芸歴25周年記念『THE 北翔まつり』に臨む北翔海莉インタビュー

撮影/山副圭吾

宝塚歌劇団星組トップスターとして活躍し、退団後女優として様々な舞台で躍進を続けている北翔海莉が、その宝塚歌劇団初舞台からの芸能生活25周年を迎える記念公演『THE 北翔まつり』を9月14日(木)~9月15日(金)大阪・国立文楽劇場、9月23日(土)~9月24日(日) 東京・浅草公会堂で開催する。

「新 北翔海莉の世界!!」と銘打たれた記念公演は、松竹新喜劇のレパートリーである芝居「先づ健康」と、北翔自らが構成・演出を手掛ける華やかなショー「THE 北翔まつり」の二部構成で綴られる。松竹新喜劇の劇団代表のひとりとして先頭を走る夫君の藤山扇治郎の共演、長男の美治(よしはる)の初舞台、また宝塚時代の同期生・風莉じんをはじめ、宝塚の後輩星吹彩翔、亜聖樹も参加するなど、賑やかで晴れやかな25周年記念公演となる。

そんな舞台に臨む北翔海莉が、四半世紀に至る芸能生活への思いや、公演への抱負を語ってくれた。

25年舞台に立たせてくれた皆様への「感謝祭」

──芸歴25周年の記念公演ということですが、まず四半世紀の芸歴を築かれたことについて、ご自身としてはいかがですか?

正直言いますと、ここまで芸事を続けられるとは思っていなかったんです。宝塚歌劇団を卒業して2年後に結婚し、さらに2年後に出産をしました。結婚した時点でも自分としては芸事にピリオドを打つ覚悟を持っていましたし、まして子供を産んだら、まず子供を第一に考えるべきだと思っていました。ですから逆に、今できることを最大限にやろうという気持ちで一つひとつの舞台を務めてきたのですが、本当にありがたいことに家族が最大限の協力をしてくれましたし、何よりも旦那さんの藤山扇治郎が「僕はみっちゃんの舞台を見続けたいから、舞台に立ってくれ」と言ってくれたんです。やはりこの言葉があったからこそ、続けてこられたんだなと思っています。特に「仕事を続けてくれ」ではなく「僕はみっちゃんの舞台が見たい」という言葉が嬉しかったので、それがあっての25周年だと思っています。

──その扇治郎さんの言葉は、北翔さんのファンの方々にとっても大きな意味のあるものでしたね

ファンの方の存在も大変に大きなもので。宝塚で私を見つけてくださった方々というのは、元々宝塚がお好きで、男役がお好きなわけですから、そこから離れた私とはだんだんに距離ができていくものだろうな、と卒業の時点で自分では想像していたんです。それがこれも本当にありがたいことに、卒業してからもう今年で7年目になるのですが、何も変わらずに応援し続けてくれるファンの方々がいてくださって。皆様の存在があるからこそ、私は舞台に立てているので、この感謝の気持ちを込めた「感謝祭」のような舞台を創りたい!と思ったのが、25周年記念の『THE 北翔まつり』の企画に結びついたんです。

舞台から家族の大切さが伝わる『先づ健康』

──そうした感謝の心を込められた舞台ということで、その第一部に松竹新喜劇作品「先づ健康」を選ばれたのは、どのようなお気持ちからなのですか?

やはり自分が子供を育てていくなかで、私もこうして育ててもらったんだなということを実感して、親孝行とはなんなのか?を考えるようになりました。時によかれと思ってやっていたことが、実はそうではなかったこととか、心配するあまりに方向性が違っていってしまうことなどが、この『先づ健康』という作品のストーリーのなかにたくさん描かれていて、そこから発せられる色々なヒントによって、それまで気づかなかったことに気づかされる内容になっています。しかも私は宝塚歌劇団在団中に、藤山寛美さんのDVDをよく見ていて、その中でも特に好きだった作品なんです。宝塚でおじいさんの役をする機会があったので、役作りの参考に、勉強のためにも見せていただいていて。松竹新喜劇って本当に日常の中の人情や、道徳的な教えが舞台からメッセージとして伝えられるものが多くて、その中でも私の芸歴が25年ということは、ファンの皆様も25年の時を重ねているわけですから、そういう意味でもその方達の日常と同じ目線で、わかる、わかると頷いてもらえるような内容にしたかったんです。

──自分のことのように思って観られるということでしょうか

そうですね。25周年という節目なのだから「みっちゃんが一番かっこよくて、綺麗で美しく見える作品にしたらいいのに」というご意見ももちろんあったんです。でも私は、お客様に同じ目線で共感していただける話をやりたくて。この舞台を観ることで、家に帰って家族に温かい気持ちで接してもらえる、そういうメッセンジャーとしてこの作品を選びました。

──それはとても素敵なことですね

コロナもまだ終わったとは言いづらいのですが、特にここまでの期間では離れて住んでいる家族に会うことも難しい時期がありましたから、余計に誰もが家族の大切さを再認識したと思いますし、別れもあったなかで、色々な意味で「まず健康でいなくちゃ」というのが合言葉のようになって。それがピッタリとタイトルになっている作品なので「色々なことがあるけれどもまず健康で、またお会いしましょう」という気持ちも込めています。

──そんな作品に扇治郎さんや、ご長男の美治さんも参加されるという本当におめでたい機会でもありますね

扇治郎さんとは『蘭』以来の共演になるので、またいつか共演したいなと思いながら、家族になると難しいことなのかなとも思っていたので、今回このような機会を作っていただけて、正直本当に嬉しいです。特に自分もファンである、扇治郎さんの世界のジャンルに自分が入っていける、勉強させていただける機会なのもありがたいです。

25年間に出演した和物作品の名曲を一堂に

──扇治郎さんも松竹新喜劇で責任ある立場に立たれましたし、息子さんのお披露目、初舞台とおめでたいことが続きますが、そんな心温まる作品のあとに続く第二部の「THE 北翔まつり」は、ご自身で構成・演出を担われるということで、こちらの内容はどんなものに?

振付に宝塚でも大変お世話になった山村友五郎先生に入っていただいて、宝塚時代、卒業後の和物の作品から、名曲を集めたショーになります。私は和物の作品にとてもたくさん出演させていただいているのですが、ディナーショーやコンサートですと衣装がドレスなこともあって、意外と和物の作品の曲を歌う機会がなくて。良い曲がたくさんあるのに、と常々残念に思っていたので、この機会に25年間の和物の作品から名曲を集めようと思いました。

──確かにバウホールやシアター・ドラマシティの主演作品も和物が多かったですね

そうなんです。ですから、私の25年の歴史の大きな部分を占めているので、ファンの方々には楽曲を聞いただけで情景を浮かべていただけると思いますし、私自身も懐かしい思いが募りますので、ほぼすべてを網羅していけたらと思っています。

──それは楽しみです!

また、扇治郎さんがあるコーナーを作ってくれますし、殺陣もお見せすることになりました。結婚、出産を経てだいぶ筋肉が落ちてしまったので、もう刀は振れないんじゃないかとかなり悩んだのですが、20周年の時にも実はチャレンジしていて、今回もまだまだ進化し続けたいという気持ちと、今の自分の年齢と環境の中で、最大限に頑張るという意味で、殺陣のシーンにチャレンジすることにしました。

いま色々な形で殺陣が盛んに取り上げられていますけれども、アクションとしてショーアップしたものではなく、20周年の時よりもさらにグレードアップしたものにしたいと思い、俳優や殺陣師として活躍している市瀬秀和さんに作っていただきます。

真剣を振るときの精神統一からご指導してくださる先生なんです。
ただ刀を振りますではなく、なぜこういう所作になるのか、究極のところでは刀を抜かないという美学までの、日本の伝統文化、武道を極めた方から、本物を教えていただけることがとてもありがたいです。「切羽詰まる」とか「元の鞘に収まる」という日本語も、ここからきているんだなということがわかる、所作のすべてが理に適っているので、やっていてとても面白いです。特に宝塚のトップになって以降は、なかなかアドバイスを言っていただけなくなっていたので。

──そのお話はよく伺いますね。注意してもらえなくなるという

そうなんです。でも私はまだまだ勉強し続けていきたいと考えているので、師匠がいるという環境がありがたいですし、自分は一流のレベルまでにはとても到達できませんが、本物を知ってチャレンジするという部分を皆さんにお伝えしたいなという気持ちで挑戦させていただきます。

──北翔さんは宝塚時代から勉強熱心なことにかけては人後に落ちないと有名でいらっしゃいましたから、これからも学んでいくという姿勢を貫かれるのですね

そんなに立派なことではないのですが(笑)でも思い出の歌をただ歌うだけではなくて、自分がまだまだ進化していくという意味で、武道のシーンを入れたことはよかったんじゃないかなと思います。扇治郎さんとの思い出の『蘭』のシーンもありますし、宝塚時代に宙組でずっと一緒にやってきた大切な同期生の風莉じんさんをはじめ、色々なご縁があった星吹彩翔さん、亜樹聖さんにも出演していただきます。小林功さんも『蘭』で共演させていただきましたし、川浪ナミオさんとたくさんの方たちにお力添えをいただきます。

常に進化する「北翔海莉」と共に歩んでいただけたら

──そうした盛りだくさんな公演ですが、特に今回「新 北翔海莉の世界」というコピーがとても印象的ですが、これにはどんな思いが?

過去の作品の歌を歌ったりもしますが、単に25周年を回顧で終わらせるのではなく、既に男役ではない、女優であり、一児の母でもあるといういまの私を最大限にお見せしたいという気持ちなんです。これから年月を重ねるごとにものの考え方も変わっていくと思いますし、常に新しい自分をお見せしたいという思いは毎回持っているので、今回ももちろんですし、常に「新 北翔海莉」をご覧いただけたらと思っています。

──本当に素晴らしい姿勢だなと感じますので、ここから先の北翔さんが歩まれる道にも期待していますが、まずはこの25周年記念公演「THE 北翔まつり」を楽しみにされている方々にメッセージをいただけますか?

最初にも申しあげましたが、迎えられるとは思っていなかった25周年を迎えられたのは、ファンの方々が「みっちゃんの舞台を見に行くために健康でいなくちゃ!」ですとか、「この公演を目標に、色々な試練を乗り越えようとしています」や「公演を観に行くために新しい道にチャレンジしています」などのお手紙をいただけてきたからこそでした。私は舞台を降りちゃいけないんだ、私の舞台を楽しみに、私に会いに来てくださることを目標に頑張れる、と言ってくださる方が例えたった一人でもいらっしゃる限りは、その思いにちゃんと答えていかなければとの思いに、この25周年の舞台を発表して、また改めて気づかされました。皆様が一緒に私の節目を見届けてくださって、まだまだこの先があるという気持ちで、進化しながら一緒に歩んでいっていただけたら嬉しいです。是非いまの私に会いにいらしてください!

プロフィール】

北翔海莉
■ホクショウ カイリ
千葉県出身。1998年宝塚歌劇団に入団。宙組、月組、専科を経て15年に星組トップに就任。2016年11月『桜華に舞え』『ロマンス!!(Romance)』で退団。2017年9月のミュージカル『パジャマゲーム』で主演、女優活動をスタート。主な出演作に『ミュージカル ふたり阿国』、『海の上のピアニスト』、『うたかたのオペラ』、「~薔薇に魅せられた王妃~現代能『マリー・アントワネット』」「藤間勘十郎文芸シリーズ其ノ参『恐怖時代』『多神教』」『藤間勘十郎文芸シリーズ其ノ四 怪談牡丹燈籠』、『蘭 ~緒方洪庵 浪華の事件帳~』、音楽劇『ハムレット』、『夜想曲~ノクターン~』、『CLUB SEVEN 20anniversary』、音楽劇『星の王子さま』、『銀河鉄道999―THE MUSICAL-』、ミュージカル『アルジャーノンに花束を』等がある。

インタビュー・文/橘涼香
撮影/山副圭吾