向井理×倉持裕、3年間での変化│M&Oplaysプロデュース『リムジン』インタビュー

写真左より)向井理、倉持裕

向井理と倉持裕の初タッグとなる舞台『リムジン』。小さな田舎町を舞台に、ある夫婦がひとつのウソをきっかけに取り返しのつかない状況に陥る姿を描く。2020年に上演予定だったこの作品が、3年の時を経て再スタートを切る。この作品の始まりと、3年の間に変化したことについて、2人に話を聞いた。

――元々2020年に上演予定だった『リムジン』が、コロナ禍による延期を乗り越えて3年越しの上演となります。まずは今の率直な気持ちを聞かせてください

倉持 延期が決まったときは、とにかく申し訳ない気持ちが強かったんですよ。自分の都合で放り出したわけじゃないけれど、なんだか投げ出してしまったような感覚。だから今回、ようやく責任を果たせるなという気持ちです。

向井 中止ではなく延期という言葉を使っていたので、いつかやりたい、やるだろうという思いはずっと持っていました。ようやく再び動き始めた今となっては、3年の延期を経て今やることに意味があると思いたいですし、延期をバネにしていい作品が作れたらと思います。

――『リムジン』は、もともと、倉持さんと一緒にやりたいという向井さんのラブコールから始まったそうですね。向井さんがそう思われた理由は?

向井 倉持さんの作品には、真逆の世界観があるなと思っていたんです。ポップな物語の中に毒があったり、エンタメな作品にシリアスな面があったり、いい人に見えた役柄に黒い部分があったり……。相反するものが共存していて、いろんな見方ができるのが面白いなと。走り回ったりアクションがあるような汗をかく芝居じゃなくても、演者が冷や汗をかいているような。

倉持 自分でも本当にバラバラなことをやっていると思っているから、俳優さんからそこを面白がってもらって評価してもらえるのはうれしい。向井くんにはまさに今彼が言ってくれたような、ヒリヒリした感じの役をやってほしくて。涼しい顔して感情は波打っているような主人公を想定しながら物語を考えていきました。

――逆に、倉持さんが考える向井さんの魅力は?

倉持 見た目も演技もすごくスマートという印象があります。向井くんが僕の作風に感じてくれたことと似ていますけど、いろいろやるじゃないですか。シリアスもコメディもやるし、時代劇もやるし、どれもそつなくやっている感じがあって。だからこそ、涼しい顔で中身は本当にドキドキしている、という役柄が似合うと思うんですよね。

3年間で変化した「面白さ」のポイント

――延期が決定した時点ではまだ台本はできあがっていなかったそうですね。3年の月日を経て、当初想定していた物語に変化はありそうですか?

倉持 元々やりたかった話ではあるので、物語自体は変わっていないんですが……。3年前はもう少し目まぐるしくできごとが起きる話を考えていたけど、その部分は変わってきましたね。些細なことが日常を構成していて、それこそが重要である、とすごく実感した3年間だったから。今回はできごとを積み重ねるのではなく、小さなことをじっくり描いていく作り方になるんじゃないかと思います。

――3年前の取材では今作について「ひとつのウソが雪だるま式に大きくなっていく」「ブラックコメディ」という構想を話していましたが、作品の色合いやテイストには変化はありそうですか?

倉持 うーん、色合い自体は変わらないかな。変わらずコメディではあります。この作品は序盤で向井さん演じる夫が、ある人に謝れない、真相を打ち明けられないでいるんですよね。奥さんは「早く打ち明けたほうがいい」というんですが、いざその時になると奥さんも揺らいでしまう。その気持ちのうつろい、衝動や小さなきっかけによって人の言動が真逆に振れてしまう部分を時間をかけて描きたいなと。ウソが雪だるま式に大きくなっていく”現象”をどう面白く見せられるかというところから、そこに至るまでの夫婦の会話がどううつろっていくのかという面白さを追求するものになっていくと思います。

向井 僕自身、日常的なことを描く舞台作品がすごく好きなんです。だから、倉持さんが紡ぐ日常生活の中でどういう非日常が生まれるか楽しみです。それに会話劇って、本番が始まってしまえば、間のとり方、しゃべり方などが演者に委ねられますよね。それが日によって変わることもある。そのひりひりした感じは日常の芝居だからこそ味わえるものだと思うし、お客さんとの距離が近い本多劇場でやる意味もそこにあると思います。毎回新鮮に、生々しいリアクションを大事に演じていけたら、お客さんを巻き込んでいくいい芝居ができるんじゃないかなと思いますね。

――3年前と比べて、お二人自身が変化したところはありますか?

倉持 長く芝居を仕事にしているうちに、冷めたところや割り切るところがあったと思うんです。でも『お勢、断行』が開幕直前で中止になり、そこから立ち直らないまま『リムジン』も延期が決まったとき、「これだけ悲しい気持ちになるということは、相当芝居が好きだな」と改めてわかったんですよ。3年前に向井くんと一緒に芝居をやりましょうと言ったときとの違いはそこかもしれません。

向井 コロナで仕事がなくなったとき、最初にやったのは演劇の勉強でした。ステラ・アドラーの演技のメソッド本を読みかえしていたんです。そして僕も、2020年6月に大河ドラマの収録が再開して久々にカメラの前に立った時、泣きそうになりました。仕事との向き合い方は変わりましたね。この3年間で、以前よりは多少視野が広くなったような気がしています。

ハードルが高いからこそ、あえて

――最後に一言ずつ、この作品が気になっている方へのメッセージを

倉持 人の愚かさを描く作品になっていると思います。見る方にはそれを怖がってほしいし、笑ってほしいですね。

向井 わかりやすく派手なことのない会話劇は、演じていて動物園の檻の中にいるような気持ちです。そんな僕らを覗き穴から見るような感覚で見てもらえれば。

――「檻の中にいるような」むき出しな作品はその分、演者にも負荷がかかると思いますが、向井さんはそういう作品にあえて挑もうとしているんですね

向井 俳優は台本がなくては演じられないし、お客さんが見なければ意味がない。だから、舞台でも映像でも、やる以上はさらけ出していかないと、面白く感じてもらえないと思っているんです。人前で泣いたり笑ったりという日常生活ではあまりしないことを見せることで、俳優の仕事は成立していると思う。なかでも舞台は特別で、やっていることは演技でも、目の前にお客さんがいる状況でそこにいる1秒1秒は本物ですよね。いつも緊張するし不安もたくさんあるので、舞台でお芝居するのがすごく好きなわけじゃないのですが、千秋楽を迎えるとまたやりたいと思ってしまう魔力がある。『リムジン』はとくにハードルの高い舞台だと思うので、やりがいのあるものになりそうだなと思っています。

インタビュー・文/釣木文恵
撮影/渡部孝弘