『ライフ・イン・ザ・シアター』高杉真宙インタビュー

勝村政信と高杉真宙による2人芝居『ライフ・イン・ザ・シアター』が、3月3日から東京・新国立劇場 小劇場で上演される。舞台上や楽屋裏、出番直前の舞台袖や衣裳部屋など、劇場の中のさまざまな場所で繰り広げられる、二人の俳優たちの会話や日常を切り抜いた本作は、時に切なく、時にクスッと笑える90分のオムニバス風ヒューマンドラマ。普段俳優たちが観客に見せることのない舞台裏の姿や、その生き様を通して人生の悲喜こもごもが浮かび上がってくる。勝村が演じる、ベテラン俳優・ロバートを慕い、日々役者としてさまざまなアドバイスを受ける若手俳優・ジョンを演じる高杉に、稽古を通して感じている本作の魅力や俳優観を語ってもらった。


――勝村さんとの2人芝居というと、高杉さんとしても緊張感のある舞台になるのではないかと思いますが、最初にこのお話を聞いて、どんなお気持ちでしたか?

まず、最初に思ったのは「マジか」です(笑)。もちろん、おっしゃるように緊張もするでしょうが、ただ、僕にとっては1人芝居や2人芝居は俳優としての一つの目標でもあったので、今回こうしてお話をいただけたことは嬉しくもありました。


――実際にお稽古をスタートして、2人芝居ならではの難しさや面白さはどんなところに感じていますか?

当たり前のことですが、勝村さんが何か言葉を発したら、次は絶対に僕の出番なんですよ(笑)。2人しかいないので、無条件にやりとりをしていかなければいけないことには、恐怖感を感じています。ただ同時に、それは面白いところでもあります。(演出の)千葉哲也さんも含めて3人で稽古をしながら作品を作り上げていくという楽しさも味わうことができていますし、本番では勝村さんと僕の2人だけで空間を作り出していかなければいけないというのもやりがいのあることだと思いながら稽古しています。


――高杉さんが演じるジョンは、無限の可能性を秘めた若手俳優で、時とともにベテラン俳優のロバートとの立場が変わってくるという役どころです。今、お稽古ではどんなところにポイントを置いて演じていますか?

物語の冒頭では、先輩と後輩という関係性を意識していて、ただ素直に話を聞いています。ですが、徐々に徐々にロバートには気づかれないように、ストレスが溜まっていきます。その変化をうまく表現できたらと思っています。


――なるほど。高杉さんとジョンは、同じ俳優という共通点がありますが、共感できるところも多いですか?

僕としては、ジョンよりはロバートの方が共感できますね。それは、ロバートの方が人間味が強いからかもしれません。もちろん、ロバートのように教える側に立つとか、説いてあげる側に立つということではないですが…。先日、勝村さんもおっしゃっていたのですが、この作品はすごくドキュメンタリーな空気のある作品だと思います。(俳優としてのあり方を)教えてくださるロバートと勝村さんがいて、それをありがたく受け取っているジョンと僕がいるという関係性が、すごくドキュメンタリーなんです。共感とはまた違うかもしれませんが、そうしたドキュメンタリー性がこの作品の素敵なところでもあると思うので、舞台上でそれをうまく表現できたらと思っています。


――高杉さんは、実際に本作で描かれているような、俳優同士で作品について話し合うというような経験したことがありましたか?

作品について話すことはあまりなかったですね。もちろん、演技の技術的なことについて教えてくださった素晴らしい先輩方はたくさんいらっしゃったのですが、作品自体についてのお話はしてこなかったので、(本作でのお芝居は)ある意味、新鮮でした。今は、新型コロナがあって俳優同士で飲みに行くというようなこともできませんし、コロナ前はまだ僕は23歳で、気軽に誘っていただける年齢でもなかったので、そもそも話をじっくりするような状況があまりなかったように思います。僕も今は25歳になって、誘うことに躊躇がない年齢になったと思うので、コロナが明けたらそうした機会も増えると嬉しいなと思っています。


――本作では、ロバートとジョンの会話から“役者としての在り方”も描かれていますが、高杉さんご自身は、役者としてどう在りたいと考えていますか?

“作品の奴隷”であるのがいいんじゃないかなと思います。本来はその上で、キャラクターに色をつけていったり、台本以上の何かを作っていくものだと思いますが、僕はまだそれがからっきしダメで…。それは今後もっと上達していかなければいけない部分だと思います。今はまだそこまでいっていないというのもあって、まずは、作品のために動くことが重要なのかな、と…。


――では、役を作っていくときも「自分だったらこうする」というよりは、「この役だったら」を優先し、自分を消すという意識なのでしょうか?

そうできたらいいなと思ってます。もちろん、僕が考えることは僕自身の範囲内でしかないとは思うので、そういう意味では僕に近いキャラクターになるとは思いますが…。


――先ほど、今、お稽古で3人で作品を作り上げているとおっしゃっていましたが、お稽古を通して感じている勝村さんの役者としての魅力や凄さは?

自分をコントロールする凄さを感じています。燃料がずっと投下されていて、火が絶えず着いているんです。今、勝村さんからたくさんのことを教えていただいていますが、自分をコントロールすることや燃料の加え方も身につけて本番に臨みたいと思っています。ひたすらカッコいい先輩だと思います。


――千葉さんの演出はいかがですか? 俳優としても活躍されている千葉さんならではだと感じる演出はありますか?

「ピリピリした現場は嫌だ」と千葉さんがおっしゃっていたのですが、それはならではだなと思います。それから、もちろんこうして欲しいという演出はありますが、まずは自由にお芝居をさせてくれ、その上で演出してくださるので、それもならではだなという印象があります。やはり、俳優に対しての理解がある。本当に素敵だなと思います。


――今回の現場はかなり学びの多い現場になりそうですね。

そうですね。そもそも、学べるものがたくさんある現場だろうと思って参加させていただいたんですが、自分の思っていた以上に、学ばせていただいています。


――高杉さんは、ドラマや映画などの映像作品をはじめ、最近ではバラエティー番組へのレギュラー出演も決まったりと、多方面で活躍されています。その中で、舞台に出演することにはどんな思いがありますか?

「裸になる」感覚です(笑)。舞台に出演するたびに毎回、「これまでやってきたことは全部意味がなかったんではないか」と思わされています。でも、僕にはそれも必要なことなんです。自分のダメな部分やできないところが明確になりますし、学ぶことも多い。毎回、舞台に出演するときは「自分はなんでこんなに下手なんだ」と思いながら挑んでいますが、だからこそ、また舞台をやりたいと思うんです。自分に納得ができないんだと思います。今回学んだものを次の舞台で発揮しようと意気込んで挑むんですが、毎回、まだできていないと思う。それを繰り返して、少しでも前に進めたらいいなと思っています。


――最後に公演楽しみにされてる方にメッセージをお願いします!

俳優の役を演じている俳優が2人しか登場しない作品です。それも先輩と後輩という関係性です。そう聞くと、共感できない作品なのではないかと思ってらっしゃる方も多いのではないかと思いますが、身近なセリフが多く、共感できる部分もたくさんあると僕は思います。誰が観ても楽しく、そして納得できる舞台になると思うので、ぜひたくさんの方に観ていただけたら嬉しいです。

 

取材・文/嶋田真己