舞台『銀河鉄道の父』的場浩司×大空ゆうひインタビュー

©門井慶喜/講談社 ©舞台「銀河鉄道の父」製作委員会

2020年10月に上演された舞台『銀河鉄道の父』が、的場浩司と大空ゆうひを再び迎えて再演される。第158回直木賞を受賞した門井慶喜の小説「銀河鉄道の父」(講談社文庫)をもとに、宮沢賢治の父・宮沢政次郎の視点から賢治の生涯が描かれる本作。初演に引き続き、政次郎を的場、妻・イチを大空が演じるが、そのほかのキャストは一新。宮沢賢治を福田悠太、妹・トシを駒井蓮、弟・清六を櫻井圭登が演じる。的場と大空に初演を振り返ってもらいながら、再演への意気込みを聞いた。

 

――2020年の初演は、コロナ禍まっただ中での上演でした。当時の思い出や印象に残っていることをお聞かせください。

大空 方言のセリフに自分の気持ちを乗せるというのが大変でしたが、慣れてくると、その方言によってその世界や盛岡の空気を肌で感じられるのでとても役立ったように思います。とにかく“家族”みんなで毎日大変でしたが、楽しかったという思い出があります。

的場 僕が当時、一番に考えていたのは、素晴らしい原作を読んでくださった方々に『本も面白いけど、舞台も面白いじゃないか』と思ってもらえるよう努力しようということでした。確かに方言も本当に苦労しました。ただ、演出家の青木豪さんを含め、スタッフの皆さんがすごく協力をしてくださり、役者が引っかかっているシークエンス一つひとつにも真摯に対応してくださったので、とてもありがたかったです。子どもたち(役のキャスト)も魂を込めてお芝居をしてくれたので、僕たちは子どもたちのエネルギーに引っ張っていただきながらお芝居をさせていただけたという印象があります。

 

――手応えも感じられましたか?

的場 いい作品がどうかを判断してくださるのは、観ていただいたお客さまだと思うので、手応えというのは分かりませんが、ただ、いつも観に来てくれる役者の先輩からは『今まで的場がやってきた舞台の中でもトップスリーに入るくらい感動した』というありがたい言葉はいただいたので、来ていただいたお客さまも楽しんでいただけたんではないかなとは思いました。

大空 そうですね。私も手応えということではないですが…3年前、コロナ禍で舞台が中止になって、私もステイホームしていましたが、緊急事態宣言が明けて、私にとって初めての舞台出演がこの作品でした。なので、作品に対する思いももちろんですが、生で舞台ができるというありがたさをヒシヒシと感じていました。今まで舞台ができていたことは当たり前じゃなかったんだなと強く感じたこともあって、お客さまに生で観ていただき、ダイレクトに気持ちを届けたいという思いをそれまで以上に強く持って演じさせていただいた作品でした。そういう意味でもとても思い出深い作品です。

的場 (大空)ゆうひはストイックだからね。稽古場でも、彼女はルーティーンのように黙々とストレッチを始めて…。それを見て僕がちょっかいを出す。多分、心の中で舌打ちしてるんだろうなって思いながら(笑)。

大空 そんなことないです(笑)。的場さんの方がストイックですよ。

的場 でも、本当にゆうひと一緒にできて、奥さん役がゆうひで救われた部分はたくさんありました。お互いに遠慮なく芝居の話ができたので、ここをこうしようとか、細かい部分も彼女と色々相談して作っていけました。ゆうひが僕に羽織を着せるシーンでどっちから着せるのかまで話し合っていましたから、そうした細かい部分まで計算しながら作っていけたことに感謝しています。

 

――そうした2020年の初演を経て、再び夫婦としてお芝居することについて、今、どう感じていらっしゃいますか?

的場 今日、久々にゆうひに会ったのですが、改めてきれいだなと(笑)。芝居に関しては、僕は彼女に圧倒的な信頼を置いているので不安はないです。それに、今回は、新しいキャストの方々がたくさんいらっしゃるので、皆さんと一緒にお芝居を作り上げていくことがすごく楽しみです。初演は初演で、僕の中では『素敵な作品になったな、最高な作品になったな』と思っていますが、再演は再演。同じ『銀河鉄道の父』をやるつもりはないので、また1からきちんと作り直していきたいと思っています。役者が変われば芝居も変わるものですし、新しく入ってきたメンバーがどういう芝居をするのか、それに対して僕がどう対応していくのか、夫婦でどう対応していくのか。とても楽しみなところですね。

大空 今、的場さんはすごくよく言ってくださいましたが、私の方がドジが多いんです。けれども、的場さんは『いいよ、いいよ、全然大丈夫だよ』と全部受け止めてくださったので、それで伸び伸びとやらせていただいた部分もありました。的場さんは稽古場で、みんなを家族として受け入れてくださったので、そこにみんなで飛び込んでいき、自然と家族になっていった感じだったので、今回また新しい家族を作れるのが私もとても楽しみです。新しい作品として、新鮮な気持ちで取り組みたいと思いますし、初演から再演までのこの3年間生きてきた分の何かが役立てられたらいいなと思います。

 

――賢治を演じる福田さんを始め、新しいキャストの方々に期待することは?

的場 彼らがどんな賢治、トシ、清六を演じるのかは僕もゆうひも未知数ですが、その未知数の中には不安ではなく期待しかないです。彼らは彼らなりに魂を込めて芝居してくるでしょうし、それに対して我々もお芝居で返していく。初演と再演は別物だと考えているので、また新しい、新『銀河鉄道の父』を作り出せればと思っています。そして、舞台が終わった後に、『お客さまに喜んでもらえた。そういう声が届いてよかったね。僕たちも最高の想いができた』というものができれば、1番いいんじゃないかなと思っています。

 

――では、彼らにこう演じてほしいというものはない?

的場 ないです。新しいキャストの方たちが出してくるものを尊重するスタンスでいます。ただ、もちろん、演出の青木さんがどういう演出をつけていくのかによって彼らの芝居ってまた変化していくと思います。僕たちは僕たちで、前回と全く同じ芝居をすればいいということではなく、前回よりブラッシュアップした芝居をしていこうと思っています。それは僕だけじゃなく、ゆうひも思ってることだと思います。

 

――大空さんは、母親としてどのような思いで子どもたちを受け止めようと考えていますか?

大空 私が受け止めるというよりも、皆さんからきっとたくさん新しいもの、新鮮な風を与えてもらえると思うのですごく楽しみですし、私もそれを受けてまた新しい気持ちで演じようと思っています。きっとまた違う自分を発見することができるのではないかと期待しています。

 

――子どもたちを愛し続け、その中で悲しい出来事にも遭う政次郎とイチの人生については、的場さん、大空さんご自身はどうお考えですか?

的場 確かに、ものすごく悲しい出来事は起こりますが、世間に置き換えたときに、やはり同じように悲しい経験をされるご家庭というのはあるわけです。もちろん、客観的に『的場浩二が例えばそうしたニュースを聞いてどう思いますか?』と聞かれたら、ものすごく悲しい気持ちや、重い気持ちになりますが、でも、この本の中で描かれているのは、そうした悲しい出来事だけではない。日常の中で、こんなに楽しいことがあった、こんなに愉快なことがあった、こんなに怒ったことがあったという、様々なエピソードが散りばめられているんです。人生なんて一瞬ですよね。経験してきたこと、悲しいことも楽しいこともひっくるめて、それが人生だと僕は思います。それにこの脚本からはそうした悲劇よりも愛を強く感じるので、起きたことは悲しいけれども、そればかりをフューチャーしていられないし、そこから前に目を向けなければいけないと感じました。

大空 宮沢イチさんは、この時代にしてはとても長生きされているんですよ。この劇中でも様々なことが起こりますし、その人生の中で苦労もたくさんあったと思います。ただ、本人はそれを苦労しているとは思ってなかったと思うんです。いつも夫のこと、子供たちのことを心配し、惜しみない愛情を与え、愛から生まれる強さを持っている人だと思います。苦労も悲しいこともあったとは思いますが、私は辛い人生だったとは全然思わないです。喜びもいっぱいあったと思いますし、そうした瞬間を生きたいと思います。

的場 政次郎の目線で見れば、男の痩せ我慢もあると思いますね。この時代は、家長たるもの、男たるものというのがある。今は、時代が変わって、男性でも感情を人前であらわにして涙したりするだろうけど、この時代の男は、『男たるもの』というものが、心の中に刷り込まれてる人だから。ただ、勘違いしないでもらいたいのは、男尊女卑的なものが素晴らしいというのではなく、古い男のその考え方が美しいと思うということです。特に、今回のこのストーリーの中では、政次郎の生き方はかっこいいなと思います。

 

――今年は宮沢賢治没後90年にあたる年だそうです。5月には『銀河鉄道の父』の映画が公開されたり、今年の2、3月には中村倫也さんと黒木華さんが出演した舞台『ケンジトシ』という作品があったり、宮沢賢二にまつわる作品が増えている印象を受けます。お二人は今、このタイミングで、『銀河鉄道の父』を再演することの意義をどのように感じてらっしゃいますか?

的場 きっと映画も素晴らしいものになっていると思いますし、『ケンジトシ』も素晴らしい作品だったとは思いますが、我々がやるものは我々がやるものですので、そこに意義と言われると、答えづらいですが…。ただ、古き良き時代を回顧しているのかもしれないなとは思います。『今の時代もいいけれど、昔の時代も捨てたものじゃないでしょ?』という思いはあると思います。この作品で描かれている兄弟愛は、なかなか今の時代にはないものですし、家族のあり方も、今の時代ではなかなかない親子関係です。それは、政次郎とイチの夫婦関係にもいえると思います。イチは賢治から手紙もらうと、自分で判断せずに、必ず政次郎に手紙を見せて、お伺いを立てるんですよ。それは昔だったらよくあることでしょうが、今は奥さんが自分で判断するものだと思います。僕はそうした昔ながらのというところが作品として求められているのかもしれないとは思います。

大空 今、的場さんがおっしゃった通りだと思いますが、時代に逆行しているような、古き良き時代を描いている作品だと思います。イチは、家長をしっかりと支え、三歩下がってついていく。それは、大変なことに思えるかもしれませんが、(同じように政次郎の)家長の責任の重さも大変だったはずです。今と昔でどちらがいいということではなく、政次郎さんの生き方がとても素敵に見えるのは、新鮮に映るからなのかなと思います。

的場 イチも最後の最後で、きっちり自分の意見を言い切る姿はかっこよかったですよ。その姿を見ただけで僕は泣けてきましたから。あの芝居は何度やっても慣れることはないですし、毎回、こらえるのが大変でした。本当にゆうひはすごいなと思ったシーンですね。

大空 イチは、自分の意見は何も言わずに夫の意見を聞いて従っていますが、それは意見がないのではなく、芯の強さがあるということではないかなと思います。この時代の女性の強さと男性の苦労は、また今と違うものですが、なぜか今演じても理解できる部分も多いんですよ。今は多様化されている時代ですが、そうした女性の持つ強さは美しいものだと思います。

的場 結局どんなに男が粋がって、威張っていても、女性に支えてもらわなくてはダメなんですよ。政次郎は、イチの手のひらで、うまくコントロールしてもらっているんだと思います。イチは政次郎の性格を知っているから、どう言えばどの方向に進むのかを分かっているんですよ。頭がいいなと思いますし、それだけ夫婦の絆も強いってことだと思います。だから、うまくいっていたんじゃないかな。家庭をうまく回すには、政次郎を怒らせずに進めるために、こういう言い方をすればいいという計算があったと思います。

大空 すごいですね、イチさん。プレッシャーを感じてきました(笑)

的場 初演では、それをゆうひはやってたんだよ(笑)

大空 でも、『常に政次郎さんのことを理解して受け止めよう』という思いはイチが常に持っている信念だと思いますね。政次郎さんのことを自分が1番理解しているから支え合える。そういう関係が作れたら素敵だと思います。そうなれるように演じていきたいと思います。

 

取材・文:嶋田真己