世田谷パブリックシアターでは2023年6~7月、芸術監督・白井晃演出による『ある馬の物語』の上演が決まった。本作は2020年6~7月で上演予定だったが、折しもコロナ禍による第一回目の緊急事態宣言発令により当館も臨時閉館という事態となり、やむなく上演を断念した作品。そしてこのたび、丁度3年という歳月を経て、ようやく上演が叶うこととなった。
ロシアの文豪トルストイの小説(原題『ホルストメール』1886年刊行)を舞台化した『ある馬の物語』は、人間という愚かな生き物と思考する聡明な馬とを対比させ、人間のあくなき所有欲に焦点をあてながら、「この世に生を受けて生きる意味とは?」という普遍的なテーマを、詩情豊かにそしてストイックに問いかけてくる作品だ。
1975年に本国ロシアで初演されて以降、国際的に評価の高いこの作品を、このたび白井晃が新演出で立ち上げる。
まだら模様に生まれついたばかりに不遇な運命をたどる馬役の成河、その馬の中に潜む才能を見出す公爵役の別所哲也、公爵や、まだら模様の馬の前に立ちはだかる美と若さの象徴ともいえる男性(牡馬)に小西遼生、そして彼らの運命を変えていくファムファタールともいうべき女性(牝馬)を音月桂が演じる。
また、大森博史、小宮孝泰、春海四方、小柳友の個性あふれる魅力的な出演陣に、馬の群れをアグレッシブに形成する10名のキャストたち。総勢18名の出演者が、実力派のスタッフとともに、百数十年前のロシアのお話を現代の我々のお話として立ち上げていく。
歌や身体表現もふんだんに取り入れながら、馬の目線で人々の生きざまを映し出す『ある馬の物語』、期待が高まる。
物語
ホルストメール(成河)は、天性の俊足を持つ駿馬だったが、人間の嫌う「まだら模様」に生まれついたがために、価値のない馬と見なされて育てられた。ある日、厩舎に凛々しい公爵(別所哲也)が現れた。厩舎の主人は見た目の美しい馬をすすめたが、公爵は一目でホルストメールの天性の素晴らしさを見抜き、彼を安価な値段で買い取った。公爵との生活はホルストメールの生涯で、唯一の最も輝かしく幸福な日々となった。だがある日、公爵の気まぐれから、ホルストメールは競馬に出走することになる。その競馬場で公爵の愛人マチエ(音月桂)は、若く美しい将校(小西遼生)と出会い姿を消してしまう。公爵は気が動転し、ホルストメールを橇そりに繋ぎ激しく鞭打ち走らせた……。