【ローチケ大衆演劇宣言!】原点回帰公演 女剣劇「紲つなぐ~赤い糸 なぜ二人を繋ぐ かわいやの かわいやの~」│橘 大五郎インタビュー

2023.05.09

目の前で繰り広げられる本格演技の時代劇と華やかな舞踊でいま注目を集める大衆演劇。臨場感あふれる大衆演劇の魅力を存分にお伝えするため、ローチケ演劇部では「ローチケ大衆演劇宣言!」と銘打ってインタビューや初心者向けガイドをお送りしていきます!

橘 大五郎は橘 菊太郎劇団の三代目座長である。九州演劇協会の会長でありながら気さくな人柄でファンから大ちゃんと呼ばれて親しまれ、これまでにも北野たけし監督の『座頭市』やつかこうへいの『幕末純情伝』に出演するなど、大衆演劇の枠を超えた活躍を重ねてきた。芝居のうまさ、舞踊の華やかさ、女形の素晴らしさに定評がある。今回、2023年原点回帰シリーズ第1弾として、5月に篠原演芸場で上演される「女剣劇『紲つなぐ~赤い糸 なぜ二人を繋ぐ かわいやの かわいやの~』」に出演する意気込みを聞いた。

――今回は『女剣劇』を題材にしたお芝居ですね

最初に篠原演劇企画さんからお話をいただいたときから、僕自身もどんなお芝居になるのか楽しみにしていました。女剣劇って特殊な世界。大衆演劇の中でもまたちょっと独特なんです。僕のおばあちゃんの北条寿美子先生も女座長だったから女剣(じょけん)と呼ばれてました。王道でいうなら浅香光代さん。東京でいうと昨年お亡くなりになった若水照代先生がいらっしゃいましたが、今の時代ではほとんど見ないじゃないですか。そういう女剣ならではの匂いや雰囲気をどう出せるかが、このお芝居のポイントだと思います。

――そんななかで大五郎さんが演じられるのは?

僕がやらさせていただく役はピー兄(にい)という旅芸人で、チャップリンやピエロみたいな支度をしてる。顔の火傷を隠すために白粉を塗りたくって、ずっと自分を偽って生きている人間なんです。普段の僕たちも化粧して舞台に出てるけど(笑)道化の役を演じることはなかなかないので、やりがいを感じますね。どう役作りしていこうかな?と。

――どんなお話なのでしょう?

先日、橘 鈴丸座長との写真撮りがあったんですけど、雰囲気がとてもよくって。『ああ、ほっておけない女の子だなあ』という気持ちがその段階から伝わってきて、ピー兄の気持ちになれました。嘉島典俊さんの作る脚本は、普段やってる大衆演劇のお芝居とは一味違ってちょっと切なさがある。面白いんだけど心温まる、切ないラブストーリーになると思います。

――作・演出・振付の嘉島典俊さんとの出会いは?

最初は博多の中洲の日本酒バーで偶然会ったんです(笑)。落語好きで意気投合して『居残り伊佐治』を書いてくれて、友情出演で出ていただいて。そこからのお付き合いです。今回のお芝居は誕生日公演でやらせていただいた『十六夜半次郎』に続いて3回目です。

――脚本を潤色された渡辺和徳さんとは?

渡辺さんとは前回の新風プロジェクト第7弾『雪月の花』でご一緒させていただきました。渡辺さんはつかこうへい劇団の出身だけど、僕は2008年に新橋演舞場の『幕末純情伝』に出させてもらってるんです。石原さとみさん、真琴つばささんと一緒に。つかさんには気に入っていただいて可愛がってもらったんですが、あれがつかさんが直接演出された最後の作品になりました。独特の演出でしたね、すごい方でした。人間の嫌な部分とか小ささとかを引き出すのがすごい上手なんですよ。渡辺さんも同じなので、今回の作品の中にもそういった要素が入ってくると思います。

――ほかにも素晴らしいコラボレーションがあると聞きました。

嘉島さんのつてで、東映京都撮影所から清家三彦さんというすごく有名な殺陣師の方がいらしてくれます。音楽は新風プロジェクトでおなじみの『破天航路』のSADAさんが担当してくれるので、僕も今から楽しみです。

――今回の共演者の方々とは?

だいたい皆さんお会いしたことある方ばかりですね。女優さんにスポットが当たる、すごくいい機会だと思います。そんななかでも若葉しげる先生が出てくださるのは嬉しいですね!これは僕が篠原演劇企画の代表に言ったんですよ。「若葉先生は出ないんですか?」って。昔の雰囲気と匂いのする方に出ていただいたほうが絶対に原点回帰に繋がる。女剣劇を語るときも若葉先生なら説得力がある。出てもらうだけで、先生がそこにいるだけで、篠原演芸場が一気に昔の芝居小屋の世界にぐーっと引き込まれると思うんです。

――若葉先生はまさに生けるレジェンドですね

今回は5月26日(金)と27日(土)で相手役の2人が変わるので、皆さん大変だと思います。だから僕は、臨機応変に立ち回れるほうがいいのかな。いろんな役者さんがいて、人によって間もタイミングが全部違うから、自然に呼吸が合えばいいなと思ってます。芝居は間だからね、間が外れるとツボが違ってきちゃうんです。

――実は私は最初にこの企画を聞いたとき、てっきり大五郎さんが女座長の役をされると思いました。女形芝居に定評がある大五郎さんだからこその配役かと

本当いうと僕もそうかなと思った(笑)。でも違った(笑)。やっぱり女性がやったほうが絶対いいんです。女の人たちの生きざまが出る演目だから。僕が最初にやるつもりで考えてたのは、女性の強さをどう出せるか。男の強さじゃなくてね。女剣劇の座長さんて、気が強いとかじゃなくて女性の真の強さを持っているんだと思う。うちには子どもがいる劇団員がいるし、僕もおばあちゃんの芝居を見て育ってきて、自分でも母親役を演じることもあるから、いろんな場面で「ああ、これが女性の強さだな、母の愛だな」と勉強になることがいっぱいあるんです。

――今回の企画とは別に、大五郎座長による女剣劇物語をぜひやってほしいです。せっかく心づもりされたんですから

絶対に言わないでよ代表に。やれって言われちゃうから(笑)。一度は心構えしたから、やってみたいな、とは思いますけど(笑)。

――今回は原点回帰シリーズの第1弾で。2023年の原点回帰は「大衆演劇の歴史を繋いでいく上で原点に立ち返り、代表作や大衆演劇に携わった方々の想いを継承していく演目を上演することを目的としている」とお聞きしました

僕のイメージとしては、原点回帰は新風プロジェクトとは正反対。新風は大衆演劇に新しい風を吹き込むのが目的で、原点回帰は大衆演劇の根っこの部分を掘り下げて、今の人たちにも大衆演劇をもっと知ってもらおう、というものですね。大衆演劇のヒストリーが説明できる公演になればいいなと思っています。大衆演劇を見慣れてるお客さんも面白いだろうし、見たことのないお客さんにも大衆演劇の魅力を伝えられるといいですね。なにより芝居を作った嘉島さん自身が、歌舞伎やいろんなジャンルで活躍されてるけど、子役時代から大衆演劇の世界にどっぷりいた人で、元祖ちび玉ですから。

――昔ながらの大衆演劇の面白さを伝えられるはず、ということですね

あと、この芝居は女剣劇にかぎらず、僕たち芸人の、芸人だからこそ華やかな部分もあるけどそうじゃない部分も描かれると思う。『鶴八鶴次郎』ってお芝居に『芸人ってのは長い盛りのある商売じゃない。人気があるうちにはいいけど人気がなくなったら俺たち芸人なんてのはどうなるか』というセリフがあるけど、舞台って実力がともなってないとだめで、なおかつ実力があっても人気がものを言う世界だから。日が当たれば絶対に影ができる。演劇のもつそういった影の部分も表現できたらいいなという作品です。

――今までの大衆演劇になかった切り口ですね

それが原点回帰の狙い、ヒストリーだと思う。

――大衆演劇を見たことのない人たちに大衆演劇を見てもらうにはどうしたらいいでしょう?

先日も新聞社の人が取材に来たんだけど「敷居が高いと感じますね」と言われた。芝居小屋の入り口くぐるのは結構度胸がいるよね(笑)。初めて見るなら何も考えず、構えずに入ってもらったほうが面白いと思う。いまは映画館でも2,300円かかる時代。芝居も舞踊も見られて3時間、劇場によっては3時間半見られるわけだから、大衆演劇というよりも、まずはひとつの娯楽として気軽に見に来てもらった方が楽しめるんじゃないかな。演劇だけじゃなくてショー、レビューもある。中にはそっちが気に入る人もいるかもしれない。難しいことは抜きでとにかく見に来てください(笑)。

――おひねりやご祝儀をつけなきゃいけないと勘違いしている人が多いようです

そんなことないのにね。篠原演劇企画の代表は呼び込みが上手なんですよ。正月の浅草公演で観光客に「途中でも出られますよ」って声をかけて誘うの。入ったら出られないって思われてるから。大衆演劇のいいところは自由さだもんね。中に入ってしまえば自由。もうちょっとルールあったほうがいいんじゃないかと思うくらい(笑)ルールのない空間なんで、まずは自由に楽しんでほしいです。

――以前から大五郎座長は北野たけし監督の『座頭市』に出たり、『七人の侍』を原作としたアニメの舞台版『SAMURAI 7』やNHKのバラエティー番組にレギュラー出演されてたり。大衆演劇以外のフィールドでも活躍されてましたね

いろんな世界を経験させてもらってるから、その世界から見た大衆演劇も経験してきました。大衆演劇の何が面白いって多分、近さだと思う。観客も不思議と舞台を作っているひとりになっていると思う。演じ手側だけが作っている世界ではない、だから日替わり公演ができる。客席に入る人も演じ手。それが大衆演劇の醍醐味だと思う。よく劇場に名物お客さんがいますよね、そんな世界なんで(笑)。

――大五郎さんはお芝居もうまいけど、舞踊の振付の天才でもある。洋楽を持ち込んだのも早かったですね

お世話になっていた浅草ロック座の社長の斎藤智恵子さんがすごいプロデューサーだったので、その薫陶は受けているかも。10代の頃からストリップのリハーサルとか見に行かされてました。勉強になるから、と。綺麗だったし素敵だった。いやらしさはないですよね。だから、あれが本当の女の人の強さなんだと思います。男性のお客さんたちが色気を求めて女剣が流行った時代もあったしね。

――いま大衆演劇は変革のときを迎えていると思いますが

新しいことにチャレンジするのも大事だけど、やっぱり原点回帰を忘れないようにしたいと思う。昔のもの、古くさいものが意外と新しくとらえられたりするからね、こういった形で。面白いですよね、この世界って。

――具体的にされていることは?

古いお芝居のホンや古いセリフを大事にしています。今のお客さんにわからないセリフがあると、作り変えちゃったりもするんだけど、それが時代劇というものだから。あんまり変えないの、うちは。気になったら調べればいいし、送り出しで聞いてもらってもいいし、それが役者とお客さんの近さでもあるし。かたくなにするつもりはないけど、そういう部分は大事にしたいと思ってます。

――では最後に、ファンへのメッセージを!

「女剣劇『紲つなぐ~赤い糸 なぜ二人を繋ぐ かわいやの かわいやの~』」では新しい橘 大五郎が見られます!確実に!ぜひ見に来てください。

インタビュー・文/望月美寿