舞台『サンソンールイ16世の首を刎ねた男ー』│佐藤寛太 インタビュー

18世紀フランスを舞台に、実在した死刑執行人“ムッシュー・ド・パリ”ことシャルル=アンリ・サンソンを稲垣吾郎が演じ、2021年に上演された話題作『サンソンールイ16世の首を刎ねた男―』。演出を白井晃、脚本を中島かずき、音楽を三宅純が手がけた、重厚で哀しくかつ美しいこの歴史劇が2年ぶりに再演される。

激動のフランス革命期、孤高の処刑人で、医師でもあり、実は死刑廃止論者でもあったサンソンを再び稲垣が演じ、初演から引き続き榎木孝明、田山涼成、清水葉月、落合モトキらが出演するほか、新たにルイ16世役で大鶴佐助と、崎山つばさ、佐藤寛太、池岡亮介らがこの再始動から参加することになった。

父親殺しの罪で死刑を宣告されながらも解放され、やがて断頭台ギロチンの開発に関わることとなる蹄鉄職人のジャン=ルイ・ルシャール役を演じることになったのは、劇団EXILEのメンバーで映像に舞台にと活躍中の佐藤寛太。演出の白井とは2020年に上演された音楽劇『銀河鉄道の夜2020』以来、二度目の顔合わせとなる佐藤に、再び白井演出を受けられること、そして今作への想いなどをたっぷりと語ってもらった。

――『サンソン』の再演に参加されることになり、今、どんな思いがありますでしょうか?

『サンソン』という舞台を白井晃さんが演出されていたことは知っていたのですが、初演時に拝見できていなくて。ですから今回、白井さんに呼んでいただけて、まず「シャッ!」とガッツポーズをし、「やります!絶対、絶対やります!!」と言いました。

――瞬時に返事をしたということは、前回白井さんの演出を受けた『銀河鉄道の夜2020』での経験があったから?

そうです。白井さんとは、僕か白井さんが死ぬまではずっと仕事をしたいと思っているので。

――そんなにまで心を掴まれたというのは、どういう理由からですか?

なんでしょうね、言葉で説明するのは難しいんですけど。この業界にいる方は、みなさん作品づくりや自分の仕事に対してプライドを持っている方ばかりなんですけど、白井晃さんは前評判からすごくて。役者の先輩たちから「もし舞台をやるとなった時、白井晃さんからお声がかかった時は絶対にやったほうがいいぞ」と何度も言われていたんです。それで前回初めてご一緒させてもらって、その意味がわかったということですね。言葉でいっぱい説明してくるというより打てば響くところを叩いてくれる感じ、というか。白井さんと顔を突き合わせて「どういうことだろう?」と考える時間や、そこで言われたことを家に持って帰って「明日の稽古で白井さんにクリアしたなと認めてもらえるようにしよう」と考え続ける時間も含めて、とにかく楽しかったんです。さらによく怒られるというか、たくさんダメ出しをしてくださる。間違っている時も「そこは違う」としっかり指摘してくださるので、だったらこうしよう、ああしようといろいろなことを試せる。そういう時間も全部含め、白井さんは最高なんです。

――そして『サンソン』の台本を読まれて。感想はいかがでしたか?

もちろん一度上演された作品なので当たり前かもしれませんが、本筋が綺麗に出来上がっていて読みやすいし、物語も明快でわかりやすかったです。いろいろなキャラクターが出てくるんですが、それぞれ登場人物の役割がはっきりあって個性が強いから、観ていて「あの人誰だっけ」となることがないんですよね。そして、どの時代であっても通じるような、人間の強さや業のようなもの、そして死生観、時代を見る目とか社会をどう受け止めているかみたいなものが、この作品にはあるように感じました。だから今の時代を生きる方々の心に刺さるものがたくさんあるんだと思います。なにしろ、僕自身も普通に客席で観たいです(笑)。映像も観たんですが、ナマの舞台だとまた絶対に違うと思うんですよね。

――実在の人物が大勢出て来る、18世紀のフランス革命期の歴史劇だという点についてはいかがですか?

その時代のことはあまり詳しくないのですが、一個人の力ではどうしようもない社会の流れが、この時代には起こっていて。それは個々の積み重ねから起こっているんだけれど、それが大きな流れになってしまうと一人の力で抗うのはとても。難しい。そういう、始まったら止められない川の流れみたいなものを、台本を読んでいて感じました。でも今の僕としては、その時代がどういう時代だったかということよりも、その時代に生きる人たちが死や生に対してどういう価値観だったのかということのほうが、時代背景よりも気になります。そもそも、物語は天然痘でルイ15世が死ぬところから始まるんです。当時は治しようがない、原因不明な病が流行っていて、そこにさらに新たな武器が出来上がるというか、斧から進化した新たな方法で大量に人が殺されていくわけで。

――ギロチンが発明される時代の話ですものね

それまでは1対1だった命のやり取りが、機械を挟むことによって飛躍的に処刑される人数が増えた時代でもあると思うんですよ。そんな時代に、人々がそういった抗えないものに対してどう感じていたのか。もちろん稽古を通しても知りたいですが、その前にも事前に自分の中でこんな感じかなという部分をなんとなく持っておきたいとも思っているんです。というのも僕の演じるジャンは、死の淵に立っていても、その死の恐怖を超えている人物のように思えるので、そんな人間っているのかなって。現代の場合は死が遠くて現実感がないから、そう言える人もいるかもしれませんけど。普通に生きていて、ああいう風に自分が死ぬことを受け入れられる人ってちょっと飛んでるというか、すごいというか。そういう意味では、僕の役ってその心情の正解を見つけられたら、つまり自分がその気持ちを本当に持てるようになれたら、そこでたぶん終わりなんだろうなとも思うんです。

だから、稽古前からそこをどこまで自分で探れるか。ただ台詞として言っているのではなくて、死に対しての覚悟とか、生きている瞬間のきらめきを表現できるか。それがエネルギーになるし、若さとか光にもなるはずですし。自分がどう死を捉えるかということを今回の作品で考えたいなと思っています。

――確かに、ジャンという役はそこが肝になりそうですよね。そこが他の役と、ひとりだけちょっと違う部分でもありますし

そうなんです、なんだか違うんです。そこ以外の心情では、時代に対して流されるままだったりするんですけどジャンが思っている「父親殺しは死ぬべきだ」という価値観も、社会が決めた常識であって。ただそれに従うというのは盲目的な気もするんですよ。……まだ、全然わかりません!(笑)。

ただ、死の縁でそうやって心情を曲げない青年役として、白井晃さんはよく俺にオファーしてくれたなってしみじみ思います。

――他の役と違って、恋人の存在もいますしね

本当ですよね。エレーヌ役の清水葉月さんとは共演したことがあって、どんな風に表現されるのかとても気になります。それに今回は、榎木孝明さんや落合モトキくんや……共演経験のある方がとても多いカンパニーなんです。

――それは心強いですね

はい。だけど、そんな人たちの中で揉まれる緊張感とか、みなさんは初演を経験しているんだとか、そういうことはどうでもよくて。とにかく今回の公演が終わった時、たぶん自分は人間としてのレベルがひとつ違ってくるだろうなという気がしています。ここまで、自分の生と死に向き合う体験って人生の中でもなかなかないことだろうから。それを仕事という名目で、この贅沢な顔ぶれの中で向き合えるなんて本当にめちゃくちゃ楽しみです。なんなら、もう全部の役を演じてみたいくらいです!(笑)。

だって全員がいい役で、それぞれに哲学を持っていて、それぞれの心情があり、ただ流されているだけの人はいないのに、そこにいろいろな正義が動いて、それで時代に飲みこまれていくという話なので。しかも白井さんのもとで、この作品に向き合えるわけですからね。

――再び白井さんから演出が受けられることが、本当に嬉しそうですね(笑)

はい(笑)。だけど、その場ではわからないことも多いんですよ。「今日、白井さんあんなこと言ってたな」と思いながら電車に乗って帰って、家に着いてからとか、もしくは次の日とか、3日後とかに……ハッ!てなるんです。そうなると「うおー、明日の稽古がますます楽しみだ!」ってなるんですよね。言われてすぐに「わかったー!」とならずに「ほう。まあ、白井さんが言うなら一応聞いとくわ」みたいに受け止めていたことも、3日後とか、1週間後とか、なんなら本番中に突然わかったりすることもある。

――急に「こういうことか!」と?

そうです、そうです。また今回の僕の役は、意図せずに彼の生き方そのものが人を動かすキャラクターでもあって。言葉は少ないんですけど、立ち姿や眼差しや姿勢が人に影響を与える役でもある。何が楽しいって、自分がどう演じるというよりも、自分がこの人のことを理解することが一番楽しみ。また今回は、白井さんから何かしらの正解を聞くというより、まずは白井さんの考えだけに安易に着地しないでおこうとも思っています。白井さんに「うわ、そっちがあったか、その考えは思いつかなかったな」って言わせてみたい、それが褒められるってことだと思うので。「あ、僕が思った通りだね」じゃ、つまらないですからね。「白井さん、そうじゃないな、あと一歩足んないっす。佐藤寛太はもう一歩、先まで行くんですよー」って言いたい(笑)。まあ、既に白井さんはこういう俺の性格は把握しているだろうけど。人間の親密度って会った数ではないじゃないですか。白井さんはもちろんリアルな親戚でも父親でもないですけど、育ててもらってる感があるんですよ。また絶対に一緒に芝居を出来ると勝手に信じていたし。前回ご一緒した舞台の反省もまだ残っていて、今も「あそこの場面はああじゃなかった!」って思い出すこともあるし。

――3年近く経っているのに?

はい。だから白井さんには、この舞台が終わった後に「もう1回『銀河鉄道の夜』もやらせてください」って頼んでみようかと思っているくらいです。そういう思いもあるので、今回はなんとかして千穐楽の前までには完成形に達したいんですけどね。いや正直に言って、本当に稽古に入るのがこんなに楽しみだったこと、ないです。稽古前に全部、台詞覚えていこうかな。きっと初演に出られていた方々は覚えていらっしゃるんだろうし。白井さんをまず1回目の稽古でビビらせたいから、こっそり覚えちゃおうかな。「あれっ、台本、もう置いてるの!」って(笑)。でも白井さんから「いや、寛太、全然違う!」って言われて全部やり直すことになるかもしれないし、そうなることは目に見えてるんですけどね。大袈裟な表現ではなく、この作品は、今年一番に楽しみな仕事です。

稽古初日に「あー、ごめん、寛太には何も言うことないかもしれない」と白井さんに言われたら、超理想です。それも俺のゴールです。ちょっとでも、その域に達したい。自分がどう演じたいかという演技プランというか、僕の場合はわりとふわっと考えるほうなんですけど、「ここでこういう感じになれたらいいな」と思う感情に最近なれるようになってきたんですよ。自分がやりたいと思う理想と、自分の技術力がだんだん追いついてきているようにも感じていて……僕、もしかしたら脂がのり始めてるのかもしれません(笑)。そんなタイミングで再び白井さんのもとで、これまでやったことないような役をやらせてもらえるなんて。役にハマれた瞬間って、その人物が考えることを自分でも考えられるようになるんですよ。自分の中に、友達が一人増えるみたいな感覚になるんです。

――友達が?その感覚も面白いですね

そう、自分の中に他の人の価値観が入るんです。そんな経験ができることって、年に一度あるかないかですけど。できた時は、人生得したなって本気で思います。特に今回は、全然自分自身とは違う役だし、今まで演じたことない役で、なおかつここまで素晴らしい共演者さんたちが揃っていて、こんなに長い期間がかけられる作品に関われるなんて。俺、もう褒められる未来しか思い浮かべられないです!(笑)。

――その前向き加減、素晴らしいです(笑)

ま、きっと「違う」って言われるんでしょうけどね。変な言い方ですけど早く怒られたいです、「寛太、違う」って。もう、白井さんには一生構われていたいんです(笑)。

――(笑)。また、共演が続く崎山つばささんもいるということも、さらに心強いのでは?

最高ですよ。しかも役柄的に一緒のシーンも多いですし。つばさくんに「え、早っ!」とか「もう、そこ?」って思われたいですね。

――稽古初日が、今から楽しみですね

はい。こんな気持ちで舞台に臨むことも初めてですから。舞台は、よくナマの良さがあると言いますけど、やっぱり、他人が何を言おうが、どんな評判があろうが、結局は自分がその目で見て、会って、触れてみなければ、本当の良さは絶対にわからないんです。特に今回の舞台は、劇場でないと味わえない、体感できないエネルギーがあるように思います。観劇することが、もしかしたら人生を変えるような大きなきっかけになるかもしれない。そのくらい価値観が変わるような経験ができる作品だと思いますから、そこはぜひ信じてもらって足を運んでいただきたいです!

取材・文/田中里津子
撮影/池上 夢貢
ヘアメイク/Emiy
スタイリスト/平松正啓