「一番難しくてやりやすい」鎌塚氏シリーズ第6弾『鎌塚氏、羽を伸ばす』倉持裕×三宅弘城インタビュー

2011年の『鎌塚氏、放り投げる』上演から11年。3年ぶりにシリーズ第6弾『鎌塚氏、羽を伸ばす』が上演される。今回は列車を舞台に、二階堂ふみ、櫻井海音、玉置孝匡、マキタスポーツ、西田尚美が出演。第1弾からタッグを組む脚本・演出の倉持裕と、主人公の執事・鎌塚アカシ役の三宅弘城に話を聞いた。

いつかやりたかった、列車が舞台の作品

ーー『鎌塚氏』シリーズ、今回の『鎌塚氏、羽を伸ばす』で演劇では異例の第6弾まで来ましたね。

倉持 第6弾まで来たら、これはもう10弾まで行くでしょうね。

三宅 第5弾で恋愛的なことも一段落して、フェーズが変わる感じもありますね。今回は列車が舞台だし。列車は昔から言ってたんですよね。

倉持 しょっちゅう「いつか列車がやりたい」と。

ーーそれはなぜですか?

倉持 『鎌塚氏』シリーズはどうしてもシチュエーションがお屋敷になってしまって、そのお屋敷がどんな場所にあるかというバリエーションだけなんですよね。湖のほとりとか、避暑地とか。

三宅 スキー場とかね。

倉持 それも楽しいんですけどね。でも第2弾の豪華客船も面白かったし、次は列車で、と。

ーー列車が舞台というと、アガサ・クリスティのイメージもありますね。

倉持 今回は「外で起きた殺人事件の犯人がこの列車に乗っているらしい」というところから始まり、列車の中で推理が行われるので、アガサ・クリスティ的要素はあるでしょうね。パロディ的な雰囲気というか。でも、以前二階堂ふみちゃんが出てくれた『鎌塚氏、腹におさめる』ほど入り組んだ推理にはしないつもりです。

ーーほかにも、列車という設定を活かしたさまざまな展開がありそうです。

倉持 まあ、せっかく列車を使うからには、暴走はするでしょうね。あと、やっぱり屋根の上には行きたい(笑)。そこでトンネルが迫ってきたりするシーンは見たいですよね。 列車を舞台にすると、場所のほうが来てくれるわけじゃないですか。橋が来たり、トンネルが来たり、街が来たり。そうするといろいろ広がりますよね。

ツインドラムでヴォーカル・二階堂ふみを支える⁉︎

ーー今回は第4弾に出演した二階堂ふみさん演じる綾小路チタルが再登場しますね。その理由は?

倉持 ふみちゃんはやっぱり面白いですね。時々顔を歪めて憎まれっ子のような表情をするのが、かわいいし暑苦しくない。映画『翔んで埼玉』のコメディエンヌぶりもよかったし、もう一度一緒にやりたいなと。推理好き、探偵趣味のお嬢様というチタルのキャラも好きでしたし。列車を舞台にしたいと思ったとき、やっぱり何か犯罪が起きる、推理ものになるだろう、そこでいちばん活かせるキャラクターといえばチタルだな、と。

前回『鎌塚氏、舞い散る』で一度鎌塚は描き切った気持ちもあったんです。そこからもう一度第6弾を立ち上げるときに、ふみちゃんくらい起爆剤になりうる人がいてほしいという気持ちもありました。

ーー三宅さん、共演者として二階堂さんの魅力はどんなところでしょう?

三宅 全力で体当たりの人なので、すごく疲れますけど面白いですよ。刺激的だし、ぜんぜん飽きない。それは満島ひかりさんにも感じたことですけど。あと、ふみちゃんってちゃんと間違えるんですよ。ちょっとセリフの前後が逆になったりする。それは普通ほめられることじゃないかもしれないけど、生きてる感じがするんです。生でやり取りをしているという空気が生まれる。だからスリリングだし、いつも新鮮にやれるんだろうと思います。

ーーそのほかの共演者の方々についても教えてください。櫻井海音さんは初舞台だそうですね。

倉持 こないだ顔合わせをしてきましたが、すごく素直な、まっすぐな印象です。

三宅 ぼくも彼もドラマーですから、ライバルですよ(笑)。ドラマーって実はバンドの要だし、どこか客観的じゃなくちゃいけない。ヴォーカリストはガーッと行ってもいいんですけどね。そんなところも芝居に出るんじゃないかな。今回はふみちゃんというヴォーカリストをツインドラムで支えていけたら。

倉持 ああ、それはわかりやすい分析ですね。

ーーマキタスポーツさんも初登場ですね。

倉持 マキタさんは詐欺師の役です。うさんくさい感じが似合うなと(笑)。マキタさんの書かれた『1億総ツッコミ時代』が好きで、ああいう分析をする方の喜劇を見てみたいと。

三宅 見るからに詐欺師にピッタリじゃないですか(笑)。倉持さんが昔から言っている「偉大なる予定調和」に向かって大きな力を発揮してくれるんじゃないかなと思います。

倉持 西田尚美さんとはたくさんご一緒していますが、鎌塚氏に出てもらうのは初めてで。本人は過剰にやっているつもりかもしれないけど、決して過剰にならない感じ、なにか抑えている感じの演技が好きです。

ーー6作全てに出演されているアカシのライバルの執事・スミキチを演じる玉置孝匡さんは?

倉持 前回の『鎌塚氏、舞い散る』で玉置さんが登場したとき、客席が沸いたんですよ。初日だけでしたけど。

三宅 はははは!

倉持 でも、それを見たときちょっと泣きそうになっちゃって。第1回のときの玉置さんの初登場が、お屋敷のベッドに誰かが隠れていて、三宅さんがシーツをめくったら玉置さんが出てくるというものだったんですよ。そのときは、登場までさんざんもったいぶったせいもあるんだけど、「誰……?」という雰囲気があって……。それがついに、客席を沸かすまできたかと。

三宅 そうですねえ。アカシとスミキチは巨人と阪神みたいなものじゃないですか。なんだかんだ揉めてるけど、いないと寂しいという。稽古で「あそこ、こうしようか」と玉置さんと相談していると、ともさかさんに「またいちゃいちゃしてる」と言われたりします(笑)。

鎌塚アカシは宝物のような役

ーー改めて、この『鎌塚氏シリーズ』はお二人にとってどんな作品ですか?

三宅 みんな「ライフワーク」と言わせたいんでしょ、その手にのるか、と最初は思っていたんです(笑)。でも、執事って歳をとってもできる役ですし、むしろだんだん執事感が強くなるかもしれないし。だからもう、僕か倉持さんが死ぬまでやってもいいんじゃないかと。もう「めざせ寅さん」ですよ。

倉持 『鎌塚氏』は一番難しいし、やりやすいシリーズなんですよね。僕にとって「コメディ」と銘打って「笑わせるぞ!」とはじめる芝居はこのシリーズくらいなので。笑わせないと0点だから、プレッシャーは毎回感じるんです。しかも、笑いって本番中に結果がビシビシと採点されていくじゃないですか。本当にしんどい。でもそのしんどい場所は持っておいた方がいいと思うので、続けていきたいですね。

あと、前回の『鎌塚氏、舞い散る』を書いていて思ったんですが、これだけ続けると三宅さん演じるアカシはもちろん、ともさかりえさんのケシキとか、片桐仁さん・広岡由里子さんの堂田夫妻とか、玉置孝匡さんのスミキチとかが、みんなもう何を言うかだいたいわかるんですよ。

三宅 はははは!

倉持 他の作品だと、書きながらその人がどんな人なのか、何を言うのか探っていって、ようやくわかった頃に脚本の最終ページだったりする。でもこのシリーズは最初からわかっている。

三宅 ぼくも、台本に書かれてなくても「スミキチはこのシーンには居るんだろうな」と思ったりしますよ。

倉持 そう、何かはやってくれるだろうと思う。だから、ト書きも雑ですよね。ただ「戦う、やがて勝利」とか書いてあって、間がなにもない(笑)。

ーーさすが、第1弾の2011年から、もう11年続くシリーズだけはありますね。

倉持 すごいですよね、11年。真に受けていいのか疑うぐらい凄い俳優の方々が「出たい」「出ますよ」と言ってくれます。

三宅 以前、観に来てくれたマギーくんが「8回目くらいに俺に演出させてほしい」とか、宮藤(官九郎)くんが「スピンオフを俺書きたい」とか言ってくれるんですよ。小池栄子ちゃんは「大事にしなね、この役!」と言ってくれたり。だから僕にとっては宝物ですよ。

ーー最後に、『鎌塚氏、羽を伸ばす』についてのメッセージをお願いします。

倉持 鎌塚初の列車旅を楽しみにしてほしい。それと、三宅さんとふみちゃんにはまた歌ってもらいますのでお楽しみに。

三宅 前作を知らなくても楽しめるので、シリーズもの、6作目というイメージを取り払って見てほしいですね。

 

 

インタビュー・文/釣木文恵
写真/ローチケ演劇部