熱い思いが吐露できるのは決して悪い事ではないと思う。そういうハウイーを見て、ベッカも本当の自分を曝け出していけるのかもしれないですし。
小島 みなさんと稽古場でそういった少しずつのズレみたいなものを積み重ねていけたらいいです。
――稽古の間もずっと語り合いながらそういったものを見つけていくのですね。
小島 でもすっきりする話でもないので、それぞれが何かを持っていればいいのかも。
田代 そうですね。みんなが同じ認識じゃなくてもいいのかもしれません。
小島 稽古をしていても本番に入っても毎日発見があると思う。「今日はここが心に引っ掛かって、それを抱えて今日の稽古が終わった」って日もあるだろうし、「昨日はこう思わなかったけど、今日はこんなことを感じた」とか。そんな毎日かなと思います。
――演出の小山さんをはじめ、初めて共演する方が多いかと思いますが、いまの心持ちはいかがでしょうか。
小島 自分で頭でっかちにならず、きちんと話を聞ける状態でいられたらいいなと。
田代 今まで作品作りの中で共演者のみなさんからも影響を受けることが多くありました。その方の背中を見たり、直接何かをおっしゃって下さったり、その方と目が合ってお芝居をした時の感覚が、その時の自分とその後の自分に大きな影響を及ぼす事が多いと思います。みなさん初共演の方々なので、まさによく見てよく聞いて、たくさん素直に吸収していきたいと思っています。
小島 描かれていない部分の出来事が大きすぎるから、それを初めましての二人がどう共有していけるかは大切。
田代 描かれていないからこそ、どういう会話をそれまでにしたか想像すると思うので、観る人によって想像している内容も全然違うかもしれないし、それによって二人の関係性も違って見えてきますよね。
小島 そこが演劇の面白いところかも。
――観に来られたお客様には最後どういった気持ちになって帰っていただきたいですか。
小島 身近な人に言われると「うるさいな、そんな事言わないでよ」って聞く耳持てないことも、演劇とか映画とかを通してだと「この間言われた事はこういうことかな、ちょっと考えてみようかな」って思います。私は物語から日常に引き戻される事が多く、「ラビット・ホール」もそんな作品になったらいいです。
田代 渦中にいたら気づかないことも、自分が外から見ていたら「なんでそこそうするの?」みたいな事がいっぱいあると思います。この作品を見て、「これって私かも!」って思うところがたくさんあるかもしれません。
小島 受け入れられない人もいると思うし、反発もあると思う。
田代 「でもこういう人もいるんだよ」っていう話だとも思うので、まずは気軽に観て頂いて、ちょっとでも共感できる部分があれば、きっと明日からの自分が違って見えてくるんじゃないかな。
――では、最後にぜひお客様に向けてお誘いの言葉をいただけますか。
小島 劇場は楽しいところですから、是非いらしてください。
田代 みなさんが自分の事を考えるきっかけになったらいいなと思います。ぜひ劇場でご覧ください。