総勢23名のキャストが、さまざまな組み合わせで江戸川乱歩の小説を朗読する、リーディングシアター「RAMPO in the DARK」の第3弾が東京・神田明神ホールにて上演される。今回朗読されるのは、暴力的な父親が何者かに殺害された事件について、次男が友人に語っていく「疑惑」と、探偵小説家の主人公がある事件を回想していく「陰獣」の2作。
前回に引き続き、このリーディングシアターに挑戦する大河元気は、どのような想いで作品に挑むのか。話を聞いた。
――前回に引き続きのご出演となります。まずは率直に、今回のご出演が決まってどんなお気持ちですか。
前回にこの世界観を感じてみて、またやらせていただけたらと思っていたので、また出演できると決まって嬉しかったですね。舞台に立って、作品をお客さまに伝えたときに、何か掴んだような感覚があったんです。手ごたえというか、実感というか。みんなを作品に引きずり込めたような感覚があって、そこは楽しかったですね。
やっぱり、朗読は動きとかが無いので、本当にお客さまの想像に任せることしかできない。想像の余地を残しつつ、でもいろいろパスをしていて、そこにお客さまがすごくいい形で乗ってきてくれたんですよね。お客さまと一緒に作り上げたという感覚がとても印象的だったので、今回もそんなふうにできたらなと思っています。とにかく長いので、噛まないように(笑)。噛むことで変に全部が崩れてしまうわけでは無いですが、やっぱり集中力が途切れてしまうこともある。お客さまの集中力にも影響するので、そういうドキドキ感もあるんです。
――江戸川乱歩の魅力はどのようなところにあると思いますか?
心にすごく残るんですよね。悪い言い方をすると、すごく嫌な記憶を残してくる。人によってはトラウマになるんじゃないかと思うくらいのことが描かれているので、怖いですよね。ふとした瞬間に思い出しちゃうような感じ。僕らはさんざん、それを残るようにやっていますので、それが癖になってくれたらいいなと思いますね。
――独特の世界観を表現するために、工夫されたことなどはありますか?
作りこみすぎないことですね。セリフのような部分はもちろんあるんで、そこはしっかり作りこんだり、このキャラクターはどう思ってしゃべっているんだろう、とかは考えるんですけど、ト書きや状況説明のような部分は、本当に最低限しか作りこまない。あとはご想像してみてください、っていう出し方を結構しています。そこは、やりすぎないように逆に踏ん張らなきゃいけないんです。手を抜くわけじゃないので、力みすぎず、不安定な立ち位置にずっと立ちながら読み続けるので、難しいところですね。
いわゆる普通のお芝居のように動けてしまえば発散できるんですよ。感情とかを動きに乗せたり声に乗せたりがしやすいんですね。だから、感情を乗せないけれども、ちゃんと伝えるって言うのはなかなか難しい。でも、ちょっと他ではない経験だったので楽しかったです。
――今回は、野島健児さん、日高里菜さんとの共演となります。お2人の印象はいかがでしょうか。
野島さんとは何度かご一緒しているんですけど、朗読劇でこんなにがっつり絡んでというのは初めてです。日高さんも本当に素敵な方なので、ご一緒するのが楽しみですね。朗読劇って、本番で本当に殴り合いみたいな芝居のキャッチボールができるときがあるんです。
――殴り合い、とは結構過激な表現ですね
自分の感覚としては、本当にそんな感じなんですよ。キャッチボールを超えたところに行くことがあって、傷つけあうというより、お互いの出してくるものに尊敬と愛をこめて返す。それをものすごい剛速球でやり取りするんです。すごく暴力的だし、すごく愛おしい作業です。それができるように、頑張らないとですね。
――稽古も楽しみですね。
稽古も結構、精神的に疲れるというか、入り込んでいくような作業なんですよね。めちゃくちゃ疲弊します。動いていないんですけど、動かない方が逆に疲れるような感じ。動ける方がある意味楽なんですよ。動くことで発散できちゃうんで。動かない中でも頭は最大限に使いますし、立っているのでそこはしんどいです(笑)。でも、お客さまの視覚を邪魔しないように、聴覚をフルに使っていただけるように頑張りたいと思います。
――来場してくださった方にも、作品世界にしっかりと浸ってほしいですね。
面白かったから、江戸川乱歩の他の作品も読んでみたいな、と思っていただけるところに行ければいいですね。自分自身も、改めて読み返してすごく素敵な作品だと感じましたし、もう1回読んでみよう、初めて触れた方は一度読んでみようと思っていただけるところに持って行きたいです。
――稽古などが忙しい日々かとは思いますが、普段のプライベートのお時間で何か新しいことや変化があったりはしますか?
いわゆる自粛期間だったりと、家にいる時間が本当に多くなったりとかして、みなさんは新しく始めたことがあったりすると思うんですけど…恐ろしいことに、無いんですよ(笑)。もともとが相当インドアでプラモデルをずっと作って生きてきた人間なので、そのあたりはずっと変わらないです。
プラモデルって、普通に作業の9割くらいは「なんでこんなことをしているんだろう…」って思っているんですよ。誰にも気づいてもらえないような作業だらけですし、自己満足でしかない。だから、やっている途中は意外と苦痛というか、モヤモヤしているんです。昔はもっと楽しくやってた気がするんですけどね(笑)。でも、やめられないです。一連の作業自体が、もう自分の一部ですね。完成品を見たら、世界で一番カッコいいものを自分が作ったと思っていますから(笑)
――役者さんが、稽古は苦痛なことばかりだけど、本番で拍手をもらえたらすべて帳消しになる、という感覚と似ている気がしますね。役者として、今後挑戦したいことなどはありますか?
20代の頃は、芝居に対してどこまでものめり込んでいました。客席から見たらわからないところの作りこみをものすごく頑張ったりしていたんです。でも、最近はそれを一度手放して、とにかくわかりやすいことを前面に出した芝居がしたい、とよく思うようになりました。ちょっと削ぎ落として、シンプルなものを目指しています。でも、今はこう思っていますけど、明日また違うことを想っているかもしれないんですよね。恐ろしいことに(笑)。シンプルの良さは、感じていることではあるんですけど。
役者としての職業病だとは思うんですけど、いろんな作品をインプットというか、気になっちゃうところはありますね。もともと、何も考えずに生活しているのが苦痛なタイプなので、何かしら音楽を流したり、テレビで映画を流したりを必ずしています。
――好きな作品のジャンルはありますか?
サスペンスやホラーですね。ゾワゾワするのがいいんですよ。大人になればなるほど、怖いって思うことが無くなってくるんですよ。ちっちゃい頃は、夜に起きてトイレに行くだけで怖かったはずなのに。そういうのを強制的に体験させてくれるんですよね。普段使わない感情が動いてくれるのが楽しいんです。
でも、ここが職業病だとおもうんですけど、ちょっと冷静になって役者としての目線で見てるところもあるんですよ。そうすると怖くなくなっちゃう(笑)。でも、役者をやっていたら一生そうなんだろうな。
――どんなときにも役者の心がうずいてしまうんですね。今回の作品を楽しみにしていらっしゃる方もたくさんいますので、ぜひ見どころを含めてメッセージを頂ければと思います。
季節も夏に差し掛かろうとしていますし、乱歩が好き、ダークな世界観が好きという方もたくさんいらっしゃると思います。そういうみなさんの恐怖体験に寄り添えるようにしていきますので、僕に注目するというよりは、作品そのものに注目していただいて。きっとみなさまの臨む体験ができるのではないかと思っています。劇場の雰囲気も含め、世界観に入り込んでしまってください!
ライター:宮崎新之