コロナ禍があったからこそ、あの衝撃作が蘇る!
脳をすっ飛ばして、脊髄にダイレクトに響いてくるような感覚。これはもはや演劇というより「祭り」に近いのかもしれない……そんな謎の感動を覚えた衝撃作、岩井秀人・演出『再生』が8年ぶりに帰ってくる。事の発端は、東京デスロック・多田淳之介(今作の「原案」)の作・演出による同作を岩井が見たことだった。
「大発明だと思いました。あることが繰り返されるんですけど、コピペのような構造の中に、絶対に繰り返せないものがあって、それがびゅーっと響いてきて。俳優の演技を飛び越えて、その人自身の命が噴き出してくるような舞台で、後半、ボロボロ泣いてました。『これは大発明だから今すぐ世界中でやったほうがいい!』と思ったんですけど、『こういう終わり方にしたほうがもっと広がりがあるのに』と感じてもいて、それで自分でやりたいなと」
岩井版『再生』は2015年に上演され、やはり観客に強烈なインパクトを与えた。それをこのタイミングで再演しようと思ったのはなぜなのか。
「やっぱりコロナ禍があったからだと思います。2020年の頃って『自分が幸せになるよりも空気を読め』みたいな時期だったじゃないですか。当時は演劇をやるだけで『え、人を集めるの?』という罪悪感が生じていた時期でもあって。その年に公演をやったんですけど、それでもお客さんがいろんなリスクを払って来てくれて、そのことに泣かされたんですよ。そのときに『(コロナ禍でも人が来るのは)作品を見て救われる人もいるということなのかもしれない』と思うようになって。僕が作ったハイバイの作品でもいいんですけど、グズグズした空気を吹き飛ばすような……ストレートに『生きていこうぜ!』という作品をやりたいと思って、『再生』を再演しようと決めました。大げさかもしれないですけど、『これ見ながら死ぬんだったらしょうがないか』みたいな感覚で(笑)。多田くん演出の『再生』はどんどん進化していて、もう僕が衝撃を受けたバージョンはやってくれないので、僕がガゴーンと衝撃を受けた感覚を、今回の『再生』でお客さんに投げたいと思っています」
コロナ禍で演劇のあり方が見直されていく中、岩井は「劇場に行く意味」をより強くするものとして、「劇場バー」のアイデアを思いついたという。
「面白い作品を見た後でも、あるいはつまらない作品でも、劇場を出て作品の感想を言い合う場所があればいいのに…と思ったんです。公共劇場は撤収時間が決まっているから、その周辺に作品を見た人だけが集える劇場バーがあって、見た人同士で話せると、体験として残るだろうなと。というか、それも含めて演劇体験なんだと思います。今作でもそういうのができたらいいな……と言いつつ、まだ制作には話してないんですけど(笑)」
オンラインが当たり前になり、人間同士の肉体的接触が減った時代に見る『再生』。過去最大の衝撃になりそうな予感がする。
「そう思います。後半ではなく、もう始まった瞬間から泣いてしまう人もいるかもしれないですね」
インタビュー&文/前田隆弘
Photo/平岩亨
※構成/月刊ローチケ編集部 5月15日号より転載
掲載誌面:月刊ローチケは毎月15日発行(無料)
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【プロフィール】
岩井秀人
■イワイヒデト
2003年にハイバイを結成。2012年に『生むと生まれるそれからのこと』で向田邦子賞、2013年には『ある女』で第57回岸田國士戯曲賞を受賞。