☆10/29(土)開幕☆劇団・小松台東 最新作「左手と右手」│松本哲也(作・演出)&吉田久美(演劇集団 円)インタビュー!

すべての作品を宮崎弁で上演する劇団・小松台東の最新作「左手と右手」が10月29日より、東京・下北沢駅前劇場にて上演される。客演に演劇集団 円の吉田久美、作・演出を松本哲也が手掛け、別離を繰り返すある男女の抗いがたい結びつきを丁寧に描いていく。“繋がってしまった”2人を、どのように演じていくのか、吉田と松本の2人に話を聞いた。

――物語のきっかけはどのようなところから作ったんでしょうか?

松本 5月にやった作品「シャンドレ」が男4人だけの芝居だったので、次は男女の話にしよう、と決めていたんです。それで、最初に作ったのがチラシなどにも入っている「付き合って捨てて奪って捨てた。そんなあの人と私はまた一緒にいる。」という言葉でした。何かドロドロしたものを書きたい、と思って出てきた言葉でしたね。なんかインパクトあるでしょ。この言葉から、内容を決めていった感じですね。

――お話を広げていく上で、意識されたことなどはありましたか?

松本 そうですね…実際に書くまでには結構時間がかかっていて。それで、なんか今回は吉田さんにやってもらいたい、って思ったんですよね。吉田さんと僕は全然面識もなくて、舞台上で1回観ただけだったんです。それで、5月の芝居を見に来てくれた時に挨拶したくらい。ほとんど話もしていなくて、チラシ撮影とかの日に半日くらい一緒だったかな? たぶん、4回くらい会っただけで、そこから書き始めたんだけど、なんか吉田さんに惹きこまれて…って感じで書いていきましたね。

――きっかけになった言葉と、吉田さんのイメージから膨らませたんですね。今回、吉田さんに演じてもらいたいと思った決め手はどのようなところだったんでしょうか?

松本 1回、短編の舞台で観たときにすごく印象に残っていて。何気ない感じなんだけど、芯が強そうで、そういう人が良いなと思っていた時に、ふと吉田さんが浮かんできたんですよ。それで、誰か連絡を取れる人を探して、スタッフさん経由でお願いしました。

吉田 最初は、まさか、本当に私で合ってる?って思いました。面識もなかったので、何か間違われているんじゃないかと(笑)。すごく嬉しかったんですけど、戸惑いも大きくてなかなかお返事もできなかったんです。小松台東さんのお芝居は大好きでしたし、今回の役についても聞いていたので、本当に私でいいのか?という想いもあったんです。私にとっては、すごく挑戦になる作品です。

――面識はなかったとのことですが、もともとの松本さんにどのようなイメージをお持ちでしたか?

吉田 私は舞台上の松本さんしか知らないので、役柄のイメージもあって、怖い方なんじゃないか、と…。でも、はじめてご挨拶したときや、チラシ撮影の日にゆっくりお話しさせていただいて、全然印象が違って、こんなに優しい方なんだな、って思い直しました。

――吉田さんはストーリーにどのような印象を持たれましたか?

吉田 私も、その言葉から入ったので、本当にドロドロしたものを想像していました。捨てられて、奪われて、すごくひどいことになっているのかな、と思ったんですけど…2人にしかわからなくても、幸せな2人という印象ですね。ぜんぜん不幸じゃないな、って思いました。

――演じられる由美という女性について、どんなキャラクターだと捉えていますか?

吉田 迷いながらも、自分が決めて選んだことに進みたいのかな。自分の中の気持ちというよりも、周りに与える影響とか環境のことで

すごく考えることが多いんじゃないかと思います。稽古場で話していることや、松本さんから伺ったこと、小さな自分の経験してきたことを膨らませているところです。ほかの出演者の方から頂くものを、とにかく頂いて、今は毎日稽古に励んでいますね。

――演出の際に、意識されていることなどはありますか?

松本 わからないことは、わからないままでいいんじゃないか、という話はしています。普段、自分でも自分がどういう人か分からないし、迷いながら生きている。台本にも直接的な言葉は無いので、由美に限らずほかの登場人物でも、ちょっとした目線など、頭の中や心の中で何が浮かんでいるのかをちゃんと意識しよう、というのは共通認識として思っていますね。言葉ではこう言っているけど、心の中では何を思っているのか――そうすると、言葉にしなくても、体や空気からあふれ出るものがきっとあるはずなので、それを目指してやっています。

――由美の対となる男・誠司はどのような男でしょうか?

松本 今までの僕がやる役を見ている人から言うと、本当に暴力的な男なんじゃないかと思うんでしょうけど(笑)。このチラシもそうだし、吉田さんが演じる由美をどんどん追い詰めていくような、そんなイメージを持たれているっぽいんですよね。でも、優しい男…とまでは言えないんですけど、あんまり掴みどころのない男です。手をあげるとか、そういう苦しみは与えないですけど、ちょっとした行動とかで、やっぱり苦しめている部分はあって、不器用で何を考えているか分からない。けど、変わらないのは由美をずっと好きだということ。そういう男ですね。そこは誠司だけじゃなく、お互いがそうですね。縋るものがある人が幸せな人で、縋るものを間違えたら大変ですけど、そういうものがある人はきっと幸せなんだろうな、と思いますね。

――今回のお話からは、人生において縋るもの、拠り所となるものとは何か、というテーマも感じられますがいかがでしょうか?

松本 拠り所って、小さい物でもたくさんあればあるほどいいと思っていますね。好きな小説家が居たり、ミュージシャンが居たり。舞台、映画とかが好きで、その新作に毎回ワクワクできる、楽しみにできることも拠り所になりますよね。好きなゴハン屋さんに行くことでもいい。そういうちっちゃいものは、自分にもたくさんあると思います。でも、大きなものは…わからないなぁ。自分にとっては、たくさん集まっている感じですかね。

吉田 私は…拠り所が全然浮かばない(笑)。お話を聞いているとすごく素敵だなって思います。でも、そういう感じの好きなことって浮かばないんですよね。パッと浮かんだのは、甥っ子と姪っ子の将来。ちょっと違いますよね(笑)。この子たちが、未来にどうなっていくのかは見たいです。あとは、初めて経験することでしょうか。初めて経験することばかりではあるんですけど、そういうところに自分から行くところは、そうかもしれないです。

――過去にあった何かに執着するのではなく、常に新しい何かを経験したい、という感じなんですね

吉田 でも、何か自分なりのこだわりを持っている人がうらやましくもあります。好きなものに夢中になっている人に、いいな、って思いますね。

松本 僕も、そういう執着みたいなものは無いんだよね。だからこそ、物語の中でこういう何かを描きたいのかもしれない。でも、自分に無いものは書けないような気もするし、どこかにあるのかもしれないけれど。

――今、まさに稽古の最中かと思いますが、稽古をやっていく中で見えてきたものはありますか?

松本 女性が男のひとに尽くして後ろで立てて…っていうのじゃなく、ちゃんと女性もちゃんと平等にいるというか、女性も強くいる、という感じになればいいね、とはこの間、話をしましたね。台本だけ読むと、ダメな男の人を女が支えて…みたいになってしまいそうなんだけど、そういう古い感じじゃなくて、女性がちゃんと自分の意思で選んでこうしている、というのが見えるようにしていきたい。それは稽古を重ねていく中で見えてきたところだと思います。

吉田 まさに、選んでいる、という部分は大きいと思います。捨てられる、っていうところも、確かに形的にはそうなるのかも知れないんですけど、すれ違いというか。捨てました、だから切りました、じゃないんですうよね。どうにもならないことがあったから離れてた、というだけなんですよね。すごく嫌いになってとか、すごく傷つけて、とかじゃない。それはいろいろディスカッションしていく中で見えてきました。あと、周りの人の印象も、本を読んでいただけのときよりも、ただその人が必死に生きていただけなんだ、って感じられましたね。

――稽古を重ねる中で、どんどん物語に命が吹き込まれているように思います。最後に公演に向けての意気込みをお願いします!

吉田 発する言葉のひと言だけでもそうなんですが、そのひと言の間にある空気感、周りにある世界がグンと広がっていくようなお芝居になると思いますので、そこを楽しんでいただけたら。宮崎弁で演じることは、最初は外国語のようにも感じました。イントネーションによって、違う意味になってしまうこともあって、すごく新鮮です。そして、宮崎弁に優しさや温かみも感じているので、それを極力、体に馴染ませていきたいと思います。

松本 自分で言うのもナンですが、本当に素敵な愛の物語です。チラシの印象とかからは、いい意味で裏切るような内容になっています。そして、観終わったあとにチラシを見ると、逆に納得感があると思いますので、ぜひ楽しみにしていただきたいですね。

――想像を超える物語を期待したいと思います!本日はありがとうございました

インタビュー・文/宮崎新之