名画に隠された恐怖の背景を解説した、ベストセラーの美術書「怖い絵」(中野京子著)を元にした舞台『怖い絵』が3月4日から開幕する。本作は、投資家をしながら、実は怖い意味を持つ絵画を集めるのが趣味の主人公が、罪深き人たちに復讐の代行を行っていくダークヒーロー・ミステリー。舞台セット内には、物語に合わせて厳選された「怖い絵」が何作も登場し、劇場でも美術館でもない新たな没入感を味わえる。作・演出を手がけるのは、マルチエンターテイナーである鈴木おさむ。主演を尾上松也が務める。今回は、本作で初共演を果たす佐藤寛太と崎山つばさに、公演への意気込みや役にかける想いを聞いた。
――原作となる美術書はベストセラーを記録、2017年には東京・兵庫でその「怖い絵」を集めた「怖い絵展」も開催され、ブームを巻き起こしました。今回、初めての舞台化とあって注目が集まっていますが、出演が決まってどんなお気持ちでしたか?
崎山 純粋にワクワクしました。舞台化することでどんな作品になるのかも楽しみでしたし、この素晴らしい共演者の方々と一緒にものづくりができるということもワクワクしました。
佐藤 僕は、「劇団EXILE」と名乗っておきながら、実は舞台の経験があまりないので(苦笑)、2022年の年初めに舞台のお仕事ができるというのはすごく楽しみです。
――お二人の役どころを教えていただけますか?
崎山 僕が演じる鷹山雄二は刑事で、(松也が演じる)光のやっていることを全て知っていて、次のターゲットになりそうな人物を光のところに誘導してくるという役割です。ただ、設定では「フェミニンな空気をまとっている」そうなので、フェミニンか…と困惑してます(笑)
佐藤 僕も思いました、フェミニンな要素は感じない設定なのにフェミニン(笑)
崎山 急にここに来て、フェミニンなので、少し様子がおかしい人なのかも…(笑)
佐藤 でも、この作品に登場する人物は、みんな様子がおかしいですよね(笑)。僕が演じる剣緑という人物も、絵描きで光のアシスタント的な存在ですが、つかみどころがない人物です。裏があって、なんらかの目的を抱えています。彼の裏側は物語の後半で露見していくので、どう演じようか、今からすごく悩ましいです。
――今現在は、どのように役を立ち上げていこうと考えていますか?
崎山 様子がおかしいとはいえ、刑事です。それに、刑事目線で物語が進んでいくのかなと思うので、お客さんにとっては身近なキャラクターになるのではないかと思います。お客さんに寄り添いながらも、裏切るところもあり…とうまく演じ分けていけたらと思います。
佐藤 剣は、記憶を失っているんです。気付いたら光といるのですが…正直なところ、まだおさむさんが(脚本を)書き上げていないからわかりません(笑)! ただ、僕は舞台経験が少ないので、舞台上で自分に注目を集めなければいけないシーンでどうやって集めればいいのか、逆にほかのキャラクターが注目を集めているシーンではどうたたずんでいれば良いのかというところから始めていかなければならないと思います。“役を演じる”という楽しみより、舞台を作っていくことに今は楽しみを感じています。
――ところで、佐藤さんと崎山さんは本作が初共演ということですが、お互いにどんな印象を持っていますか?
佐藤 同じ劇団EXILEの小野塚勇人が(崎山と)共演経験があるというので、崎山さんの印象を聞いたら「すごく良い人」だと言っていました。なので、今日もそのイメージでご挨拶したら、本当に「すごく良い人」で。ただ、まだあまりお話しできていないので、ここから色々と探っていきたいと思います。
崎山 僕はコミュ力(コミュニケーション能力)が高そうだなと感じました。僕も人見知りはしませんが、猫はかぶるんです(笑)。(佐藤は)そこを破ってくれそうだなと思います。
――今回、作・演出の鈴木おさむさんの強い要望があって、お二人に出演オファーをしたと聞いています。鈴木さんとは今回の舞台について何かお話しされましたか。
佐藤・崎山 まだしていないです。
佐藤 おさむさんと面識あります?
崎山 一度、ドラマで。
佐藤 僕は、朗読劇で一度、ご一緒しました。
――では、その際に鈴木さんの演出を受けてどんな印象を持ちましたか?
崎山 ドラマでは監督が別にいらっしゃったので、作品に関してのお話はほとんどしませんでした。その後に、ドラマの舞台化が決まっていて、おさむさんが演出を担当される予定だったのですが、コロナで中止になってしまったんです。なので、実際に演出を受けたことはないのですが、その時は(舞台が)どんなストーリーになるのかというお話は聞いていて…すごいストーリーだったので鳥肌が立ちました。「やっぱり、この方の頭の中は変態だな」って(笑)。きっと今回も僕が想像する以上の脚本を書かれると思うので、楽しみにしています。
佐藤 僕の鈴木さんの印象は…いい人(笑)。朗読劇の時は、稽古が1日しかなかったですし、朗読劇ということもあってそれほど演出があったわけではないので、今回、どんな演出をしてくださるのかすごく楽しみにしています。
――今作のポスタービジュアルに映っている『レディ・ジェーン・グレイの処刑』という絵は、レディ・ジェーン・グレイという人物が政治抗争に巻き込まれて処刑されようとしている姿を描いた作品です。これを描いたポール・ドラローシュは元々舞台美術をやっていた方だそうで、その経歴があるためか、絵画を描く時にも、配置や衣装を事実よりドラマチックに見えるように盛っていると言います。そこで、「本当のことより盛ってしまった」というエピソードがあったら教えてください。
佐藤 全然違う方向から質問が来ましたね(笑)
崎山 隣の車に乗り移ったみたいな感じだよね(笑)
佐藤 (笑)。僕は常に盛っています。どうでもいいような、小さなことを。例えば、「2時間ジム行ってきました」って言った時は、大体1時間半くらいしかジムにいません(笑)。そういう、ちょっとした盛りはいっぱいあります。
崎山 僕はあまり盛らないかな。話をする上では、盛り上げるために面白いと思うことを盛って話すことはありますが、基本的に普段の生活ではないですね。
――タイトルにちなんで、お二人が怖いと思うものは何ですか?
佐藤 僕、被害妄想が激しいんで、怖いものはたくさんあります(笑)。たとえば、新幹線で寝ていたら、後ろから突然、金づちで殴られるんじゃないかって考えてしまうんですよ。道を歩いていれば、通り魔に遭うんじゃないかって。小学生の頃は、夜道で、自転車に乗っている人が持っていた携帯がナイフに見えて、怖くて…だから常にソワソワしてます(笑)。いつ襲われてもいいように、全速力で走れる靴を履いてます(笑)
崎山 僕も、前から歩いてきた人が突然襲いかかってきたら…と考えることはあるけど…。
佐藤 その頻度が多いんですよ。歩いていて、すれ違う人はみんな襲ってくるかもと思いますから(笑)。だから、ポケットから手を出して、身構えて…。
崎山 じゃあ、(取材中の)今も?
佐藤 今も、です。ですが、この距離なら、全員勝てますし、逃げることもできるから大丈夫です(笑)。怖いものありますか?
崎山 いや、ない…かもしれない。なるようにしかならないと思うので。
――例えば、ゴキブリだったり、苦手な生き物とかそういうのもない?
崎山 異様だなとは思いますが、怖くはないです。怖いっていうとお化け屋敷とか? でもあれも、結局人がやっていることですからね。
佐藤 交通事故とか考えないですか?
崎山 あんまり。極論を言ってしまえば、人はいずれ死にますから。
佐藤 そこに行き着いちゃうと、確かに怖いものはないですね(笑)。でも、僕は道端でビビってますが(笑)。
崎山 それ、生きづらくない?(笑)
佐藤 いやいや、スーパー生きやすいですよ。何にでも対処できますから!
崎山 確かに、対処できますね(笑)
――では、お二人は絵画や美術、芸術に興味はありますか?
佐藤 絵が好きで画集を買ったりしますし、旅行先では美術館に行ったりもします。ちょうどモネの絵画展をやっていたのを見かけて行ったこともありました。
崎山 僕は、自宅に絵は飾っていますが、それが誰の絵で…とかはわからないです。街を歩いていて、たまたま見かけた絵を気に入って買ったので。美術館は、ミュージカル『刀剣乱舞』でパリ公演を行ったときに、ルーブル美術館に行ったのが思い出深いです。生の「モナリザ」を見て、意外と小さい絵画なんだなと、手を伸ばして写真を撮ったことを覚えてます。1日じゃ周りきれないくらい広い美術館だったので、また機会があれば行ってみたいですね。
――改めて、今作の見どころをお願いします。
崎山 中野京子さんの「怖い絵」を舞台化するというところがまず見どころですし、5人で作り出す世界観も本作ならではのものになると思います。鈴木おさむさんの脚本なので、一筋縄ではいかないストーリーになるのではないかと僕自身も期待しています。お客さんも一緒に本を読んでいるような、絵を観覧しているような舞台になったらいいなと思います。
佐藤 僕は、舞台美術や衣装も楽しみにしています。ポスター撮影の時にも、衣装にすごくこだわっているのが伝わってきました。今回は、ステージ上に絵画も飾られるので、舞台セット自体がおしゃれなものになるのではないかと思います。この「怖い絵」という舞台の空間全てが、芸術鑑賞の場になると思うので、それも楽しみにしていただければと思います。
取材・文:嶋田真己