舞台「桜姫東文章」|鳥越裕貴・井阪郁巳インタビュー

鶴屋南北による歌舞伎の演目を原作に、加納幸和(花組芝居)の脚本、丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)の演出で上演する「桜姫東文章」。稚児・白菊丸と心中を図り、生き残ってしまった修行僧・清玄。17年後、白菊丸の生まれ変わりと思しき麗しき美貌の桜姫と出会うが、桜姫は自分に乱暴を働いた権助を忘れられずにいて――。全員男性キャストで描くこの濃密な世界に、鳥越裕貴、井阪郁巳の2人はどのように飛び込んでいくのか。話を聞いた。

――今回は、鶴屋南北による歌舞伎の名作が原作となっている舞台ですが、出演が決まってどのようなお気持ちになりましたか?

鳥越 僕はもう、ワクワクでした。なかなか触れることができない作品ですし、歌舞伎も見たりしていたので、得られるものが大きいんじゃないかと思いましたね。日本古来の言葉の美しさもあったりするので、決まってからはずっとワクワクしていました。歌舞伎って、すごくわかりやすくて面白い時があるんですよね。うまくハマらなくて「?」ってなるときもあるんですけど、それでも何か上がってくるものはあるんです。セットにも面白いものがいっぱいあるし、早替えとか、シンプルに演劇としてのエンターテインメントをやっていますよね。そこがすごく楽しい。伝統芸能ということで、ちょっと固いとか、言葉の難しさとかを感じるかもしれないけど、役者としては衣装やセットとか、面白いポイントがたくさんありますね。

井阪 僕はこの話をもともと知らなくて。タイトルも読めなかったんですよ。それくらいの段階だったんですけど、実際に歌舞伎の映像を見たときにすごく華やかで、めちゃくちゃ美しいなって思ったんです。言葉もすごくゆっくり話す感じだったり、畳みかけるような感じだったり、全然飽きなくて、ずっと楽しませてくれるものでした。こういうエンターテインメントが昔からあったと思うと不思議な気持ちになりましたね。その時代にやっていた人たちと、自分も気持ちは同じなので。人を楽しませたい、という気持ちをもって、この作品を今の僕たちができるということが、すごくありがたいことだと感じました。

――「桜姫東文章」の物語の印象はいかがでしょうか

鳥越 意味を確認しながら読んでいくと、すごくわかりやすいんですよ。物語の輪郭がしっかりとしていて、起承転結がちゃんとあるんですね。やっぱり言葉の部分で苦手意識というか、そういう感触はあったんですけど、本当にこの”難しい”って思っていたこと自体が邪魔だな、と。その感覚を取っ払ってしまったら、すごく分かりやすいお話なんです。

井阪 台本の言葉を文字として見たときには、何を言うてるんや?って感じでしたね。少しはわかる言葉もあるんだけど。それを本読みしたり、現代の言葉に変えてみたりしたときに、本当にわかりやすいお話になりました。めっちゃ観やすい作品だと思うんです。

鳥越 前回「絵本合法衢」に出させていただいたときは、本当に探り探り演っていったところはあるんです。脚本の加納幸和さんも絶対に落としたくない部分があるし、それでもわかりにくいところを手間暇かけて作っていったんですけど。今回は作品の良さを損なわず、でも伝えやすくするっていう作業がものすごくスムーズに進んでいます。加納さんの判断も早くて的確な感じがしますね。

井阪 歌舞伎で見たとき、桜姫の艶っぽいシーンもすごくドキドキさせられたんですよね。実際に演じていらっしゃるのは男性なのに、ドキッとさせられるというか。そういう意味では、今回は衣装も2バージョンあるので、どうなっていくのかも楽しみなんですよね。

――衣装は「狂い咲き」「乱れ散り」の2バージョンで上演となります。台本は同じとのことですが、衣装が変わることで、演じる側にも変化はあるんでしょうか

鳥越 これはもう、着てみないとわからないですね。平野良くんが「東海道四谷怪談」をやった時に、衣装が変わるだけでいろいろと動きが変わってくるみたいな話をしていたんですよ。ポケットがあるのかないのか、とか、ヒラヒラする部分があるかないか、とか。そういう些細なところで結構変わってきて、作品の雰囲気も変わってくるって言っていたので、やってみると違ってくるかもしれないですね。

井阪 全然イメージ変わりますもんね。

鳥越 僕は個人的に和装がすごく好きなので、着物を着るとちょっとピシッとなるというか。それを、役が入ることで猫背になったりとかするんですよ。

井阪 僕も衣装の力はすごく感じるタイプです。衣装で、役を背負えるようになるというか。演出の丸尾丸一郎さんのイメージでは、僕が演じる悪五郎は全身白スーツ。スッとしていて、堂々と悪事を働くような感じと聞いていて、そういうイメージを貰えるだけでも、姿勢が良くなったり変化するんですよね。衣装の力も大きいし、髪型とかカツラとか、すごくスイッチがはいります。

――それぞれの役どころについてもお聞かせください

井阪 僕が演じる入間悪五郎は、悪役なんですけど、どういう悪役なのかはまだ模索しているところです。どうやって悪くなっていったのか、なぜそういう人間になったのかをとことん詰め込んで、積み上げていっている段階です。本番でどうなっているか分からないですけど、今はもう、出ているだけで気に食わない感じになればいいなと思っています。しゃべってもないのに、何か気に食わない。ちょっと人を舐めているというか、そういう感じをイメージしていますね。結局、台本の振りだけをやっても、丸尾さんに見抜かれるんですよ。ちゃんと自分の中で、信念をもって特に正解とかは無いので、どんどん作って行ってます。割と他の作品でも、迷ったときは年表とかに書いてみますね。本当に、適当に誕生日を決めて、誕生日占いの性格みたいなのを参考にしてみたり。とにかくヒントや糸口を見つけています。

鳥越 釣鐘権助は、トップクラスの悪い奴の中でも隙間産業というか。頭は回るし、自分に得がありそうな時の嗅覚が良いんですね。その回転の早さが…こう、ゴキブリみたいなやつです。嫌なところを突いてくる感じとかが、他の悪とはまた違う感じの、きったないワル。でも彼なりに、そうならざるを得なかったところもあると思うので、彼なりにそこを探っていけたら楽しめるんじゃないかと思っています。権助は、自分がダメだった時から、悪くなって、桜姫に浮かれて…と転落の部分が自分としても面白かったりするので、演じるのが楽しみな役ですね。

――丸尾丸一郎さんの演出については、どんなふうに感じていらっしゃいますか?

鳥越 僕はもう、大好きなんですよ。「竹林の人々」に出させていただいたとき、ターニングポイントじゃないですけど、自分の感情のコントロールをでき始めたような感覚になれました。もちろん、いろんな作品でターニングポイントはあるんですけど、丸尾さんの幼少期、青年期の役をやらせていただいたとき、すごく攻めていたんですよね。丸さんのことを研究もしたし、丸さんのことを好きにならなくちゃ…いや、これ丸さんは好きになるよう仕向けているんじゃ?とか思ったりして(笑)。それにまんまとハマりまして、ちゃんと嘘がないし、愛があるんですよね。よく飲みもご一緒したんですけど、演出家として”底上げをしないと全体が上がりきらない”っていうのをすごく大事にしていらっしゃって、そこに取り組む作業もすごく愛があるんです。関西人なので、たまに面白い口癖とか、ダメだしとかがあるんですよね。そこも好きです。「お前の芝居、いちごミルクか!」とか、声の出てない子に「最寄りの駅からアー!って叫んで来い」とか(笑)。今回も楽しみです。

井阪 昨年12月の「私は怪獣 -ネオンキッズ Live beat-」で初めてご一緒させていただいたんですけど、本当に情熱的。パッションがすごいんです。そして、愛をすごく感じますね。本当に良くしていただいて、家にも行かせていただいたんですが、常に満足させてくれないというか。自分で満足してしまったら、成長が止まるというのは分かっているんです。だから、少しでも「お、出来たぞ」って満足しているところを見せたら、すぐにその上の要求が飛んでくるんですね。まだまだだぞ、とどんどん役者を成長させてくれる演出家さんだなと思っています。それに演出家さんで、けっこう年上の俳優さんとかにいろいろ言いにくい、みたいな場面ってあるじゃないですか。丸さんってそういうのが無いんですよね。

鳥越 こっちが引くくらい、言う(笑) 。

井阪 なんか作品に対しての向き合い方と、同じ情熱で向かっているんですよね。もう、そこをメイキングとかで撮ってほしいんですけど、演出しているときも全シーン丸さんは演じているんですよ。その入り込み方を見たら、もっといい作品にしたい、と思わせてくれますね。

――ご共演のみなさんの印象はいかがでしょうか

井阪 清玄役の平野良さんは、以前ご一緒したことがあるんですけど、その時も「平野さんのお芝居はよく見ておきな。絶対に勉強になるから」って周りから言われていたんですよね。実際、本当に圧倒されましたね。それでいて、力んでいないというか、常に自分を持っていてナチュラルに会話されるんです。

鳥越 もう、菩薩のような方です。

井阪 ほんとにそう! 今回も本読みとかでもやっぱりすごいと感じましたし、よく考えていらっしゃるんだなってわかりますね。

鳥越 良くんは、僕が舞台を始めて5本目くらいの時にご一緒しているんです。笹塚ファクトリーでの良くん主演のお芝居で、もう忘れもしないです。僕は必死にセリフを覚えて演っていたんですけど、良くんは忙しくて稽古も後から合流だったんですね。なのに、主役のセリフ量をあっという間に覚えて、主演としての座組の回しもやって…なんかイヤ~なスーパーマンが来たような気持ちでした。もう、全部できるんですよ。そこから徐々に共演したり、飲んだりして。結構刺激を求めているタイプなんですよ。”ずっと同じ”じゃないところで生きてきた人だから、どんどん引き出しも増えていって、本当にこの人はこのままお寺にでも行くのかな、と思うこともあったり、かといって飲みに行ったらちょっとヒドイ先輩だったり(笑)。そこも含めて魅力的です。

井阪 桜姫を演じる三浦涼介さんは今回が始めましてなんです。正直、オーラというか存在感がすごいですね。実は話しかけるのにちょっと時間がかかりました。でも話してみると、めちゃくちゃ優しくて、そこからはお芝居のこともそれ以外も相談したりいろいろ話をしています。すごく魅力的で愛情深い人ですね。すごく繊細に声をかけてくれるので、迷ったときには相談したいお兄さんっていう感じがします。

鳥越 俺とは真逆よな(笑) 。

井阪 いや、鳥さんもめちゃくちゃ優しいですよ。今回は悪役としての持っているものとか、いろいろお話したいと思っています。

鳥越 涼介くんは僕も仕事では初めてなんですけど、本当にただの飲み友達として前から知っていて。お互いの芝居を見たりもしていて、僕はもう仮面ライダーを見ていたので、すごくカッコいいなと思っていたら、プライベートもカッコいいんですよ。芝居に出たときの人を惹きつける魅力っていうのは、涼介くんの歩んできた人生があるからこそなんだな、っていうのは感じますね。初めて仕事を一緒にするので、楽しみでもあるし、若干恥ずかしさもあります(笑) 。

――皆さんの共演がどんな化学反応を起こすのか、楽しみです! 最後に公演を楽しみにしている方にメッセージをお願いします!

井阪 僕と同じように、これは何て読むんだろう?って思っている人もいると思いますが、いざ来てみると本当に魅力的で、名前とは違ってすごく入り込みやすい作品です。一度入ったら、また見たい!ってなると思うので、ぜひどちらのバージョンも楽しんでいただけたら。いろんな濃いキャラクターと、繊細なお芝居を、ホントに目が足りないくらい見どころ満載でお届けします! 楽な気持ちで、安心して見に来てください!

鳥越 僕は演劇ファンとして、このキャスト陣をなかなか見ることができないと思っています。キャストを見ただけで込み上がるものがあったので、まずはそこを楽しみにしていただきたいです。そして鶴屋南北の歌舞伎演目で、一度踏み込んだらただただわかりやすい、演劇としての面白さを秘めた作品なっています。丸尾さんがちゃんとこの舞台に落とし込んでいろんな表現でやってくださるので、見終わった後にも想像を掻き立てられるような、そういう演劇になっていると思います。演劇愛にあふれた作品になっているので、ぜひ!

取材・文/宮崎新之