松尾スズキ2年ぶり新作!小説家をめぐる狂気のメロドラマ『ツダマンの世界』
2022年11月より東京・BunkamuraシアターコクーンにてCOCOON PRODUCTION 2022『ツダマンの世界』を上演することが決定した(12月下旬には京都ロームシアターメインホールでの上演も予定)。
作・演出を務めるのは、シアターコクーン芸術監督の松尾スズキ。就任後初の書き下ろしは、20年ぶりにミュージカルを手掛け“真日本製・本格ミュージカル”と謳った『フリムンシスターズ』(’20)。沖縄音楽を駆使し、人間の因果・許し・贖罪をテーマに、多様なバックグラウンドを持つ人々がトラウマと向き合いながら前に進む姿を描き、多くの観客の心を掴んだ。『シブヤデアイマショウ』(’21)では、総合演出として、歌・踊り・笑いを交えた大人の歌謡祭を開催、シアターコクーンならではの新たなエンターテインメントショーが話題に。また、『パ・ラパパンパン』(’21)では作家・藤本有紀とのタッグで豪華出演者と共にミステリーコメディ作品に挑んだ。
「師匠である私から、弟子である君に、悪いお知らせがあるんだ…」
そんな松尾スズキの期待の最新作は『ツダマンの世界』。日本の昭和初期から戦後を舞台に、「ツダマン」を中心とした小説家たちの濃密な愛憎劇を描き出す。物語の主人公・ツダマンこと、弟子に翻弄される小説家・津田万治を演じるのは、シアターコクーンには『フリムンシスターズ』以来の登場で、映画『死刑にいたる病』にて主演を務めるほか、ドラマ『空白を満たしなさい』での演技が話題を呼んだ、阿部サダヲ。自己愛と名声欲の強い弟子・長谷川葉蔵にはドラマ『奇跡のバックホーム』や『ナンバMG5』、現在公開中の映画『破戒』にて立て続けに主演を務め、シアターコクーン初登場となる間宮祥太朗。この物語の語り部となる女中・オシダホキにはNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』や話題作に次々出演、シアターコクーンの数々の舞台でも個性を発揮してきた江口のりこ。葉蔵の世話係・強張一三には、松尾スズキ作品には欠かせない存在で、ドラマ「失恋めし」「私のエレガンス」でも唯一無二の個性を示す、大人計画の村杉蝉之介。劇団員で歌手志望の津田の愛人・神林房枝には『フリムンシスターズ』での絶大な歌唱力とコミカルな演技が記憶に新しい笠松はる。葉蔵と関係を持とうとする謎の文学少女・兼持栄恵には映画・ドラマ・CMと目覚ましい活躍を見せ、今作が初舞台となる見上愛。ツダマンの友人の小説家・大名狂児には、松尾からの信頼厚い大人計画の怪優、ドラマ「あなたの番です」やクボタのCMで大注目の皆川猿時。そして津田万治の妻・津田数にはドラマ『妻、小学生になる。』や映画『沈黙のパレード』、現在上演中の主演舞台『ザ・ウェルキン』ほか、各ジャンルでしなやかな魅力を発揮し、今年デビュー25周年を迎え、ますます活動の幅を広げる吉田羊。松尾スズキの舞台作品には今回が初出演となる。
さらに町田水城、井上尚、青山祥子、中井千聖、八木光太郎、橋本隆佑、河合克夫ら実力のある舞台俳優らが集結。松尾スズキが描く濃密な人間ドラマ『ツダマンの世界』にご期待あれ!
そして、この発表にともない、作・演出を手掛ける松尾スズキからのコメントも到着した。
松尾スズキ(作・演出)コメント
昭和の文豪たちの逸話を読むたび“この人たちやってること滅茶苦茶だな”と思うのに、今では人から許され、愛され、尊敬されている。そうやって近代文学というジャンルを切り開いたパイオニアたちが、コンプライアンスという概念がない時代に、意外と狭い世界でもつれあい周囲を巻き込んで愛憎を繰り広げる悲喜劇姿にはエモさを感じるんです。そんな彼らの生き様を、文学に憑りつかれたエリートたちに巻き込まれた名もなき人々への鎮魂の意味も込めて描いていきたい。
また、個人的には自分の父親が佐賀県にいて原爆のキノコ雲を目にしていたりして、年齢的に戦争というものと地続きのところにまだ自分はいると感じられる今だからこそ、ここで少し戦争の話を書いておきたいという考えもありました。期せずして、まさに戦争が身近に感じられるタイミングになってしまったわけですが。とはいえ、実はちょうど現在のこの紛争が起こった当初、自分はギックリ腰になってしまっていて、それはそれで大変な時期だったんです。個人の中の宇宙とは、現実の戦争に匹敵するほどのカオスでもある。そういうことも今回、書きたいと思っています。実際に戦時中も、まったく関係のないことばかりをのんきに書き綴っていた作家もいて、そういう人たちの中の個人的な宇宙では、きっと戦争はまた別の世界線という認識で捉えられていたはず。とにかくそれぞれの人間の中に広がる宇宙というものは、どでかいんです。振り返ると結局、自分はこれまでそういうことばかり書いている気もしますけど。
今回、阿部に演じてもらう津田万治という男は、周囲の人たちがみんな極限状況で、直情的に気持ちを表す中、一人だけちょっと何を考えているかわからない、不気味な空洞のような人物。彼に関わる人がみんな、抱く印象がそれぞれ違ってくるような不思議な人物像で、その彼の世界をいろいろな人が口々に語るような話になると思います。
僕が芝居を作る時にいつも思うのは“人間の頭の中は何があろうと自由だ”、ということ。そして同時に“劇場の中も常に自由でありたい”、ということ。今回はそれを上回り、“日常生活にまで自由が溢れ出してしまっている”、そんな人たちの頭の中を覗ける劇体験をぜひとも味わっていただきたいと考えています
■松尾スズキ プロフィール
マツオ スズキ●1988年に大人計画を旗揚げ、主宰として作・演出・出演を務めるほか、小説家・エッセイスト・脚本・映画監督・俳優など多彩に活躍中。『ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~』(’97)で第41回岸田國士戯曲賞を、映画『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(’08)で第31回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を、『命、ギガ長ス』(’19)で第71回読売文学賞戯曲・シナリオ賞を受賞。小説『クワイエットルームにようこそ』、『老人賭博』、『もう「はい」としか言えない』は芥川賞候補となった。主演したテレビドラマ『ちかえもん』は第71回文化庁芸術祭賞ほか受賞。20年よりBunkamuraシアターコクーン芸術監督に就任。最近の公演としては『ゴーゴーボーイズ ゴーゴーヘブン』(’16・作・演出・出演)、『キャバレー』(’17・演出)、「日本総合悲劇協会vol.6『業音』」(’17・作・演出・出演)、『ニンゲン御破算』(’18・作・演出・出演)、『世界は一人』(’19・出演)、『命、ギガ長ス』(’19・作・演出・出演)、『キレイ-神様と待ち合わせした女-』(’00・作・演出・出演)、『フリムンシスターズ』(’20・作・演出)、『シブヤデアイマショウ』(’21・総合演出・構成台本・出演)、『パ・ラパパンパン』(’21・演出)、『命、ギガ長スW』(’22・作・演出)、『ドライブイン カリフォルニア』(’22・作・演出)などがある。