6月10日(金)、東京・よみうり大手町ホールにてS-IST Stage「ひりひりとひとり」が開幕した。
ミュージカル「Color of Life」(作・演出)、舞台「BACKBEAT」(翻訳・演出)、舞台「キオスク」(演出)、「マタ・ハリ」(翻訳・演出)、ミュージカル『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』(演出)等を手掛けてきた石丸さち子が作・演出する舞台演劇作品を、東映プロデュースにて実施するという企画「S-IST Stage( エスイストステージ)」。本作はその企画の1つとして、石丸さち子による完全オリジナル脚本と音楽家・森大輔の生演奏で制作されたもの。石丸さち子が「演劇だから出来ること」を改めて自分に問い質して生み出した、俳優“春男”にまつわる物語だ。そして、石丸さち子とともに「S-IST Stage」が新たに生み出すのは、演劇と役者の“未来”。求め合う心、剥き出しの人間感情、その先の静謐さの中に生まれる新たな演劇作品をお届け!
2020年に上演しようとして叶わなかった今作。約2年の月日を経て6月10日(金)に初日を迎え、6月19日(日)まで公演は続く。
S-IST Stage「ひりひりとひとり」開幕に向けて届いた、作・演出の石丸さち子と全出演者からのコメントとゲネプロのレポートを到着した舞台写真と共に紹介する。
<ゲネプロレポート>
ステージ上の演奏ブースに鉱石ラジオの音楽家が登場する。ゆっくりと暗くなっていく場内。そして再び明かりが灯った舞台中央にはひとり佇む春男。春男は自身の耳の中でもう長いことずっと鳴り続ける「音」についての考察を語り出す。物語が、始まっていく──。
着慣れた洋服に身を包んだ春男は一見、どこにでもいそうな演劇青年だ。劇団仲間の夏子や賢と共に、今はチェーホフの『かもめ』の稽古に精を出している。しかし、愛すべき“普通の日々”は故郷の父親の孤独死の報で一変。かつて固く塞いだはずの心の蓋が開いてしまった春男は、ズルズルと“あの頃の自分”へと引き込まれてしまうのだった。春男を演じる鈴木勝吾は振り幅の非常に大きな春男をまさに全身全霊で表現していく。冒頭の力強く爽やかな表情、稽古場でのリラックスした姿、統合失調症によるチックや吃音を伴う苦悩の時間、詩を詠む芸術 家としての繊細な顔、さらに、時空を超えた音楽と一体となって生命力溢れる歌声を響かせる姿。ボロボロになるほど美しく見えてくるその存在感の確かさは、この物語が春男の宇宙を描いている証しでもある。
賢を演じる百名ヒロキは春男をちょうどいい柔らかさと暖かさで包む毛布のような熱を抱き、夏子を演じる周本絵梨香は不思議なほど嫌味に映らない押しの強さと迷いのない愛情を春男に投げかけていく。
春男、賢、夏子の3人が体験する小さくて大きい魂の旅は、物語の大きな要素。そこにある傷と癒しの関係はとても崇高だ。
また、春男が病の中で生み出した自身の中の別人格、西郷さんとぴーちゃんの活躍も面白い。二人は春男の理解者であり、応援団であり、反面教師でもあり…あらゆる心の声の具現者。芸術好きで異端な春男のことが好きな西郷さんを演じる塚本幸男は、年長者らしい飄々とした佇まいで成り行きを楽しむタイプ。ぴーちゃんを演じる梅津瑞樹は妖精チックな賑やかしの面と春男を慈しむ優しさを備え、二人の軽妙なコンビネーションはヘヴィーになりがちな春男の人生物語にユーモアを添え、プラスのオーラを与えてくれる。
音楽家と春男を繋ぐ“想い”であるりぼんを演じる牧浦乙葵の無邪気な笑顔と歌うようなダンスも可憐。そして、春男の知らないどこかでひとり音楽を生み続ける鉱石ラジオの音楽家を不思議な重力で体現する森大輔は、劇中音楽も担当。終盤、ひたすらコツコツと音を奏でている彼が一瞬だけ春男と目を合わせるその時に生まれる幸福感は、まさに物語を最後まで観た者だけが受け取れる極上のギフトだ。
痛みと苦悩と愛の渦の中を彷徨う春男の「普通に悲しみたい」という言葉が不思議と沁みてくる。普通に笑い、普通に悲しみ、普通に歌い、普通に愛する。人間、それでいいじゃないかと全てがこちらを向いてくれていることに気づく。そう、だってこれは2022年の今を生きる私たちと同じ地平にある物語なのだ。「誰もが人知れず消えることのないひりひりとした痛みを抱えているもの。ちょっと痛くなりすぎたら、海に向かって大声で叫べばいいよ」と、自分の中のぴーちゃんがそっと囁いてくれたような気もした。
石丸さち子(作・演出) コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてくだください
2020年、緊急事態宣言下で公演中止になった作品が、こうして今初日を迎えようとしていることに、感謝でいっぱいです。
一緒に企画を立ち上げ、東映のプロデューサーとご縁をつないでくれた鈴木勝吾さんに。渾身で物語を立ち上げてくれる俳優たちに。この物語に感動したと、作品を支えてくれるクリエイターたちに。
作・演出家としては、はじめてお客様の前で作品が息をする瞬間を前に、大きな緊張感を覚えていますが、ともに作った仲間を信じて、その時を迎えようと思います。
ーー本作品の見どころを教えてください
「ひりひりとひとり」は、傷ついた心と心が出会って、勇気を持ってつながりながら、支えあいながら、絶望を超えて、生きる喜びや輝きを見つけていく物語。そして、生きにくい時代でも、悲しみ多い時代でも、作品を創りお客様に届けることを喜びにする人たちの物語。
鈴木勝吾さん演じる主人公“工藤春男”は、とても辛い過去を持つ役ですが、彼が演じるからこそ、辛さよりも、見つける希望が際立ってくる。彼の、演劇への、出会う仲間への、観客への愛情が生む光を、丸ごと受け取ってほしい。
梅津瑞樹さんはクールビューティーの佇まいの内に、飛びきり熱い演劇愛を持っているホットな人。その愛が、演劇的センスに昇華しています。
百名ヒロキさんは今回、純粋過ぎるほどに純粋な役を、痛いほど純粋に演じていて、彼の中に、揺れ動く俳優の日常を感じて頂けると思います。
周本絵梨香さんは、硬質な心を大きく揺らしながら、勇気のある強い女性、強いからこそ無理をして生き、壊れやすい女性を表現してくれています。
塚本幸男さんは、年齢を重ねた男の持つ経験の重みや、父性の持つ残酷さなどを感じさせて、とても魅力的です。
そして、残念ながら降板された伊藤純奈さんから役を引き継いでくれた牧浦乙葵さんは、10代の少女のまっすぐな瞳で世界の美醜すべてを受け止める、難しい役を短い期間で実現してくれました。
森大輔さんの生演奏は、この作品の心です。彼が主人公の耳の中に届け続ける音楽の光は、きっとお客様にも大切な光になるはず。俳優と音楽家がお客様に届けるラストソングが素晴らしいのです。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
この作品は、演劇という芸術が苦しんでいた時に、劇場に足を運び、配信を観て、応援し支えてくださったお客様へのお礼状のような物語。
ひりひりした物語なのに、ラストソングを聞き終わった後には、光と温もりをたくさん受け取って頂けるはずです。
鈴木勝吾(工藤春男 役)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてくだください
オリジナル作品を観劇してもらう、というハードルの高さを感じています。その中でも、この作品を届けることができるのが単純に嬉しいですし、誉れです。モノを創り届ける、高揚を頼りに仲間を信じて創ってきました。
どのように皆様の目に写るのか今から楽しみでなりません。
ーー本作品の見どころを教えてください
今歩いている道には沢山の石ころが転がっていて、良いものも悪いモノもあって、不幸も幸せも、ドス黒いのもキラキラ輝くものもいっぱいあって、人は不幸を嘆くけれど、たまたま踏んでなかっただけ、石ころは等分に転がっていて、いつどうやってどの石ころにぶつかるか、わからない。けれど、それでも何故人は生きていくのか、何故人は繋がりを求めるのか、幸せってどこにあるのか、希望ってどこにあるのか。そんな、人生の色々が転がっているような作品だと思うので、その辺りを感じて貰えたら。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
この時代に、しんどい事も沢山あると思います。その事は何も変えられないけど、それでも懸命に生きている光を客席で見届けて欲しい。もし何かにつまずくことがあるなら、一人だと思わないで。一人は変わらないけど、どこかで、こうやってずっと繋がっていけると思う。少なくとも僕はなんとか演劇で皆様に光をみせたい。
是非ぜひ劇場でお待ちしております。
梅津瑞樹(ぴーちゃん 役)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてください
波間に揺蕩うような、落ち着いた心持ちです。
稽古場で積み重ねてきたことが、劇場でどの様に受け取って貰えるのかが楽しみで仕方ありません。
そういえば、以前よみうり大手町ホールで上演した違う作品の折もその様なことを考えながら小屋入りしたのをふと思い出しました。
ーー本作品の見どころを教えてください
ままならない現実の前に、それでも這いつくばる様にして生きていかねばならない苦悩や葛藤と、何処かにあるかもしれない救いの姿がシニカルかつ人間讃歌的に描かれている点です。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
ままならないことの多い現実を生きています。
でも、どんなに辛いことがあっても、明日が来る以上僕達は生きていかねばならず、また明日が来るということはそこに赦しを求めて然るべき。
明日にはなくても、また明日、また次の明日へとさすらい続ける中で、いつしか本当に生きやすくなるかもしれない。この作品が、どこかの誰かの心を少しでも楽に出来れば。
牧浦乙葵(りぼん 役)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてください
ただただドキドキしています。稽古に参加した初日、もう既に半分出来上がったひりひりとひとりの世界を見ました。美しい音と生きたお芝居が私をひりひりとひとりの世界に引きずり込みました。そこにりぼんとして入ってもがいた稽古期間。劇場入りして、音と光が合わさって、劇場にお客さんが来てくれりぼんとして入ってもがいた稽古期間。劇場入りして、音と光が合わさって、劇場にお客さんが来てくれて、感じて貰ってやっと完成。思いの強い作品だからこそ緊張しますが、楽しみです。て、感じて貰ってやっと完成。思いの強い作品だからこそ緊張しますが、楽しみです。
ーー本作品の見どころを教えてください
森さんが生で演奏してくださる音楽です。
私自身、音楽と共に生きてきて音楽の持つ壮大なエネルギーを信じているのですが、それが生のお芝居の中で、生で演奏される。綺麗な音が今生まれている。ってことがとても素敵だなと思います。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
物語の中でハルオと音楽家を結ぶ、りぼん。
りぼんの存在がこのひりひりとひとりという作品と観劇してくれる皆さんを結ぶ小さな欠片としていれるように。ただ繋ぐ。観てくれた人が、少しでもあったかくなってくれると嬉しいです。
劇場でお待ちしています。
百名ヒロキ(玉木賢 役)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてくだください
稽古初日からずっと自分の俳優人生にとって、とてもこの作品に携われることを俳優冥利に尽きる時間だと思っていたので、劇場でお客様と共有することが本当に楽しみです。だと思っていたので、劇場でお客様と共有することが本当に楽しみです。
ーー本作品の見どころを教えてください
人間の持っている繊細さと激しさの攻防、そしてそこに絡む色々な形をしている愛を見ていただきたいです。違った形でも誰もが感じた事のあるきっと大事な感情だと思います。
時代が目まぐるしく動くこの時、ご来場の皆さまそれぞれに気づきや、共感が生まれることを祈っています。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
2年前に上演が叶わなかった出演者、観劇が叶わなかったお客さま、そして今回出演が叶わなかった出演者もいます。
自分が出来る事は、全ての思いを背負い、ご来場くださるお客さまお一人お一人とこの作品を共有出来る奇跡に感謝しながら進む事です。
真ん中に春男が居る「ひりひりとひとり」という世界、ひりひりしてます。是非劇場で体感して下さい!
周本絵梨香(伊達夏子 役)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてくだください
みんなで励まし合い、協力して白熱した稽古を重ねてきたので、本番の舞台上でどのようにそれが乗るのか楽しみです。
ーー本作品の見どころを教えてください
この座組でしかできない作品になっていると思います。
全ての役が大きな役割を担い、それぞれの課題に奮闘しているので、群像劇のようにみんなを愛しく思ってもらえるんじゃないかな。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
皆さまに観て頂いて初めて、この作品がどこに導かれるのか、わかるような気がしています。私たちはひとつの方向性に向かって進んでいますが、観客の皆様が最後のピースです。一人でも多くの方に劇場で観て頂けると嬉しいです。
塚本幸男(西郷さん 役)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてください
稽古を約11ヶ月、毎日ヘトヘトになりながら稽古をしてまいりました。初日にその成果をお見せしたいです。(石丸ワールドかな?)
本当、仲の良いカンパニーです。みんなで助け合いながら作って来ました。このカンパニーで最後まで走り抜けられるよう頑張ります!
ーー本作品の見どころを教えてください
見どころは、春男の中でいろいろな事が起きて、それを取り巻く仲間が春男を助けていくところだと思います。人は人の中で育って行くなぁーとちょっと感じています。現在の若者が父親の死を前に、どう考え、前に進んでいくのか、心の葛藤も見どころです。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
コロナ禍の中、劇場に足を運んでいただくだけでも、本当、感謝いたします。まずそれが一番です。ありがとうございます。そして出演者・スタッフ全員で作り上げたこの作品をどうか楽しんでいただけたらと心より願います。ぜひ楽しんでくださいね!
森大輔(鉱石ラジオの音楽家 役/音楽・演奏)コメント
ーー初日を迎える今のご心境を教えてください
とても楽しみであると同時に、作中の音楽がどのような印象でお客様に届くのか、まだ予想しきれません。客観的な立場からバランスを取るというよりも、とにかく主人公である工藤春男のそばにいることを強く意識したいと考えています。
ーー本作品の見どころを教えてください
主人公の工藤春男は、表向きは人とは違う性質や生い立ちを持つ人物ですが、彼の痛みや悩みというのは意外にも誰しも共感できることだったりします。
ひりひりとした思いをひとり心の中に抱えていますが、それを劇場でたくさんの人と共感・共鳴できることがこの作品の醍醐味ではないでしょうか。
ーーお客さんへのメッセージをお願いします
工藤春男という人物を、音楽を通してより深く感じていただけたら幸いです。彼の心情のみならず、そのときどきの空気の「匂い」のようなものをお届けできればと思っています。