舞台「漆黒天-始の語り-」荒木宏文 インタビュー

ムービー(映画)×ステージ(演劇)の融合【ムビ×ステ】の第3弾として、荒木宏文と末満健一のタッグが実現した。今回、荒木と末満が挑むのは、1人の男をめぐる奇想時代劇ノワール。6月24日から上映されている、映画『漆黒天 -終の語り-』では、記憶を失くし、ぼろを纏った男〈名無し〉と彼を追う男たちの姿が描かれた。8、9月に上演される舞台「漆黒天 -始の語り-」では、その映画の前日譚が語られる。荒木に、久々のタッグとなる末満への期待や舞台への意気込みを聞いた。


――映画と舞台が融合した企画である「ムビ×ステ」で、末満さんとのタッグで作品を作るというのは役者さんにとって魅力的な企画だと思いますが、企画を聞いてどう感じましたか?

「おっしゃる通り、とてもありがたいお話をいただいたと思いました。『ムビ×ステ』は、これまで映画・舞台が違う主演で役者同士の掛け算で物語をより魅力的に見せることが多かったですが、今回は『脚本家とキャストの掛け算で見せる』とお聞きし、しかもそのお相手が末満さんだというので、ぜひやらせていただきたいとお返事しました。末満さんとは、以前に一度、舞台でご一緒させていただいたのですが(2019年上演の『COCOON 月の翳り 星ひとつ』)、その時は2作同時上演だったこともあり、作品のことで頭がいっぱいでした。それなので、お互いに深いコミュニケーションを取ることができずに終わってしまいました。もっと末満さんとコミュニケーションをとって、末満さんのことを理解すれば、作品としての取り組み方もより良いものになったんじゃないかと、個人的にすごく悔しい思いがあったので、こうしてまたチャンスをいただけたことは本当にありがたいと思っています。今回はよりコミュニケーションを取りながら役に向き合いたいと思っています」


――末満さんは、映画は脚本として参加、舞台は作・演出として携わりますが、映画の撮影時は末満さんとお話をする機会はありましたか?

「残念ながら、お話できなかったです。映画の撮影時に、坂本浩一監督から末満さんが脚本に込めたメッセージや思いなどはお聞きしましたし、個人的に連絡はとりましたが、現場ではお会いすることは叶いませんでした。ですが、映画というお互いに観ることできる、形になった作品が1つできあがっているので、そこから感じたものや価値観など、情報共有をしながら舞台の稽古に挑んでいくと考えたら、より深いセッションをしながら作ることができるのではないかという期待があります」


――本作も含め、荒木さんは末満さんの作る作品にどんな印象がありますか?

「視覚的情報を提示するときの美的センスに長けている方だなと思います。どの作品も共通して“一枚絵”を作るのがすごくうまいと感じました。だからこそ、美しい、きれいだと感じる瞬間が多い舞台になるんだと思います。本作でも共演している鈴木裕樹は、同じ事務所の同期で同い年ということもあり、以前から一緒に食事をしたり、話すことが多かったのですが、その鈴木から『荒木は末満さんと合うと思う』と聞いていました。きっと鈴木も何か末満さんと僕がリンクするところを感じたんだろうと思います」

 


――『COCOON 月の翳り 星ひとつ』で、実際に末満さんの演出を受けて、どう感じましたか?

「末満さんも強いこだわりを持った方で、はたから見たら面倒くさいほどこだわってしまう2人だと思うので、近しいものを感じますし、お話も楽しく、ご一緒できて本当に良かったと思いました。ただ、同時に、(末満さんの望むことに)きちんと応えきれなかったのではないかという悔しい思いも残っています。僕は、役者をやっていく上で、与えられた役柄をどれだけ人間に近づけていくことができるかという作業を徹底しています。どれだけ中身の潤った人物を作り込めるかに、役者としての美学や面白みを感じているので、当時、2作同時に上演することが、僕には負担が大きかったんだと思います。なので、今作への思いはより強くなっています」


――映画では、記憶をなくした“名無し”を演じました。かなり難しい役作りだったのではないですか?

「意外と演じやすかったです。僕は、この台本を最初に読んだ時、“光と影”や“正義と悪”という“陰陽”を感じました。それは、表と裏が、まさに50パーセント50パーセント、均等に1対1で存在するということ。そもそも、社会は、正義だったり、表だったり、光が当たる部分の割合を高めて導いてきた結果、できあがっていると思います。そう考えた時、本来はあるべき1対1が存在しないことに、僕はフラストレーションを感じていました。そうしてみると、この台本は、まさにその1対1で成り立っている台本なので、僕にとってはストレスがなかった。受け取る側が置かれている環境や立場、観る時のコンディションによって、どっちに転んでもいい話だな、と。もちろん、僕としてはやらなければいけないことが通常の2倍ありますし、アクションも派手ですし、過酷な撮影ではありましたが、僕の性格に合った台本だったので、気持ち良く演じることができました」


――今度は舞台で演じますが、それについてはどんな思いがありますか?

「今は、気負ってはいません。映画の撮影では、キャストの方々にも恵まれ楽しく撮影ができていたので、今度は舞台で徹底的に演じることができるのが楽しみです。映画では、あの時に表現できる最大限の役を作りましたが、それから時間も経っているので、僕も成長しています。ですので、より深みのあるキャラクターになるのではないかと思います。舞台は、映画の前日譚になるので、時系列では映画以前の話なのですが、そこに深みを持たせることで『また映画を見直したい』と思っていただけるような舞台を作り上げたいと思っています」


――こうした映像作品と舞台作品が連動している企画というのは、役者としてはどう感じますか?

「作品によるとは思います。舞台は、演劇的、古典的な表現でファンタジーな世界を作ることができます。それに、今はプロジェクションマッピングや照明、映像の技術なども向上し、より世界観を作りやすいですよね。ですが、同じ世界観を映画で作るとなった場合、とても難しいことだと思います。逆に、映画の方が向いているテーマや作品もあります。連動企画は、どちらの良さも生きる作品を作らなければいけないので、決して簡単ではないと思いますが、それができた時には、とても効果的だと思います。『ムビ×ステ』は、それができている企画だと思うので、ぜひ、どちらも観ていただきたいですね」


――確かに、映画『漆黒天 -終の語り-』も一つの作品として完成されていて、世界観ができあがっていました。それだけに、舞台ではまた違った手法でその世界観を作り上げ、そして、前日譚がどのように描かれるのか楽しみです。

「映画は、まさに“完結編”ですので、それが伏線で、ネタバラシが舞台になっています。『こういうことがあったから、映画ではああしていたんだ』と、映画を観て引っかかっていた部分が全て解消される作品になると思います。とはいえ、まだ台本ができあがっていないので、今、僕は予想で話しています(笑)。なので、僕の言葉を100パーセント信じ切って来ないでください。ぜひ、どんな作品になるのか、楽しみにしていただけたらと思います」

 

 

取材・文/嶋田真己