7月6日(木)品川ステラボールで、舞台『いとしの儚』が満を持して開幕した。
本公演は、ミュージカル『刀剣乱舞』シリーズなど2.5次元ミュージカルの演出家として名が知られる茅野イサムと、『東京喰種トーキョーグール』などで知られる株式会社マーベラスの創業者、中山晴喜が立ち上げた新たな演劇ユニット「悪童会議」の旗揚げ公演である。

また本作は、2000年に茅野イサムが1度お蔵入りになった戯曲の再制作の後押しをして、扉座が上演した『いとしの儚―100 Days Love―』で、今でも本作のファンを増やし続ける人気作品である。

主演を佐藤流司、共演には七木奏音、本公演の演出も手掛ける茅野イサムなどといった旗揚げ公演にふさわしいキャストが勢ぞろいした。

初日に先立ち行われたゲネプロの様子をオフィシャル写真とともにレポートする。

【あらすじ】

家族も友人もいない、生涯孤独な博打打ちの鈴次郎（佐藤流司）は手癖、言動、意地が汚い人間のクズだが、博打の神、賽子姫（塩屋愛実）にだけは愛されていた。
ある日鈴次郎は鬼との賭けに勝ち、自分好みの美しい女性、儚（七木奏音）を手に入れる。
実はこの美少女は何体もの死体から良いところだけを寄せ集めて作ったものだった＿
魂と体が定着するために、生まれて100日経たないと抱いてはいけない。
鬼曰く、100日経たずに抱けば、水となって流れてしまうという。

愛を知らない孤独な男と、愛しか知らない無垢な女の100日間を描いたファンタジー時代劇である。

【ゲネプロレポート】

青鬼（福本伸一）が我々に語り掛けるところからこの物語は始まる。
本作はこの青鬼が語り部となって、鈴次郎と儚の100日間を伝えていく構成になっている。

佐藤（流）演じる鈴次郎は、その立ち居振る舞いから、人に愛されてこず、また自身も人を愛してこなかった過去を想像させる。
人を簡単に罵り煽るその姿は、佐藤（流）がもともと持つ目力も相まって“チンピラ”という簡単な一言では語る事の出来ない凄みがあった。
そんな鈴次郎が鬼との賭けで戦利品として得たのは 、生後間もなくして亡くなった赤子の魂で作られた儚（七木）だった。
儚がもつ、純真無垢な雰囲気を七木は見事に演じている。
儚が天真爛漫な笑顔で、鈴次郎の乱暴な言葉遣いを真似して言いまわる様は、まさに言葉を覚えたての幼児のようだった。

ゾロ政（茅野）にとって鈴次郎は、賭けで唯一負けた人間で片目の理由となった因縁の相手だ。
茅野は演出もしながら、主役のライバルも演じるというハードな役どころではあるが、鈴次郎との戦いで「さすが」と言わざるを得ない鬼気迫る熱演だった。

悪童会議 旗揚げ公演「いとしの儚」は、人を愛するとは何か、自分を受け入れてくれる人がいる事とはどういうことかを、鈴次郎と儚と通して鮮明に伝えてくれる。
まさにコロナやSNSの発達で人とのつながりが希薄になってしまった現代だからこそ届けたい1作である。

本公演は、2023年7月6日(木)～7月17日(月・祝)まで、東京・品川ステラボールで上演される。

また、動画配信サイト「Streaming+」にて国内及び海外向け配信が決定している。
是非この目まぐるしく変わる、儚い展開を劇場や配信で体感してほしい。

取材・文：ローチケ演劇部