『大人のけんかが終わるまで』 鈴木京香×板谷由夏インタビュー

「大人のけんかは誰も止めてくれないんだなあ、と」(鈴木)
「“to be continued”感がある作品ですよね」(板谷)

鈴木京香、北村有起哉、板谷由夏、藤井隆、麻実れい。かくも豪華で達者で濃厚な男女5人が一夜限りの“大人のけんか”を繰り広げるシニカルコメディ。5人の関係図は次の通り。破局寸前の不倫カップルのアンドレア(鈴木)とボリス(北村)、ボリスの妻の親友フランソワーズ(板谷)と内縁の夫エリック(藤井)、そしてエリックの母イヴォンヌ(麻実)。いったいなにをどうすればこの5人が一つレストランで乾杯することになるのか? 日本初上陸となる『大人のけんかが終わるまで』は、『アート』『大人は、かく戦えり』など滑稽な悲劇/悲劇的コメディを描いて秀逸の劇作家ヤスミナ・レザ最新作。演出は上村聡史、上演台本は岩松了。製作発表にて「ケンカ上等!鈴木“アンドレア”京香です」と自己紹介した鈴木は「ハチャメチャで楽しいと同時に、大人ってけなげで切ないなと胸がきゅんとする」、これが2本目の舞台作品となる板谷は「大人が大人の事情を背負ったままケンカするとこうなるんだと愛しくなる」とコメント。こんなことでもなければ出会わなかったはずの(もちろん劇中で)2人の女性に、Wインタビューした(製作発表直後)。

 

――先ほど(製作発表)が5人全員の初揃いとのこと。勢ぞろいされてみていかがですか?

鈴木「本当に素晴らしい最強の布陣だぞ、と思いました。一人だけ置いていかれないようにしなければ」

板谷「なにをおっしゃる!」

鈴木「わたし、空気を読むのが下手なのもあるし、トークが下手なんです。それで、わたしにとってコメディは本当に難しいものですから、しっかりやらないと、みなさんに笑ってもらえるおもしろさが出せないといつも緊張します。みなさんは本当にお上手で、麻実さんは製作発表ですでに役になり切ってらして、これは……(すごい)!と思いました。先程も(北村)有起哉さんと話してたんですが、どこから球が飛んでくるかわからない、5人でラケットを持って一つの球を打ち合うスカッシュみたいだねと。力を入れて打ち返さないとラリーが続かないし、うっかり油断すると……」

板谷「どこかに飛んで行っちゃう! みたいな。わかります、その通りですね」

鈴木「そうなんですよ。一瞬たりとも隙がないねって。5人で最強のスカッシュチームになるようにがんばらないといけないと思いました」

板谷「エネルギーのぶつけ合いになりそうで、わたしも、岩松さんの本を読んだときからこれは気が抜けないと思いました。こうして2人(鈴木と板谷)で話していると思ったら横から別の人が入ってきて、そこと話すかと思えば、また別から会話が飛んでくる。いま誰と誰がしゃべっているんだっけ? と迷いませんでした(笑)?」

鈴木「迷いそう(笑)。こっちでやり合っている間に、向こうでも遠回しにわたし(アンドレア)の悪口を言ってるから、突然参戦したりするんですよ。一つも見逃せないし、そこにちゃんとリアクションもしなければと思いました」

 

――不倫相手の奥さんの親友の家族に偶然会うというのは、なかなかない運命だと思います。ご自分の役と、相手の女性の役については、どんなイメージを?

板谷「わたし、この本を読んで最初に、“京香さんすごいカッコいい!”と思いました。いままでの京香さんへのみんなの固定観念を打ち破るんだ、と。煙草ふかしながら文句を言っているところを早く見たくてしょうがないです、本当に」

鈴木「本当ですか……? うわ、ありがとうございます」

板谷「京香さんのアンドレアはカッコいい女子で、自由人。わたし(フランソワーズ)はその自由さに嫉妬するのだろうと。フランソワーズは内縁だし、義母の世話をしているし、義母はまだらボケですし。その義母の誕生日のお祝いに行ったレストランで、親友の旦那が自由人の女性と不倫しているのに出くわして、もう、キリキリキリッ……!となるのですが、たぶんそれは、自分にはないものを持っている人への憧れもありますよね。同じ女子としての感覚でいえば、相反するところにいるけれど、なんだか意気投合するところもある、という。5人のどの関係性でもそれは変化し得るのですが」

鈴木「うんうん(うなづく)」

板谷「相手の中に羨ましいけれどなれない自分を見る感じと言いますか。みんないろんな事情を背負っていて、我慢したり諦めたり、ネガティブではなくしょうがなく内包しているものがありますよね、大人って。それが、ケンカすることでザザッと出てくる、でも、その先は日常に戻らないといけない。そこが、京香さんの言われる“大人の切なさ”につながるような気がします。大人だから切なくて、大人だから儚い。大人の刹那、なんですよね。作品はコメディですが、そういうところに、わたしもグッときました。大人が必死で真剣にケンカすればするほど泣けてくる、本音でぶつかればぶつかるほど泣けてくる、そこにまた、嫌みの効いた会話がねじられながら入ってきて、ぐしゃっとなったら、すごくおもしろくなると思うんです」

鈴木「わたし(アンドレア)はね、ボリスに会うためにおめかしして出かけてきたのに、奥さんおすすめのレストランだった、というのが最初にあって」

板谷「かちーん!ですよね、その段階で」

鈴木「そうなんです。それに、こっちもおしゃれはしてきたけれど、自分より豊かな暮らしをしている家族を見るから、ますますコンプレックスを刺激されて悪態をつかざるを得なくなっていくんです。子どもっぽいといえば子どもっぽくて、そういうのを包み隠してやり過ごすのが大人だと頭ではわかっているのに、どんどん出てきちゃう。このタイミングでこのレストランに連れて来たボリスにますます腹を立てていく。またその腹の立て方というのが、板谷さんが言ってくださったように“自由”なんです。わたしだったらグッと堪えてしまうか、その場から離れる、そのレストランには行かないと選択肢があるけれど、アンドレアは興味を持って近づいてしまって、不倫相手の奥さんの友だちのことも知ってみたくなって……と、気持ちを抑えきれない。わたし自身がアンドレアいいなあと思うのは、悪態をついて、ついて、つきまくっているけど、正直ですよね、見栄を張ったりしない。そこがいいところで好きですね」

 

――一瞬、この2人親友になるのかな、という場面も。

板谷「あるかもしれないですね」

 

――ちなみに、この一夜の先は、2人は会わないと思いますか?

鈴木「どうなんでしょう。どっちでもあり、かな。あり得ないことではないでしょうね」

板谷「3人で会うかもしれない。お義母さんも一緒に」

鈴木「女性だけで(笑)。わたしも、薬剤師としての自分(アンドレア)を信頼してイヴォンヌ(麻実)がいろいろ質問をしてくる場面があって、それがなんだかうれしいんです」

板谷「うちのお義母さんはアンドレアをすごく気に入っているんですよ。この3人でお酒を飲み直しましょう。とりあえず男性はおいといて」

鈴木「ここには出てこないボリスの奥さんも交えて4人で、とか」

板谷「いいですね」

鈴木「女の人ってそういうところありますよね。意外と女の人のほうがサッパリと、割り切ったら団結できそうなところがあるから」

 

――いろんな可能性を孕んだ出会いなんですね。ところで、原題の『Bella Figura(ベラ フィギュラ)』(イタリア語の表現で「表向きに良い顔をする」の意味)から、日本版『おとなのけんかが終わるまで』というタイトルになったことはどうですか?

鈴木「どんなタイトルになるのかな?と気になっていました」

板谷「わたしもです」

鈴木「大人のけんかは誰も止めてくれないんだなあっ、て。本を読みながら本当に思いました。子どものケンカは、先生にしろ親にしろ周りの人が叱ってくれて終わりますけど、大人のけんかは誰も叱ったり止めてくれない。自分で決着をつなけいといけないのかもしれない。この5人でやっているケンカは、相手というより、自分のふがいなさ、感じ方、我慢している自分、いろんな自分に対しても怒っているものだから、自分で納めるしかないんだな、それが大人のけんかなんだなって。おもしろいタイトルになったなと思いました」

板谷「このタイトル、わたしも好きです。なんとなく“to be continued”感もあって」

鈴木「ありますね」

板谷「……それでどうなるの? というところを残しつつ、なんですよ」

鈴木「お客様に考えてもらうカタチで続く。この後どうなるかって」

板谷「京香さんがおっしゃったように一人ひとりが自分の内側を見せていくのであれば、お客様もきっと自分の内側を考えちゃう。続くのはケンカではなく、みなさんどうですか?という感じで持って帰っていただける“to be continued”なんですよね」

 

――初めは観客も隣のケンカを見ているようで、ああわかる、腹立つなあと、だんだん自分のことになっていくような。

鈴木「自分に似ている人に対して無意識に嫌悪感を持つという心理のお話を聞いたことがありますが、そんな感じでしょうか。お客様もご覧になりながら、あの人許せないわー、なんて思って、でもなぜこんな風に思うんだろうと自分のことを考えて、気づいたら……」

板谷「もしかしたらわたしも……、と。5人の濃密なコミュニケーションのお話ですから、なぜぶつかるのか、なぜそんなに棘を出すのか、“なぜ”を掘れば掘るほど事情が見えてきて、人と人とのたくさんの提示があると思います」

 

――アンドレアはボリスに、フランソワーズはエリックに、それぞれパートナーに対してはいかがですか? 好きだからこそムキになるという裏返しの愛情表現などもあるようですが。

鈴木「ボリスがどう思っているかわからないから、アンドレアは知りたいんです。アンドレアはボリスがまだ好きだと思うし。だから、ドレスアップして、お給料の1/5の靴も買って、これから2人に何があるのか知りたくて出掛けてきた」

板谷「ベランダなんて言っている場合じゃないよ、と(※建築会社経営のボリスはベランダの新事業で失敗している)。女子がカチンとくるところですよね」

鈴木「でもね、わたしもちょっと男っぽいところがあって、事業で大変なときに、連れて行くレストランがどうだこうだと言わないでほしい、という気持ちもわからなくない(笑)」

板谷「それもありますね(笑)」

鈴木「だから、おもしろいんですよね。ムキになっちゃうアンドレアの気持ちは本当によくわかりますね、怒らせようとしてしまう」

板谷「男性の性質としては、いま目の前にあること、ベランダ事業に必死になる。ボリスは男っぽい男の人だと思います」

 

――一方のエリックは?

板谷「不器用な男子がボリスだとしたら、エリックは世渡り上手な気がします。たぶん、こちらの家族はまっとうじゃないでしょうか、まっとうこそがヘンですけれど。普通の家庭に育った普通の人だから、普通から抜け出して破天荒に憧れている。母親と嫁をそつなく取り持つエリックにイラっときているかもしれないし……、これからの稽古で詰めていきたいところですね」

 

――板谷さんは今年初めて舞台をされて2作目になりますが、舞台の魅力をどのように感じましたか?

板谷「いままで映像の仕事で終わった感があるとしたら、それは、作品映像の形でこれから観られることにありました。でも、舞台にはそれがないんですよね。ものすごい充実感とやり終えた感はあるのに、その結果が自分では観れない。あれ? という虚無感に襲われています。浦島太郎の気分というか、わたし、本当に舞台をやっていたのかな?と思うほど。あのライブ感はワンステージで燃え尽きて形には残らないんです。お客様の心の中と、演じる側の充実感しかない」

鈴木「VTRに残っている、ということではなくてね。違いますよね」

板谷「そうなんです。あの日々が映像作品になるわけじゃない。自分がそこに生きていただけ。リアリティがあの場にしかないというのは不思議です。稽古の日々のほうが思い返せるのに、本番を思い出そうとしても、毎回違うし、お客様も違うし、セリフ回しも違うので……。あのように演じたのがこうなったのね、という映像で後からなぞれないことが、切ない!と。本当に……、生き物なんだなと実感しました。初体験だったので、いますごく不思議な気持ちです」

鈴木「そういうものなんでしょうね、きっと舞台って。わたしも初舞台はどうだったかな……、確かに不思議なものですね。毎日同じセリフを言って、その人の一生を、一回で表現し尽くす。日に2回生きることもあります。わたしもおもしろさを噛みしめ始めたばかりですが……。ぜんぜん違うことだけは確かですね。ドラマと映画と舞台はぜんぜん違う」

板谷「それがわかっただけでも勉強になりました。なので、今回はここに喰らいついていきます!」

鈴木「コメディ好きの方はもちろん、年齢も、男女もないですね。大勢の方に観ていただきたい作品です。どうぞ劇場に観にいらしてください」

 

<鈴木京香>
★ヘアメイク:板倉タクマ(nude.)
★スタイリング:藤井享子
★衣裳クレジット
・イヤリング・・・ダナ△ケリン/アーティザンクチュール日本橋高島屋店(問い合わせ:03-6262-0844)

<板谷由夏>
★ヘアメイク:林カツヨシ(JILL)
★スタイリング:古田ひろひこ(chelseafilms)
★衣装クレジット
ワンピース¥37,000(ルーム ナンバーエイト)/ノーブル コレド日本橋店
その他スタイリスト私物
●問い合わせ先
ノーブル コレド日本橋店︎03-5208-8720

 

取材・文/丸古玲子