舞台『血の婚礼』演出家・杉原邦生インタビュー

スペインの劇作家、フェデリコ・ガルシーア・ロルカによる官能的な悲劇『血の婚礼』が、木村達成、須賀健太、早見あかり、安蘭けいら魅力的なキャスト陣により上演される。

一人の女をめぐり、男二人が命を懸けて闘うこの物語は、実際に起きた事件をもとに描かれ、ロルカの三大悲劇の一作と称される作品だ。稽古が佳境を迎える中、演出を手掛ける杉原邦生に、戯曲の魅力や演出の構想などを語ってもらった。

 

――今回、どのような経緯で『血の婚礼』の演出を手掛けることになったのでしょうか。

いくつかの作品をご提案いただいて、その中でロルカの『血の婚礼』を今やったらおもしろそうだなと思い、選ばせてもらいました。僕自身、翻訳劇を頻繁にやるイメージを持たれていると思うのですが、『グリークス』(2019年)以来なので、実は三年ぶりです。これまでは、シェイクスピアやギリシャ悲劇などを演出することが多く、近代古典はほとんど触れてこなかったジャンルだったので、「新しいことができるんじゃないか」と思いましたし、ロルカの描く“詩的な世界”というのが、新鮮でおもしろく感じられたんですよね。

――戯曲のどんなところに魅力を感じられたのでしょうか。

一幕・二幕は「観たことのあるような物語」という印象を持ちましたが、三幕になると、急に詩的で、前衛的な世界観に飛躍するんです。そこがすごくおもしろくて。「こういう視点が介入してくる戯曲なら、僕もやれるかもしれない。前衛劇から出発して小劇場で活動してきた自分みたいな人間がやったほうがおもしろくなるかも」と思いました。登場人物たちが情熱的に言葉を語る芝居なので、直接的な、言葉と言葉のコミュニケーションが変容している現代の社会では、観る人にとってはすごく違和感があるかもしれません。「そんなこと私たちできないよ」って感じる部分もあるかもしれないけれど、そこにある種の憧れや魅力と言いますか、「人と人とが直接ぶつかり合うことって、悪くないかもしれない」と思えるような“希望”を持てる、そういう作品になるんじゃないかな、って。

――作品自体は過去にご覧になられているそうですが、改めて戯曲を読んでみて、どんな印象を受けましたか。

「難しい本だな」と今も格闘しています。僕は歌舞伎の演出をやっていることもあり、スペクタルさやケレン味がある、“派手な見せ方“が好きなんですが、この作品ではそういった見せ方のやりどころがありません。なので、新劇的と言いますか、台本の世界観を地道に立ち上げていく精神力が必要なので、もう、座禅組みながら演出しているみたいですね(笑)。でも、これまでにリアリズムの芝居を演出したこともありますし、シンプルな会話劇をつくること自体にも抵抗はないんです。ただ、そこだけで見せるものではない演出になるとは思います。とは言え、今夏演出した『パンドラの鐘』も会場は同じシアターコクーンでしたが、今作と両方ご覧になられた方は「これは同じ演出家の作品なの?」と感じるかもしれないですね。

――今回、歌唱場面もあるそうですね。角銅真実さんと古川麦さんの音楽が作品をどう彩るのかも気になります。

角銅さんとは、これまでに『プレイタイム』(2020)『パレード、パレード』(2021)と二作品でご一緒していて、ご本人はふわっとしたお人柄の方なんですが、作る音楽はすごくエッジが効いているんです。『血の婚礼』がテーマとする“愛”って、おおらかに包み込むものでもあるし、時に人を傷つけるものでもある。その両極のものが、彼女の音楽から出てくるだろうなと思い、今回お願いしました。さらに、角銅さんが「古川麦くんとやったらおもしろそう」と提案してくださって、一緒に音楽を担っていただくことになりました。

――古川さんの楽曲はアコースティックの印象がありますが、劇中で使われる楽曲もアコースティックになりそうですか。

そうですね。僕自身は普段はクラブミュージックなどデジタル音楽を聞くことが多いので、正直に言うとアコースティックのことはわからない部分も多いです。これまで自分の作品ではあまり使ってこなかった部類の音楽ですが、この作品にはすごく合っていると思います。古川くんが作曲した音楽で作品をつくるのは今回が初めてになるので、新しい出会いを楽しみながらやらせていただいています。稽古場での無茶ぶりに対しても(笑)、翌日には違う曲を作ってきてくれたりと、レスポンスの早さが頼もしいです。

――生演奏というのもたのしみです。全体的な楽曲の印象はいかがですか。

角銅さんと古川くんがそれぞれ作曲してくれていますが、全体的な世界観は統一されていて、ギターがメインで情熱的な印象です。特にスペインらしい音楽というわけではありませんが、心地良く揺さぶってくれる音楽ですね。やさしい音色の楽器を使うので耳障りが良いですが、それだけではなく、滾らせてくれるものがある曲が並んでいるので、役や作品に寄り添って作ってくれている感じがします。

――美術はトラフ建築設計事務所が担当されます。これは杉原さんのリクエストだったのでしょうか。

そうですね。チェルフィッチュの作品などで舞台美術をされているのを知って、「演劇の分野にも入ってくれる建築家さんがいるんだ」と気になっていたんです。トラフさんが普段から造っているプロダクトからも、抽象度の高い、いい意味で建築家らしくないというか、構造物を建て込むだけではなく、そこに「人」がいることの機能性も兼ね備えているデザインだな、と感じていて。

――杉原さんご自身も様々な作品で美術を手掛けていますが、今回はどのようなセットになりそうですか。

連日話し合いを重ねて、昨日も変更が出たばかりですが、おもしろいものになっていくんじゃないかな、という予感はしていますね。トラフさんらしくもあり、杉原邦生演出らしくもあるというか。どうしたら戯曲の世界観をお客さまにわかりやすく、おもしろく、かっこよく伝えられるか、ということに集中してプランニングしています。今回は「壁」「土」「色」がテーマで、戯曲のト書きや台詞にも色のイメージが出てくるのですが、それをどうやって表現しようかな、と。もちろん美術だけでなく、照明や衣裳も含めてつくり上げていきたいと思っています。

――メインビジュアルで使用されているTSUMORI CHISATOコレクションの衣裳も素敵ですよね。セットをはじめ、ビジュアル面でもたのしめそうな印象を持ちました。

演劇以外のジャンルの方を呼び込むことによって、演劇にあまり興味がない方にも「この人たちが関わっているなら観てみようかな」って思ってもらいたい、という思いはありますね。異ジャンルの方を自分の座組にキャスティングすることは今後も積極的にやっていきたいと思っているので、今回もそれが実現できているのはうれしいですね。

――お稽古が進んでいく中で、キャストの方の印象の変化はありましたか。

木村(達成)くんは、「意外と男っぽい」。舞台で観たときは、きれいな美青年という印象でしたが、今回の役柄は無骨で粗野な、ワイルドな男性像なので、そういう役を演じる木村くんは新鮮で色気があるな、と感じています。お客さまにもそれは大いに感じていただけると思います。

須賀(健太)くんは、「やはりかわいい」(笑)。そこはこれまでの印象と変わらないですね。ムードーメーカーな一面があって、周りをよく見ながら、稽古場が明るくなるように努めてくれていて。仕事をたのしもう、というポジティブな姿勢が印象的ですね。意外性で言うと、かなり繊細な感性を持ち合わせている気がします。

早見(あかり)さんは、とにかく「ハングリー」。負けず嫌いなところがあるし、新しいことへの挑戦も前向きに臨んでいて、自分の変化をたのしもうという姿勢が見えるんですよね。役とリンクする芯の強さがある方ですし、これから先の稽古もたのしみです。

安蘭(けい)さんは、「かっこよくて楽しい方」ですね。父親役の吉見(一豊)さんとお二人で笑うのを堪えながら芝居している姿がおもしろくてしょうがないです(笑)。あと、演出家にもストレートに意見を伝えて、一緒に解決策を探そう、と建設的に関係を築いてくださる方ですね。大先輩ではありますが、一瞬で信頼できる、“同志”のように稽古場にいてくださるのがありがたいですね。

―― 一人の女性をめぐり、男たちが命を懸けて闘う物語ですが、花嫁、花婿の母親の女性キャラクターたちがどう描かれるのか、という部分にも興味があります。今の時代に上演するにあたって、「こう描きたい」という構想はありますか。

僕自身はことさらフェミニズムな思考を持っているわけではないので、女性を描くことに何か特別な思いがあるわけではありません。ですが、男たちが死に、最終的に女性たちが残るという戯曲の展開から、「大地に女性が力強く立っている」といった印象を受けたことは確かです。生き残った女性たちがエネルギーに満ち、たくましく、かっこよく見えたらいいなという希望はありますね。

――演出家として、今後挑戦してみたい作品やジャンルがあれば教えてください。

オペラですね。お金をいっぱいかけられそうなので(笑)。どうせならニーベルングの指環三部作とか、大作をオペラ初挑戦でやってみたいですね(笑)。単純に、やったことがないことに挑みたいんです。もうすぐ40歳になるので、演出家としても若手ではなくなりますが、どんどん新しいことに挑戦していきたい、いろんなジャンルの方と関わっていきたい、というのは常に思っています。

――それでは最後に、お客さまへメッセージをお願いします。

日本人にとって馴染みのない作品なので「難しそうだな」と感じるかもしれませんが、現代のお客さまにわかりやすくつくるつもりでいますし、音楽やビジュアル面でも楽しんでいただける作品だと思います。美しい人たちが愛にドロドロに溺れていく姿を観ていただきたいです。なかなか劇場に足を運びづらい状況ではありますが、ライブでしか伝わらない、たのしめないものが必ずありますので、劇場にお越しいただけたらうれしいです。

 

取材・文/古内かほ

写真/宮川舞子

稽古場写真/サギサカユウマ