KAAT×地点 共同制作第8弾 地点『山山』開幕!

2018.06.08

美しかった山、となりには汚染物質の山、谷あいの家族たち
松原俊太郎による現代日本のフォークロア、KAAT×地点待望の最新作!!

KAAT 神奈川芸術劇場では、2011年開館時より継続的に、演出家・三浦基率いる地点との共同制作を発表してきました。芥川龍之介、太宰治、ドストエフスキー、チェーホフ、イェリネクと様々な作家を取り上げてきた三浦基が、昨年4月に共同制作第7弾にてタッグを組んだのは、2015年に処女戯曲『みちゆき』(AAF 戯曲賞大賞受賞)で鮮烈なデビューを果たした松原俊太郎でした。
松原の長編二作目となる『忘れる日本人』は、震災以降の日本社会に対する痛烈な批判でありながら、死者とともにあること、忘却についての哲学的論考を含む大作。それぞれ「椅子のない部屋」「出口の封鎖された公園」「坂の真ん中の我が家」と設定されていた三幕の原作を一幕に再構成し、ユーモアを散りばめつつ高度に抽象化された舞台は、地点の新境地を拓く作品として高く評価されました。
2018年の KAAT×地点 共同制作第8弾では、この『忘れる日本人』を生み出した劇作家・松原俊太郎と、地点の演出家・三浦基が再びタッグを組み、新作『山山』を上演いたします。

 

【あらすじ】
立入禁止区域。かつてそこに暮らしていた家族が我が家に戻ると、作業用ロボットと外国人労働者による除染作業が行われていた。山に分け入る一行。山から降りてくる鬼。放蕩息子の帰還は状況に変化をもたらすのか。
労働と愛(チェーホフ)、生と死(ベケット)、あらゆる表象と紋切り型(イェリネク)、そして「アメリカ」の「偉大な」作家ハーマン・メルヴィルの『バートルビー』をモチーフに、かつては美しかった山と汚染物質の山の狭間で暮らす家族たちの新たな抵抗を描く。

 

【開幕初日コメント】
≪三浦基 ≫
初日が開幕して、なんとか形になってほっとしています。改めてこの作品は、松原氏の戯曲の「語り」を堪能できる作品だと思っていて、今日のお客さんの拍手もそれを感じ取って好意的に聞いてくれたんだな、という印象を持ちました。いつもの地点の演出に比べたらセットの展開などはなくて地味に見えるかもしれませんが、かえって戯曲の語りが上手くノッて聞こえたのかな、と。これまでの作品と比べてちょっと珍しい作品になりそうな気がしています。これまでに観たことのない演劇であることは確かです。チェーホフやシェイクスピアのように予習の必要はないので、ぜひ楽しみに来てください。

≪松原俊太郎≫
僕はテキストを書くときには上演のことをイメージしていないのですが、書いた言葉と俳優の声で発する台詞とでは受ける印象がとても違います。元々戯曲にあった「鬼」の存在が舞台では非常に強調されていますが、三浦さんはそういうフィクションをかませてくるのが上手なので、戯曲上のフィクションと舞台上のフィクションの組み合わせを楽しんで頂けたらなと思います。地点が僕のテキストで上演するときは、いつもとは違う変わった舞台になることが多いので、今回も苦闘している姿が見られると思います。でもまずは作品を体感して、楽しんでいただければ嬉しいです。

 

【プロフィール】
松原俊太郎 
■マツバラシュンタロウ 作家。1988年、熊本生まれ。神戸大学経済学部卒。処女戯曲『みちゆき』が第15回 AAF 戯曲賞大賞を受賞。2017年、戯曲『忘れる日本人』が KAAT 神奈川芸術劇場と地点の共同制作作品として上演される。同年、京都芸術センター主催「演劇計画Ⅱ」の委嘱劇作家として戯曲『カオラマ』第一稿を発表。早川書房「悲劇喜劇」2018年1月号に小説『またのために』を寄稿。同年2月、『正面に気をつけろ』を地点に書き下ろした。

三浦基
■ミウラモトイ 地点代表、演出家。1973年生まれ。1999年より2年間、文化庁派遣芸術家在外研修員としてパリに滞在する。帰国後、地点の活動を本格化。2007 年よりチェーホフ四大戯曲をすべて舞台化する〈地点によるチェーホフ四大戯曲連続上演〉に取り組み、第三作『桜の園』にて文化庁芸術祭新人賞受賞。ほか、2011年度京都市芸術新人賞、2017年読売演劇大賞選考委員特別賞など受賞多数。著書に『おもしろければ OK か?現代演劇考』(五柳書院)。

地点
■チテン 演出家・三浦基が代表をつとめる。既存のテキストを独自の手法によって再構成・コラージュして上演。
言葉の抑揚やリズムをずらし、意味から自由になることでかえって言葉その斧を剥き出しにする手法は、しばしば音楽的と評される。これまでの主な作品に、チェーホフ作『かもめ』『三人姉妹』、ブレヒト作『ファッツァー』、イェリネク作『光のない。』『スポーツ劇』など。
2005年、東京から京都へ移転。2013年には本拠地・京都に廃墟状態の元ライブハウスをリノベーションしたアトリエ「アンダースロー」を開場。レパートリーの上演と新作の制作をコンスタントに行っている。
2012年にロンドン・グローブ座からの依頼で初のシェイクスピア作品『コリオレイナス』を上演するなど、海外での評価も高い。

 

撮影/松見拓也