久本雅美、柴田理恵、梅垣義明、喰始 インタビュー|WAHAHA本舗全体公演「シン・ワハハ ~NEW WAHAHA~」

ワハハ本舗の全体公演『シン・ワハハ~NEW WAHAHA~』が6月に開催されることが決定した。2017年に“最後の全体公演”として「ラスト3~最終伝説~」を成功させ、団員の懇願を受けて「王と花魁」で全体公演が2021年に復活。コロナ禍を受けて幕を開けるまで3年の時間を要することになってしまった。そして続く、今回の全体公演。果たしてどのようなものになるのだろうか。久本雅美、柴田理恵、梅垣義明、喰始の4人に話を聞いた。

 


――まずは今年の全体公演「シン・ワハハ」はどのような経緯で決定したのでしょうか。

 とりあえずラストを3回やりまして、そこに向けてカウントダウンをしていたんですが、すぐに復活させてくれ!って言われて「王と花魁」をやりまして。その後は、ちょっと休んでやろうかな、くらいの感じだったんです。でも、それも待てないって言われて(笑)。休むのは1年で十分だっていうから、今回の全体公演をやることになりました。今回は、今までのワハハの中でもお客さんにあまり知られてない部分をやっていきたいね。コンテンポラリーとか、そういう難しいものを笑いに変えるようなことをずっとやってきているんですよ。それを知らない人がいっぱいいるんです。「シン・ワハハ」っていうタイトルは、そういうアート系の実験的なワハハをもっと全面的に出して、開き直ってやろう!と思っています。待てない、って言ったのは、この2人(久本、柴田)ね(笑)。

久本 早くしないと、誰がいなくなるか分からないから(笑)

柴田 ワハハ=裸だって思っている人っていっぱいいるんですよ。まぁ、裸タイツはそうなんですけど(笑)、でも本当はもっとオシャレなものだったのに、ていうことなんですよね。

梅垣 オリンピックでもコンテンポラリーダンスがあって、非常におもしろかったですよね。僕も一応ダンスというか、下手だけど踊っているんですけど、やっぱりダンスって顔で踊るもんだな、って言った人がいて、本当にそうだなと思いますね。特に柴田は表情で踊ってる(笑)。この間ね、舞踏をやっている人にワハハの映像を見てもらったら、メチャクチャ笑ってくれたんですよ。こんな発想があるのか!ってね。やろうとは思わないけど(笑)、面白いって言ってくれました。

久本 ワハハ本舗ならではのアートがあるんです。いろんな形があって、どうやったらお客さんに喜んでもらえるのかっていうことに対して、私たちが集中力も頭もフル回転させてできたサービス精神の形ですから。だから、何をやっても実はアートだと思うんです。私たちが下ネタとか馬鹿なことしかやっていないと思ったら、大間違いだぞ、ってね。

柴田 どこに行っても「下品だよね~」なんて言われるんですけど、私そんなに下品なことってやっていないと思っているんですよ。

久本 観たことが無い人もいるからね。観たことがある人には、わかってもらえるんですよ。今回はそういう素敵なところをフューチャーしていきたいですし、どんなことができるかワクワクしていますよ。

 やっぱり、アート側の人はなかなか笑いのほうにはもっていかないからね。でもね、忠臣蔵とか新選組とかをダンスで表現しようとすると、真面目に作ってあるんだけどなぜか笑っちゃうものが出来上がるんだよ。

柴田 そうだった、カッコいいけど笑っちゃう。そうやってかけ合わせて面白いものを作っていくことは昔からワハハはやっていましたからね。

梅垣 本当に見ていない人はイメージだけで「ワハハは下品」とか思ってるかもしれないけど、昔やった昆虫劇とか昔のワハハもすごくおもしろかったなって今になって思うんですよ。ちゃんと品格があってね。ケツ出したりしてるんだけど、品があるんです。その当時はワーッと覚えただけだったけど、下ネタでもとにかく品格がある、っていうことは肝に銘じてるから、絶対に下品にはならないって確信しているんですよね。

柴田 意外と下ネタのほうが稽古は厳しいんですよ。それは下品だからダメだ、そこはそれ以上やっちゃダメとか。何を面白がっているのか、何のためにこれをやって、お客さんがどう楽しむのか。それを本気で突き詰めて考えて、厳しく稽古していますね。

 あとは、シン・ワハハっていうくらいだから、シン・梅ちゃんが誕生しますよ。それで、古い梅ちゃんは引退します。

 


――それはTwitterで動き始めているフェイクニュースの件ですか?

 いやいや、本当にうちの若手というか、男性陣がシン・梅ちゃん“2代目は俺だ!”っていう感じで舞台でネタを披露して、その日のお客さんの投票で2代目梅ちゃんが誕生しますよ。本気でやります!

柴田 誕生するんだ…

久本 すごくいいアイデアだと思うんだけど、みんなが2代目になりたいかどうか(笑)。でも、若手たちが面白いパフォーマンスを見せるための喰さんのアイデアですね。

 参加してもいいんですよ。

久本 ぜんぜん、露ほども考えてない(笑)

 Twitterのフェイクニュースもね、そう見せかけておいて実際は…ということになるかもしれない。柴田がね、大河ドラマの1人芝居をやってたけど、たとえば今度は忠臣蔵の四十七士を全部1人で10分間でやるとかね。やるのはシェイクスピアかも知れないし、ハムレットかもしれないし。まぁ、いくつか記事はできていますんで、楽しみにしていてください。


――嘘から出た真に期待しています。ちなみに、今のところはフェイクニュースだけど、本当になったらいいな、と思っていることはみなさんありますか?

柴田 そうですね…うちの犬がしゃべった!とかですかね。ありきたりですけど(笑)。会話ができたらいいけど、本当に嬉しいと思っていてくれるのか、おしゃべりできないんで分からないじゃないですか。ドラえもんのひみつ道具で、うちのワンちゃんを人間に変えて、一緒に食事できたらなぁ。

久本 それいいねー!

梅垣 全然面白くないけど(笑)、俺は若返りたい。50になった時は、まだ体力には自信があったんですよ。でもここ1~2年で体力が落ちたと思うし、自分がワハハに入った時に、60歳になるなんて思ってもいなかったからね。誰でも思うことだとは思うけど、若返りたいね。

久本 私は“身長が30㎝伸びた!”ですね。いつも、あと30㎝身長が高かったら人生変わってたんじゃないかな、なんて思うんですよ。モデルみたいなナイスバディになって、手も足もすらっと長くてね。そんなモデル体型になってパリコレを歩いてみたり…

柴田 それ、アンミカになるだけだと思う(笑)

久本 アンミカ…ちょっとイメージ違ったかも(笑)。洋服が好きだから、こう、冨永愛さんみたいなね。60歳過ぎて、身長が伸びて、パリコレに出るって面白いじゃないですか。世界を笑かすような人になったら…やっぱりアンミカか(笑)。でも英語とか話せると世界が広がりますよね。甥っ子がアメリカ人と結婚していて、子どもがもうペラペラなんですよ。

 僕は、観客が全員、団員に!とか? 久本や柴田がお客さんに対して「みなさんも劇団員です」って宣言して、それこそ100人くらい舞台にあげちゃって、全員劇団員として演出する。そういうことをやってみたいね。

久本 全員ジャージで来いっ!ってね(笑)

 


――現実になったら楽しそうなことばかりのフェイクニュースでした(笑)。団員といえば、オーディションも開催されていましたね。

 前回もオーディションをやっていて、女性が何人か新しく参加しました。その子たちも今回も出るし、さらに新しく20代の男性が3人入りました。イケメンもいますよ。


――そこに2代目梅ちゃんの候補が…⁉ 今回も盛りだくさんで楽しみな全体公演になりそうです! ラストを経ての全体公演の復活、そして今年も、と継続できる喜びは大きいですよね。

久本 やっぱりワハハ本舗を待ってくださるお客さんもいるし、私たちもワハハ本舗というワールドが自分の人生から消えてしまうことがあり得ないんですよ。私たちが1つの笑いの核をもって、実績とか力とか、個性を積み上げてきましたから。形が変わっていったとしても、自分の中にあるワハハ的な笑いは消しちゃいけないし、消したくない。だから、続けてもらいたいんです。

柴田 やっぱり始めた以上は、とにかくやり続ける。それしかないんですよ。間が空くと、その間に何かが忍び寄ってくるじゃないですか。余計なことも考えたりする。だから、続けていくことを積み重ねるしかないんですよね。

久本 若ければ3年くらい武者修行して、そこからまた集まる余裕もあったかも知れないけど、いかんせん60も過ぎてますし(笑)。全員が元気で舞台で集まれることが、本当によかったなって思うんです。

 この間、古い映像を探しているときにラストワンを見直したんですよ。自画自賛になっちゃうけど、これは次も絶対見たくなるわ、っていうくらい面白いんだよ。今はエンタメに限らず、いろいろなものが時代の流れの中で終わっていってしまっているんですね。行きつけの中華屋も閉めてしまったし。エンタメもお客さんがなかなか戻って来なくて、非常に厳しいんです。だからこそ、次も大爆発させて、「シン・ワハハ2」でも何でもいいから、次を作ってくれ!って言われるようなものを作って、形を変えつつも長く続けなきゃね。

久本 素晴らしいやる気ですね。

 だって、70過ぎても今の形のままじゃキツイよ?

柴田 今でも十分大変です(笑)。でもね、本当に前回「王と花魁」をやってみて、本当にお客さんが待っていてくれたんだ、ということがよくわかったから。途端に泣いちゃうお客様もいれば、泣いちゃう私たちもいて、続けたいって思いましたね。

久本 こういうご時世の中で、どれくらい来るかが分からない中でしたが、お客さんは待っていてくださった。そして、私のお友達は「今は大変な世の中だけど、それを忘れて帰ることができた」って言ってくれたんです。そうやって、みなさんの元気の源になれる、お役に立てるというのがこの上ない喜びですね。

 テレビとか映画とかいろいろ活躍してるけど、ワハハでしかできないことがある、って2人はよく言うんだよね。

柴田 ここは独特ですよ。お客さんに対する態度とかも、何かを作る根本だよね。ほかでは感じられない、全然違う達成感があるんです。

久本 その根本をなくしたら、私たちはもう成り立たないんです。

 アートで言うと、価値観を変えるってことなんだよね。下ネタっていうだけで、嫌だ、オシャレじゃない、っていう思い込んじゃっているものを、あれ、オシャレじゃん? ってね。それを上品も下品もあなたが決めることなんだよ、って。

 


――今回の全体公演では、ワハハ本舗のアート性の再発見ができそうですね。ちなみに、皆さんは普段の生活の中でアートを感じる瞬間はありますか?

柴田 私は、本当にそこらの雑草を取ってきて、生けているときにアートを感じますね。人が植えたものとかじゃなく、道端のお花なんかを切って飾るんです。いわゆる生け花の先生とかに言わせると私は本当に下手らしいんですけど(笑)、それでも自分で好きな花器に雑草を生けるときの楽しさったらないですね。景色の中で見逃されてしまうようなものですが、ちゃんと生きて、自己主張して、スポットライトを浴びたような感じになるのが気持ちいいんです。ちょっと曲がっているのも、枯れ枯れになっているものも、ここに来れば生きてくるんです。

久本 ステキ~。それ以上のことって出てこないかも…。

梅垣 部屋の写真立て、あれはアートじゃん。

柴田 あれはもう、アートになるよ! 写真立てばっかり並んでいるんですよ!

久本 (笑)。いや、写真立てが好きで、いろいろなところから集めて飾っているんです。…いかんせん、中に入れる写真の相手が居ないっていうね。そしたら、後輩が泣くんですよ「写真立てに、写真を入れてください!」ってね(笑)

 風景写真とかさ、なんでもいいから気に入った写真を入れればいいんだよ。何か持っていこうか? 今月はこれ、とか。

柴田 そしたら私見に行くよ。

久本 いや、何もいらない。写真を交換したりするのも面倒だし、そのために家に来られるのも面倒だわ(笑)。今、どれくらいあるんだろう? 30個くらいかな?

柴田 そんなにあるの⁉ 写真立てが?


――なんだかマネージャーさんの話によると、もっと数がありそうとのことですが(笑)、どんなところが魅力なんでしょうか?

久本 まぁ小さいのとかもたくさんありますしね。なんだか額がすごくかわいいんですよ。めちゃくちゃかわいいし、オシャレなんです。ニューヨークから抱きかかえて持って帰ったものもありますね。ソーホーで買って、割れちゃいけないと思って。今はトイレに飾っています。でも、めちゃくちゃたくさん並べるとアートじゃないですか?


――確かに、きれいな額縁のものがたくさん並ぶと、それだけでアートになっているように見えます。でも、写真とかは入れたくならない?

久本 もともと買ったときに入っていたものとか、ポストカードを入れてかわいくしているものもありますよ。でもまぁ、みんなには見えないけど、私には未来の旦那さまとか、未来の家族が入って見えているので――あ、ちょっと休憩しますね(笑)

 


――ありがとうございます(笑)。梅垣さんは日常でアートを感じる瞬間、いかがですか?

梅垣 数は少ないんですけど、うちに資料として写真集とか絵の雑誌がありまして。そういうアートな資料とともに、エッセンの本とか、ゲイ雑誌とかが一緒においてあるんです(笑)。でも、そういうごちゃまぜでおいてある感じが、ある種アートだなって思うんですよね。

 もっと自分からやろうとしている趣味みたいなアートはないの?

梅垣 そうだな…。最近、食材の配送サービスをやってもらうようになって、料理も作るようになったんですよ。レシピも一緒に送ってくれていて、それに従って作るだけなんだけど、盛り付けしているときにアートな感じはするかな。ベトナム料理とかモロッコ料理とか見たこともないものも来るので、盛り付けたり盛り合わせたりするのもなんだか楽しいんですよ。こうやるとおいしそうに見えるな、とか。味付けは決まっているけど、盛り付けるときにちょっとパプリカ足してみよう、とかね。

久本 梅ちゃんの口からパプリカなんて言葉が出るとは(笑)。今度写真送ってよ。


――梅垣さんが料理をされることは、みなさんもご存じなかったんですか?

柴田 梅ちゃんはこう見えて、亭主関白なんですよ。この男、なんで奥さんをこんなアゴで使うんだ、っていうくらい(笑)。だから、料理なんて絶対にしないと思ってた。

梅垣 亭主関白は関係ないだろ! うちの奥さんはいうこと聞いてくれないんだから(笑)でもまぁ、2年前くらいかな、コロナ禍で家にいるようになってからするようになったね。

久本 私たちの前では、梅ちゃんの顔を立ててくれていたんだね、奥さん。


――では、喰さんのアートを感じる瞬間はいかがでしょうか?

久本 喰ちゃんは多趣味だもんね。ほんとに、いろんな趣味がある。

 僕はね、映画館の館長になった気分で、映画の2本立てをつくるんです。勝手にね。テーマを決めて、笑える戦争映画を2本とか。簡単なので言えば、リメイク版とオリジナル版とか。それを中古ビデオ屋で買ってきて、両表紙にするんです。今、中古でこんなに安く売っているのを放っておくわけにはいかないし、ダブっていっぱい持ってるんで、それを人にあげるんですね。レンタルとかじゃなくて、人にあげたい。全部で3万本くらいあるしね。


――組み合わせることで、視点が変わったり新しい発見があったりしそうで、そこにもアート性を感じられそうです。そんなみなさんの感性が光る「シン・ワハハ」を、楽しみにしているファンにメッセージをお願いします!

梅垣 俺も舞台やライブを観に行くんだけど、やっぱり面白いときは、振り返ったりしてお客さんの顔、表情を見ちゃうんですよ。人が笑っている顔って、自分もハッピーになれる。お客さんの笑顔で、僕らも幸せになれるんで、1人でも多くのお客さんの笑顔が見られたらと思っています!

久本 世の中がなかなか難しくて、エンタメの会場に来られる方も減っていると聞きます。けれども、ぜひ生の息吹というのを感じてもらいたい。オンラインなどで結びついた縁というのもいっぱいあるんだけど、舞台という生の空間で時間を共有をしたい。私たちはとにかく、お客さんに喜んでもらいたいということだけのために、自分を使っていきます。ぜひ自分自身もいち劇団員という気持ちで、一緒に最高の時間を作っていきたいです!

柴田 世界では争いがあったり、値上げがあったりで、本当に厳しいことがたくさんあって、ちょっと閉塞感がある時代だと思います。だからこそ、たまには何も考えないで、ワーッと笑って、スカッとしませんか? いろんな課題が山積みだけど、とにかく舞台や劇場では笑って、明るい気持ちになってほしい。こんな人たちもいるんだ、私もまだまだ大丈夫だ、頑張ろうという気持ちになっていただけたら、私は1番幸せです。そんな空間を味わいに来てください!

 シン・ゴジラやシン・ウルトラマンは、もともとのゴジラ世代、ウルトラマン世代はもちろん、その世代じゃない子どもたちや見ていなかった人でも楽しめるものになっていたと思います。同じように、シン・ワハハも、今までのワハハを知っていても知らなくても面白がれるものになっています。シンをきっかけに古い作品に興味を持つこともあると思います。ぜひ、若い世代、これまでワハハを見ていなかった人にも来てほしいですね。

 

インタビュー・文/宮崎新之