NODA・MAP第22回公演『贋作 桜の森の満開の下』古田新太 インタビュー

最強に卑怯な布陣で挑む、美しくも怖ろしい安吾の世界

 

坂口安吾の“生まれ変わり”を自称する野田秀樹が、安吾作品をモチーフにし練り上げた伝説の舞台『贋作 桜の森の満開の下』。夢の遊眠社が初演した’89年版、新国立劇場が主催した’01年版、さらには’17年に上演された歌舞伎版を経て、いよいよこの秋、満を持して初めて、NODA・MAP版としての上演が決定した。〈耳男〉には妻夫木聡、〈夜長姫〉には深津絵里、〈オオアマ〉には天海祐希が扮するほか、人気と実力を兼ね備えたキャスティングが集結する。その中で、姫のために〈耳男〉と〈オオアマ〉と共に仏像づくりに挑むことになるが本当はある企みを抱いている山賊である〈マナコ〉を演じるのは、劇団☆新感線の看板俳優・古田新太だ。’01年版の舞台でも同役を演じ、野田作品への参加はこれが10回目となる常連だが、実は海外嫌いを公言する古田にとって今回はパリ公演(9月28日~)が唯一のネックだったという。

古田「外国に行くのは1泊3日で行ったアトランタオリンピック(’96年)の取材以来です。飛行機に乗るのもイヤだし、フランスには行きたくないと言っていたんですが、野田さんの熱心な口説きにほだされました(笑)。あ、もちろん、この作品自体は大好きですよ!」

 

’89年の初演は京都・南座で観ていたそうで、「圧倒的に美しく、面白い舞台でした。すげえなこれ、遊眠社ってこんなこともするんだ!って驚きました。まさか、のちにオイラがやることになるとは思わなかったですけど」とニヤリ。さらに今回の豪華極まりない顔ぶれについては「演劇業界全員から、『卑怯だよこれ』って言われてますから」と笑う古田。

古田「ブッキー(妻夫木)には今回、何か笑えるネタをやってもらいたいなという期待もしているんです。〈耳男〉なら、オモシロができる役ですから。また彼が可哀想な人になればなるほど、〈夜長姫〉の怖ろしい魅力が際立つはず。その姫を演じる深津さんは、特に笑い声の時にものすごい狂気が出るんです。ホント、素晴らしい“キ○ガイ声”の持ち主ですよ。深津さんとは『走れメルス』(’04年)以来の共演なので、すごく楽しみ。ゆりちゃん(天海)とは『修羅天魔』と連続してご一緒します。この〈オオアマ〉役のキャスティングを考えあぐねていたところに、たまたま身体を気遣って今年後半は休暇をとろうとしていたゆりちゃんが、スコーン!とハマったらしくて。しかも宝塚時代以来23年ぶりの男役でだなんて、まさに奇跡だし、鬼に金棒です」

 

古田自身も17年ぶりに〈マナコ〉を演じるわけだが、「初演の時の〈マナコ〉のセリフは“俺は銀座の千疋屋でバイトをしていたことを忘れない……”だったんです。それを野田さんが前回“俺は銀座のライオンで……”に変えてくれて。これ、長台詞のド頭なんですけど一体、何を朗々と“銀座のライオンで……”ってしゃべっているんだろう?ってなるのがオイラにとってはすごい喜びです。だから今回は出演が決まってすぐ野田さんに、あのセリフは残してくださいと頼みました。だからフランス公演で思い切り朗々と言って、どうフランス語に翻訳したところで“銀座のライオン”はパリで全然通用しないことを思い知らせてやろうと思っています(笑)」

 

そんな毒舌を吐きつつも、実際には馴染み深い野田作品への想いが深く、稽古や本番でカンパニーを誰よりもパワフルに牽引するのが古田。だからこそ、野田からの信頼も厚いと言える。

古田「野田さんとクリエイトするのは楽しいですよ。アクションなりアートワークに対しても、アイデア出しをみんなにさせるという、いわゆるブリティッシュな手法ですけど。そこは蜷川(幸雄)さんとも似ているんだけど、野田さんもまずは役者に勝手にやらせてくれるんです。だから引き出しが少ないヤツは戸惑ってしまうかもしれないけど、オイラとか(池田)成志さんとか大倉(孝二)といった自由にさせちゃいけない人まで自由にするから、みんな好き勝手なでたらめを延々やっちゃう。それでも野田さんは止めずに自分も乗っかってきますから。そういう経験があまりない若手の俳優さんやアンサンブルには、かなり刺激になるんじゃないですか。今回は初参加の門脇麦ちゃんは初共演でもあるので、そういう稽古ではどう反応されるのか、すごく楽しみ。現場で、ああやってみなよ~とかいろいろ唆そうかな(笑)」

 

今回もまた、演劇史に残る“伝説”となる名舞台が誕生することは間違いなさそうだ。

古田「最強に卑怯な布陣を作らせていただきました。これで面白くならなかったとしたら、すべて野田ちんのせいです。ともかく我々は最善の努力を欠かしませんので、期待してください。あ、ただしフランスのお客さん、ひとりモチベーションの低いヤツがいてゴメンナサイ(笑)」

 

インタビュー・文/田中里津子

 

※構成/月刊ローチケ編集部 6月15日号より転載

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【プロフィール】
古田新太

■フルタ アラタ ’65年、兵庫県出身。小学生のときにミュージカルを観て以来、役者を志すようになる。’84年に劇団☆新感線に参加。以降も劇団、メディアの垣根を越えて精力的に活動。