©山﨑泰治
2022年度3演劇賞を受賞・ノミネートの若き気鋭が描く息もつかせない愛憎のゆきみち
加藤拓也は2021年た組「ぽに」で恋人との関係性をたゆたう女性の所在なさを描き、2022年アミューズ「もはやしずか」で不妊治療をめぐる夫婦の自己愛と保身を描いた。時代を怜悧に分析・表現した脚本と卓越した演出センスで、緊張感のある舞台づくりに定評がある。22年度は読売演劇大賞 優秀演出家賞を受賞(「もはやしずか」「ザ・ウェルキン」)、鶴屋南北戯曲賞(「もはやしずか」)、岸田國士戯曲賞(「ドードーが落下する」)にノミネートされた。
29歳の加藤が使う言語は軽く、多弁で、聞き取れないほどに速い。それは鍵垢など複数のSNSを使って、重ね塗りのようにアイデンティティを構築する20代若者の自己認識を連想させる。
描かれるテーマは不妊治療(「もはやしずか」)、統合失調症の友人との関係性(「ドードーが落下する」)など、常に現代社会の落とし穴として誰にでも起き得ることだ。舞台上では威圧的で(モラハラキワキワの)爆発的な感情の応酬が必ずあり、この現実から目を背けるなよ、と加藤が観客を睨みつけているようである。
新作「綿子はもつれる」は破綻寸前の夫婦に起こった悲劇と緊張の数日間を安達祐実主演で描く。「あのときそれを選択しなかったことを尊重して欲しい」というセリフに込められたのはZ世代の、世界における居心地の悪さか、諦観か…。
以下、10年ぶりに舞台主演を務める安達祐実と、作・演出の加藤拓也よりコメント。
安達祐実(主演)コメント
加藤拓也さんの舞台に出演させていただくのは、今回で三度目になります。
あのひりつくような空間に、また身を投じるのかと思うと、恐怖であり、それ以上に、えも言われぬ喜びを感じています。
何が起こるのか、何処に連れていかれるのか、観に来てくださるお客様と共に時間を生きられること、楽しみにしております。
加藤拓也(作・演出)コメント
もつれるということはある空間において、進行方向が別のものがいくつか存在していてそれぞれ進んでいくということで、もつれてから元に戻ろうとすると、正しく、そして連続でほどけていかないといけません。もつれている点をよく見つめなければいけないのです。その点を見つめる為に、常に別々の方へ進んでいく者をある空間に置いてみるのかもしれません。祐実さんをはじめ、心から納得する人たちとそのような空間を作れることがとても楽しみです。