コンプソンズ#10『われらの狂気を生き延びる道を教えてください』│金子鈴幸×村田寛奈インタビュー

11月10日(木)より東京・浅草九劇にて、コンプソンズ#10『われらの狂気を生き延びる道を教えてください』が開幕する。コンプソンズは2016年に作・演出を手がける金子鈴幸と俳優の星野花菜里によって発足、これまで鮮烈な作品を多く発表してきた。世の中で起きるあらゆる社会問題を即時性と多面性を以って風刺する独特の眼差し、そこに相乗するフィクショナルだがしかし解像度の高い物語、ハイテンポに連投されるナンセンスギャグには俳優の器量とユーモアが光る。昨年は劇団メンバーの個人企画やプロデュース公演をはじめ、金子以外のメンバーが短編の作・演出に挑むなどチャレンジングな試みも相次いだ。2021年4月に上演され大盛況となった『何を見ても何かを思い出すと思う』ぶり、約1年半越しとなる新作『われらの狂気を生き延びる道を教えてください』の舞台は、元アイドルが営むラーメン店。主演で元アイドルのまさこ役を演じる村田寛奈と作・演出を担う金子鈴幸に本作について話を聞いた。

――元アイドル・まさこが営むラーメン店を舞台に、かつてのアイドル仲間・れんげをはじめ様々な境遇と運命を背負うキャラクターたちの“狂気”が交錯する本作ですが、村田さんが最初に台本を読んだ時はどんな印象を受けましたか?

村田 今まで自分がやったことも観たこともないような演劇だと感じました。金子さんがあてがきして下さっているので役には入りやすいのですが、なにしろ描写がぶっ飛んでいる!これをどう表現していこうかと試行錯誤の毎日です。

金子 九劇さんからお声かけいただき、様々な対話を経て生まれたのがこの題材でした。元アイドルのラーメン屋店主を主演にするにあたってご紹介いただいたのが村田さんだったのですが、稽古初日に「あ、これはいけるぞ!」と思いました。面識のない方とご一緒するのは初めての経験だったので緊張もあったのですが、すごくしっくりきたというか。最初はどういう感じの物語がいいかな、もっと間口を広げた方がいいかなとあれこれ書いてみたんですけど、結果的にこんな感じになってしまったっていう……。

――類に漏れず、コンプソンズ味が特濃に溢れてしまったと(笑)

村田 ここ最近話題になったことがたくさん台本に組み込まれていて驚きました。ここまでリアルな世の中を取り入れた演劇を観たことがなかったので、面白いなあって。「こんなこと言っちゃっていいんだ!」って思いながら台本を覚えています(笑)。

金子 それはコンプソンズの原点的な要素でもあるんですよね。まだ何の力もない状態で「とにかく言っちゃいけないことを大声で叫ぶだけの演劇をやろう」って。そんなノリから劇団を始めて6年が経って……。ここ数年で台本を書くスタンスも明確になりつつあり、ようやく演劇っぽいことをやっているぞ、と思えるようになったというか。

村田 金子さんに初めてお会いしたのは顔合わせで、その時はめちゃくちゃ物静かな方だなと思っていたんですよ。私も人見知りなので大丈夫かなと思ったのですが、いざ本読みが始まったらすごくしゃべっていらしたので安心しました(笑)。

金子 あの時は緊張もあったのですが、プライベートでも色々あって……。フラれた二日後だったんですよ(笑)。

村田 えー!!

金子 その日はだいぶボーッとしていたんでしょうね(笑)。でも、稽古が始まり、村田さんのお芝居を拝見して、プロってすごいなってつくづく痛感しています。修正をお願いしても、次の稽古には期待以上のお芝居で応えてくださるんですよね。勘がすごいんだと思います。

村田 そんなことないです! めちゃくちゃ必死ですよ。みなさん、テンポ感とかテンションがすでに仕上がっているので、「おいてかないでー!」って思いながら食らいついている状態です。

金子 そうなんですか? てっきり余裕でこなしているものだと!

――アイドルとして活動されてきた村田さんがアイドルの役をやるというのは、どんな心持ちなのでしょう?

村田 新鮮なのかなと思っていたんですけど、意外とそうでもなくて…。というのも、アイドル感というのが終盤までゼロなんです。

金子 あははは!

村田 元アイドルと言いつつ、言葉遣いや振る舞いが全くいわゆるのアイドルじゃないんですよね。でも、まあアイドルって裏ではこんなもんかもな、と思ったりもしつつ(笑)。自分がアイドルだったという実感を忘れて、ひたすら湯切りとかしています。関西弁で話すのも新鮮です。

金子 関西弁で台本を執筆していると、どうしてもテンポが止まっちゃうので、いったん自分の言葉で書いてみて、そこから村田さんと話し合いながら語尾を変えたりしているんです。関西弁にしている部分も文脈の流れで標準語の方が言いやすければ変えてもらってもいいし、その逆があってもいいと思っています。村田さんはお芝居にキャラクターがすごく入っていらっしゃるのでどのやり方でも成立している感じがあって、かなりいい感じに進んでいます。

村田 コンプソンズの魅力や持ち味は色々な方からお聞きはしていたんですけど、稽古が始まるまではそのカラーをどう表現していけばいいだろうって悩んでいたんです。でも、実際に立ってセリフを言ったり、みなさんの掛け合いを見ていく中でガラッと意識が変わって。今はコンプソンズ作品が構築されていくのをひしひしと体感しています。歌もダンスも盛り沢山ですよね。

――村田さんの歌やダンスを楽しみにされている方は多いと思います。金子さんの劇作って、その人だからできることや輝くシーンっていうのがたくさん散りばめられていますよね。まさに個性の渋滞というか

金子 もう少し渋滞整備をしないとと思ってはいるのですが……(笑)。

村田 あははは! まさこという役と向き合う中でも、今の自分ができることの全部を詰め込んでくださっている、というのはすごく感じています。

金子 村田さんのライブの映像を見た時に、やはり村田さんが歌う画はどこかで必ず入れたいなと思ったんですよね。

村田 アイドルのライブ映像を見たりすると、刺激されて、「いいなあ、気持ちよさそうだな」とかは思うんですけど、今はお芝居に没入しすぎていて、「あ、ここで歌うのか」って逆にびっくりしたりもしています(笑)。自分の中に台本が完全に入ってキャラクターが固まったら歌やダンスに振り切れるのかなと思ったり……。

――稽古の中で楽しい瞬間、逆にこれには苦戦しているということなどはありますか?

村田 こんなに人にツッコんだりボケたりする役ってこれまでやったことがなかったので、バシバシ言える感じがすごく楽しい! 難しいなと思うのは、内容をしっかり理解できているかということ。読解するのに人一倍時間がかかるので、突き詰めても突き詰め切れないというか……。なので、とにかく死ぬほど台本を読み込もうと思っています。

金子 村田さんの質問ってすごく鋭いんですよ。「やべ、それは考えていなかったぞ」と思うことがたくさんあるんですよね。「ここはどういう意味ですか?」って聞かれたシーンが自分都合で前後を削ってしまっていた箇所だったりもして……。矛盾を見破る勘というか、そういった感覚にも長けた方だと感じています。大竹しのぶさんが野田秀樹さんのお芝居の稽古をしている時に「このセリフが言いづらいんですけど」と言うと、大体設定に矛盾があるという話を聞いたことがあるんですけど。なので、村田さんは大竹しのぶさんタイプなのかもしれない!

村田 ぎゃ〜!

――コンプソンズの稽古は俳優さんが積極的に発言されていたり、金子さんが「やりにくいところないですか?」と都度意見を仰いでいらっしゃたり、そういった相互理解を大切につくられている印象があります

村田 疑問があっても、すぐにその場で聞ける環境だと思います。それで大体納得できるというか。「なんでこのセリフなんだろう」とか、セリフじゃなくても「なんで私今立ったんだろう」とか、まさこの言動に対して謎のゾーンにハマってしまって、結果質問する時に「あれ、今何を聞こうとしてたんだっけ!」とテンパる時もあるのですが(笑)。

金子 そういった俳優さんからの疑問によって矛盾を見つけたり、新たな解釈やまた別のドラマが立ち上がったりすることがあるんですよね。なので、疑問ややりにくさを伝えてもらえるのはとても有難いです。

――コンプソンズ初の浅草九劇での上演ということで、劇場とのマリアージュもとても楽しみです

金子 浅草って街のパワーがすごくあるので、当初は浅草感のある物語や下町人情ものとかがいいのかなと思ったりもしたんです。それこそ、去年は『何を見ても何かを思い出してしまう』という下北沢を題材にした公演を下北沢で上演して、お客さんが劇場を出るときに色々思い出す、という狙いにしたんですよね。でも、プロデューサーさんと話す中で今回は街とのリンクにはあまりこだわらなくていいのかなと感じたこともあって、それならお客さんが劇世界に没入するような箱庭の世界として成立させようと思いました。でも、帰りにラーメンを食べたくなるようにだけはしたいなと!

村田 それ、すっごくわかります!私、この稽古始まってからずっとラーメン食べたいって思ってますもん(笑)。

――実は私も台本を拝読した後、ラーメンを食べました。村田さんがラーメン屋店主に扮するのもコンプソンズでしか見られなさそうで楽しみです

村田 今までに見たことない自分の姿を見てもらえるのは嬉しいですね。でも、この濃い演劇の世界観に没入してもらえたら、それが一番嬉しいです。作品そのものを楽しんでいただけるように頑張りたいと思っています。

金子 「アイドル」という題材一つとってもそうなのですが、今ってやはり表現の世界が色々と難しくなっているとは感じていて。ポリコレとかコンプライアンスをきちんと尊重しながらも過激なことをやりたいとは思っているのですが、その両立の難しさも感じています。でも、例えば『ザ・ボーイズ』など海外の映像作品はめちゃくちゃなことをやっているけど、フェミニズムやマイノリティ問題への目配せも忘れていない。そんな風に、ただいたずらに過激で露悪というところをすり抜けて、なお飛んでいるものを描きたいとは常々思っています。同時にその両立ができているか、できていないかということを過剰に気にし過ぎるのも何かちょっと違うんじゃないかなとも思ったり……。その辺りのバランスは葛藤しながらもすごく意識して描きました。ただ、いくら考えても、これが答えだというのはないんですよね。そういう容易に答えがでるような問題じゃないから。そんな中で「アイドル」という題材は一つの拠り所でした。いち男性としてアイドルのパフォーマンスを見ていた立場としても、ある種の当事者性を持って劇作に取り組めたかなとは思っています。まさことれんげという二人の元アイドルの姿は自分自身でもあると。今はそんな風に考えています。

――やはり、タイトルについてもお聞きしたいのですが、毎回様々な文学や映画からインスパイアされたタイトルを命名される金子さんですが、今回の決め手は?

金子 「人生で最も影響を受けた人って誰だろう?」と思った時にやっぱり大江健三郎先生だなと思って。高校の時に大江健三郎の小説を読んで、そこから文学の世界にハマっていたので、大江さんの名前を出す時は本当にここ一番の勝負というか、そんな気合がありますね。ちなみに僕は豊多摩高校出身なんですけど、先輩に谷川俊太郎さんと宮崎駿さんがいて、そのお二人も勝手に師匠と認識しています。大江健三郎の小説にも谷川俊太郎の詩の引用があったりもして。なんというか、そういった自分のルーツみたいなものを全部ぶつけるような。そんな“気合”の大江健三郎先生です。

――なるほど。勝負の意気込みを感じられるお話です

金子 あとは、やはり最近の演劇界とか映画界の状況や取り巻く問題とかを考えても、「演劇をやること自体どうなんだろう」って考えることもあって……。その意義について思いを巡らせる機会がやっぱりすごく多かったんですね。そんな中でふと、ああ、なんとかここで生き延びる道はないだろうか、と。そう思った時に、「そういえば大江健三郎で『われらの狂気を生き延びる道を教えよ』って小説あったな」って。それが決め手になったという感じです。

――“生き延びる”というワードの背後にはそんな思いもあったのですね。これから稽古がまだ続いていくとは思うのですが、今後の展望や稽古場で感じている座組の強みを最後にお聞かせ下さい

村田 今は稽古中盤くらいなんですけど、日々新しい風を感じていて、それを楽しみに稽古場に通っています。さらにここからどう進化していくのか。今の段階でも楽しい、面白いと思ってやっているけど、今後の更なる変化に今からドキドキしています。1日1日稽古で見える景色が違うので、本番の10日間でも毎公演変わるだろうなって。その場のリアクションやテンション、相手の表情や言葉。そんなライブの反応をいち早く察知できる力を可能な限り身につけたいと思います。

金子 自分の台本や演出にみなさんがいろんなアイデアを乗せてくれるので、俳優の偉大さや素晴らしさには改めて感服する思いです。今回は僕も出演するんですけど、これまで一発ギャグや打率の決して高くない破茶滅茶なネタを人にやらせてきた立場なので、今回はそれらを全部自分で引き受け、こんな辛いんだというのをしっかり味わい、もうこういうのをやめようという気持ちになれるように(笑)。それだけのために出ようと思っています!

写真/吉松伸太郎
取材・文/丘田ミイ子