とくお組 第27回公演「スナイパーズ」│作・演出:徳尾浩司インタビュー

「おっさんずラブ」や「六本木クラス」の脚本を手掛ける徳尾浩司が主宰する「とくお組」の新作が、東京・新宿シアタートップスにて12月7日(水)より上演される。新宿という街を存分に活かす、殺し屋たちが撃つに至るまでの物語。果たして、殺し屋たちは銃爪を引く前はどんな会話をしているのか? あちら側とこちら側の境目は意外と近くにあるのかもしれません。作・演出の徳尾さんの狙いとは?

――『スナイパーズ』は、殺し屋がたくさん登場する舞台ということですが? 

もともと『シティハンター』とか映画の『LEON』とか裏稼業を題材にした作品が好きなんです。でも、プロフェッショナルな殺し屋にも日常があるはずだよなあと。じゃあ彼らは普段、いったい何を考えて生きているのか?どんな顔をしてミスタードーナツを食べているのか?そんな知られざる一面を描きたいと思いました。

――殺し屋の日常はたしかに興味があります

あとは同じ年代の殺し屋が5~6人いて、役割が被っているぞ?という状態ではじまったら面白いかなと。

――とくお組らしいのは、殺し屋同士がバトルロワイヤルをするのではなくて、殺し屋たちは仲間同士で依頼された一人のターゲットを狙っているという点です

スナイパーたちも最初は一人だったんでしょうけど、だんだん増えていったんだろうなと。彼らは人生ゲームを囲みながらターゲットを待っているんですけど、ターゲットの命を握っている人たちが、自分たちの人生を考えているという矛盾。

――殺し屋が人生ゲームをやっているシーンを想像するだけでニヤニヤしちゃいます

彼らが使っている「人生ゲーム」は1990年発売のもので、大金持ちになることが人生最高の幸せってゲームなんです。強制的に赤色のところでストップして結婚するって決められているような。今はそんな時代じゃないけど、殺し屋たちは節目、節目で自分たちの人生を地道に考えているくせに、人の命を奪うことにはドライなんです。

――“シュレディンガーの猫”とか“ドーナツの穴”とかのワードが劇中に出てきますが、目に見えるところと見えない部分について考えてしまいますね

彼らが撃つと決めた時点でターゲットは死んだも同然。実質的にはどこの時点で死んだことになるんだろう?という哲学的な命題に挑みます(笑)。

――ごちゃごちゃ感が楽しいんですけど、その一端を感じられるのがHPで公開されている予告ドラマです。これがもうしっかりとしたショートムービーに仕上がっていて、クオリティの高さに驚かされました

この5年間で僕はドラマの脚本を書いたりしていましたし、出演者の高良真秀くんも監督や編集のプロとしてやっているので、だったらしっかりした予告編を作ったほうがいいんじゃないかなと思って今回作ってみました。

――プロっぽくじゃなくて、『おっさんずラブ』の脚本家とプロの映画監督が制作したらそれはもう作品ですよ!

どっちかというとこの5年間で映像のほうが得意になっているところがあるかも。なのでぜひ見て欲しいです。

予告短編ドラマ

――予告ドラマですでに殺し屋たちのクセの強さが伝わります。キャストの見どころとしては?

前回の『林檎の軌道』をやったとき、5年ぶりにやって「おじさんになりましたね」という指摘が内外からあったので、今回は会話もそうですけどメリハリのある楽しい動きをやりたいなとは思っています。

――ゲストの林雄大さんと山中雄介(劇団スパイスガーデン)は?

林君と山中君に関しては昔から一緒にやってくれているので、ゲスト感がないところが凄くいい。7人のチームプレイを楽しんで貰えればいいなと思います。チームの呼吸が見どころかなと思います。

――演出的な見どころは?

今回は新宿シアタートップスでやるので、劇場のドアをパッと開けて、「あのビルにいるアイツを狙おう」ってことをやろうかなと。来てくれたお客さんもすんなりと「あ、そういう世界もあるかもな」と思ってくれるんじゃないかなと。

――面白い試みですね。舞台と現実がリンクするような

14年前に閉館前のシアタートップスで上演した『エヌ氏の晩餐会』は、新宿の地下には実は地下社会があるという話でした。なので今回も土地にリンクした話にしました。昼の公演は昼間の設定、夜公演は夜と設定もちょっと変えようと思っています。

――シアタートップスの近くにある具体的なお店がたくさん出てくるのが楽しいです

実際に(対象のお店が)見えるかどうかはわかりませんが、現実とフィクションが入り混じった感じになっていくので、劇場の外に出たら間違いなくみなさん「ミスタードーナツ」に行くでしょうし、「カラオケ館」の看板を見るだろし、「ローソン」にも寄るんじゃないかな。ちょっと不思議な感覚を味わって貰えたらなと思っています。

――殺し屋たちは劇中で「ミスタードーナツ」を食べていますけど、「ローソン」だと一体どんなものを買うと思います?

劇中で「ローソンもありますよ」ってセリフが出てくるんです(笑)。なので殺し屋たちも「ローソン」には行くと思います。買うとしたらやっぱり“からあげクン”じゃないですか。たぶんチーズ味ですね。殺し屋的には。

――チーズ味なんですね(笑)

ホットスナックコーナーには寄っちゃうんじゃないかな。

――とくお組は2021年の『林檎の軌道』を上演されるまで、しばらく休止期間というか、劇団公演をやられていない時期がありましたよね?

別に休止とは言ってなかったんですけど5年くらい休んでいました。ちゃんと作りたいものができてから劇場を取るようにしようと思って1回リセットしたんです。

――今はまた再びコンスタントに活動していこうというモードなんでしょうか?

そうですね。去年一回やってみて、次は5年も空けるんじゃなくて、1年に1回とか、1年半に1回とか、それくらいのペースでやっていければ純粋にやりたいことができるのかなと。自分たちだけの作品を作れるのはやはり劇団だけなので。

――ブランクを経て、また充実期を迎えられているような気がします

劇団員のみんな、年代でいうと35歳から40歳くらいまでの5年間を休んでいたんですね。僕自身は40歳を超えておじさんになっていることを自覚はしていたんですけど、みんなのことはずっと大学生のイメージのままでいたんです。だけど、40歳になってみんなと再会したら「……おじさんになったな」って(笑)。鈴木さん以外、おじさんとして扱っていなかったので、それを受け入れるのに時間がかかりました。

――大学時代から常に一緒にいて走り続けていたから、案外、変化に気づいてなかった?

徳尾 そうなんでしょうね。脚本もついつい20~30代のイメージで書いちゃう。それがいいことなのか悪いことなのかわからないので、今はギリギリ38歳くらいのところを狙って書いています(笑)。

――38歳! 絶妙な年齢設定ですね。最後に『スナイパーズ』を気になっている方にひとことお願いします!

とにかく笑える舞台を目指しているので、年末にスカッと笑って貰えるような舞台にしようと思っています。終わった後は、新宿の「磯丸水産」で飲んで、靖国通り沿いの「ミスタードーナツ」をお土産に買って帰ってください。

――ありがとうございます

インタビュー・文/高畠正人