黒島結菜の次のステップを『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』岩松了✕黒島結菜インタビュー

左から岩松了、黒島結菜

黒島結菜が6年ぶりに岩松了書き下ろしの新作に出演する。20歳で参加した『少女ミウ』以来、「もう一度岩松さんと舞台を」と熱望していたという黒島。日々の視点が変わったという岩松作品での経験、新作『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』で描かれるものについて、脚本・演出を務める岩松了と主演の黒島結菜に話を聞いた。

新しい黒島結菜を描く

ーー今回の『カモメよ、そこから銀座は見えるか?』のお話を聞いて、どう思いましたか?

黒島 岩松さんとお会いするたび「ぜひまたご一緒したいです」という話をしていたので、やっとまたご一緒できるうれしさでいっぱいです。

ーーそれほど再び岩松作品への参加を熱望されていたということは、前回黒島さんが主役を演じた『少女ミウ』が、黒島さんにとっても大きい経験だったということでしょうか?

黒島 そうですね。本当に楽しかったんです。……もちろん難しくはありましたけど、わからないながらすごく一生懸命にやったなという記憶があって。新人の頃に戻ったような、とても新鮮な気持ちで過ごせていたんです。だからまた新たな気持ちで取り組めるのではないかと。

ーー岩松さんの演出といえば、「千本ノック」とも言われて、繰り返し稽古を重ねることで有名ですが

黒島 部活時代を思い出します(笑)。スポーツをやっていたので、何度も指摘されて「はい、やります!」という感じで、大人になるとなかなかないぶん新鮮です。

ーー岩松さんが再び黒島さんに声をかけた理由は?

岩松 『少女ミウ』のときは、テレビドラマでちょっと見たくらいで直接会ったこともなく、黒島さんのことをよく知らなかったんですよ。本人が今言ったように、稽古中も新人っぽさがあって、そのまだ何にも染まっていない感じがいいなと思っていました。実際に演じてもらった役柄にも合っていたしね。そこで黒島結菜という人の第一段階を経験した気がしたから、次に一緒にやるときはまたちょっと違う感じにできるなと思っていて。おこがましいけれど、僕には次のステップをやる責任があるなという気持ちもちょっとあって。

ーー今作はどんな話になりそうですか?

岩松 兄妹の話を書こうとしています。まず「黒島さんともう一度やってみよう」というところから始まって、プロデューサーと話して相手役は井之脇海がいいだろうとなったんですね。この二人が並んだら兄妹の話がいいんじゃないかと。むかし、『スターマン』(1995年)という作品を書いたことがあって、それが二人暮らしをしている兄妹の話なんです。閉じこもっている妹をなんとかしようとするお兄さんの物語。それがもう少し先に行っている印象になるといいなと思っていて。その二人を銀座に置きたい、と。

ーー岩松さんが考える黒島さんの魅力はどんなところでしょう?

岩松 僕にとってはわりと理想的なんですが、余計なことをしない。とりあえず黙っている。演技ってじつはそこがはじまりじゃないですか。

ーーその黒島さんの印象をもとに今作も描かれていくわけですね

岩松 そうですね。「今回の芝居はどんな作品ですか?」と聞かれたときに、「銀座の街角に黒島さんが立っていて人が歩いているのをじっと観ているだけの作品です」という言い方もできる気がしていて。わーわー騒ぐ印象がないもんね。

黒島 私、仲いい友達からもそういう印象を持たれがちです。ひとりで旅行に行ったり、ごはんを食べたりするのが苦ではないというか好きなので。

岩松 表情にそんな内面がでている気がするんだよね。だから、今回のプロットを書いたときはもう少しまだ少女の印象を残していたけど、最近の作品を見ていると確実におとなになっているので、最初の印象をいくらか修正したほうがいいかなと思っています。こうやって印象を塗り替えなきゃいけないというのは、脚本を書く動機として非常にいいことだと思いますね。

“赦す”ことの難しさ

ーーあらすじの「銀座、そこはかつて海だった」という言葉が印象的です。

岩松 『市ヶ尾の坂』(1992)と『シブヤから遠く離れて』(2004)に続く地名シリーズの第三弾ですね。実在の地名を使いたいと思ったときに「銀座は風向きによって海の匂いがする」という話を聞いたことを思い出して。僕にとっては銀座はあまりなじみのない土地ですけど、銀座は少し前だったら健全な男女のデートの場所でもあったじゃないですか。和光のあたりを歩くとかね。それが父と母の思い出になっているというのはどうかなと。もうひとつ、銀座は虚構の街という感じがあって。広告代理店があって、虚の部分がある。だからそこでお兄さんが働いていて、妹は両親が仲のよかった頃のイメージを銀座に求めるという……。

ーー黒島さんは今作の設定を聞いてどう思われましたか?

黒島 私、事前の資料に書かれた「”赦し”の物語」という言葉が気になっています。

岩松 兄妹のお父さんには長年松雪さん演じる愛人がいて、その人を認めてあげる話になるのかどうか、というところですよね。書いていくうちにどうなるかはわかりませんが、過去は敵であった関係が、赦し合う仲になるという話を目論んではいます。

黒島 私も「許すって難しいな」と思っていて。相手を受け入れ、自分も受け入れる必要があるんじゃないかと。

岩松 そうだよね。許すって「こういう理屈だから赦す」とはならないじゃないですか。たとえば自分がずっと敵だと思っていた人間よりもはるかに自分のほうがひどいと思えた瞬間に赦すとかね、いろんな要素があると思う。難しいよね。赦せたら楽だろうと思うけど、俺も些末なことでも人を赦せたことないもん(笑)。ということは、いかに自分が未熟かということですよね。

黒島 観てくださる方がどう感じるかが楽しみです。あと、すごく単純な部分でいうと、お兄ちゃんがずっとほしかったので「お兄ちゃんが大好きな妹」という設定がうれしくて。

岩松 実際は何人兄弟?

黒島 三姉妹の長女です。

岩松 そうなの? 黒島さんは妹キャラの印象だった。

黒島 けっこうちゃんとお姉ちゃんしてますよ(笑)。でも友達みたいな関係で、いちばん下の妹がいちばんしっかりしています。

岩松作品を経て獲得した客観の目

ーー黒島さんは6年前に岩松さんの芝居を経験して、役者としてどんなところが鍛えられたと感じていますか?

黒島 言われたことに応えられるよう、本当に一生懸命に頑張る、というところですね。やっていくうちに自分のなかで整理されてきて、自分の中に入っていく感じがあったんです。そこからは気持ちがすごく自由になれました。だから舞台ってすごく面白いなと思って。何度も繰り返すことが自分に合っている気がします。

ーーそんな『少女ミウ』を経て、演技に影響や変化はありましたか?

黒島 岩松さんが演出のなかで「役者でなくても、人間はふつうに生活をしているなかでみんな芝居をしてるんだから」とおっしゃったんです。その言葉を聞いたとき、「たしかに、みんな家族といるときと仕事をしているとき、友だちといるときはそれぞれ違う。無意識に演じ分けてる感覚はふだんの生活でもあるな」と思ったのが印象に残っていて。それ以来、生活でも「いまの自分はこういう自分なんだ」と意識するようになりました。自分を客観視できるようになった気がしますね。

ーーでは、今作も楽しみですね

黒島 『少女ミウ』を経験してから6年の間に、いろんな経験をしました。いま再び岩松さんとご一緒することで、もう一回6年分をリセットして、フラットな新しい気持ちで進めたらいいなと思います。稽古の時間からぜんぶを楽しみたい。とにかく少しずつ積み上げていく過程、そしてひとつのものができあがって「あ、できたできた」というところが好きなんです。あと、岩松さんともお芝居できるのが楽しみです! どういう稽古になるんだろうって。

岩松 俺、目見ないよ? 昔、共演したある女優さんに「岩松さん、目を見てくれない」と言われたけど、恥ずかしいんだよ(笑)。

インタビュー・文/釣木文恵
ヘアメイク/加藤恵
スタイリスト/伊藤省吾(sitor)