舞台「日本昔ばなし」 貧乏神と福の神~つるの恩返し~ | 小出恵介インタビュー

1975年に放送を開始し、実に50年近くにわたって愛され続けてきた「まんが日本昔ばなし」が、初めて舞台化。今回は「貧乏神と福の神」「つるの恩返し」のエッセンスを題材として、未来に語り継ぐべき日本の心を具現化していくという。主人公の青年・百姓の寝太郎を演じることになった小出恵介は、どのように作品に挑むのだろうか。話を聞いた。

――まずはご出演にあたり、第一印象はいかがでしたか?

そう来たか、という感じでしたね。日本昔ばなしが、今まで舞台として上演されたことがないと聞いて、意外というかびっくりしました。なんだか、もうやっていそうな気がしたんですよね。でも、とても面白そうだと思いました。お話も「貧乏神と福の神」プラス「つるの恩返し」ということで、昔ばなしならではの、温かくてほっこりするような、ちょっとノスタルジックな気持ちになるような雰囲気なんじゃないかと想像していたんですが、台本を読んでみると、まさにそんな雰囲気で。こういう温かさや風合いが求められる時代なのかな、というふうにも思わされました。

――小さいとき、「日本昔ばなし」はご覧になっていましたか?

小学生くらいの時、夕方に家で見ていましたから、なんというか生活の一部のような感覚でした。まだ小学生なのに、もう懐かしい気持ちになっていましたね(笑)。不思議な力を持っているコンテンツだと思います。今回、改めてアニメを見直したんですが、懐かしい感覚がありながらも、全然寂れていないんですね。古臭くはない。今見ても、考えさせられたり、身につまされるような内容があったりしたんだな、と確認できました。「姥捨て山」とか「ろくろ首」みたいな、エッジの利いたような、怖いようなお話もあるんですよね。ちょっと後ろを振り返るのが怖くなるようなお話があったな、と思い出したりしていました。

――日本昔ばなしにはたくさんのエピソードがありますが、そこから感じられる日本らしさには、どのようなことがありますか?

人との距離感が他人じゃないというか…すごく距離が近いですよね。人との壁があんまりない。昔ばなしだけじゃなく、昔のドラマなどを見ていても感じるんですが、人々が助け合ったり、心配して気にかけたりすることが、もっともっと自然なことだったんじゃないかと思いましたね。そういう感覚は、日本人の根本的な感覚として刷り込まれているんじゃないでしょうか。悪いことをした人間に対しても、その咎め方に愛情がにじみ出ているような感覚ってあるんですよね。最近は、そういう感じがどんどん薄れてきてるようにも思いますね。それがいい方向なのかどうかはわからないですが、そういう感覚はあります。今、日本で起こっている変化が西洋化だとは思っていませんが、日本っていうのはかつてこういう国だったんだな、というのは強く感じました。

――今回演じられる役はどのようなキャラクターだととらえていますか?

寝太郎という名前ですが、3年寝太郎の寝太郎のキャラともちょっと違っていて、家は貧乏だけれど心は満たされていて、不平不満もない。とにかく母親を大切にしていて、家族を大切にしていきたいと考えている青年です。つるちゃんとの関係も、本当にピュアラブ。いわゆる恋愛的なラブでもなく、どう形容していいかわからないですけど…博愛というか、捧げるような、努めるような、もっと広い愛を持っています。縁談があっても、自分はいいです、と断ったりして、それが皮肉や嫌味、ポジショントークなどではなく、本当に心からそう思っているんですね。そういう欲のないところは、しっかりと表現したいと思っています。「そんなわけない」って思われないように演じたいですね。

――下心もなく、欲もないキャラクターって、現代ではほとんど居ないかもしれないですね

現代だと、あまり良くは捉えられないのかもしれません。時代背景もあって、もっと欲を持て、欲を出せ、という風潮はありますよね。昔ばなしのような時代では、欲がないことは美徳だったと思うんです。欲を出すとろくなことがない、っていう物語が多かったように思うんですよね。そういう時代の価値観の違いはあるんだろうな、と思います。そういう昔の価値観、人間的な部分や社会的な部分での価値観を、思い起こしたり、もしくは新たに感じられたりする作品になったら、素晴らしいんじゃないかな。

――稽古や共演の方々とのコミュニケーションで楽しみにしていらっしゃることはありますか?

今回、本当に多種多様な方と共演させていただくので、お会いできるのが楽しみです。ほぼ全員、初めての方ばかり。福の神のみなさんも、すごいことになりそうなので、そこはただただ楽しませていただきたいと思います。そして…貧乏神を演じられるはずだった仲本工事さんは、会見の時に初めてお会いしてご挨拶させていただいたばかりだったんです。役柄についても、ご本人も自分にピッタリとおっしゃっていて、僕もそう思っていました。あの1日だけでしたが、仲本さんが作品にかける想いは感じ取っていましたから、その想いを引き継いで、受け取ったものを舞台の中で昇華できたら…作品の中に、何か少しでもエッセンスを遺すことができたら、と思いますね。

――仲本さんの貧乏神も拝見したかったですね…。稽古に入る際、意識していることや大切にしていることなどはありますか?

最近は、なるべく多く覚えてから稽古に入りたいと思うようになってきました。若いころは、わからないからこそ言ってもらって、それをやっていくみたいな、受け身なところがあったのかもしれません。そういう意味では経験も増えて、自発的に動けるようになったのかもしれないですね。それに、お芝居に対してシンプルに考えられるようになりました。昔は、とにかく吸収しなければ、と、なんでも詰め込んで、頭も心もいっぱいいっぱいにしていたんですけど、最近はすごくフラット。逆に自分をどんどん開いていって、そこに役が入ってくる余地ができたように思います。

――お芝居に対する姿勢が変わったことで、演技の面白さを改めて感じることもありますか?

やっぱり、今のほうがおもしろくなりました。昔は演技をしていて苦しく感じることも、折り合いがつけられずにストレスを感じることもあったんです。最近は、役と向き合っていくこと、かみ砕いていくことの面白さを感じられるようになりましたね。それはやっぱり、自分の中に隙間というか余地がないとできないこと。自分だけでいっぱいいっぱいにしてしまうと、できないことなんだと思えるようになりました。

――最後に、公演を楽しみにしていらっしゃる方にメッセージをお願いします

昔の古き良き日本というものが、そこに存在しているんだと思える作品にしたいと思っています。変にこねくり回したりはせずに、きっと、皆さんが想像しているような、安心してご覧いただけるお芝居になっていると思います。日本ってこうだったんだ、と振り返ったり、懐かしんでいただけたら。人の温かさを感じて、本当に素直にご覧いただけばと思います。

インタビュー・文/宮崎 新之