1918年に発表され、ストラヴィンスキーの生んだ傑作といわれる「兵士の物語」は、指揮者のいない7人の小オーケストラ、4人の役者とダンサーからなる語りと演劇、バレエの総合作品だ。串田和美演出版は過去4回サイトウ・キネン・フェスティバル松本とまつもと市民芸術館による共同制作で上演され、大評判を博した。初演から100年でもある今年、4年の歳月を経て再演が決定。今回は松本以外にも、東京・大垣・兵庫での巡回が決定している。
「兵士の物語」はライフワークともいえる石丸幹二に再演に向けての話しを聞いた。
石丸「4年もの間があいているので、新鮮な気持ちで作品と向き合えると思っています。今まで松本から出たことがなかった作品なので、今回東京・大垣・兵庫で上演することで多くの方に見て頂けるのも嬉しいです」
―初めて「兵士の物語」に触れた時の感想は
石丸「フランス語で書かれているものの直訳を読んだときには、今の我々の生活とはかけ離れているなと感じましたが、よくよく読み進んでいくと今にもつながる普遍的な内容で、まさしく今を生きる自分に問いかけられているというようなスリルがあります。不朽の名作ですよね」
―「兵士の物語」に数多く出演されています
石丸「2009年末から2010年にかけては、白井晃さん演出版の、語り手1人、ピアノとパーカッションの最小人数で上演いたしました。2011年・12年はサイトウ・キネン・フェスティバルでLaurent Levyさん演出、2013年・2014年は今回と同じ串田和美さん演出で、今回と同じ編成で上演。同年2014年10月には読響アンサンブル・シリーズとして読売日本交響楽団メンバーと一人語りで、2015年には宮崎国際音楽祭で野外でも一人語りで出演しました」
―それほどまでに多く出演される「兵士の物語」の魅力とは
石丸「最初「兵士の物語」に出演した際に白井さんが仰っていたのは「悪魔は時間だ」ということで作品世界が築かれましたが、翌年に出逢ったLaurent Levyさん演出ではまったく違う解釈。だから、流れている音楽は同じなのに、全く違うもののように感じました。そのように、色々な解釈が出来、多様な表現が出来る面白さに魅力を感じています。
今回の串田さん演出版は、演劇として成立している作品の中で、バレエダンサーが2人いて、本物のバレエを見ることも出来、さらにオーケストラの編成もストラヴィンスキーが作曲したものをそのままに素晴らしい演奏をしてくれるので、複合的な魅力があります。
ストラヴィンスキーといえば、難しい現代音楽ではないかと感じる方もいらっしゃると思いますが、耳なじみのよい聞きやすいリズムやメロディで、100年前の“今”を感じることが出来ると思います。
所々でバレエシーンもありますが、こんなに質の高いものが繰り広げられている瞬間に一緒の舞台に立っていることが幸せと感じるほどの、10分間の本格的なバレエシーンも大きな見所の一つになっています。
ドラマ自体はその当時生きてきた人たちの励みになるような、人生は甘くない、こういう風に生きるべきなのだということを感じさせる寓話ですが、見た人がハッと我に返るような内容になっています。
視覚的にも夢の中にいるようなコスチュームをまとい、「演劇を観ている」と感じて頂ける世界観を持った舞台です。
串田さんはいい意味で欺いてくれるようなアッと驚くエンディングがお好きなので、そういうところも楽しみにしていて欲しいですね」
―さまざまなバージョンに出演していますが、串田さんと組むことで感じた魅力は
石丸「比較をするとLaurent Levyさんと串田さん演出が同じ編成でバージョン違いというような形ですが、串田さんの演出は分かりやすいです。Laurent Levyさん演出はもっと抽象的でしたが、今回は、串田ワールドにどっぷり浸かってもらう演出になっています。串田さんは出演者の魅力を活かす演出をしてくださいますし、スピード感もあるけど見ている人を置いていくことはない。
「このパッケージだと日本中回れる」と最初から日本中での上演を目指して串田さんは考えられていたようで今回さまざまな会場で出来るので、多くの方に見て頂ければ嬉しいです」
―4年ぶりの再演についてはどう感じられていますか
石丸「2014年にサイトウ・キネン・フェスティバルが終わった時に、もうおしまいなのかなと、1度自分の中でピリオドを打った作品だったので、今回またこうやって出来るというのはサプライズプレゼントのような気持ちです。またこの世界に飛び込めるんだという期待と興奮があり、胸が高鳴りました。
またメンバーとの再会も楽しみで、よりいいものを作りたいと思っています。4年経って円熟したメンバーと一緒に出来ることが楽しみですね!」
―再演に向けて最後にコメントを
石丸「2015年に作曲のイーゴリ・ストラヴィンスキー指揮の楽曲に合わせて語る、CD「兵士の物語」を収録いたしました。その際に自分が演じていたテンポと、ストラヴィンスキーが指揮したテンポが違っていたので、ストラヴィンスキーはこのテンポでこのセリフを伝えたかったんだなということを感じました。
一人語りと串田ワールドはまた違いますが、私の中でも、このように発見があり、変化が起こっています。私だけでなく、4年前のメンバーも皆、この世界から抜け出せなくて、またやりたいねと話しをしていました。「兵士の物語」の不思議で独特な世界観を、ぜひ多くの方にご覧頂ければと思います」
舞台写真 撮影/山田毅
文・取材/ローソンチケット