舞台『幾つの大罪~How many sins are there?~』ゲネプロレポート

2023.04.18

戸次重幸作・演出による『幾つの大罪〜How many sins are there?〜』が4月15日(土)、EX THEATER ROPPONGIにて初日を迎えた。ふだんはメンバー揃って公演を行っているTEAM NACS(森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真)。今作は5人それぞれが表現したい世界を形にするソロプロジェクト「5D2-FIVE DIMENSIONS II-」の第二弾。戸次が手掛けるソロ作品としては2019年上演の『MONSTER MATES』以来4年ぶりとなる、今作のゲネプロの様子をお届けする。

幕が開くと、いきなり物騒な光景が目に飛び込んでくる。おもいおもいの服装をまとった6人。怒鳴り合い、殴り合いをする男たちもいれば、それをなぜか愉快そうに見ている面々も。彼らがいる殺風景な半円形の空間を取り囲むように建てられた壁にはドアとモニターが取り付けられ、全体が白と黒で塗られている。奥でアーチを描く格子状の壁は薄いグレーで、舞台上はモノトーンでまとめられている。そこに、紺色のスーツ姿の男性がやってくるーー。

訪れたのは大谷唐純(須賀健太)、ゴシップ誌の記者。編集長である神崎仁美(馬場ふみか)から命じられた死刑囚のインタビュー特集のため、取材にやってきたのだ。つまりここは拘置所の中で、大谷が取り組む特集は「本物の殺人者による、殺害方法のブレインストーミング」というかなり悪趣味なもの。集められた死刑囚は癖のあるイントネーションでしゃべるハーフのダンサー・小倉トニー(前野朋哉)、しっとりとした雰囲気をまとうトランスジェンダーの別部麗斗(ゆうたろう)、喧嘩っ早いギャンブル狂の漁師・団栗伊努治(濱尾ノリタカ)、見た目は地味な芸能マネージャーの有栖郎介(黒岩司)、売れないミュージシャンである燕尾一郎(波岡一喜)、理屈っぽく、どんなときもひとり冷静な大学教授・浦洲鳶右衛門(戸次重幸)の6人。明日にも死刑が執行されるかもしれない人々が集っていると思うと、背景の白黒の壁が葬式で使われる鯨幕にも見えてくる。

「自分の名前の呼ばれ方が気に入らない」といった些細なことですぐ争いに発展する短絡的な死刑囚たち。彼らに囲まれてうろたえる、須賀演じる大谷の冴えない感じが好もしい。何の特徴もないスーツに、荷物が詰め込まれた大きなカバン。気の弱さからかたびたび胃を痛めては持参の水筒の水で薬を飲むその姿からも情けなさと小市民感が漂う。キリッとしたたたずまいの馬場ふみかとのシーンではその対比がより際立つ。

死刑囚たちのむごたらしい犯行は、最初は大谷によって一気に説明され、その後も度々その断片が本人たちから語られる。浦洲の罪状だけがなかなか明かされないが、それが次第に「お約束」のような笑いどころにもなっていく。ふざけっぱなしの小倉、キュートな別部など、それぞれにキャラの立っている死刑囚たちに次第に親しみを感じはじめ、差し入れの甘いものに簡単に懐柔されてしまう彼らの単純さに笑っているうち、その犯行内容にエンターテイメント性さえ感じてしまう。そしてそんな自分の中にある残虐性に気付かされる。「いまの読者は是非を問われるような題材のほうが飛びつく」という神埼のセリフに眉をしかめていたはずが、まさに飛びついている状態の自分がいるーー。

大谷が「もし自分が殺人を犯すなら」を語る場面でも、気持ちが揺さぶられる。仕事のためにこの下世話な取材にいやいや取り組んでいるはずの善良な市民であるはずの彼が、どちらかといえば自分と同じ側にいると思っていた彼が、死刑囚たちをはるかに凌駕する方法をとうとうと語ってみせるのだ。「本当に残酷なのはどちらだろう」と思わされる。そんなとき、死刑囚の中に死人が出る。その死を笑っている死刑囚たちを見ていると「やっぱり彼らのことは理解できない」と、自分の立ち位置がますますわからなくなってくる。

大谷の取材のたび、死刑囚が一人、また一人と命を落としていく。なぜ死んでしまうのか、そもそもこの取材の真の目的はどこにあるのか、謎は増える一方。さらには大谷までもが危機に瀕し、やがて死刑囚たちがここに集められた意味が明らかになる。

不老不死をテーマとしたサスペンス・コメディであった前作『MONSTER MATES』は、マンションの一室という具象のセットで物語が展開した。今作は拘置所の一室、あるいは編集部の一室でありながらセットはかなり抽象的。壁の端が階段状になっていて上の階層でも芝居が展開するなど、舞台美術や演出面でも前作とは異なるものが見られる。前半「こんなことでそんなに怒る?」「この犯罪で死刑?」など、かすかに抱いた疑問も、後半の展開によってその理由がわかってくる。

2時間20分にわたるゲネプロの終演後、キャストによる簡単な挨拶があった。本編から一転、和気あいあいとした空気が漂い、カンパニーの仲のよさが感じられた。

戸次が4年の歳月をかけて取り組んできたという今作。タイトル『幾つの大罪〜How many sins are there?〜』に込められた意味が明らかになるその瞬間を体験してほしい。

取材・文/釣木文恵