写真左から平原テツ、藤原季節
©大橋仁
加藤組の常連メンバーが集合する最新作は、演劇的に豊かな“青春失踪劇”
舞台作品だけにとどまらず、映像作品でも注目を集める劇作家にして演出家、加藤拓也が主宰する劇団た組。最新作『ドードーが落下する』に加藤作品の常連組と言える面々が顔を揃える中で、藤原季節と平原テツは過去に何度も共演しているものの「ここまでガッツリ絡める芝居は今回が初めて」だと頬を緩める。
藤原「僕にとってはチャレンジ。この“壁”を越えられたら成長できると思う」
平原「全然、僕なんか“壁”じゃないでしょ(笑)」
藤原「いや、いつもすぐ近くでテツさんの演技を見ていて、すごいな!って思っていたので。それに相対している共演者も素晴らしいと思ってきたから、いよいよ自分の番が回ってきたなと覚悟を決めましたよ」
平原「季節くんだって毎回、とても真っすぐな芝居でぶつかってくる姿がいいなって思っていました。ホント、今回は二人のシーンが多いから僕も嬉しいです」
藤原「それにしても今回、テツさんは大変なことになりそうですよね。ずっと舞台上にいて、ずっと喋っているし」
平原「あのセリフ量の多さ。加藤くんに、ちょっとイラッとしました(笑)」
藤原「公演ごとに“違うテツさんがもっと見たい!”と、あらゆる引き出しを加藤さんが開けている感じがします」
今回は藤原演じるイベント制作会社に勤める信也と、平原演じる売れない芸人の夏目を中心に、彼らを取り巻く人々を描く群像劇であり、加藤曰く“青春失踪劇”となる。
藤原「信也は受け身な人間なので、目の前にいる夏目や他の人たちの存在を見つめながら、その場で反応することが大事かなと思っていて。夏目に対しても、ただ一緒にいたメンバーのひとりとして見ていたはずが、ラストシーンに向けて感情がどんどん蓄積していく。稽古次第ですけど、その点は意識して演じてみようかと思っています」
平原「夏目は、ひたすら一生懸命生きていくだけ。自分では普通にしているつもりが周りに受け入れられないから、そこでズレが生まれてしまう。でもそのズレを表に出すよりも、単に夏目として必死で生きる姿を演じればそれで大丈夫じゃないかなと今のところは思っています」
小さなコミュニティの中で生まれる何気ない会話を紡ぐことで、静かに感情を揺さぶってくるのが加藤作品の魅力だとも語る二人。
平原「加藤くんの作品は基本的に明るい世界ではないので。毎回、台本を読み終わると“なにこれ?”って思いますからね。でも観てくださった方は必ず、何かを持ち帰ってくれている手応えがあるんです。それこそが、演劇が豊かになる瞬間。ただただ笑えて面白かった!というだけだと何も残らないけど、た組の舞台は一緒に観た人と何かを話したくなるというか」
藤原「確かに。暗い気持ちになる時もあるけど、でもそれって実際の人生で自分自身にも起きることでもある。演劇という約束された空間でそういう出来事に直面する登場人物たちを眺めることって、僕には意外に快感だったりもするんです。ああ、彼らがとうとう絶望的な局面に立たされてしまったなあとか、そういえば俺にもこんなことあったなあとか。今回の作品にはそういう、まさにテツさんが言う“演劇的に豊かな瞬間”がかなりありそうな気がしています」
インタビュー・文/田中里津子
【プロフィール】
フジワラ キセツ
■’93年生まれ。映画やテレビドラマの映像作品から舞台まで数多くの作品に出演している。
【プロフィール】
ヒラハラ テツ
■’09年―’22年まで劇団ハイバイに所属。舞台を中心にテレビドラマ、映画、CMにも多数出演。
※構成/月刊ローチケ編集部 8月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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