音楽朗読劇『ヘブンズ・レコード #2022』松田賢二&福山潤インタビュー

【左】松田 賢二 【右】福山 潤

阪神・淡路大震災をモチーフにした音楽朗読劇『ヘブンズ・レコード #2022』が1月14日から上演される。2000年・夏、阪神・淡路大震災から5年後の神戸を舞台とした本作は、一台のワゴン車で青空市を開く中古レコード屋『ヘブンズ・レコード』にやってくる客たちの姿を綴った作品。作・演出は、神戸市出身の岡本貴也が担当し、震災に見舞われ、心の傷を抱えながらも生きる人たちを鮮やかに描き出す。2018年、2019年に続き、3度目の上演となる本作で、店長をWキャストで演じる松田賢二と福山潤に、作品への思いを語ってもらった。

 

――店長という役柄で出演が決まったときのお気持ちを教えてください。

松田 ちょうどお話をいただいたときに、9.11のアメリカの同時多発テロ事件をテーマにした朗読劇の稽古期間中でしたので、そういった悲しい大きな出来事を扱った作品が続くことに不思議な縁を感じました。僕は関西出身なので、特に阪神・淡路大震災のことは記憶に深く残っています。そうした作品に携われることは、役者としても非常に意義を感じます。

福山 僕は以前、岡本貴也さんが作・演出を手がけられた朗読劇に出演させていただいたことがあったので、再びご一緒できるということもあり、オファーをいただけたことが素直にうれしかったです。

 

――脚本を読んで、本作のどんなところに魅力を感じ、共感しましたか?

松田 共感とは少し違うかもしれませんが、脚本を読んだ後、自宅のベランダに出て、そこから見える家の窓やドアに光が灯っているのを見て、こんなにもたくさんの方が、きっと楽しいことも辛いことも抱えて一生懸命生きているんだなと改めて思いました。前に進む勇気をもらえる作品だと感じました。

福山 僕は大阪出身で、震災当時は高校生でした。被害と呼べるものには遭ったわけではありませんが、やはり少なからず感じ入るものはあります。ですので、脚本を拝見したときは、復興最中の人々の人間ドラマに大いに心を打たれました。言葉にすることは難しいのですが…自分が見たものや聞いてきたことをあらためて考えされられました。

 

――今回は、松田さんと福山さんがWキャストで店長という役を演じられます。今現在は、それぞれ、店長という役をどのように演じたいとお考えですか?

松田 店長はどこにでもいる普通の人で、そこに集ってくる人たちも特別な人ではありません。ただみんなが毎日を一生懸命に生きている。そこに物語が生まれていると思うので、そこを意識しながら演じたいと思います。それから、店長は関西弁を話しませんが、周りの登場人物は関西弁が多いので、引っ張られないように気をつけないといけないと思っています(笑)。僕は関西の人間なので、つい、移ってしまうんですよ。

福山 まだお稽古前なので、何ともいえませんが、現状では難しい役をいただいたなというのが正直な感触です。松田さんがおっしゃるように、普通の男なので、いかようにも受け取ることができます。しかし、心の中にはとても強い覚悟や熱を持っている人物でもあるので、そういう彼の想いを言葉にできたらと思います。今回、光栄にも松田さんとWキャストとして舞台に立たせていただけるので、とても刺激になります。お互い全く印象の違う店長になると思いますので、自分の店長像をしっかりと構築して皆様に観ていただけるよう尽力いたします。

 

――福山さんは松田さんに、俳優としてどのような印象を持っていますか?

福山 これまでTVなどでご出演されている作品を視聴者として観させていただいていましたが、役柄やお声などからワイルドな方という印象を持っていました。ですが、実際にお会いした松田さんは大変柔らかく優しい方で、思わず、頭の中でカッコイイ! と叫んでしまいました(笑)。

 

――では、松田さんから見た福山さんは?

松田 殺せんせーです(笑)。TVアニメ『暗殺教室』で声を担当されていた「殺せんせー」の印象がとても強いんですよ(笑)。僕とは全くタイプの違う声で、すごく心地よく、きれいなよく通る声をしていらっしゃるなとアニメを拝見したときから思っていました。今回、Wキャストなので同じ板の上に上がることはありませんが、稽古場では福山さんの店長をぜひ拝見したいと思っています。僕もきっと全くタイプの違う店長になると思います。

 

――お二人が感じている「朗読劇」の魅力、または「朗読劇」ならではの難しさは?

松田 僕自身は、普段のお芝居との違いはあまり感じていないので、お芝居同様の面白さや難しさがあると思います。ただ、例えば、立ち稽古のようにやるのか、それとも、泰然自若としてお客さんの想像に全てを委ねるのかといったバランスの取り方が難しいところでもあり、それが魅力でもあると思います。

福山 朗読劇では、基本的には舞台上で動きません。そうした性質上、観る方の想像力をより刺激します。見た目にはあまり動かないその空間に、音声でドラマを展開して動かしていきます。自由に動くこともできる空間にいながら、限定的な手法を用いることで、想像力を刺激し、それを観た方のアンテナに物語が届いたときは、想像と現実とを脳内で補完して大きな効果を発揮できる。そういったところが朗読劇の魅力だと僕は思っています。
 逆に観て下さっている方のアンテナを、一分一秒でも早く刺激する必要があるというのが難しいところだと思います。見た目の動きが少ないことと、限定的な手法ゆえにその空間に違和感なく馴染ませることや観ている方の集中を持続させなければならないので考えれば考えるほど難しいです。

 

――お二人とも関西出身ということで、阪神・淡路大震災が起きた当時のことや、改めて震災について思うことなどを聞かせてください。

松田 阪神・淡路大震災の当時は、僕は23歳で、すでに上京していたのですが、大阪にある実家には電話をしてもつながらず、不安な時間を過ごしたことを覚えています。当時は、まだ僕も何を手伝えるのかも分からず、何もできなかったのですが、東日本大震災のときには、友人と岩手県陸前高田市に支援物資を届けに行ったことがありました。そのときに、更地の中に1本だけ松の木が立っている「一本松」と呼ばれている場所も訪れて、被災者の方々の復興への強い想いの象徴のように僕には感じられました。この作品でも、例えばひまわりだったり、復興の象徴のような光景が随所に出てきます。そこに改めて、前を向く強さを感じました。

福山 僕は当時、高校生でした。激しい揺れを経験はしましたが、幸いにも被害と呼べるものは身の回りにはありませんでした。ただ、横倒しになった高速道路や、被災地の何もなくなった土地を見たときに、現実とは思えないような光景に感じた記憶があります。被災されたことのあるお世話になった先輩から当時の凄まじい状況を伺い、言葉が出ませんでした。

 

――こうした震災をテーマにした作品を上演することにはどのような意義があると考えていますか?

松田 僕にどんな社会的なことができるのか分かりませんが、この作品を上演することで、人々の記憶に残り「震災を忘れない」ということと、知らない世代に「伝える」という役目は担えるのではないかと思っています。

福山 軽く言えるものではないでしょうけれど、自然災害は突然に多くのモノを奪ってしまいます。震災だけでなく、突然生活や大切な人を奪われることが起こりうる現実に生きている以上、その最中にいる、いた人々の想いを知る機会は作っていかなければならないのではないでしょうか。僕も、知ること、思うこと、考えること、それ自体に意味はあるように思います。

 

――改めて作品の見どころと、公演を楽しみにされてる方にメッセージを。

松田 震災を経験した世代には「忘れないこと」を、知らない世代には「伝えること」が僕たちの責任だと想い、本作に臨みたいと思っています。僕は、普段、ハードボイルドな役柄を演じることが多いですが、今回は“普通のおじさん”です。“普通のおじさん”の僕を、ぜひ、朗読劇ならではの世界観で体感してもらえたらと思います。

福山 皆様の心にしっかりとお届けできるよう精一杯演じます。同じ空間を共有できる喜びと共に、ヘブンズレコードというレコードショップから垣間見える強く生きる人々の人間ドラマを是非ご覧ください!

 

ここ数年、新型コロナという世界的なパンデミックの中、震災やそこからの復興に想いを馳せることが少なくなっていた人も多いのではないだろうか。しかし、パンデミックの中にあっても、災害が起こらないわけではないし、自然災害からの復興も続いている。本作は、改めて、そんな私たちに震災への想いを呼び戻させてくれる。松田と福山というタイプの違う二人が、震災に遭い、それでも前を向いて生きる人たちの苦しさや悲しさ、そして勇気や力強さをどのように伝えるのか。彼らの想いに耳を傾けたい。

 

取材・文:嶋田真己