劇団ゴツプロ!の浜谷康幸が立ち上げた新プロジェクト「BOND52」。ゴツプロ!と他劇団が繋がりをもつことで、魅力的な舞台作品を届けていく企画で、第1弾となる今回は小松台東の松本哲也を演出に迎えた「山笑う」。7月7日(木)より東京・下北沢 小劇場B1にて上演中だ。この全編宮崎弁で贈る哀歓の物語に、どのように挑むのか。本作に出演する山崎静代(南海キャンディーズ)と浜谷康幸の2人に話を聞いた。
※山崎静代の「崎」の字は、「たつさき」が正式表記
――今回、BOND52という企画の第一弾となりますね
浜谷 私はゴツプロ!という劇団に所属しているんですが、そこから派生したというか…ちょっと僕がゴツプロ!とは違うこと、真逆のことをやりたいと思ってはじめたのがBOND52です。ゴツプロ!は”動”のエネルギーを持っている団体だと思っているんですけど、その真逆の”静”のエネルギーのお芝居をやりたくなったんですね。それでこの企画を立ち上げました。その1回目を誰とやりたいか、と考えたときに小松台東の松本哲也さんとやりたいと思ったので、お声掛けしたんです。
――演目に「山笑う」が選ばれたのはどのような理由からでしょうか?
浜谷 松本さんとご一緒するならばどんな作品にしようか、新作だろうか、といろいろと考えていたんです。でも、BOND52では劇団と劇団のつながりを持ちたいという気持ちもあったので、小松台東の代表作がやりたくなったんですね。そしたら、松本さんのほうから「山笑う」をご提案いただきました。台本を読ませていただいて、ぜひやりたい、と思って決めましたね。
――新しい企画に挑戦したくなったのはなぜでしょうか?
浜谷 役者をはじめたころは、100人くらいの小劇場でやっていたんです。それで、今ゴツプロ!でやらせていただいている本多劇場は400人くらい。会場が大きくなって、お客さんにもたくさん来ていただいて、どんどんエンタメ性やエネルギーが溢れるものを、広い空間で発信できるようになりました。そしたら、若いころにやっていた小さなハコで、ゴツプロ!でもやってみたくなったんです。コロナ禍でなかなか近い距離感とはいかない部分はあるんですが、ギュッと狭い空間にお客さんに来ていただいて、それを肌で感じたいというか。初心に返ろう、っていうことでもないんですけど、今の年齢だからこそ、今の経験があるからこそ、もう1度、そういう場所でお客さんと対話したくなりましたね。
――しずちゃんは、出演のお話があったときはどんなお気持ちでしたか?
山崎 え、私、出させてもらえるんですか?って感じでした。小松台東さんは昨年に観て、すごくいいなと思っていたところだったので、松本さんの演出なんて、本当にいいんですか?って。観たお芝居に作業服の衣装があって、見終わったあとは、道で歩いている作業服を着た人がすごく愛おしくなりました(笑)。お芝居ですけど、リアルにそういう人たちっているんだろうな、というか…お芝居を観て現実の人の見方も変わったんです。こういうこと、ありそうやな、って思いました。
――価値観に変化が出るようなお芝居だったんですね。浜谷さんとしずちゃん、お互いの印象はいかがですか?
浜谷 やっぱりテレビで芸人さんとしてよく拝見していましたし、ボクシングもやっていらしたので、ちょっと体を張るようなイメージというか。女芸人の方ってどうしても男っぽいのかな?という印象があったんです。だからか稽古場でお会いして、女性なんだな、って感じることが多いですね。まじめで一生懸命で、真摯に取り組んでくださっているのが伝わってくる。笑顔も素敵で、そういうところにも女性らしさを感じています。
山崎 稽古場では、こんなふうに振舞おう、みたいなことは考えていないので…。結構自然なところを見られていると思います。たぶん、(女性らしさが)出ちゃうんですよ(笑)。でも私も浜谷さんはすごくまじめな方だと感じています。ちょっと前に舞台を拝見させていただいたときに、ちょっとだけお会いしたんですが、すごく人見知りなのかな?という印象があって。稽古の顔合わせの時も、シュッとしたカッコいい服を着てはるし、見た目だけなら街で会ったらドキドキするような、ちょっと強面な感じで。でも、一緒にやるようになったら、めちゃくちゃ優しいですし、すごく隙もあるんです。
浜谷 いい感じに言ってくれてますが、それって抜けてる、っていう…(笑)
――(笑)。そこが逆に親しみやすいのかもしれないですね。役どころについては、今はどのようにとらえていますか?
浜谷 今、稽古で松本さんの演出を受けて、台本を読んでわからなかったことが、どんどん明確になってきています。すごく妹のことを想っていて、心配だったり、もどかしかったりして、自分をうまく表現できないんですね。ぶっきらぼうで不器用、家族のことを想っているけれど、どうしていいかわからない。うまく表現できないから伝わりにくい部分はあるかもしれないけど、根っこの部分は母や妹を大切に思っている。そこが芯になると思います。
山崎 なんだろう、子どものころから我慢をして、自分の想いを抑えて生きてきたのかな、って思っています。東京で仕事をしているときも、年下からなんやかんや言われるようなところもあって、どこにどうはけ口があるんやろか、っていう。言える場所ってどこなんやろう、ずっと溜めてるんやな、って。ずっとはっきり言わないんですよね。でも、私も家族っていう部分がしっかりないとな、って思います。ため込んでしまうのは、周りのことを考えると、そのほうがいいと思っているか。どうせお兄ちゃんのほうが、っている劣等感を常に抱えていて、自分は前に出ることはない。ずっと1歩さがっているほうが楽だ。そういう感じがしますね。
――演出の松本さんからの言葉で印象に残っているものはありますか?
山崎 影響しあってください、って言われましたね。やっぱり自分1人でやるんじゃなくて。実際、自分だけで考えていた時はうまく繋げられなかった部分も、相手がこう来たからこう感じて…っていう感じで、うまくいったりもして。まだ手探りで気持ちをつないでいく感じではあるんですけどね。
浜谷 丁寧に作る方だな、と改めて思いました。自分も長いこと役者をやっていて、もちろん台本やセリフを覚えて、役作りをして稽古に入ったりするんですけど、感覚でやっているところがあったと思います。松本さんの演出を受けて、なぜそうしているのか、なぜそういう想いになったのかを、頭から細かく丁寧に、それはこうだから、って言葉にしてくれるんです。感覚でとらえていたものが、ああそういうことだったか、と明確になっていく。それが大変だったりもするんですが、とにかく丁寧に作品のこと、役のことを見ている方だと思いますね。
――本作は全編宮崎弁というところも面白い部分かと思います。宮崎弁の印象はいかがですか?
山崎 とりあえず、教わっていることを言って、こんな感じなのかな、っていう状態です。たぶん、(知っている人は)ここ下手やなってわかると思う(笑)。でも、基本はそうだけど、その時の感情とかでも変わってくると思うし、その気持ちがあることが大事って松本さんもおっしゃっているので。お芝居がうまくいっていたら、宮崎弁のことも気にならなくなる。そこにばかりとらわれないように、自然に感情と一緒にスッと言えるようになれたらと思っています。”ちゃ”が多くて、今もまだ噛んじゃうセリフもあるんですよ。
浜谷 いや、ほんと難しいです。めちゃくちゃ苦労しています。でも、温かさもすごく感じるので、宮崎弁だからこそ伝わる部分もあるんじゃないかな。標準語でこのやりとりをしていたら、たぶん伝わることも違うと思う。松本さん自身が宮崎出身で、ご自分の言葉で書いて、それが物語になっているので、大切にやっていきたいですね。
――しずちゃんは先日、プライベートで宮崎にいかれたそうですね
山崎 もう、すごくいいところでした! 行きたい旅館があって、そこに泊まるために行ったんですけど、旅館のご夫婦の方がすごくあったかくて。空港から車で2時間くらいかかる、結構遠いところなんですけど、また行きたいですね。会いたい人ができました。それに、気候もすごく気持ちよかったです。
浜谷 僕も稽古に入る前に行ってきました。本当に人がすごく温かかったですね。これこれこういうお芝居のために来てるんだ、って話しかけたら「私のしゃべってるのは標準語に近いから」って言うんですけど、それがもう宮崎弁になっていてね(笑)。本当にいろいろな、あったかいものを感じてきました。
――宮崎で感じた温かさが、お芝居にも活きてきそうですね。最後に、お芝居を楽しみにしている方々にメッセージをお願いします!
浜谷 今回の作品は、本当に人の想いがあふれる作品になっています。観てくださった方が、家族のことを想ったり、大切な人のことを想ったり、会いたいな、と思ってくれたら嬉しいですね。ふと「あの人なにしてるかな?」って頭をよぎって、今日、電話してみようか、と思ってもらえるような作品になればと思っています!
山崎 お芝居は結構これまでもやらせていただいたんですが、実はそんなにちゃんと教わってはいないんですね。今、稽古でレッスンを受けているような気持ちです。これまでは、当て書きでもないですけど”私っぽい”役が多かったですが、今回は全然違う役なので。芸人さんがお芝居している、みたいな見られ方じゃなく、作品の中にちゃんと生きている人になりたい。ちゃんとお芝居ができる人として、立っていたいです。
――今、まさにお芝居が楽しくなってきたところなのかもしれませんね。お芝居の面白さはどういうところにありますか?
山崎 いわゆる芸人さん同士のやりとりとはまた違う面白さですよね。芸人とか、例えば新喜劇とかの場合、面白いこと言いますよ、っていうときにすごく不自然な動きもできてしまう。でもお芝居は、理由がないと動けないというか、いかにちゃんと意味があってリアルな動きをしているかなんですよね。そこがお笑いとは全然違うし、でも、お笑いに戻せる表現もあると思うので。どっちにもいい影響が出ればと思います。
――期待しています!本日はありがとうございました
インタビュー・文/宮崎新之