日本アカデミー賞最優秀作品賞も受賞した傑作映画の舞台版「フラガール − dance for smile –」が再演される。潮紗理菜(日向坂46)をはじめ、矢島舞美、太田夢莉、兒玉遥、有森也実らが出演。寂れゆく炭鉱町を舞台に、街を復興させようと奮闘するフラガールたちの姿を描いていく。舞台では単独初主演となる潮に話を聞いた。
――出演が決まった時のお気持ちは?
嬉しい気持ちと、不安な気持ちが半分半分…いや、不安な気持ちのほうが大きかったですね。嬉しい気持ちが先に来て、すぐに不安になってしまいました。これまで、グループのみんなで舞台に立ったことはあっても、ひとりで作品に出演するのは初めて。メンバーの存在の大きさを感じます。同じ経験をしてきた仲間と一緒にやるのと、ひとりで飛び込むのとは、気持ち的な面で全然違いました。うまく言葉にはできないんですけど、自分の未熟さに気付かされるというか。壁にぶつかった感じがします。
――先日から稽古に入ったばかりとのことですが、手ごたえはいかがですか?
本当に、みなさんにご迷惑をおかけしてばかりで申し訳ない気持ちです。でも、本当にみなさんが優しくて、手を差し伸べてくださるんです。何回も何回もお稽古に付き合ってくださったり、私がセリフを忘れてしまっても、後ろから次のセリフを教えてくださったり…。だからこそ、情けなくて、なんでできないんだろうっていう悔しさと戦っています。
――初めてひとりで飛び込む仕事の大変さを、今まさに痛感しているところなんですね。大変な中、どういうことが力になっていますか?
それもやっぱりメンバーです。私は今回、舞台の上で頑張ることになりましたが、メンバーはそれぞれ、テレビのお仕事だったり、ラジオだったり、雑誌だったりで頑張っているんです。頑張る場所や環境が違っても、みんなグループのために頑張っているという気持ちは一緒。離れているけれど、繋がっているなって感じます。
そして、応援してくださるファンの皆さまです。日向坂46にはファンの方からレターをいただける機能があるんですけど、毎日「楽しみにしているからね」とか「応援しているよ」「見に行くよ」って声をかけてくださるんです。私と一緒になって応援してくれているというか、背中を押してくれる、時には包み込んで支えてくれている、そういう応援が私の元気の源になっていて、頑張りたいという気持ちに繋がっています。応援だけじゃなくて、一緒に泣いて笑って、一緒に頑張ろうって手を取ってくださるみなさんなんですよ、私を応援してくれる方たちって。そういうみなさんへの感謝の気持ちを、舞台の上から届けたいです!
――「フラガール」の物語についてはどのような印象ですか
私自身、このお話からすごく元気をもらっていて、お稽古している間でも何度も心を動かされる瞬間があります。当時と今では時代背景も違いますし、その当時と生活も違うと思うんですけど、時代がどれだけ変わっても、心に響く物は変わっていないんだなって思います。夢を追いかけることとか、環境を変えるためには、必死になってみんなで手を取り合って頑張っていくこととか…今にも通じるところがあります。
今も世界的にいろいろ大変なことはいっぱいあるけれど、その中でも夢を追いかけることの素晴らしさをお届けできたらと思います。今の自分はこれでいいんだろうか、って考えさせられる作品でもあると思うんです。毎日せわしなく、ぐるぐると流れていく中で、ちょっと立ち止まって、ちょっと自分と向き合う時間のきっかけを作れたら、私は幸せです。
――周囲の反対だったり、どうしようもないことがあったりする中でも、自分の思うことを続けられる力って、どういうものだと思いますか?
やっぱり、仲間じゃないでしょうか。私は、1人だと人間ってどうしても弱いと思うんです。限界がある。そういう時に、人って支え合えるから強くなれる。人間には心があって、人と人の繋がりだったり目に見えない気持ちだったりで強くなれる。今はSNSとか、会える会えないとかではなく、どんなに離れていても心の仲間がいて、心が繋がっている。そういう仲間がいることが、前を向かせてくれるし、挫けずにいられるんじゃないかな。信じられる仲間が1人でもいたら、100人に反対されたとしても、人って頑張れるんじゃないかと思います。
――今回演じる役どころ・谷川紀美子についてはどんな女性だと思いますか
紀美ちゃんはすごく芯がある女性。ただ感情で動くんじゃなくて、いろいろなことを頭で理解して動けるんです。時代のことや、今の状況のことをちゃんと冷静に頭でわかっていて、その上で自分はこう思うんだ、って意見をもって、自分を信じてまっすぐ突き進むことができる。ものすごく強い女性だなって感じています。そして、仲間思いというか、大切な人への想いの熱さはすごくありますね。自分のためだけにただ強いんじゃなく、周りのひとのために強くなれる。私からすると、憧れちゃいます。
私は結構、後先考えずに今を生きてしまうタイプ。どうにかなる!って毎日生きているんですけど、紀美ちゃんはそうじゃない。きっちり周りが見えていて、カッコいいですね。周りに流されず、自分を強く持っていながら周りを巻き込める。
私たちはグループでやっているのでよくわかるんですけど、ただ自分の意見を言うだけでは1つになることって結構難しくて、そう簡単じゃないんです。周囲を巻き込んで引っ張っていくことって、誰にでもできることじゃない。やっぱり人柄もあると思いますし、その一生懸命な姿や必死な姿に、みんなの心が動かされて「私もついていきます」ってどんどん広がっていく。紀美ちゃんには、そういうリーダーとしての説得力があると思います。
――役を演じるために、取り組んでいることや工夫などはありますか
それが本当に難しいんです…。私は、本当に真逆なので。本当に少ししか経験が無いんですけど、今までやらせていただいた役がだいたい、ちょっと弱くておどおどしているような、引っ込み思案の役だったんです。こういう、自分が引っ張っていくぞ!みたいな役は初めてだし、グループの中でもそういうタイプではないので、本当に難しくて、まだ稽古をしていても潮紗理菜のままだって自分でも感じてしまっています。もっと映画を観たり、ひとつひとつの言葉の意味もご指導いただいて、潮紗理菜じゃなく紀美ちゃんならどうするかな、という思考に切り替えて頑張ろうと思います。潮紗理菜を捨てなきゃ。本当に低いハードルなんですけど、まずはそこを超えなければと思っています。
あとは感情の部分ですよね。1人で動いているわけじゃないから、自然に会話が繋がるようにというか…今の段階では、やっぱりまだ自分1人になってしまっているんです。人と人との関りがあってこその作品なので、そこを自然にやれるようにしたいですね。方言もあって、自分には馴染みのない言葉だったりするので、そこにどれだけ気持ちを乗せられるか――。
私、映画を観ても、以前の舞台の資料を観ても、もうずっと泣いているんですよ。ずっと涙が止まらなくて。今回は泣かないぞ、と思ってみても、何度も自然に涙があふれてくる。それだけ心を動かされているということなので、私もみなさんの心をそれくらい動かせるように、心に響くまで届けたいです。
――稽古の中で感じた発見や気づきはありますか?
稽古に入る前は、とにかくセリフを完璧に入れていかなければ、とにかく止めなければ何とかなるんじゃないか、って思っていたんです。だから必死になって台本を覚えて、台本をずっと見ていました。
でも、実際に共演者の方と稽古をさせていただくと、みなさんの心に引っ張られてセリフが出てこなくなるんです。それって、頭で理解しているだけだからなんですよね。セリフを覚えただけじゃダメなんだ、感情の動きまで乗っていないと出てこない。相手の言葉あっての自分の言葉という、一番大事なことなのに、そこを全然理解できていませんでした。
いろんな共演者の方からたくさんアドバイスをいただいているんですけど、私が本当に何もできなくてシュンとしてしまって、どうしようどうしよう、って一人になっていたら、有森也実さんが「どうしたらいいかわからなくなったときは、相手の目を見るんだよ」って言ってくださったんです。いろいろなことを教えてくれるから、って。
確かに、自分がセリフを言えればいいと思っていて、不安だったから下を向きがちだったんですよね。そうじゃなくて、相手の目を見て言葉を受け取ることで、自分の言葉が初めて成り立つ。本当に大切なことを教えていただきました。
――共演のみなさんには元アイドルの方も多くいらっしゃいますね。
正直な気持ちを言うと、そういう素晴らしいみなさんがいる中で、私が主演として真ん中に立っていいんだろうか、という気持ちもあったんです。自分でそう思っているくらいだから、みなさんがそう思っていたとしても当たり前だな、っと。でも、みなさんお会いした瞬間から「わからないことがあったら何でも聞いてね」って声をかけてくださったり、不安そうな私に「大丈夫だよ、まだ時間はあるから」って背中を支えてくださったり、声をかけ続けてくださるんです。全然出番じゃないところで「次はこっちだよ」って連れて行ってくださったり…。こんなに優しくて、こんなに素敵なみなさんに出会えたこと、そういう恵まれた環境で学ばせていただけることが、本当に幸せだと感じています。
みなさんはもう完璧にできていて、できない私のために、20回も30回も、本気で声を出して付き合ってくださる。今は迷惑をかけっぱなしですが、みなさんが安心してステージに立てるくらいになりたい、ならなきゃ、って思っています。みなさんに不安な想いをさせるのはもう嫌ですし、強くなりたい。成長したいです。
――大きな覚悟をもって作品に臨まれているんですね。忙しい毎日かと思いますが、日々の欠かせないルーティンはありますか?
まず帰ったら、アロマストーンにオイルを垂らして、どれだけうまくいかなくて、どれだけ落ち込んでいても、そこで1回気持ちを落ち着かせるようにしています。うがいと手洗いの次に、必ずやっていますね。1度冷静になって、それから台本を見て、お芝居のことを考えています。柑橘系のにおいが好きなのでリラックスするときはレモンの香りとかなんですけど、気持ちを切り替えてシャキッとするぞ!というときは、ミント系のアロマでリフレッシュしています。ミント系は本当に最近なので、ここで初めて言いました(笑)
それから、どんなに忙しくて、どんなに時間が無くても、湯船には浸かるようにしています。練る時間を削っても、そうしていますね。やっぱり心も体も繋がっているので、絶対に体を休めたい、という気持ちで湯船に入っています。
あとは毎朝、出かけるときにYOASOBIさんの曲を聴くこと!これが一番ですね。本当にYOASOBIさんが大好きで、稽古着のパーカーもYOASOBIさんのグッズなんです。特に今は「もう少しだけ」を朝に3回聴いて、よし、今日も頑張るぞ!と思いながら稽古場に入っています。
――心と体をちゃんといたわりながら、稽古も頑張ってください!舞台を楽しみにしているファンにメッセージをお願いします。
今はまだ、稽古が始まったばかりで不安なこともいっぱいありますし、フラダンスなど初めてのことだらけ。初めてがいっぱいの場所ですが、スタッフのみなさま、共演者のみなさまが本当に優しくてあったかいんです。そんな素敵なみなさまに囲まれて、温かい空間の中でご指導いただいて、学ばせてもらっています。お勉強中で、自分の中で弱っている部分もあるんですけど、少しずつ潮紗理菜から紀美子になっていきます。お稽古を重ねていって、いつも応援して下さるみなさまに、日向坂46の潮紗理菜ではなく、「フラガール」という作品の中で生きている紀美子をお届けできたらと思います。どうか、みなさんお体には気を付け劇場に来ていただいて…来ていただけたら、私たちはもう、お届けするだけですから。みなさんの心に少しでも、何かのきっかけや、笑顔、明かりを灯すことができるように、精いっぱい頑張ります!
ライター:宮崎新之