古き良き日本の幽玄でエロティックな空気を、ユニークな感性で美しく描く秋之桜子と、俳優の心の奥に眠っている感覚を炙り出し表現させ、作品世界を多様化させる演出術で引く手あまたの演出家・寺十吾がタッグを組む、パルコ・プロデュース2022「桜文」。明治後期から昭和初期、花の吉原を舞台に、吉原随一の花魁・桜雅(おうが)をめぐり、小説家志望の青年・霧野と手練れの大商人・西条との美しく、哀しく、不思議な愛の物語を綴る。
本作で、主演の桜雅花魁を演じるのは、乃木坂46として活動する久保史緒里。久保は、2019年に上演された乃木坂46版ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』2019の月野うさぎ/セーラームーン役を演じ、2021年上演の『夜は短し歩けよ乙女』ではヒロイン・黒髪の乙女を好演するなど、俳優としての活躍も光る。久保に、本作への意気込みや役に懸ける思いを聞いた。
――本作に出演が決まった時の心境を教えてください。
「花魁の役をやらせていただくのが初めてなので、正直なところ、不安もありました。(花魁というと)豪華絢爛なイメージがあったので、そのイメージを守りながら物語を進めるのは、すごく難しいだろうな、と。ですが、新しいことに挑戦できるのはすごく嬉しいです」
――脚本を読んで、本作の魅力をどこに感じましたか?
「 “手紙”をキーにして、時を超えた桜雅の姿が描かれる作品ですが、最初に読んだ時はとにかく苦しいと感じました。面白いなと思いつつもゾクゾクしました」
――久保さんが演じる桜雅という役の印象は?
「桜雅は、笑うことがない花魁ですが、その背景が一番のカギになるんじゃないかなと思います。ここまで苦しい役を演じさせていただくのは初めてだと思います」
――久保さんの印象とは真逆ともいえる役柄ですよね。
「それは自分でも思います。ただ、お芝居を続ける中で、これまでの乃木坂46での活動の中で見せてきた自分とは全く違う一面をお見せしたいと思っていたので、花魁という役柄でそれが見せられるのではないかという期待もあります。そういう意味でも、この作品に懸ける思いはすごく強いです」
――違う一面を見せたいという思いはいつ頃からあったのですか?
「乃木坂に加入した当初は、か弱そうなイメージを持たれることもあったのですが、自分のラジオをやらせていただけるようになって、それまで出していなかった“堕落した生活”もしているというのをお見せするようになりました(笑)。そうすると、今度は、お芝居の中でも新しい一面をお見せしたいと思うようになって…。この6年間、ずっと『お芝居がしたい』と言わせていただいてきたくらいお芝居が好きなので、『(ラジオだけでなく)お芝居で』という思いも強いんだと思います」
――今回、花魁役を演じるために、役作りのためにしたいと思っていることは?
「開幕までまだ時間もあるので、様々な作品に触れて、知識を蓄えていきたいと思います。花魁の持つ艶っぽさをどう作っていくかは、一番難しいところでもあり、この役のポイントでもあると思うので、皆さんに相談しながら自分なりの花魁を作り上げられたらと思っています」
――“花魁”と聞いて、今、久保さんはどんなイメージがありますか?
「『さくらん』という映画の菅野美穂さんが思い浮かびます。物静かなのに吸い込まれるような魅力があって、すごく素敵でした。私も目を惹く存在を目指したいです」
――グループを離れ、メンバーではない方々と作るお芝居については、どう感じていますか?
「私は、ものすごく緊張してしまうタイプなので、新しい現場に入るのがすごく苦手なんです。自分でもそれはどうにかならないかと思っているんですが、自分を出すのに時間がかかってしまって…。私も20歳を過ぎたので、先輩方のお力を借りつつも、自分自身のやるべきことをしっかりとやって、迷惑をかけないようにしたいと思っています」
――久保さんにとって、舞台でのお芝居や舞台に出演することの魅力は?
「毎日、同じシーンを演じていても、違う感情が湧いたり、また違う表現を見つけたり、日々変化していくことだと思います。以前に出演した作品では、劇場でのお稽古が始まってから、それまでできなかった演じ方ができるようになったことがあって、やっぱりお芝居って面白いなと感じました。生で演じているので、お客さまの反応がすぐに返ってくるのも魅力だと思います」
――「お芝居がしたい」という思いは、いつ頃から芽生えたのですか?
「『3人のプリンシパル』という作品で、初めて舞台に立たせていただいたのですが、その時に表現することの楽しさを教えていただいて、そこからだと思います」
――そうして、舞台出演を重ねて、ご自身の中で大きく変わったものはありますか?
「私は、例えば暑いとか、そんな簡単なことでも自分の思いを口にするのが苦手だったので、自分はこう思うと意見を伝えて、それを表現することがなかなかできなかったんです。間違っていると思われてしまうのが怖くて…。ですが、舞台に出演し、稽古の中で作り上げていけばいいんだと感じてからは、『まずやってみる』という精神が身に付いてきたように思います」
――今作は、演劇ファンからも注目される作品になるのではないかと思いますが、新たに久保さんを知る方に、どんな一面を見せていきたいですか?
「私は、いつもグループから飛び出して活動するときには、いかにアイドルというフィルターをかけずに見ていただけるかということを意識しています。それが一番難しいことでもあり、自分たちがやらなければならないことだと思います。だからこそ、私が、お客さまが作品を楽しんでいただく時の“違和感のピース”になってはいけない。花魁という自分の役を突き詰めていくのはもちろんですが、いかに作品に溶け込んでいくかも大切にしたいです。そのあとに、観てくださったかたから『あの子、乃木坂だったんだ』とグループを知っていただくきっかけになれたら嬉しく思います」
――今回、演出は寺十さんが担当されます。
「グループの後輩の筒井あやめちゃんが出演していた舞台の演出をされていました。(筒井から)すごく細かく、なんでそう思っているのかという理由を出演者たちに聞いて、(役の)心情を考えながら作ってくださるとお聞きしています。すごく楽しみです」
――久保さんは、お稽古場でディスカッションをしたいタイプですか?
「自分の意見を伝えるのが苦手なので、積極的になれるか不安ですが、今回は大先輩の方々がたくさんいらっしゃるので、すごく刺激を受けると思います。学ぶことの多い作品になると思うので、自分から相談しにいけたらと思っています」
――ところで、本作のタイトルにちなんで、久保さんの手紙にまつわるエピソードを教えてください。
「地元の中学の時の後輩が、いまだに手紙を送ってくれます。その子は当時から、ピアノを頑張っていて、自分が出るコンクールのチラシを送ってくれていました。その後も、勉強のために海外に留学した時も、留学先の写真を(手紙に)入れてくれたり、近況報告をしながら『頑張っています』と私に伝え続けてくれています。その手紙を読むたびに心が温まるし、頑張ろうという気持ちにさせてくれるので、私にとっては特別な手紙です」
――最後に、公演を楽しみにされている方にメッセージを。
「いつも私を応援してくださる方は、普段の私と違うことに驚かれる方も多いと思いますが、私自身はこの挑戦を楽しみにしています。自分が成長する上でこんなに素敵な機会はないと思っています。すごく大きな力を持った作品です。沸き起こる感情も大きいと思うので、それを舞台にぶつけていけたらと思います」
取材・文/嶋田真己