名作『セールスマンの死』に、段田安則と林遣都が父子役で登場!

写真左より 林 遣都・段田安則

かつてピューリッツァ賞を受賞していることでも知られる近代演劇の金字塔『セールスマンの死』が、パルコ・プロデュース公演として2022年4月、新たな息吹を吹き込まれる。過酷な競争社会、若者の挫折、家庭の崩壊を描いた、米国の劇作家アーサー・ミラーの代表作を今回演出するのは、2020年に同じくパルコ・プロデュース公演『FORTUNE』を手がけて話題を集めた英国の気鋭の演出家、ショーン・ホームズだ。
主人公のセールスマン、ウィリー・ローマンを演じるのは段田安則。妻のリンダにはこれが25年ぶり2回目の舞台出演となる鈴木保奈美、長男のビフには歌舞伎にミュージカルにと活躍の幅を広げる福士誠治、次男のハッピーには映像での活動はもとより、舞台にも精力的に取り組む林遣都が扮するほか、友人のチャーリーに鶴見辰吾、ウィリーの幻想の中で登場する兄のベンに高橋克実ら、豪華俳優陣が顔を揃える。
4年前の舞台(『風博士』)で既に共演済みの段田と林に、作品へ対する想いや再び共演することについてなどを語ってもらった。

 

――『セールスマンの死』というこの作品へのオファーを聞いた時の気持ちや、出演を決めたポイントなどを教えていただけますか。

段田 私は20歳くらいの時にこの『セールスマンの死』を観ているのですが、「これがあの名作か」とは思ったものの、その後も特にこれをやりたいと思って過ごしてきたわけでもなくてですね(笑)。でも、うちの事務所の社長から「そろそろ『セールスマンの死』をやれる年齢になってきたから、やってみたら?」と言われ、「ああ、そうか、俺もそんな年齢か」と思いまして。アーサー・ミラーの名作で、過去にいろいろな名優が挑んできた舞台なわけですが「じゃあ、ちょっと挑戦してみるか」というくらいの気持ちでした。このウィリー・ローマンという人は60歳過ぎで、私も2022年は65歳になりますので実年齢に近いですし、今ならまだセリフもなんとか覚えられますから(笑)、ちょうどいい時期なのかなあという風にも思っています。

 僕は数年前に、KAAT(神奈川芸術劇場)で上演されていた長塚圭史さん演出の『セールスマンの死』を拝見させていただいたのですが。観終わった時にハッキリと「いつか、この作品をやってみたいな」という気持ちが芽生えた瞬間を覚えているんです。でもこんなに早く、この作品に携われるとは思っていませんでした。しかも父親役は段田さんだなんて、歓喜しました。

 

――「いつか、やりたい」と思った時に、演じてみたいと思ったのはどの役ですか。

 ビフです。これ、絶対ずっと言わないでおこうと思っていたんですけど(笑)。

段田 ハハハ。

 KAATではビフを山内圭哉さんが演じられていて、とても感動したんです。それで、自分も俳優を続けていたらいつかこういうお芝居ができるようになれたらいいな、と思って。でも、実は自分も実際には次男なんですよね。それで改めて脚本を読んだら、ハッピーという役には共感するところがたくさんありました。

――社会問題であったり、親子の関わりであったり、今にも通じる普遍的なテーマが描かれている物語ではありますが。現代の日本で上演するにあたって、特にどんなお客様に観ていただきたいと思われていますか。

段田 お母さんも出てきますから、女性に観ていただいてももちろんよくわかるお話ですし、現代のコロナ禍の日本に生きている私たちにも通じるところは多いと思いますが、私としては強いて言えば、お父さんの世代に観ていただきたい。お父さん、つまり中年の男性って、お芝居を観ない方が多いですからね。これは、私も含めてですが(笑)。でも息子がいようがいまいが、結婚していようがいまいが「ああ、そうだよなー」って共感していただけそうなので、ぜひ中年のオッサンに観ていただきたいです。いや、でも私は若い時に観て良かったと思ったんだった、そうか、若くてもいいのか。それに私も最初に観た時にはやはりハッピーとビフ、自分の年代に近い役に自分を投影していたので、当時はあの息子の役をやりたいと思っていたような記憶もあります。ですから、きっと若い方がご覧になれば、林くんがやる息子役にたくさん共感できると思うので、家に帰ったらお父さんに優しくできるようになるかもわからないですね。ということで中年のオッサンを改めまして、男性全般に観ていただきたいです。というのも、女性のお客様はおそらく林くんのファンが大勢押しかけるでしょうからね。

 この物語は、家族の中の出来事でもあるので、誰しもが共感できるところがたくさんあると思います。誰もが、自分の家族との向き合い方というものを考えさせられるのではないでしょうか。僕の父は昔から働き者で愛情深く、夢追い人みたいなところもあるアツイ人なので、ちょっとウィリー・ローマンに近い部分があるような気がしているんですよね。僕も実際に2歳年上の兄のいる次男で。本当に、自分の家族と重ね合わせると刺さる部分がたくさんあるんです。僕は、このお仕事を始めてからそれほど自分の仕事の話はしたことがないのですが、家族の中で兄だけは唯一、僕の出る舞台をまだ観に来たことがなくて。ですから、できればこの作品は初めて兄に観てもらいたいなと思っています。

 

――それぞれ、演じられる役柄について特に共感するところ、また大切にしたいところを教えてください。

段田 これは月曜の夜から火曜の夜まで、たった24時間ほどの話ではあるのですが。その中で、家を買った時、子供たちがまだ学校で人気者で輝いていた時、お父さんもセールスがうまくやれていて輝いていた時期の描写もあって。だけど夢ばかり、理想ばかり見ていたら、実際の生活はどうなってしまうんだ、ってことですよね。きっと大勢の方が理解してくれそうですけど、今、生きているのが辛くて、昔の自分には輝ける場所があった、今の私は本当の私ではないと思っている人っていっぱいいると思うんです。そういう、夢と現実の矛盾、そこは自分も共感できます。そして家族というものにしても、ひと家族ずつ形が違って口もきかない家族もいればケンカなんかしたことのない家族もいますが、この物語の中には愛憎が他人よりも深い家族の姿がある。そこはやはり共感できるし、そして大事にしたいところでもあります。

 僕が演じるハッピーは次男なので、次男ならではの悩みをずっと抱えていると思うんですよね。だけどそれを口に出来ないところなど、自分自身にもあった経験と照らし合わせながら演じてみたいと思っています。そういう次男のポジションで、家族全体のバランスをとりながら生きているつもりでも、それがなぜか悪い方向へ家族を向かわせてしまったりしているところなども、しっかりと掘り下げて演じたいです。

――今回のカンパニー全体の雰囲気など、共演者の方々の印象はいかがですか。

段田 まだ今日の時点では全員で顔合わせをしていないので、正直よくわからないんですけどね(笑)。舞台でご一緒したことがあるのは、林くんと高橋くんかな。映像では保奈美さんとも、若い頃にはご一緒していますが。座組全体の雰囲気はどうなるんだろうなあ、この面々が集まった時、果たしてどうなるのかというのは私も楽しみです。現時点で、どんな風情か想像できるのは高橋くんくらいですね。彼は、幻想の中に現れる兄で「アラスカ行って一山あてた」というような不思議な役なので、面白そうでいいなあって思ってますよ(笑)。

 僕も克実さんとは共演したことがあるのですが、それほどがっつりとはご一緒できていなくて。ですが克実さんは僕が舞台に出る時にいつも、楽屋に水を送ってくださるんです。今回はやっと、ちゃんと舞台でご一緒出来るのですごく嬉しいですし、すごく楽しみ。福士さんとは映像作品で既に兄弟を演じたことがあって、今も福士さんのお芝居を観に行くたびにいつも驚かされていますし、ずっと尊敬している先輩なので。今回、福士さんのビフを間近で見られることもとても嬉しく思っています。

段田 水、今回はどうするだろうね。高橋くんが林くんの楽屋に送ってきたら笑えるな。

 

――では、最後にお客様へメッセージをいただけますか。

段田 『セールスマンの死』という脚本自体を好きな方もいらっしゃるでしょうし、林遣都くんのファンの方も大勢いらっしゃいますし、保奈美さんの久しぶりの舞台を観てみたい!と思われている方、いろいろなファンの方がいらっしゃると思いますが。その中には、きっと3人くらいは私の芝居を観てみたいという方もいらっしゃるかと思います(笑)。と、こんなバカな話をしておりますが実は私、コロナ禍の影響で昨年は舞台出演の機会がなかったので、とても久しぶりの舞台なのでございます。いつもは「まあ、なんとかなるわ」って思っているほうなんですが、今回は久しぶりということもあり、その上このウィリー・ローマンというのは歴代の名優が演じてきた役でして。実は昨日もダスティン・ホフマンが演じていたものを観て「うわー、ヤバイ、俺大丈夫かな」なんて思っていたところなんです。でもここは一発気合を入れないと!と思っておりますので、今までにない舞台にしたい! いや、今までのも素晴らしかったんですけれどもね(笑)。ともかく今回このメンバーでお届けする『セールスマンの死』、ぜひとも素晴らしいものにしたいと思っております! ぜひご覧ください!!

 今、段田さんの言葉を聞いていても、やっぱりだんだん怖くなってくるというか。この作品に自分が関わることに、震えるほどにプレッシャーを感じています。でも、同じく震えるほどにワクワクしています。出演者の方々も、本当なら自分がお客さんとして観に行きたいと思うメンバーばかりです。それをお客さん側でなく、自分もその中の一員として演じることが出来るという喜びを噛みしめながら、一日一日を大事に稽古をしていきたいです。劇場もすごく綺麗ですので、お客様もぜひ楽しみにしていただけたらと思います!

 

取材・文/田中里津子

段田安則 ヘアメイク:藤原羊二(UM)  スタイリング:中川原寛(CaNN)
林遣都 ヘアメイク:主代美樹(GUILD MANAGEMENT)  スタイリング:菊池陽之介