舞台『千と千尋の神隠し』醍醐虎汰朗×三浦宏規

写真左より 醍醐虎汰朗 三浦宏規

「あのシーンは果たしてどう具現化するんだろう?」と想像力が大いに刺激される『千と千尋の神隠し』の舞台化。なかでも、ハクが竜へと化身するシーンは誰もが期待している注目ポイントと言えそうだ。そのハク役を今回Wキャストで演じることになったのは、醍醐虎汰朗と三浦宏規。11月初旬に行われた製作発表会見の直後に、醍醐と三浦が揃って作品への想いを語った。

 

――製作発表を終え、現在の率直なお気持ちを教えていただけますか。

三浦 「やっと」というか、「ついに始まったな」というか。ここまでにオーディションがあって、キャスト発表があって。その発表があったタイミングでもいろいろな方からメッセージをいただきましたが、でもその時はまだ実感がなかったんですよね。ホントにやるんだろうかと、なんだか夢のような感じだったんです。でも今日こうして製作発表を行い、たくさんの記者の方に来ていただいて、そして出演者のみなさまとも初めてお会いすることができて。「ああ、やっぱり夢じゃないんだ。考えてみたらあとちょっとで始まるんだなあ」と、強く実感しました。

醍醐 僕は想像していたより「“圧”が強いな」と思いました(笑)。製作発表の会場全体の雰囲気に、一瞬飲まれそうにもなったので。こんなにプレッシャーを感じることも、人生においては少ないだろうなとも思いましたしね。でも、全身で感じるこの空気感は大事にしていきたいなとも思います。初日から大千穐楽の日まで、この心地いいプレッシャーを自分で作っていけたら、気も引き締まりそうだなと思いました。

 

――『千と千尋の神隠し』の作品との出会いはいつで、どんな感想を抱かれましたか。

三浦 出会いが何歳だったかはハッキリと覚えていないんですけれども、かなり小さい頃にテレビで放送されていたものを観たのが最初だったと思います。その時はとにかく“不思議”で“不気味”で“怖い”という印象が強かったですね。最近、改めて観返した時にも「うわー、イヤな気持ちで観ていたなこのシーン」とか、当時抱いた感情をそのまま思い出したり。小さい子供だったら普通、そんなにイヤな気持ちになったら観るのをやめそうなものだけれど、怖いと思いながらも最後まで全部観ていたわけなので。やっぱりすごく引き込まれるものがあったんだろうなと思うと同時に、こうして少し大人になってから観ると作品の素晴らしさに改めて気づけた気もします。千尋が成長していく姿を見ていると、今だと千尋のことを助けてあげたいと思ったり、周りの人が千尋を助けるのを応援したくなったりするけれど、小さい頃は自分も千尋と一緒に物語を進めている気持ちになって、そしてもし何かに躓くことがあっても千尋みたいに諦めずにいれば、結果的にいいことがあるんだよというようなメッセージを受け取っていたかもしれないなと思いました。もし、自分に子供ができた時にはその子にも絶対に見せたい作品でもあります。そんな名作の初の舞台化に出演する自分が誇らしいですし、恥じないようにがんばらないとなと思います。

醍醐 僕も小学生くらいで、同じようにテレビで観たんだろうと思います。もともと僕はナントカ戦隊みたいな、銃や剣で悪い奴を倒していくようなものや、海外のアクション映画が好きなタイプだったので、スタジオジブリ作品を観る時はいつもマイナスイオンみたいな、すごく優しい、穏やかな気分になれていたような気がします。全体的にほっこりしますよね。こうして、まだ若いですけど大人になって、ハクをやるかもしれないとなった段階で改めて観直した時には、もう研究材料のようになりつつあったので「腕の角度はこんな感じにして走っているんだな」とか「歩き方はこんな感じか」とか「これを3次元にするのなら、間をとってこのへんかなあ」とか(笑)。そんな観方をするようにいたので、もはやフラットにはなかなか戻れなくなってしまったことだけは、ちょっと残念ですね。

 

――今、三浦さんが“3次元にするなら”とおっしゃっていましたが、お二人とも2.5次元の舞台を経験されているので、そこでの役づくりと同様の感覚で挑まれるのか、それとも全然違う向き合い方をされるのか、という点ではどうお考えですか。

三浦 僕の場合は2.5次元の作品の時も、他の作品をやっている時も、演じるキャラクターに自分を寄せるとか似せるということはしていないんです。真似をすることはわりとやろうと思えばきっと誰でもできると思うのですが、でもそれだと3次元でやる意味はあまりないと思います。もちろん、180度違う方向性ではやらないですよ。必然的にそういうキャラになってはいくんですけど。僕もいろいろな作品をやっていく中で形から入るやり方をやってみた経験はあるけど「それではダメだ、もっと中身から作ったほうがいいよ」と演出家の方に言われたこともあるし。でもやはり2.5次元のものでも今回みたいな舞台でも、役自体を外側から固めるという意識はもうないですね。まだ台本をいただいていないので現時点ではわからないことが多いですが、まずは台本を読んで、そこから自分が受け取ったものを、ジョン・ケアードさんの前で提出して。もちろん原作の映画も参考にはしますが、アニメーションの真似をするのは、まず無理ですから(笑)。自分の、ナマの身体から生まれるものを大切にしたいですし、それが舞台で表現することの面白さにつながると思うんです。僕もまだまだ経験は少ないものの、いろいろな作品をやらせていただいて、それが全部自分の糧になってきていると思っているので。だから、これはどの作品に対してもそうなんですけど、ここまで培ったすべてのものを今回も注ぎ込んでいけたらなと思っています。

醍醐 僕もやはり、物真似はしないという点は同じです。それは、多少耳のいい人だったら誰でもできそうなことだと思うので。そうではなくて舞台でしっかり役を生きて、そこで体現しなければ意味がないなと思うんですよね。僕も作品によってアプローチを変えていくタイプです。あとは、たとえば需要と供給ってすごく大事だなというのを最近学んだんですが、つまり作品のテイストに合うお芝居ってあると思うんですよ。それは商業作品か、インディーズ作品かでも変わるでしょうし、でも今回に関しては規模が大き過ぎるのと、まだ台本もいただいてないので今は何もわからないんですけど。とにかく台本をいただいたら、そこからジョンと話し合って、というそのスタンスはこれまでと変わらないと思います。そこを信じて、役を作り上げていきます。でも、うーん、この話は難しいですね。2.5次元の舞台の時のアプローチの仕方って、本当に人によって違いますから。

三浦 うん。役の作り方は、人によって全然違うよね。

醍醐 でも今回は、今までやってきた方法ではやらないんじゃないかという気もしています。

 

――ハクというキャラクターの魅力と、自分ならどう演じたいと現時点では思われていますか。

三浦 まず、ハクは普通の人間ではないというところが一番難しいところではあると思います。まあ、この物語は千尋にすごく感情移入しやすいと思いますから、その千尋を通して見た時にはハクの存在ってすごく頼もしいと思うし。だから最初は助けていたはずなのに、そのあとで一瞬冷たく接したりするところでは、それは当然周りの目もあるからなんだけど「気やすく触るな、しゃべるな」とかって言うじゃないですか。そうすると千尋目線になっている僕らからすると「そんなこと言わないで、言わないで!」なんて思ってしまったりするんですよね(笑)。それでもやっぱりハクの存在はすごく大きいし、きっとハクを嫌いな人って誰もいないんじゃないかと思えるくらいに、魅力に溢れている役だなとは思います。もちろん、カッコイイし美しい。竜になった姿もすごく素敵で、綺麗な竜だし。でもその中にも儚さみたいなものが感じられるんですよね。ハクは千尋を助けるわけですけど、実は自分だって本当の名前を思い出せていなかったりもする。それなのに千尋を助けてあげようとする、そんなハクの気持ちになるとそれはそれで切ないというか。そういったところから浮かび上がる儚さも、ハクの魅力につながっているように僕は思います。

醍醐 僕の思っていることも、ほとんど一緒です(笑)。やっぱり、カッコイイところが魅力ですよね。千尋にスポットを当てて、そのフィルターを通して物語を見るようにできている作品なので、必然的に主人公を助けてくれる存在はカッコイイし。所作も、王道のカッコ良さが求められていると思います。顔だって、ハクはカッコイイですよね。そこに関しては、メイクでなんとかしてもらえないかなと思っているところですけど……(笑)。とにかく、がんばります!

 

――醍醐さんは今回が初めてで、三浦さんは過去に出られていますが、帝国劇場の舞台に立つことに関してはいかがですか。「魔物が棲む」なんて言われ方もしていますけれども。

醍醐 帝国劇場という劇場の名前は、この業界にいる人だったら誰もが知っていると思いますし、その劇場に、しかもこの『千と千尋~』という作品で、初めて立てるというのは、すごく幸せなことだなと思っています。みなさんから脅されるんですけどね。「足がすくむぞ~!」とか。

三浦 それは、ついさっき俺が言った言葉だね(笑)。

醍醐 アハハ、そうです。ナマの舞台では何が起こるかわからないですし、それこそ本当に魔物が棲んでいるのかもしれないですが、ともかくやってみないとわからないですからね。基本的に僕はポジティブな性格なので「ま、なんとかなるっしょ!」と思っています(笑)。そんなに由緒正しいのであれば、という言い方が合っているかどうかわかりませんが、充分に気が引き締まりそうな感じがしますし、いい具合のプレッシャーになりそうで、そこは楽しみです。

三浦 足は、絶対すくみます(笑)。それはたぶん、この先も舞台という仕事をやればやるほど偉大さをより感じるようになるので、どんどんすくんでいくんだろうなと思います。それと、帝国劇場はミュージカルを上演するイメージだと思うのですが、帝国劇場で『千と千尋~』をやると言うと、大概「ミュージカルなんでしょ?」って言われるんですよ。たぶん、まだお客様の中にもミュージカルだと思っている方がいらっしゃると思うんですけど。どうやら、ミュージカルではないらしいですよーということはここで言っておきたいですね、僕の親もいまだにミュージカルだと思っていましたから(笑)。そしてやはり、また帝劇に立てることはうれしいですし光栄です。魔物には、まだ会ったことはないですけどね(笑)。

 

――今回、千尋を演じるのは橋本環奈さんと上白石萌音さんです。このお二人が千尋を演じることに関しては、どんな想いがありますか。

三浦 僕は、お二人とも初共演です。今日の会見場で、僕は初めてポスターのビジュアルを見たんですが「あ、千尋だ!」と思いました。お二人のことはテレビなどでよく拝見していますけど、まったくイメージが違うというか、まさに千尋でしたね。一緒にお稽古するのが、今から楽しみです。

醍醐 僕はどちらとも面識はありますが、でもやっぱりまだ想像がつかないんですよ。それは千尋に限らず、誰のどの役に関してもなんですが。だって釜爺なんて、六本も腕が生えたりするわけですしね(笑)。でも千尋のお二人は、ちゃんとドスンと真ん中にいてくれそうなので頼りがいがあります。年齢も近いですし、僕もちょっとでも助けられたらいいのかなと思っています。

 

どうやらフォルムもテイストもかなり違うハクが、この舞台には降臨しそうな予感大。ぜひとも見比べて確認したいところだ。まだまだ謎のベールに包まれたままの舞台『千と千尋の神隠し』、この世界初演がどんな衝撃を持って幕を開けるのか、どうぞお楽しみに!

 

取材・文 田中里津子