日本“語”初演!ドイツで高い評価を得た岡田利規の話題作を本谷有希子が演出!!KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『掃除機』2023年1月14日より一般発売開始!

2022.12.27

2019年、ドイツの演劇祭テアタートレッフェンで“最も注目すべき 10作品”に選ばれた話題作、待望の日本初演決定!

2023年3月4日(土)から神奈川・KAAT 神奈川芸術劇場で上演が決定しているKAAT神奈川芸術劇場プロデュース『掃除機』。現在、KAAT神奈川芸術劇場では、芸術監督就任2年目の長塚圭史が、2022-2023シーズンタイトルは<忘(ぼう)>として展開中。長塚はこのシーズンタイトルについて、「人間は忘れる生き物。忘れるという罪を背負っているのかもしれません。時に自ら目を逸らし、積極的に忘れることもあります。(以下、略)」と話している。

本作は、その<忘>シーズンを締めくくる作品として、2023年3月、チェルフィッチュ主宰・演劇作家・小説家の岡田利規作『掃除機』を、劇作家・小説家・演出家の本谷有希子演出での上演が決定している。この作品は、岡田が2019年にドイツの公立劇場 ミュンヘン・カンマーシュピーレ劇場に書き下ろし、自ら演出した『The Vacuum Cleaner』(ドイツ語上演)を、日本語により日本初演されるもの。引きこもりの40代の娘、無職の30代の息子、80代の父親が暮らす家の情景を「掃除機」の目線から描く本作は、日本のみならず世界的な社会問題として露わになってきた「8050問題(※)」が扱われている。この問題は、解決の困難さゆえに置き去りにし、忘れられがちな問題でもあることから、<忘>シーズンにふさわしい演目として、今年度のプログラムにラインアップされた。

岡田は、マティアス・リリエンタール氏のカンマーシュピーレ劇場芸術監督就任を機に、2016年から2019年シーズン まで、同劇場のレパートリー作品 の作・演出を委嘱された。『The Vacuum Cleaner』は、『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』(2016年)、『 NŌ THEATER』(2017年)、『NO SEX』(2018年)につづく、4作目となる。同作は高い評価を受け、毎年5月にドイツ・ベルリンで開催されるテアタートレッフェン ドイツ語圏内で1年間に上演された約400もの作品の中から数人の審査員たちが選出し、上演する演劇祭)で、“注目すべき10作品”に選出された(同年のテアタートレッフェンは、新型コロナウイルス感染症感染拡大のため、上演無し。記録映像オンライン配信のみだった)。

岡田利規×本谷有希子、初の顔合せ!

本作の作家である岡田利規とKAATの縁は深く、2011年の開館以来、主宰するチェルフィッチュの話題作を次々と上演してきたほか、2015/16年の KAAT キッズ•プログラム『わかったさんのクッキー』、2020年『「未練の幽霊と怪物」の上演の幽霊』オンライン配信、2021年『未練の幽霊と怪物-「挫波」「敦賀」-』と、ともに創作活動を行ってきました。岡田の作品の特徴は、話しことばのような自己の揺れや曖昧さを想起させるユニークなテキストと、日常の延長線上を感じさせるフラットな身体表現にある。岡田が初めて高齢の世代を取り上げ、家族の話を書いたことでも、岡田自身が、新しいフェーズと言う本作。ドイツでの初演後、日本での日本語上演を望んでいた岡田からの提案もあり、KAATでの日本初演が実現する。

『The Vacuum Cleaner』を、『掃除機』として日本“語”初演を手掛けるのは、本谷有希子。本谷は、2000年に立ち上げた「劇団、本谷有希子」にて劇作•演出を手がけ、ストーリーの中に人間の内面やコンプレックス、自意識を描き出す独自の筆致とエンタテイメント性を兼ね備えた作風で、話題作を次々に発表し、劇作家•演出家として注目されてきた。小説家としても活躍の場を広げ、大江健三郎賞、三島由紀夫賞、芥川賞の純文学新人賞の三冠を得ている。
2012年の劇団公演ののち、演劇公演の演出とは暫く距離を置いて活動していた本谷だが、近年は自身の小説の舞台化を積極的に行い、静的なテキストを複数の俳優で演じ分ける方法などで立体化する取り組みを行うなど、新たな視点で演劇作品に取り組んでいる。

KAATがプロデュース公演として、多層的な意味を持つ岡田の戯曲に取り組むにあたり、テキストの魅力と真摯に向き合い、描かれた多様なイメージを空間的に表現しうる演出家として、本谷に演出を委嘱することになった。演劇、文壇でともに活躍する両氏、初めての顔合わせとなる。

『掃除機』上演へのアプローチ

本作は、ある一家の掃除機<デメ>の視点での語りや、岡田戯曲の魅力でもある各役のモノローグで物語が綴られている。この作品を上演するにあたり、演出の本谷はこの戯曲の魅力を引き出す表現方法を模索し、2年以上前からワークショップを重ねてきた。
本谷ならではのアプローチの1つが、ラッパーの環 ROYによる音楽。ミュージシャンとしてだけでなく、ダンサーとのコラボレーション、絵本出版等、ジャンルを越えて活躍する環が、本谷との初めての協働作業により、岡田“言”にどんな変化を与えるのか… 環は、一家の長男の友人<ヒデ>役で俳優としても出演する。
一家の長女で、引きこもりの娘<ホマレ>役に、コメディエンヌとして独特の存在感を持つ家納ジュンコ、無職の息子<リチギ>役に、悪役から理想の上司まで自在に演じ分ける山中崇、そして2人の父親<チョウホウ>を、モロ師岡、俵木藤汰、猪股俊明という、ベテラン俳優が、3人で1役を演じる。また、俳優として成長を続ける栗原類が、掃除機<デメ>役を務める。


ワークショップを重ね、豊かな創作の時間を経て生み出される本作。本谷の思考や魅力が詰まった演出や、2010年以降、社会問題となっている「8050問題 (※) 」を扱う点にも注目される。

本谷有希子、岡田利規、長塚圭史からのコメント公開

演出•本谷有希子 コメント

岡田さんと自分の共通点は何か、と考えてみても、パッとは思いつかない。でも“ない”とは思わない、流石に。あると思う。その部分に全力で重なってみることも、思い切り外れてみることもできると思う。岡田さんからもらったテキストの、五人の役名の下には、こんな説明書きがあった。「80代」。「娘。50代。引きこもり。」「息子。40代。無職。」「友人。」「掃除機。」――俳優達とミュージシャンと、自分のものではない言葉に触れながら、あるかないかもわからない共通点を、探り続けていきます。

作•岡田利規 コメント

『掃除機』は、8050問題 (※) と呼ばれることもあるひきこもりの高齢化の問題を扱った、ある家族の情景を描いたぼくの戯曲です。このテキストを本谷有希子さんが演出するというプロダクションが今シーズンの KAAT のプログラムに入ったことに興奮しているという意味でも緊張しているという意味でもどきどきしています。ぼく自身が演出するのでは決して生まれない本谷さんならではのテイストを持つものとしてお客さんに届けられる上演になるでしょう、その期待に興奮するのです。そしてその際に『掃除機』というテキストがどのような晒され方をするのか、ということに緊張するのです。

KAAT 神奈川芸術劇場  芸術監督•長塚圭史 コメント

『掃除機』に寄せて

岡田利規さんの『The Vacuum Cleaner』(掃除機)は、ミュンヘンの公立劇場カンマーシュピーレで 2019 年の12月にレパートリー作品として初演されました。岡田さんが同劇場のレパートリー作品を手掛けたのは今作で実に4作品目であり、またさらなる新作のクリエイションが同国で準備されているということで、岡田さんの国際的な活躍が窺えます。ミュンヘンではもちろんドイツ語での上演でしたが、元々の戯曲は日本語で紡がれています。今回この原本とも言える日本語版『掃除機』を世界初演しようというわけです。

演出は文壇での活躍めざましい本谷有希子さん。本谷さんは演劇界で活動を始め、その後重心を小説に移しました。暫く演劇界と距離を置かれていましたが、2019年自身の小説を舞台化する試みを始め話題を呼びました。これまでのセオリーから離れ、改めて言葉を立体化することに関心を抱いた小説家であり劇作家でありそして演出家である本谷さんが、果たして岡田さんの台詞世界をどう立ち上げていくのか興味は尽きません。

本作は社会と折り合いのつかない家族を鋭い筆致とユーモアで描きます。無職の40代息子と引きこもりの50代娘を抱える父親はすでに80歳を過ぎています。そしてこの家族の停滞し続ける風景を長年見つめてきた掃除機の「デメ」。この奇抜な設定が思いがけない視界を広げていきます。社会問題としてはっきりとそこにあるのにも関わらず、その解消の困難さゆえに置き去りにし忘れ去られてしまう中高年層の引き篭りと、その世話から逃れることの出来ない高齢者の、所謂「8050 問題 (※) 」を圧倒的な筆致で描いた怪作。ミュンヘンでも高く評価された岡田利規さんの『掃除機』と、新たな視点で演劇を捉え始めた演出家・本谷有希子さんの競演にご期待ください。

【ものがたり】
ある一家の掃除機<デメ>の視点から、引きこもりの50代の娘<ホマレ>、無職の40代の息子<リチギ>、家族を見守る80代の父<チョウホウ>、それぞれの日常と、とある出来事を描く。

※「8050問題」・・・長年引きこもりを続け、中年になった子どもとそれを支える高齢者の親。2010年以降日本で顕在化した社会問題