50周年記念特別公演『熱海殺人事件 バトルロイヤル50’s』稽古場レポート

2023.08.01

つかこうへいの代表作であり、つかの没後も公演が重ねられてきた『熱海殺人事件』が今年、誕生から50年を迎える。これを記念して、特別公演となる『熱海殺人事件 バトルロイヤル50’s』が、東京・紀伊国屋ホールにて8月4日(金)より上演される。初日まで約2週間となった7月20日(木)、稽古の模様が報道陣に公開された。

1973年に発表され、翌74年には史上最年少での岸田戯曲賞をつかにもたらした本作。紀伊國屋ホールの歴史の中で、最多の上演回数を誇り、プロアマを問わず半世紀にわたって愛され、上演され続けてきた。

“警視庁にその人あり”と言われた木村伝兵衛部長刑事、捨て身の潜入捜査を行なうヒロインの水野朋子婦警、警視庁に転任してきた熱血漢の熊田留吉刑事、そして殺人事件の犯人・大山金太郎の4人を中心に展開する本作だが、今回は50周年を記念して、スタンダード公演に加えてオーディション選出のメンバーを加えたフレッシャーズ公演とエキサイト公演、さらにキャストを大胆に入れ替えたシャッフル公演が行なわれる。

木村刑事部長役は荒井敦史と池田純矢のWキャスト、水野を新内眞衣(スタンダード公演)、佐々木ありさ(エキサイト公演)、小日向ゆか(フレッシャーズ公演)のトリプルキャストで、熊田刑事を高橋龍輝と三浦海里によるWキャスト、大山を多和田任益と北野秀気(フレッシャーズ公演)のWキャストで上演する。

この日は、冒頭の約15分間の模様が公開されたが、稽古の中でもひとつの役を複数の俳優でシェアする形でめまぐるしく俳優陣が入れ替わっていく。

木村部長刑事(池田)とその愛人である婦警・水野(佐々木)の愛の語らいで幕を開け、続いてキャストひとりひとりの熱いコール付きの紹介。その後、昔ながらの黒電話と灰皿が置かれたデスクにイスが配置された取調室を舞台に、木村(荒井)、水野(新内)、熊田(高橋)による、大山(多和田)の取り調べ、さらにはおなじみの「よろしく哀愁」(郷ひろみ)の歌唱&ダンス…とわずか15分ながらも濃厚×スピーディー×ハイテンションに物語が展開し、オープニングから観る者の心をガッシリと鷲づかみにする。

シーンごとにめまぐるしくキャストが入れ替わったが、荒井と池田の木村刑事部長、高橋と三浦の熊田刑事、新内、佐々木、小日向の水野、そして多和田と北野の大山と、見た目もタイプも全く異なっており、統一感をもたせてるというよりも、むしろ個々の強みや個性を活かしたキャラクターを作り上げていることがわかる。

稽古公開後には取材会が行なわれたが、ここ数年、様々な形で「熱海殺人事件」に出演してきた荒井は50周年記念公演に出演できる喜びを口にし「気合いが入っています!」と意気込む。

3度目の「熱海殺人事件」出演となる新内は、トリプルキャストについて「三者三様の水野があっていい」と語りつつ「セクシーさだけは勝たないといけないかな(笑)」と自身の注目ポイントをアピール。佐々木は「セクシーにはなれないけど(苦笑)、みんなそれぞれ全然個性が違う水野の良さがあると思うし、私は絶対に2人のマネはできないと思うので、ぜひ全員観てほしいです」と訴える。小日向は「私は演技経験がないので比べるのはおこがましと思いながらも、私なりに頑張って水野朋子を作り上げていきたいと思います」と意気込みを口にした。

この3人の水野朋子の発言を受け、池田は自身の見どころについて「セクシーさじゃないですかね(笑)?一番セクシーな水野朋子に負けないセクシーな男の魅力でメロメロにしたい!」と水野をライバル視?今回、「熱海殺人事件」初参戦となるが「舞台を志す者であれば誰もが憧れる道であり、大切な、受け継がれてきた役の重みを感じています。それをプレッシャーに感じず、いままでつくってこられなかった木村伝兵衛のルート、自分だからこそできたと思えるようなものを見つけられたらと思っています」と自分なりの木村役への思いを口にした。

多和田は、今回の大山役でついに「熱海殺人事件」の男性役を制覇することになる。「劇場で見た時に『多和田もちゃんと大山だな』と思っていただけるように全力で挑んでいけたらと思っています」と意気込みを語った。同じく熊田役の北野は「出オチ担当の北野です(笑)」とおどけつつ「大学の時、台本を大学の図書館で読んで『出たい』と思った『熱海殺人事件』に東京・紀伊国屋ホールで出られるなんて本当に幸せです。本番では出オチにならないようにかましたいと思います!」と語った。

公開稽古でもハイテンションの熊田を見せていた高橋は2度目の熊田役となるが「前回の熊田を自分自身、超えられるように精一杯稽古に励んでいます!」と熱く語る。同じく2度目の熊田役の三浦は前回の公演をふり返りつつ「正直、二度と呼ばれないだろうと思っていました」と明かし、50周年記念公演へのオファーの安堵と喜びの表情。「龍輝くんと違った熊田を作り上げられるように、いま、あがいております」と語る。

最後に荒井は「このタイミングでこの作品をこのメンバーでやらせていただけるのは本当にありがたいことだと思っています。僕は、この作品を初めて見た時、緞帳から伝兵衛が出てくるのを見て『すごいな!俺は絶対にいつかこの役をやりたい』と思ったんですが、結局、覚えているのはそのインパクトだけで(笑)、よくわからなかったんですけど…。でも、やっていくうちにいろんな魅力がそれぞれの役にあって、50年という長い期間、残っている作品もなかなかないので、それを僕らの代で終わらせるのではなく、つないでいきたいと思っています。紀伊国屋でぶっ倒れる気持ちでやりたいと思います!」とキャスト陣を代表して本作に懸ける思いの丈を語った。

誰がどの役で出るのか、本番を見るまでわからないシャッフル公演や記念イベントなど、50周年ならではの企画も盛りだくさん。半世紀分の思いの込められた公演の開幕が待ち遠しい。

取材/黒豆直樹