朗読劇『したいとか、したくないとかの話じゃない』篠原涼子×山崎樹範

NHK連続テレビ小説「ブギウギ」(2023年度後期放送)の脚本など、今注目を集めている脚本家、足立紳の原作「したいとか、したくないとかの話じゃない」が、朗読劇として俳優座劇場にて上演される。篠原涼子、山崎樹範、荒木宏文、佐藤仁美の4人がさまざまな組み合わせでセックスレスの夫婦を演じるほか、劇中ドラマの映像に早川聖来(乃木坂46)、ゆうたろうが出演。浮気相手に捨てられた売れない脚本家の夫・孝志と、シナリオコンクールに入賞し今の生活から抜け出したい妻・恭子は、どのような結末を迎えるのだろうか。本作に臨む、篠原涼子と山崎樹範の2人に話を聞いた。

――まずは、今回のご出演にあたってどのようなお気持ちでいらっしゃいますか?

篠原「足立紳さんの作品は以前から拝見していて、もうめちゃくちゃ面白いと思っていたんです。こういう世界観の作品に今まで出会ったことがなかったので、この方と一緒にやってみたいな、そろそろ会社の人に話そうかな、と思い始めていて、本当にその1カ月後とかに今回のお話をいただいたんですよ。最初は、足立さんにお会いできるのかな?とかそういう気持ちでした(笑)。それから足立さんの世界に自分も浸りたいなと思いましたね。」

――足立さんの世界のどのようなところが特別に感じられましたか?

篠原「まず、すごく独特な方なんだろうということは伝わってきました。「喜劇 愛妻物語」を拝見したんですけど、出演していた水川あさみさんのヘアメイクさんが、私と同じ方だったので「足立さんってどんな方?」って聞いてみたんですよ。そしたら、本当にそのままあの濱田岳くんみたいな人なんだって、って聞いて。本当にあの作品の中の感じがリアルなんだ、と思いました。すごく笑えるし、覗いちゃいけないところを覗いているような感覚にもなるし、セックスのことを扱っていても、相手に対しての考え方などの裏にあるそれぞれの想いがあって、トータルですごく面白いんですよ。それでいて、面白いだけじゃなくて、泣けるんです。登場人物に自分を照らし合わせるような共感性もあって、すごく心をくすぐられた感じになりました。」

――山崎さんはいかがでしょうか。

山崎「お話を頂いたときに、まずお相手が篠原涼子さんと佐藤仁美さんとお聞きしました。佐藤さんとは20年近く前から共演していて、個人的にも飲み友達で、本当に仲がいいんです。一方で、篠原さんは同じ作品に出演していたことはあるんですけど、お芝居で一緒になったことは無くて、実は今日初めてお会いしたんですよ。そういうお2人とご一緒できるので、凄くワクワクしています。1つの作品なんですけど、まったく違うものをやるような感覚があるんですよね。1粒で2度おいしいような感覚です(笑)。佐藤さんとは、本当に何でも言い合えるような感じなんですよ。今回の台本のような会話も…いや、普段そんな生々しい会話をしているわけじゃないですけど(笑)、お互いに気軽に言い合えるような関係ではあるので、イメージはパッと湧いたんです。ただ、篠原さんとは全くイメージがつかめていなくて。」

篠原「私自身でもよくわかっていないからね(笑)」

山崎「そういう意味で、正反対の相手とやらせていただけるので、まったく違う景色になると思うんです。お客さまにも、ぜひいくつかのバージョンで見比べていただきたいですね。」

――今回演じられる役どころについては、どのように感じていらっしゃいますか?

篠原「恭子は自分のことをすごく大切に考えている人だなと思いました。自分のことを考えた後々の延長上にパートナーのことも考えていて、お互いにこのままではいい関係にはなれないということも、トータル的に考えている人ですね。一見、内助の功のようにも見えるんだけど、実は大黒柱的な、センターに立ってやっているような印象を台本からは感じられました。でも、そういう自分でいられるのも相手がいるから、ということも思い知らされているんですね。この人が居なかったら、あんなに破天荒だったり、ああいうしゃべり方だったりもできないだろうし、自分をさらけ出すことができる相手ではあるんですよね。恭子を表現するにあたって、本当に自分自身がこういう経験を知っているような感覚で、しっかりと受け止めて表現しないとな、と思っています。やっぱり1人でお芝居しているわけじゃないので、相手との向き合い方でもどんどん変わっていくと思うんですよね。刺激を受けながら、自分の表現がどんなふうに変わるのかも楽しみにしています。」

山崎「孝志は…すごいダメな奴なんですよ。もう、自己中心的だし、人のこと妬んだりするし、奥さんに対してもすごく上から目線。それでいて依存しているんですよね。正直、イヤな奴だなと最初に読んだときは思いました。それで、誰かに似てるな、と思ったら…あ、俺だな、って思って。あぁこれは俺で、だから嫌だったんだな、と気づいてからは、孝志にスッと入っていけました(笑)。夫婦が一緒にいて、それぞれ自立していた2人が結婚して、気付けばだんだん重心が相手の方にかかっていて。要は甘えているんです。そういう中でぶつかっていって、最後はまたお互いに自分の足で立つ話だと思っています。そこはすごく理解しているし、支えあう良さもあるわけですから。そこに気付くためのケンカがあるわけで、そこはもう台本通りに、全力で篠原さんに全体重をかけたいと思います!」

篠原「支えあう感じでやりましょう(笑)」

山崎「離れたら倒れるからな、くらいの感じで(笑)」

――篠原さんは恭子に共感はありますか?

篠原「共感する部分もあります。自分がしっかりしないと、この人は1人で生きていけないかもしれない、何が起きても私がちゃんとしなきゃ、みたいなところがすごくあるんですね。でも自分でそう信じ込んで、カッコつけて、そういうふうに生きてきたけれど、最終的には自分が強いんじゃなくて、相手がいたから甘えられていたんだな、という感じになるんです。そこはやっぱり女性なんだな、と感じるというか。実はすごく支えあっているんです。ひとりぼっちで考えてみたら、相手の大切さや、自分の本当に悪いところをすごく再認識できていて、そこがすごく美しいなと思いました。」

――今回のお話ではセックスレスが大きなキーワードとなっていますが、お2人はセックスレスをどのように考えていらっしゃいますか?

篠原「世の中に、どれくらいセックスレスで悩んでいる人がいるのか、それによってどれくらい夫婦の形が変わったりするのか…本当に、したいとかしたくないとかの単純な話じゃない。2人の関係性において、もっと奥が深い部分があると思いますし、そういう方たちが世の中にいっぱいいればいるほど、このお話は共感されるんじゃないかな」

山崎「個人的な想いとしては、やっぱりそういう行為はとても大事なものだと思っています。でも、きっと年齢を重ねていって、最終的には多分できなくなってしまう。もし、セックスが2人の関係性の中で最上位にあるものだったら、僕が年老いてできなくなった時に2人でいる意味がなくなってしまうのか、っていうと、決してそうじゃない。2人の関係性の中で、最初は行為がすごく大事なものだけど、だんだんそのプライオリティが変化して、2人でおいしいものを食べるとか、きれいな景色を見るとか、そういうこととあまり変わらなくなっていくんじゃないかと、僕は思っているんですよね。セックスがあるからいい夫婦、ないからダメな夫婦、っていう感覚では僕個人は捉えていないです。夫婦でやっていくいろいろなことが、セックスをすることと変わらなくなっていくのが自然というか、僕にとってはいい形ですね。でもまぁ、できる時にはしたい気持ちはあります。でも、奥さんはそう思ってないかもしれない。いろんな人としゃべったら、いろんな考えがあると思います。うちはどうだろう?旦那はどうだろう?と考えながら、一つのモデルケースとしてこの作品を感じていただけたらと思いますね。」

――作品をきっかけに、夫婦の在り方についてもお考えになったのではないかと思います。理想的な夫婦の形はどのようなものでしょうか。

山崎「自分の理想は、決して相手の理想ではないんですよね。その可能性は大です。でも、なかなか一緒にいると、そういう話ってしなくなって、ないがしろになってくるんですよね。僕はなるべく、僕が最初の時の気持ちを時々思い出すようにしています。初めて奥さんを見たときに…めっちゃキレイな人がいる!って思ったな、とか。そういうのをなるべく確認して、奥さんにも伝えようと思っていますね。そして、今すごくハッピーだとか、楽しい、幸せ、みたいな言葉はなるべく伝えるようにしています。」

篠原「作品の中でも、それが描かれているところがあるんですよ。恭子と孝志がちょっと離れてみてからの会話で、すごくネガティブな話もするんですが、たぶん近くに居たときには絶対にしない会話もするんですね。また彼を応援しようとか、心強い気持ちにさせてやろうとか…出会ったときのようなことを恭子は言うんです。近くにいる時には、そういう言葉も言いたくなくなっていたり、言えなくなっていたりしたんだと思います。結婚していた時もきっと思っていたのに、離れてから相手のことを大切に思う気持ちや友達のような気持ちにもなっていく。その思いやりを大切にする描き方がすごく美しいんです。夫婦って、いつまでもその思いやりを忘れちゃいけないんじゃないかな。きっと、その思いやりは自分にも返ってくるものだと思いますから。」

――劇中で、早川聖来(乃木坂46)さんとゆうたろうさんによる、若いころの2人のラブラブ映像が挿入されるそうですが、山崎さんの「最初の頃の気持ちを思い出す」ことが、その映像ともつながるような気もしますね。

山崎「映像は、先ほど見せていただいたばかりなんですけど、なんだか申し訳なくて。ゆうたろうさんの”なれの果て”が俺なのか、と(笑)。でも、それを伝えていくことを怠って、当たり前にしすぎていた2人が、この台本に出てくる2人だと思います。」

篠原「個人的には、早川さんたちのキラキラした映像に、演者側としてすごく助けられるような気がしています。ご覧になるお客さまがどんなふうにご覧になるかは自由なんですけど、自分にもこういう時期があったな、みたいに共感したり、ハッピーでさわやかな気持ちになれたりする瞬間なんじゃないかな。だからこそ、ケンカしたり言い合ったりしている2人とのギャップがあって、面白くなると思いますし。私自身、朗読劇が初めてで、今もちょっとよく分かっていないから、もう早くやりたいです。」

山崎「物語に厚みが出るというか、説得力は出ますよね。2人が出会って、10年経ってこうなったのね、というのをちゃんとビジュアルで見せることができるので、そのあたりは僕も助かるなって思います。キラキラからのふり幅がね(笑)。恋愛しているときって、お互いにいいところだけを見せようみたいなところあるじゃないですか。嫌なところを見せたくない。そこが恋愛のいいところだとも思うんですけど、結婚すると一緒に住んだりもするから、そうじゃない部分を見ていく作業じゃないですか。それが現実で、それを共有して、愛し合って、っていう話になると思うんですよね。そこの生々しさも出せるんじゃないかな。」

――もしお2人が劇中の2人のような状況にあったら、どういう選択をすると思いますか?

篠原「どうなんでしょう…向き合うのが難しくなっているっていうことですからね。1回、ワンクッションを開けて離れてみないと、多分、関係性を見直せなかったんじゃないかな。そのワンクッションがすごくいい効果になっているように思うので、実家に帰ってみるとか、一緒にいることを辞めてみて、違う風を入れるっていうことはすると思います。そうしないと、相手に対してずっとこのままの状態になってしまうから。何か変化をもたらさないと、何もずっと動き出さないままだったわけですし、5年後、10年後もずっと嫌な気持ちのままだったと思うんです。だから、関係が変わるためのきっかけを作らない限り、変わらない気がしますね。」

山崎「孝志の場合、自分で何かを決断したとは思えないと言うか。結局、全部恭子に委ねているんだなと思っていて、自分で何かを選ぶことから逃げている人なんですね。だからこそ、物語のような結果を招いてしまうわけで…。ゆっくりとお互いの首を絞めあうような、息が詰まる関係性になってしまって、その絞める手を離したら、空気が入ってくるような感覚になって…そこで改めてもう一度見つめあうことができる。そこから、2人にはまた恋愛をしてほしいですね。2人がまた、よい関係になれるようになってほしいと心から願っていますし、そういう気持ちで演じようと思っています。」

篠原「続きが気になる2人ですよね。物語の後、2人がどうなるのか…。」

山崎「見る人によって違うんでしょうけど。男性は僕の気持ちに寄り添ってくれるかもしれないけど、女性はもしかしたら、別の結末を望んでいるかも。」

篠原「もし離れたことが良かったとしたら、離れたままでもいいんじゃないかとは思うかも。離れたとはいえ会えるわけですし、むしろもっと良くなることも起こり得ると思うし。それで戻りたかったら戻ればいいし、離れたままの方が青春を感じられるんだったら、その方がいい。恭子の気持ちを考えると…とにかく、そっとしておいてあげたくなりますね。」

山崎「同じ方ともう一度籍を入れることもありますもんね。うん、目標が決まりました!篠原さんに、「この孝志となら、もう一度考えてみてもいいかな」と思っていただけるように、頑張ろうと思います!」

篠原「劇中の好きなセリフで「離婚して後悔しちゃうくらいにいい人になって」みたいなことを言う場面があるんですよ。勇気づけるというか、応援しているから、というか。近くにいる時には、絶対に出てこなかったセリフだと思うんですよね。精神的に安定したからこそ、応援できるようになったと思うんです。」

山崎「恭子からのセリフは、ショックを受けるようなものが多いからなぁ(笑)」

篠原「すごくキャッチーというか、そんなこと言う?みたいな衝撃的なセリフもありますよね。行為を誘って、本当にそんなことを言い返された人が居るのかな?したくないからこそ、あそこまで言えるんだと思うけど…めちゃくちゃ可哀そうだな、って思って。」

――台本を拝見していますが、男性としては言われるとかなりショックを受けるセリフだと思いますね…。

篠原「でも、そのやりとりはすごく面白いんですよね。」

山崎「なんだか、いろいろ過去の恋愛とかを思い出してしまいますね…似たようなことを言われたような気がしてきました(笑)」

篠原「でも、今回のお話をいただいたとき、山崎さんが孝志と聞いて、すごくピッタリだな、って思ったんですよ。」

山崎「それは…どう受け止めるべき?(笑)」

篠原「いやその、いろいろなキャラクターの役をされているのを何度も拝見していて、すごく魅力的なオーラを出す役者さんじゃないですか。すぐ絵が浮かんだんです。だから練習もしやすくって、山崎さんなら助けてくれそうな気がしましたね。設定では孝志が恭子に甘えるんですけど、実際のところは私が甘えますから。頼ります!」

――篠原さんは朗読劇にはじめて挑戦されますが、朗読劇そのものにはどういう印象をお持ちですか?

篠原「朗読って、動いちゃいけないじゃないですか。だから、ある意味で難しそうだと思っています。以前、拝見したことがある朗読劇は座ったままだったんですよね。動画サイトを検索して、朗読劇を見たりしても座っていることが多くて。仕草や動きがあることで、そこに芝居が生まれたりすることがあると思うんですけど、そういうものが無いので…。役作りとかそういうことよりも、朗読劇そのものへのアプローチが今までのものとは違うものになるんじゃないかと思います。」

――山崎さんは新しい作品に入るときに意識されていることはありますか?

山崎「朗読劇に限らず、自分の役のことや作品全体のことはすごく考えます。でも現場に入る前に、その考えたことは全部忘れるようにしています。あまり決めすぎてしまうと、結局それは僕の目線でしかない。僕のできる範囲、僕の世界でしかなくなってしまうんです。相手役の方や演出家の方の目が入った方が絶対にいいし、その方が面白くなるはずなんです。言葉って、きっとノールックで掴んだものが正解だと、僕は思っているんです。みんな言葉を決めて話しているわけじゃないし、その瞬間の反射でパパっと掴んだものを投げているわけですから、その感覚のままでやりたいという気持ちはありますね。」

――今回は夫婦の会話ですし、そういう側面が強くなりそうですよね。

山崎「そのあたりのラインは難しいところですよね。夫婦の会話だから生々しくなきゃいけないし。ちゃんと滑舌良くはっきりしゃべるわけないですもんね、ケンカしているときは特に。全部ちゃんと聞こえなきゃいけないし、聞こえればいいってわけでもない、という部分がすごく難しい。そういう意味での丁寧さが必要になると思います。朗読劇は、役者としての武器を持たせてもらえないので、戦い方がまるで違うんですよね。」

篠原「そう、そこが私も楽しみなんです。頼れないもんね、動きとか仕草に。」

山崎「割と長いこと役者をやってきて、高い武器や防具を手に入れてきたんですけど、ここにきて手放してやるのはやっぱりドキドキしますね。」

篠原「本当に自分も堪能したいし、皆さんにもこの世界を堪能していただきたい。山崎さんのおっしゃっていた丁寧さは私も意識しながらやっていきたいと思いますので、すべては山崎さんの力にかかっています。楽しみにしていてください!」

山崎「ちょっと待ってくださいよ(笑)。僕も篠原さんを頼っていきますから!」

――(笑)どのような形になるのか、上演を楽しみにしています!本日はありがとうございました。

取材・文/宮崎新之