舞台『4000マイルズ〜旅立ちの時〜』が、東京・シアタークリエにて12月12日に開幕する。本作は、2011年にオフ・ブロードウェイにて世界初演、2012年にオビー賞のベスト・ニュー・アメリカンプレイを受賞、2013年にピューリッツアー賞の最終候補となり、以降、世界各地で上演されている話題作。岡本圭人演じる大学生のレオが、高畑淳子演じる祖母のヴェラのもとを訪ねることから物語は始まっていく。これが日本初演となり、演出は上村聡史が手掛ける。主演の岡本圭人に話を聞いた。
自分の人生にも伝えるべきものがある
――お稽古が始まる前ではありますが、戯曲を読んでどう思われましたか?
「読んでいるうちに自分自身と祖母との楽しい記憶が蘇ってきてとても温かい気持ちになりました。レオとヴェラおばあちゃんの関係性がすごく素敵でいいなと感じます。ふたりとも心に傷のようなものを負っているけれども、少しずつコミュニケーションや会話をしていくことで、お互いが心を開いていき、次に進んでいく。その関係性にも温かい気持ちになりました。いまは台本を読み解く作業をしているところですが、すごくよく書かれた素晴らしい作品だと感じています」
――この作品は、派手な展開というよりは、静かに心の機微を重ねていくような内容ですよね。
「留学したアメリカの演劇学校のクラスで、演技の先生によく言われていたのが、俳優である以前に『みんなそれぞれストーリーテラーなんだ』『人間は、自分の人生や(そこで)起きたことを、人に伝えるべきなんだ』ということでした。それを僕はすごく素敵だなと思っていて。この作品も、大きなドラマがあるわけではない、日常を描いています。こういう作品を届けることによって、観に来てくれたお客さんが『自分の人生にも伝えるべきものがあるんだ』と思ってもらえたら嬉しいです」
――「すごくよく書かれた素晴らしい作品」とおっしゃっていたのはそういう部分でしょうか。
「日常の中の何気ない会話に読めるけれども、その中にいろんなドラマがあったりするので。とくに今って(コロナ禍もあり)人との関わりが少なくなっているから、あまり自分のことを他の人に話せない時代でもある。だからより、こういう作品を届けることができるのはすごくいいことなんだろうなと思っています」
ニューヨークで暮らした経験が生きる役
――ご自身のレオという役は、現段階でどんな人物だと思われますか?
「最初に読んで思ったのは、レオは自分の心に正直な人だなってことでした。すごく素直。自分の言いたいことも言うけど人の話も聞きますし、急に熱くなったりもしますしね。人の影響も受けやすい人なのかな。人間らしい人。強さの中には少し脆さや弱さがあるし、自由奔放に見えて人にやさしいところもある。自分もこういう人間になれたらいいなって、尊敬する人物だと自分は思いました。あとは、人を大切にするというか、人との繋がりを大切にするのかな。そういう、素敵な人だなと思います」
――ご自身と重なる部分もありますか?
「この作品の舞台は、自分も留学中に住んでいたニューヨークです。劇中でレオがニューヨークについて『ビルの監獄にいるみたい』『鳥かごに入っているみたい』というようなことを言いますが、僕も同じように思った経験があります。だからそこは『留学してニューヨークに住んでよかったな』と思えました。逆に重ならない部分は、レオは政治的なことにも詳しいし、マルクス(カール・マルクス/社会主義および労働運動に強い影響を与えた人物)も好き。自分はそういったことに関心がなかったので、レオの台詞を生きた言葉として言えるように、政治的なことも勉強していかなければいけないなと思っています。あと、レオは母親との関係があまり良くないのですが、自分はけっこうお母さん子だったりもしますし、そこはちょっと自分の人生と違うところなので、考えていかなきゃいけないなと思っています」
――レオとヴェラは、時代や年齢を超えてわかり合っていきますが、岡本さんはそういった経験はありますか?
「アメリカの演劇学校で出会った人たちは、年齢もバラバラだし、育ってきた国もバラバラでした。だけどみんな目指すところは一緒だったので、年齢も人種も性別も関係なく、いろんなことを話し合えたなと思います。その中で一番覚えているのは、ボイス(=声の出し方)&スピーチ(=話し方)という授業の最初の試験が『クラスメイトの前で、今まで誰にも語ったことのないトラウマを話す』というものだったのですが、そのときのことです。自分はある程度『こういうことを言えばいいんだろうな』と考えていたのですが、クラスメイトたちがどんどん心をオープンにして話すことを聞いていると、自分も、用意したものではない、人に言えなかったトラウマを話し始めて。そのときに泣き叫んじゃったんですよね。でも言葉が出なくなると、先生に『ちゃんと腹から声を出す』ってことを言われるんですけど。でも、そういう姿は人に見せたことがなかったので、その授業が終わった後の、みんなが心を開いた瞬間は、今でもすごく覚えています。僕が演じるレオも同じような経験をするので、自分の経験も生かしてつくりあげていけたらいいなと思っています」
自分を知ってくれている人とつくる作品です
――先週、演出の上村さんと岡本さんと高畑さんの3人でプレ稽古として本読みをされたそうですね。いかがでしたか?
「僕は高畑さんに“太陽のような存在”というイメージを持っているんです。舞台などで拝見すると、登場した瞬間になにかパッと華やぐというような印象がある。そんな高畑さんと本読みをしていると、こちらも太陽に巻き込まれるような、そんな感覚になりました。改めて稽古が始まったら素敵な関係性を築いていけたらと思いましたし、築いていけるという確信も持てました」
――岡本さんは小さい頃、高畑さんに遊んでもらっていたそうですね。
「この作品のコメント動画で、高畑さんが父(岡本健一)と共演したときに、僕と楽屋で遊んでくださっていたというお話をされていて、自分が一番びっくりしちゃいました(笑)。当時、5歳くらいだと思うんですけど、人生の中で一番暴れん坊だった時期です。だからプレ稽古で『子供の頃はお世話になりました』と言ったら、『本当に大変だったんだからね、あなた(笑)』って(笑)」
――いまの落ち着いた岡本さんからは想像つかないです(笑)。
「そういう、自分も覚えていないような、20年以上前の自分を知ってもらえている相手だと思うと、すごく安心感があるし、身を任せられそうですよね。稽古が始まる前からなにか少し関係性ができている感じがしますし、稽古が始まったら、他の人には見せられないようなところも、今の自分なら高畑さんに見せられるなと思っているので。そこが楽しみなところでもあります」
――演出の上村さんともタッグは初めてですが、昔からのお知り合いだそうですね。
「父の出演する作品の演出を手掛けられていたので、観劇後に挨拶させていただいたりしました。だから『圭人』って呼んでくださるんですよ。それがなんだかすっごくうれしくて。プレ稽古のときも、『圭人、ここはこうだから』ってアドバイスをしてくださるんですけど、その呼ばれ方にちょっとキュンとしちゃって(笑)。演出家としての上村さんは、とても的確な演出や指導をしてくださる印象です。これから尊敬する上村さんに導いていただいて、自分がどういうレオになっていくんだろう、どういう役者になっていくんだろう、というのが楽しみです」
取材・文:中川實穗
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